<感謝>SP小話:ないと欲しくなるもの ★
●舞台は今よりも2ヶ月くらい先の話です。若返り済のアオイ×ルーティエの回です
5月29日改稿済
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年中、気温20~25℃程度で安定しているリイルーン
しかし暦の上では1月半ば……元の世界ではむしろ嫌悪していたものだけど、なければないで雪が見たくなるもので
「ねぇねぇ、ルティ。氷魔法で雪って出せるもの?」
「雪、ですか?それはまぁ出せますけど。何か料理に必要なのですか?」
おっと、私が魔法をお願いする時ってたいていが料理の印象なのか……
「今回は違うかな。あのね、私の元の住んでいた地域は、冬は雪が降る地域でね。ここは冬だろうが真夏だろうが気温が安定していて過ごしやすいんだけど、住んでいた頃は迷惑にしか思わなかった雪が、なければないで恋しくなっちゃって……」
「そういうことでしたら、すぐにでも」
そして本当にいとも簡単にといった具合で、テニスコート一面分ほどのエリアに雪を降らせて積もらせる。何度見ても魔法ってすごいなぁ~。
それに、雪と銀髪のルティの似合うこと……冬の精霊か何かですか?
若干、雪と恋人に見惚れつつ、冬装備もないままに雪遊びに興じる
「ルティ見てみて!これが雪だるまっていうやつだよ!」
出来上がった頃には手も見事に冷え切っていたけど、作り上げた雪だるまの出来栄えには大満足である。
「雪樽魔??雪の魔獣か何かでしょうか?新種ですね……足がないから魔法攻撃型でしょうか?」
もはや可愛い雪だるまではなく、にっくき魔獣を前にどう倒すか思案するルティ。
あなた、私が作っていた様子見ていたよね?即、破壊したら泣くからね!
「魔獣!?違うよ、雪が降ったらこうやって雪玉を二つ乗せて雪だるまとか、雪の塊に長い葉を二枚つけて雪うさぎだったり、大きな雪山に穴を掘って、かまくらとか作って遊んでたの!」
「なんと……【雪樽魔】や【火魔苦羅】なんて、ボス級かと思うような印象でしたが、よもや遊びの一種だったとは。この雪ダルマは目に…ラズベリーを使っているのですね」
いや、本当にその名の通りの魔獣だったらメチャクチャ強いと思うわ。
なんだ【火魔苦羅】って……炎の網にかかって苦しむ姿がなぜか浮かぶわ。不本意ながら中二病的な名前をつけられた雪だるまと、かまくらが哀れである
「もちろん、ラズベリーは後でちゃんと食べるよ!きっとシャリシャリになって美味しいはず。【ルティだるま】だからね」
「なんと!このずんぐりしたものが私だったとは……少し引き締めた方が良いのでは?」
「だから、遊びなの!だるまはこのずんぐりむっくりしたのが可愛いのに!」
元の世界では、キャラクター、スタンプ、文房具、お弁当箱になるくらい愛された雪だるまだと言うのに……なぜだ、なぜ理解されない!?
もしや、美を愛する種族に理解されないのは、むしろこのずんぐりむっくり感なのか……?切ない。細身の雪だるまなんで見たくない!
「しかし、これが私ならば隣にもう一体必要ですよね?」
ギュッと雪をある程度のサイズにまとめると、彫刻を削るように不要な部分を削っていく。リスのような形に、黒目……これってまさか!?
「アオイの子リスダルマです。これなら愛らしいでしょう?」
「なっ!?」
かたや歪な雪だるま、かたや雪祭りかよ!ってレベルの可愛らしい黒目の雪だるま。ちなみに目と鼻はダークチェリーで、光沢があるので愛らしい。
一方、私のルティだるまのラズベリーには光沢がない為、希望を失った悲壮感が漂う雪だるまのように見えてきた。もう、かまくらにでも引き籠もりたい
「ええ、ええ、ルティのは可愛いですよ……そんで、どうせ私のは魔獣ですよーだ!もう、ルティだるまの目玉なんて食べてやる!」
「あ、私の目が~!?」
ふふん。シャリシャリして美味だ。
しかし、目を取ったら取ったでちょっと不気味だから小石でも挿しとくか……石についた土がまわりにもついてしまい、更に不憫な雪だるまが出来てしまった感は否めない。すまん
「そ、そうだ~!ルティは彫刻とかできそうだよね。他にも何か作れるの?」
いちゃもんをつけていた割に、目を奪われた彼は片割れを失ったかのような、先ほどのルティだるまと同じ悲壮感を漂わせていたので、フォローにまわる
「あ、ええ。氷の彫刻でしたら何度かありますよ。何か作りましょうか?」
例に漏れず、やはり作れるのか……今日もスパダリっぷりを遺憾なく発揮している
彼の指先がまるで指揮者のような動きで、次々と生み出される氷の彫刻。白鳥に似た鳥、嘶きが聞こえてきそうな躍動感ある馬。どれも生きているみたいに精巧で美しい
魔法はイメージって言っていたから、きっと私がやったとしても、出来上がるのは残念なものにしかならないのだろう
「す、ごい……すごいよルティ!すごく綺麗!」
こんな精巧な氷の彫刻が、目の前にいつの間にか30体ほど並んでいて、どれも思わず溜め息が漏れるほどに素晴らしい
「ふふ、気に入って頂けて良かったです。私も久しぶりだったので、ついつい作りすぎてしまいました」
一つ一つ作られた作品をじっくりと『この曲線が素晴らしいね』などと評論家ぶって眺めていると、奥の方でガサガサと音が聞こえてきた。
「ルティ、何か…誰か来たのかな??あっちの方でガサガサ音が聞こえるけど」
「ふむ。アオイはここで彫刻を見ていて良いですよ。私が確認して参りますから」
***
ふと気付けばルティは戻ってきていて『ただの小動物でしたよ』と教えてくれた。
ああいう音って、熊か何かかなって思ってちょっと怖いよね。良かった良かった
「ホント、美術館にでも来た気分だよ~すごいねぇ……ん、あれ?」
「ん?どうかしましたか?」
ルティのミニ動物彫刻展も最後の一体に差し掛かった時に、つい二度見してしまったけど……動物は動物でもホモサピエンス???
「ルティ、これってラトさん…に、あまりにもそっくりじゃない……?」
「そうですか?実物と見間違うほど上手く作れたようで良かったです」
「あ、これも作品なの?ごめん、てっきり氷漬けにされたラトさんかと思ってビックリしちゃった」
「それは驚かせてしまいましたね。兄上はあれでも元Sランクですよ?こんなに簡単に氷漬けになるわけがないですよ。そんな情けないところ、兄上がアオイに見せると思いますか?」
「そっか、そうだよね~流石にそれは失礼だったよね。ごめん、ごめん。
でもルティはラトさんが大好きなんだねぇ、こんなに本物そっくりに作れるんだから」
「……まぁ少々お調子者な所もありますが、尊敬しておりますよ。おそらく」
「なぁに~?おそらくって。照れ隠しでしょ?良いなぁ兄弟って。あ、それよりさ、もう一つ思いついたことがあるんだけど!」
「その顔ですと今度こそ食べ物でしょうか?」
「正解!かき氷ができそうって思って」
「カキゴオリ……火鬼、、、氷?」
そんなわけあるか!火傷しそうな氷ってなんだ。ドライアイスかよ!!
今のはわざとだよね?ふざけだしたよねぇ?
「違うよ。昔は貴重な氷の解け落ちた欠片をかき集めたから、かき氷らしいけどね。夏の定番だったんだよ!確か朝ごパン用にイチゴ、ラズベリー、レモン、オレンジのジャムとかシロップ作ったのがあったよね?あれで十分過ぎるくらい再現できるよ!!ここだと少し寒いから家の中で作ろう」
「なるほど。それにしてもアオイ、こんなに手を冷やして……ほらほら早く中に入りましょう。カキ氷も楽しみです」
「ルティはラズベリー味からね。さっき私が食べちゃったから。私は……うーん。イチゴとラズベリーを掛けて、ブルーベリーも乗っけようかな!!」
「アオイは欲張りですねぇ……では、私もそれと同じもので」
「ルティもじゃーん!!」
寒いと暑さが恋しくなり、暑いと寒さが恋しくなる
でも、理想は涼しい部屋でアツアツのラーメン、暖かいコタツでアイスクリーム、これ至福。今はそこにルティも一緒ならもっといいな……なぁんて。
暖かい部屋でルティと一緒に頭をトントン叩きながら食べた異世界かき氷は大成功だった
後からアイさんや、コーディエさん、ラトさんへも届けに行ったんだけど、ラトさんは風邪で寝込んでいるそうで、代わりに遊びに来ていたシルバーさんが喜んで食べて行った
ほとんど病気しないくらい丈夫だと言っていた気がするんだけど……まぁ風邪なんて引く時は引くか
「ねぇ、ラトさんのお見舞い行った方がいいよね?」
「いえ、兄とは言え、ラトのウイルスが万が一、アオイにうつるなんてことがあれば彼を消し炭にしかねないので、私の心の安寧の為にもご遠慮下さい。全快してからにしましょう」
「ワ、ワカリマシタ……」
その後、しばらくして『ラトさんに~』と話を出すと、寝冷えで腹痛一週間とかよくわからない病気だったり、ちょっとナンパに出掛けていて忙しいみたいと言われたりで中々会えなくなった
ただそれとは逆に、ラトさんそっくりの氷の彫刻を見掛ける機会が増えたのは謎である
「案外ルティはブラコンなのかな……」
とりあえず、今はそう結論付けておくことにした