<感謝>SP小話:おにさんは外、アオイは家
5月30日改稿
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「わぁ、なんか今日は大豆がすごくたくさんあるねぇ~どうしたのこれ?香ばしくていい匂い」
ルティが炒られたばかりの大豆をかごに山盛りで持ち帰ってきた。里でも節分の風習があるのだろうか?
「母上が大量に貰ったからと、お裾分けしてくれたのです。まだ炒り立てのようで、香りがとても良いですね。ほら、アオイ味見しますか?」
あ~ん。かりかり……
「すごい!炒り立ては美味しいねぇ~お茶とも合いそう」
「ただ、手作りなので所々焦げがあったり、欠けや傷んでいそうなものも混ざっているそうです。それを避けながら食べましょうね」
「まぁこんなにたくさんあれば、選り分けられないよね。じゃあ確認しながら食べればいいか……あっ!」
「なんです?またなにか思いついたのですか?」
「うん、食べ終わったら教えてあげるね」
「ふむ。気になりますが、わかりました」
<数十分後>
なんか食べ出したら手が止まらなくなって、黙々とチマチマ拾っては食べてを繰り返し、案外すぐに食べ終わったけど……豆はお腹に溜まるな……年の数以上に食べたと思う
「アオイ、この不要な炒り豆だけ残っている状態で合っているのですか?一体どうするのです?」
「ルティ、今日は元の世界で言うところの【節分】というものに多分あたると思うんだ」
「セツブン?どういったものなのでしょう?」
「簡単に言えば、各季節の始まりの節目だよ。今日までは冬、明日から春、みたいな」
「なるほど。それとこの不要な炒り豆に何の意味があるのです?」
「これは、豆撒きに使うのよ!でも、食べられる豆を撒くのは私的に勿体ないから、食べない方を使うわけだけどね。えへへ」
「豆を撒く……植えるでもなく、撒くなんですね。不思議な風習です」
「特に冬から春へと変わる節分の夜は鬼が出現しやすいって昔は考えられていたんだって。
だから鬼に豆をぶつけて追い払って、そして福を呼びこむ『鬼は~外!福は~内!』って叫んで、この福豆を投げるんだよ」
まぁ、投げる方角は、テレビとかスーパーで聞いた方角に投げていたから、今年はどこに向ければいいのかわからないんだけどね。もういっそ、全方位に投げたらいいんじゃないかな?
「アオイの世界でも、そのセツブンの時だけは魔物が現れていたのですね……
アオイの言っていたご近所さんは相当、腕に覚えがある方だったのでしょうか?魔法もなく、この豆だけで仕留めるとは中々の強者ですよね」
どちらかと言えば守ってもらう側だよ、ご近所さんの年齢は。想像したら笑えるなぁ、武術に長けたムキムキなご近所さん……ぷぷ
「ルティはすぐ魔物や魔獣化させるよね。そういうのはいないんだって。鬼も架空のものだし」
「架空の敵をわざわざ作り上げたのですか?なぜです?」
「なぜ!?う~ん…自然災害とか伝染病、飢饉なんかの、人が起こし得ないような出来事は、みんな鬼の仕業だって言われてたみたい」
こう考えると架空ではあるけど、とんだとばっちりもいいとこだよね鬼も
「アオイの元の世界はあなたのように【妄想力】豊かな方が多かったのでしょうか?痛っ!!」
「妄想力言うな!せめて想像力豊かと言って!今、ルティの口についた悪口鬼を退治したまでよ。ふっふっふ」
「なるほど……そういう風に撒くのですね。では、えいっ!」
「痛っ…くはないけど!なぜに私?」
「最近アオイが構ってくれないので、放ってお鬼を追い出そうかと」
なんですって!なんと可愛い理由……って違うわ。いやいや、構ってるよね?構われてるし。何が足りないと言うのさ
「そんなことないと思うけど。どこがダメだったの?」
「ダメと言いますか、最近は母上のところに遊びに行くことが増えましたよね?
母上のところに行かれますと、大抵私は追い出されますので……正直、面白くありません。仲良くして下さるのは嬉しいのですけど」
自分の親と仲悪い問題はよく取り沙汰されているというのに、仲良くしてもいかんとは……一体どうしろと?
「でもせいぜい週一回くらいじゃない?それでもダメなのかぁ……う~ん、女性同士じゃないと話せないこともあるしなぁ」
「私が一緒にいてもいい同性の友人を築くのも、そろそろ良いのでは?」
「里にいる他の若い女の子の友達を作ればってこと?でも、ルティが若くて美人な同族の子を見て気に入っちゃったらと思うと、嫌なんだよね……ごめん」
男の子の友達はもちろんNGなわけで。そうなるとルティの身内が一番間違いないと思わない?
「アオイが可愛い過ぎる!!」
「ひゃっ!?なにいきなり?」
瞬発力を生かして飛びついてくるの、やめて欲しいんだけど!?
「だから何度も言っておりますのに、あんな里中に掃いて捨てるほどいる、ただの美人に興味はないと」
「掃いて捨てないでよ!性格も良い『美人』もきっといるでしょうよ。それに人族のエリアに行ったらさ……私より可愛い子だってたくさんいるよ?私は田舎者だし、口も悪いし、大した教養もないし……そろそろ泣いてもいい?」
ぶっちゃけ、ミトパイのギルドのメリさんだって笑顔の素敵な可愛い女性だったし……
「泣く必要はありませんよ。そのような方がいたとしても、それはアオイではないので興味はありません。あなただから可愛いと思うし、興味も持ちますし、好きなのですから」
「今は若くなったし、アイさん達にも定期的にピカピカにしてもらってるから多少の自身はついたけど、誰が相手でも大丈夫とはルティみたいには思えないよ」
「しかし、仮に私が可愛い女性に興味を持っていたのならば、すでに結婚していると思いませんか?これでも自信が持てない?」
「言われてみれば……ルティほどの男性が独り身でいるはずないね。ごめん……自信は少しずつつけていくようにするね。あ、こんな時こそ、鬼退治だよ!!
よし!じゃあ、私はよわ鬼を払うことにする!!よわ鬼は~外!福は~内!」
***
「アオイ、そろそろ私達のうちに入りましょう?私の福の神はアオイですからね」
「ついに私は神仏化したの?うむ、良き良き。
じゃあ恵方巻……は作れないから、恵方ロールサンドでも作ろうかな。方角わからないから回りながら食べればいいかなぁ?願い事をして、食べきるまでは福が逃げないように黙って食べるんだよ」
「アオイの世界の風習は本当に変わったものが多いですねぇ。しかし福が逃げては困りますからね。逃げられないように、美味しく頂きますね」
「また言い方が、、、なんかイヤ!もうっ、先に中入るからね!」
「私はこの残りの豆を撒いてもいいですか?結構面白かったので」
「うん、いいけど??退治したい鬼の名前を叫んで投げてね。うわ鬼なんて投げないでよね?絶対しないから!」
「ふふ。それで防げるのであれば投げたいところですが、本人が言うのですから投げるわけにはいきませんね。わかりました、では手早く撒いて戻りますのでエホウロールサンドをお願いしますね」
「りょうかーい!」
バタン――…
「それでは今の内に……邪魔な鬼さんを退治ですね。豆を少し硬くしておくか
鬼は~外!!さらに~外!!里の~外!!!」
―――ヒュ!!ヒュン!!ヒューン!!
豆に氷を纏わせ、身体強化し投げる。さらに風魔法で飛ばすことによりほぼ音速の域なのでかえって音も聞こえないので都合が良い
「………」
「―――……ひぃ!何こ…あっ、ゴッ!ガッ!!パキッ!!」
「……ふむ、退治完了ですね」
ハァ、無駄なところに元Sランクの力を使ってまで…恥ずかしい鬼さんです。普通に接してくれれば良いものを、なぜいつも出し抜こうとするのでしょうか?
「では、福の神から、願いが叶うというエホウロールサンドなるものを頂きに戻りましょうか。私の直近の願いは結婚ですけど、本当に叶えて頂けるのでしょうか」
その後二人で仲良く恵方ロールサンドを食べたものの、アオイはいつも通り、ルーティエは感想を言う癖がついていた為「「美味しい!!」」と二人揃って一口目で叫んでしまい、あえなく失敗。
二本目でなんとか達成したが、アオイは『退治するなら食いしん坊鬼だったかもしれない…』と言い、しばらく倒れていた。
***
同日、結界の外……ガレット帝国の国境付近では、おでこと鼻に豆がメリ込み、酷く恐ろしいものを見たかのような形相をした、エルフの氷の彫刻が見つかり騒動になったが、一日ほどでその彫刻が忽然と消えてしまったので亡霊かなにかだったのではないかと、しばらく世間をざわつかせたとかなんとか……
その氷の彫刻があった場所には炒った豆だけが数粒残っていて、亡霊、悪霊には炒り豆が効果があるようだと誰かが言い出し、その時期になると国境付近では供養も兼ねて炒り豆を撒くようになる……未来もあるのかもしれない
恵方巻のエピソードのオチはまさかの実話(笑)本当にやるとは思わず、子供と大笑いしてしまいました