24:脳内色ボケ注意報 ☆
5月29日改稿済
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「う゛ぅ゛~ん……ダル重で痛い、しんどい……」
私は今、お久しぶりのルティ実家のベッドで横になっています。
病気ではない、病気ではないが……しんどいアレ。月の障りがきたからだ。
おそらく精神的なものもあって、しばらく止まっていたけど、若返りによるリスタートをして早半年、ようやく心と身体が本当の意味で落ち着いてきたのかもしれない。
聞いたところによると、エルフは半年に一回の繁殖期にしか月の障りが来ないらしい。なんて羨ましいのだろうか…
しかし、『この世界でのサニタリー事情って知ってる~?』なんて、いくら美しいと言えど、異性に聞くなんてできなかった。でも私もわからない、さぁどうするか……
そこで、アイさんこと、ルティのお母様を頼ったわけです。
アイさんは基本的に面倒見の良い方なので、それはもう手厚く『これ、人族にも売れるかと思って作ってみたんだけど、使ってみて!』と言い、普通の下着っぽいのものを持って来てくれたけど……え?これだけ???
それでも大丈夫とばかりに勧められたので、恐る恐る試着してみた。
結果、なんということでしょう!吸収力の変わらないただ一つの……的な。
ハレルヤー!!
お腹の鈍痛以外は常時となんら変わらない不思議さ、これはバカ売れの予感しかない。
無料でいいとは言われたけど、喜んで10枚程購入させて頂きました。もう絶対に爆売れすると思う!
しかもさすがエルフと言うべきか、レースが上品にあしらわれていて、とってもお洒落でございます。
お陰で落ちた気分も上向きになりました
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さて、ルティもさすがに400年生きて来て、こういう事情をわからないなんてことはないんだけど、【私が不調】ってことに一時期敏感になっていたことも相まって、とにかく心配で心配で心配で心配で――…以下省略。大切に思ってくれてるんだなって思うと、嬉しくもあり、恥ずかしくもある。
でも、あまりに騒ぐからと、アイさんに追い出され、木に括りつけられて……現在ミノムシ君状態でぶら下がってます。
……アイさんって実は強くない?
悲しいかな、前世でも今世でもまともなお付き合いは初めてな私。若干、恋愛脳にはなっている自覚はある。ええ、ええ、浮かれポンチってやつですよ。いいじゃないか、恋愛を謳歌したって!前世未経験なんだし……切ない。
モテ経験もないからプライドなんて塵ほどもないし、あっさり相手色に染まってしまいそうな部分に大丈夫かな?自分と若干不安は感じている今日この頃。相手はあのルティ、私なんぞの藁の家ごとき、攻め込まれたらあっさり落城する自信しかない。
ルティを見ていると、周りにキラキラのエフェクトが以前にも増して見える始末……完全に私も例の病を患っているに違いない。
なんて恐ろしい病だろうか……みんなこんなものを経験して大人になっていってたのか。
あと、彼がわかりやすく喜んでくれるので、『ルー』から『ルティ』呼びに変わりました。
ちょっと恋人っぽいかな、と。ルー、ルー呼んでると、世代的にキツネのイメージになってきちゃって。。。今更なんだけど。
脳内はおばちゃんでも、鏡を見るとやっぱり若い私だし、なんならルティより年下にしか見えないからか、以前よりかなり甘えやすくなった。
私の恋人は350歳も年上だし、遠慮しなくてもいいのかなって。見た目では5歳差程度なんだけど。
それでも実際に甘えてみると、それはもう嬉しそうに、私が可愛くて仕方ないと、口にも態度にも出してくるんだもん。甘えたくもなるよね。
今、ベッドのそばには先日ルティと行った雑貨店『ザッカ』で一目惚れした木彫りの置物が二つ置いてある。非常に覚えやすい店名。
瞳の部分に赤い宝石、ルベリウスがはまっている黒猫ちゃんを、私が気に入って買ったんだけど、彼が『番犬も必要じゃないですか?』と言って追加でもう一つ買ってくれたのだ。
同じく木彫りでできた、掌サイズのわんこ。
色はシルバーで目には黒いオニキスがはめ込まれ、こちらも中々芸が細かい。それに、足が長くて、耳の形もちょっとエルフっぽい…可愛いっ!
その二つを手に取り、『ルティ、好きだよ』なんて小声で呟いて、シルバーわんこと黒猫をチュッとさせちゃったりなんかして……
『キャー!やっぱり頭が蕩けてるわぁ』と一人でツッコミ、ベッドでバタバタしていたら、外からバキィィ!!ドスンッと何かが壊れたような大きな音が……えっ!何!?
「アオイ!」
「ギャーーーーー!!!ってルティ!?いつの間にっ!」
ちょっ、いきなりは心臓止まるってのに!どこから入ったのよ!ミノムシはどうしたのだろうか?
「アオイ、もう一度言って?」
「……え、いつの間に?」
「違います、その前です」
「……ギャーー?」
「……アオイ、わかってて言っていますね?先ほど私のことが『好き』と言っていましたよね?」
「え、ルティ吊されていたよね……?」
嘘でしょ…ルティは外で木に簀巻きにされてぶら下がっていたじゃん!?
地獄耳なの?その耳は超音波でも拾いそうだよね!
「アオイのことなら、たとえ独り言であろうとも聞き逃したくないので!」
「こわっ!!!」
いや、そこドヤらなくていいし、むしろ怖いわっ!通信傍受みたいなことされてんの私?盗聴器がなくてもこのレベル!?絶対付近で悪口とか余計なこと言わないようにしよう、そうしよう!!
「あ、イタタタタ…叫んだらまた鈍痛が……」
「ハッ!アオイ、大丈夫ですか!?確か腹部を温めると多少は緩和されるのですよね?」
「うん、そうだけど……ルティがなんで知っているの?」
「私もただ木からぶら下がっていたわけではないのですよ。その間に、月の障りについて本から学んでいましたからね」
「へぇ……」
器用っていうか縛られていたはずなのに、いつの間にそんな本を?いつ用意した??ぶら下がりながら勉強する彼の姿を想像すると、とてもシュールだ。
「おそらくは手の温もり程度で十分かと思うので、私が温めてあげますね」
「え、ルティが?いいよ、座ったまま温めるなんて腰を痛めるって」
彼はおもむろに清浄を唱え、身綺麗にしたと思ったら、私の上掛けをめくり、スッと添い寝のように入ってきた。あまりにも自然な動作だと、人は違和感を感じにくいらしい。
「ほら、こうやって私も一緒に横になれば疲れませんし、お腹も温めつつ、二人共ぬくぬくで一石二鳥ではないですか?」
「なるほど、そういうこと」
うん、でも確かに心地いいかも。私の背中とお腹に彼の体温を感じる。この世界で一番安心できる体温だ。
「ねぇ、ルティ」
「何ですか?アオイ」
「……ありがとう、大好きだよ」
「~~~っっ!!ア、アオイ~不意打ちはやめて下さい!」
「さっきは『もう一度言って』って言ってたから」
「それは、そうですが……でも、アオイから言われることが何よりも嬉しいです」
ルティの<手当て>の癒し効果は抜群で、お腹の鈍痛も、憂鬱な気持ちもすっかり良くなった
「今後もルティに手当てしてもらおうかな」
「もちろん。アオイのそばは私の指定席なのですから、誰にも譲りませんよ」
「……じゃあ、ルティの隣は私の指定席だから、可愛い女の子でも譲らないからね?」
「アオイ……。もちろん、そのようなことにならないように、結界で囲って近づけないようにしておきますね!」
「あー…うん。それはしなくていいかな…」
結界にぶつかって弾け飛んでいく女子はさすがに見たくない
***
一週間ほどが経ち、すっかり体調も落ち着いたので、一緒に彼の家に帰ってきた……はず。目をごしごしこすってみるも、見慣れた彼の家の前ではない……ルティの家はどこ行った?
「ねぇ、ルティ。ルティの実家に行く前は家はこんな形じゃなかったよね?建物変わってない?」
「さすがアオイですね。すぐに気付くとは!」
いや、平屋から二階建て?屋根裏部屋かな?ができれば誰でも気付くと思うんだけど
「まぁ、うん。ルティだしね。魔法でちょちょいってやつなんでしょ?」
「おや?あまり反応が宜しくないですね。まぁ、中を見て下さい。きっと気に入ってくれると思いますよ」
でも、元の家も半年住んでいたから愛着あったのに、残念だなぁ。まぁ見るのは見ますけど。
カチャリと扉を開けて30秒後……
「キャーーー!!すごいっ可愛い!お洒落~!屋根裏部屋は秘密基地みたーい!わぁ~天窓まであるよ!すごいっ!」
はい。めっちゃ気に入りました。現金な女です私。だって、今回はちゃんと玄関があるんだよ!ようするに靴脱いで部屋に入れるんだよ~!!やほーい
「アオイの国では靴を履いたまま家には入らない、と以前話しておりましたので採用してみましたが、すごく足が楽になりますね。
キッチンはミトパイで作った時のサイズで、高さもアオイの背丈に合わせてありますし、キッチンに立っているアオイを眺めやすい、カウンターとイスも設置致しました」
キッチンに「鑑賞スペース」って必要なのかな?カウンター自体はいいんだけどね、便利だし。
「本当だ~キッチンは私にちょうど良くて、ルティには低いね。逆にカウンターはルティに合わせて高め?足が長いからいいけど、カウンターのイスに私が座ると足がつかないや。悲しいね」
「ふふ。アオイはそれが可愛らしいので良いのですよ。それから、内装も好みになるよう改装したのです。屋根裏部屋では天窓から月を眺められるようにと思いまして。アオイは月を眺めるのが好きですからね」
「うん。こっちの月はすごくキラキラしていて幻想的でさぁ、つい眺めたくなるんだよね。天窓の下にベッドがあるから、寝ながら見れるね!
一階のカウチソファもちょっとうたた寝しちゃっても、私サイズは余裕で寝れそう!」
いっそこれを私のベッドにしてもいいくらい、座り心地もふっかふかで最高だ~!あれ?そういえば私と彼の部屋は?あのドアかな?
「ルティ、ここはなんの部屋?」
「あ、そちらは部屋ではなくて……」
―――えっ……これって
「お風呂だぁぁぁぁ!!!!!わぁぁ、お風呂だ、お風呂だ、お風呂だぁ!覚えていてくれたの?嬉しいっ!最っ高!大好き!もう、大大大好きっ!!」
もう嬉しくて嬉しくて、彼に思わず飛びついた。危なげもなく彼は私を抱きとめ、そのまま抱きかかえられた。さながら、抱っこちゃん人形のようである。もしくは飼い主が帰って来た時の愛犬状態
さすがの彼もここまで喜んでくれるものだとは予想していなかったようで、目を瞬いて驚いていたものの、優しく目を細めて喜ぶ私を見ていた。
こればかりは同じ日本人にしかわかるまい。不潔にしていたわけじゃないし、シャワーは浴びていたけど、湯舟に浸かりたかったのよ私はっ!!ヒャッハーイ☆
「こんなに喜んで頂けるのなら、もっと早く作ってあげるべきでしたね。習慣にないものだったので、意識がいかなくて申し訳ありません」
「うわぁ~しかもルーの精霊魔法で作ったからなの?偶然にも理想的なヒノキ風呂じゃない!?え、知ってたの?」
「いえ、知りませんでした。どうせならリラックスしやすい香りの材質が良いかと思ったのですが、偶然当たったようですね」
「広い湯舟だから足も伸ばせるね!ルティの身長に合わせているからかな。ね、もう入っていい?ゆっくり長風呂したーい!」
「はい、では早速、一緒に入りましょうか」
「……は?なぜ?」
パードゥン?あれ?ごめん、聞き間違いかな?「一緒」とはトゥギャザーを指すのかしら?
「ん?なぜ、とは??」
「いやいやいやいや~それは無理でしょ?おばちゃんと何が楽しくて……あっ今若いんだった!じゃなくて、いくら恋人同士でも、いきなりはちょっとハードルが高いというか……」
え?付き合って半年もしたら世間のカップル様たちは混浴するって常識ありましたっけ?ないよね?いや、聞くこともなければ、もはや確認もしようがないのだけど。
「そうですか……アオイの喜ぶ姿が見たくて一生懸命作ったのですが……ハァ。入って喜ぶ姿を一番近くで見たいという小さな望みは、夢幻に終わりそうですね。
いえ、良いのですよ?今でも十分喜んだお顔を見れましたし。私が一人で入って喜んでいるアオイを想像しておけばいいってだけの話ですよね。少々引き籠って妄想に耽っていても宜しいですか?」
おいおい……それはそれで一体どんな想像されるのか気になって、気が気じゃないよね!?だがしかし、作って頂いた恩義は確かにある。
「う~ん。せめて水着でもあればなぁ……二人共水着を着ているなら温水プールみたいなものだし、いいんだけど」
「ミズギ?ぷーる?なんですか?それは」
「プールは何十人か入れそうな規模だったり、更に大きな川のように流れるタイプもあるの。夏になると水着っていう、水の中専用の服っていうか、下着みたいなものを着て泳ぐんだよ」
「下着のようなもので泳ぐのですか!?それは少なくともプライベートスペースですよね?当然、他の人はいない空間ですよね?」
「え?たくさん人はいるよー。それこそ何百人規模とか。友人同士や恋人同士、家族でとか大勢」
「は……?そんなに人の目がある中に、そのミズギとやらを着たアオイを晒すのですか?隠ぺい魔法と結界が必須じゃないですか!!」
う~ん……このままでは安心してお風呂に入れないな。ここはひとつ、困った時のアイさん、シルバーさんかなぁ。
里に来て、強烈な印象はあったけど、頼りになるアイさん。でもアイさん達ならこの手の話は喜びそうな気がするんだよね。明日聞いてみよっと!
今日は対策もないので泣く泣く……何ならちょっと泣いたけど入浴は諦めて、彼と浴槽の縁に座って足湯だけ楽しんで終わった。
ホントなら強引にでも入りたいところだけど、今日は本当に想像されそうで落ち着いて入れる気がしない……。
あと、前回の家の時から部屋はひとつだったけど、作り直したなら二つかなと思いきや……うん、ひとつでした。デスヨネー
でも、天窓から見える月を眺めながら寝れるなんて素敵!まるで一枚の芸術のよう……だけど
やっぱり見ちゃった以上、頭の中はお風呂でいっぱい!早く湯舟に入りたいよー!!
ありがとうございました!