23:“カメレオンダイヤ”の異名を持つ、謎の占い師 ファパイのセンセイ術 / side ルーティエ ★
●アオイがエステ中の時の裏側、ルーティエとキャラ濃い目の占い師の回です
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私は今、なぜ一人なのだろうか……
昨夜のドラマティックな展開からの口づけ……今回はリップのハチミツ味。甘美でした
眠るまでの数時間でしたが、晴れて恋人同士となった彼女とぴったりと寄り添い、至福の時を過ごしておりました。
全く狙ったわけではないのですが、ハネた髪の毛を誤魔化す為に編み込んだ髪型を、殊の外アオイは気に入って下さったようで、頬を染めながら『カッコいい…』って、あのアオイが『カッコいい』ってはにかんでっっ!!
あぁ……相手が変わるだけで、聞き飽きているはずのセリフが、なぜ甘美なさえずりのように聞こえるのでしょうか?
彼女は昨夜、『毎日ハグして寝ている』と言っておりましたが、これには少々からくりがあります。
アオイは掛け布を丸めたものに毎晩抱き着いて寝ているのですが、実は、彼女が熟睡した頃に私がそっと取り除いておりました。これはトップシークレットですよ?
そして、無意識に抱き着くものをもぞもぞ探している彼女を、そのまま私が抱き込むという……そんな、たゆまぬ努力の元に成り立っていた毎日のハグだったのです。
え?彼女が自発的に私の方へ来たのならば抱き込むのは当たり前ですよね?風邪を引いてはいけませんし。
それが昨夜は彼女の方から、まさかの、彼女の方からですよ!?
『きょ、今日は…くっついて寝ても、いい…でしょうか?』って……もう、『是』以外の答えがありますか?たとえ身体が乗っ取られようとも『否』とは口が裂けても言いません!
ただ私も一応、男としての矜持もありますからね『アオイ……もちろんです。こちらへおいで』なんて余裕ぶいていましたけど……正直、呼吸は2、3回止まっていたかもしれません。それくらいの破壊力に、すぐに対応できた私は偉いですよね。
そうして迎えた朝、彼女の寝起きの破壊力、見ましたよね?
私、一睡もせずにずっと彼女の寝顔を眺めていたので、聞き逃さなくて本当に良かった。まさか連続でアルティメットウェポン級の幸撃を受けるとは思わず、あっさり白旗を揚げました。
なぜ寝ていないのか?ですが、それは母上達のせいでもあるのです。母上とシルバー様が、夜着の方も新調して下さったのですが……
ゆったりとした作りの無地の半袖Vネックに、美しく磨かれた足を存分に見せつける、フリルのついたショートパンツ。そして色はシルバー……
ぱっと見トップスしか着ていないような、絶妙に計算し尽された組み合わせ
……完敗です。己の母親にしてやられるほど嫌なものはないのですが、今回は母上グッジョブです
その姿で密着して寝る……。この時点でイロイロと危険な状態だというのに、更に熟睡したアオイが普段の癖で、足まで絡めて抱き着いてきたのですよ!?これで熟睡できる男がおりますか?って話ですよね?
瀕死状態でしたよ私。多幸感と緊張感と絶望感をひとまとめに体験した夜でした……私は神に試されているのでしょうか。
それでも、これに耐えられなければ、アオイと別々に寝なければならないという、さらに地獄の苦行が待っておりますので、私はこの限りなくインポッシブルなミッションでもポッシブルにしてみせますよ!
あ、彼女の受け売りですけど
そして小悪魔アオイからスンモードアオイに戻り、気持ちも落ち着いてきましたね…さて、今日は二人でどう過ごそうかとあれこれ考え始めた矢先に、まさかの母上の奇襲……さすが現役族長の妻ではないですね。私ですら気配を察知できませんでした。
完全に私の失態です。今後は気配察知の能力向上に尽力します。
彼女が拉致されてしまったので、私は仕方なくいつものルーティンをこなしましたが……
まぁ時間は当然余るわけですよね。彼女を真似て、光合成をしてみましたが、寂しくて光が目に沁みまるだけでした。
しかし、このまま腐っているわけにはいかないので、久しぶりに思い出した、ある場所へ行ってみることにしました。
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黄色いハンカチが下がっているので、本日は開店日らしい
気まぐれに開けたり、閉めたりしているので、いつでも必ず利用できるとは限らない。
ここは、里でもよく当たると有名な<花牌センセイ術カフェ>
カフェと言っても、メニューはカフェインすら含まれていない魔素水のみでセルフサービスだ。
ワノ国仕込みの<センセイ術>らしいのだが、ワノ国の言葉は話せるが読めない為、この表記らしい。本人曰く『響きも一緒じゃし、おそらく【先生】という意味じゃろ』とのこと。
ファパイ先生は流行に敏感な方なのだが、少々エキセントリックな所がある……
ある時は『硬水』が巷で流行っているらしいからと『香水』を出され、またある時は、やっぱり『軟水』の方が良いらしいと言って、何が入っているか不明な『何水?』を出す。一応、南の国まで汲みには行ったらしい『南水』もあったが、酷く濁っていたとか。
占い一本では駄目なのだろうか?
この魔素水も、『水素水』が体に良いらしいとのことから、なぜか『魔素水』になっていた。私達からすれば、要するにほぼ『ただの水』なのだが……一番まともな為、定着した。
それはさておき、実は私も300年ほど前に『自分の探しものは見つかるのか』占ってもらった経緯がある。
その時に『励んでいれば、いつかは見つかる』という占い結果があったからこそ、300年耐えられたと言っても過言ではない。
まぁ少し長いな、とは思ったが。
「ファパイ先生はおりますか?」
「……おや?その声はルー坊かい?」
今はちょうど客もなく、ファパイ先生と客の、合わせて二人ほどしか入れない、小さな占い部屋に先生はちょこんと一人座っていた
「お久しぶりです。『ルー坊』はさすがにもうおやめ下さい。私ももう400歳になりましたので」
ファパイ先生は変身魔法の第一人者と呼ばれるほど、変身に長けていて、未だに本当の顔はどれなのかと、エルフ七不思議の一つとなっている。
ちなみに今回は、肩下程度の長さのチリチリとした白髪でシワシワの小柄なお婆さん……に化けているようだ
私程度の者では、やはり原理も全くわからない。さすが【カメレオンダイヤ】の異名を持つだけある
「ヒィッヒッヒ!儂から見れば、1000年を超えぬ者は皆ひょっ子坊主じゃわい。
どれ、ルー坊……お主顔つきが変わったようじゃのぅ。【探しもの】が見つかったのではないか?」
「さすがはファパイ先生ですね。ご明察です」
「ヒヒヒ!だぁから言ったじゃろう?『かの宝は食っちゃ寝して待て』と諺にもあるくらいじゃぞい。まぁこれが先に生きる者の<先生術>っちゅうやつじゃな。
して?今日は報告を伝えにきたわけではあるまい、何を知りたいんじゃ?」
「……やはり何でもお見通しなのですね。そんなファパイ先生に、『結婚』について見て頂きたいのです」
【そばにいられればいい】から【想いを通わせたい】、【生涯を共にしたい】と、どんどん欲が湧いてきて……せめて少しだけでも未来がわかれば、気持ち穏やかに待てるのではないかと思うのだが
「ほぉ~……お主が結婚、のぉ。そんなに焦らなくとも、お主の魔力なら1000年よりも生きるであろう?何をそんなに焦っておるんじゃ。ん?ちと寿命が減ったか?」
「実は……」
私は正直にアオイの若返りの一件を話した
「……なるほど。人族に、ねぇ……まぁ良かろう、では占ってしんぜよう。結婚の何を占う?」
「はい。昨日、私と彼女は恋人同士になったわけですが、今日プロポーズしたら結婚できるでしょうか?」
「……は?昨日の今日でプロポーズじゃと?恋人になる前から何年も関りがあったのかい?」
「いえ、まだ知り合って半年ほどですね」
「はんっ!?……まぁ良い。では対価の宝石をおきな。そして相手のことを思い浮かべるのじゃ」
―――彼女を思い浮かべる、か……小悪魔アオイ?ウトウトしているアオイ?それとも夜着のアオイも捨てがたい……
「――…すみません。ファパイ先生、どのバージョンの彼女を思い浮かべたら良いのか全く絞れないのですが。これは困りました……」
「……はぁあ?重症じゃな。全部でいいわい!はよ集中せいっ!!
今日はこの<点棒>の束を使って占うとしよう。ワノ国で流行っておって、そちらでは<筮竹>というものを使っていたんじゃがな。現物よりも短いが、まぁ似たようなものだから大丈夫じゃろ」
「ハァ……よくわかりませんがお願います」
前回も確かユーロピアで流行っている<タロット占い>を模して、トランプ占いをしていたと思うのだが……<シンケイスイジャク>というものをさせられた記憶が蘇る
「え~~い!リンシャンカイホウ チャン・リン・シャン!テンホウ チーホウ テンキヨホウッ!!」
―――カァァァァァツ!!
そう叫んだと思ったら、なぜか顔に点棒を投げつけられた。割と痛い。
そして、それをなぜか私が全て拾い集めなくてはならないらしい。基本的にセルフサービスのスタンスを貫いているようだが、ちょっとサービスの方向性をき違えている気がしてならない。
「いかがですか?今日いけそうでしょうか……?」
「……無理じゃな」
「え?……で、では、明日は?あ、宝石追加します!」
「リンシャンカイホウ……以下省略!―――無理じゃな」
「………三日後では?」
「リンシャン……以下省略―――無理じゃな」
―――――
「ハァ……ハァ……お主、良い金ヅルにはなるが、ちょっとしつこいぞ…ハァハァ
喉が渇いた、魔素水飲ませろ――……ぷはぁ。30日後まで占ったんじゃ、もう面倒じゃから一年以内で見てやるわい。追加料金はいらん、サービスじゃ!」
うぅっ…30日間分、全て占ったというのに、まさかの惨敗……一体いつ結婚できるのでしょうか?
「ハァ、叫ぶのも疲れた……今度はユーロピアで流行っとった、<水晶占い>にするか。
大きいものは高価でのぉ、ビー玉なるものが、水晶玉を小さくしたものとそっくりで、可愛らしかったから仕入れてきたんじゃ!
本来は占い師が打つんじゃが、儂は客が己の持つ<運の力>で占った方がいいと思っての<ビー玉パチンコ占い>を考案したんじゃ。『自分の未来は自分の力でつかみ取れ』じゃ。儂が術を唱えたら一発打ってみよ!」
「そうですよね、私のありったけの想いを込めて……打たせて頂きます!!」
「ビーダマ ケダマ ケムクジャラ~……今じゃ!」
「はいっ!ハッ!!!」
―――コンッ!
コロン …タン トン、トン、キン……ゴトン。
下までは落ちずに、途中にある丸い穴にビー玉が入った。
これは?運命の判定はどうなのですか?!先生の顔を見る……
「―――……無理じゃな」
「……」
―――――
「ルー坊、いつまで落ち込んでおる?塩をかけられたナメクジみたくなりおって……
そういう時は、早う気持ち切り替えて、果汁でも飲んで、たまに魔素でも吸っときゃいいんじゃ。ヒッヒッヒ!ほぉれ食らえ~」
『手近にあったから』という理由で、店の盛り塩を私に撒き散らかす。お陰で髪は塩まみれである。
「……なぜかファパイ先生が言うと、ただの果汁が酒みたいですし、魔素が非合法なものに聞こえるのですが?
それにナメクジに塩をかけ続けたら死にますので、もう塩をかけないで下さい。髪が汚れます」
「酒と女は二合(号)まで!心配せんでも一年後も別れてはおらんし、相手には他にも叶えたい望みがあるのではないのか?それに満足すれば、自然と結婚へと向かうわい。まぁ、良い時ばかりではなく、多少の諍いもありそうじゃがの……とにかく、次の客が来るからさっさと帰れ!」
「え?何ですか?最後に意味深過ぎませんか!?諍いって……あと、前の発言は意味不明です!酒はともかく、なぜ二号を持つ話がでるのですか??……先生!ファパイせんせ~!!」
ドカッっ!!とひと蹴りされて店を出される。ファパイ先生の前では、A級ランクも形無しだ。
「カッカッカ~~悩め、悩め~」
***
「――――…ということだったのですよ。しなびたくもなりますよね。でもアオイのお陰でパリっと戻りましたし、何なら甘みも加わりました♡」
最後の諍いの話だけ避けて、私はアオイにファパイ先生の占い結果を報告した。
ちょっと慰めて欲しかったのと、あわよくば結婚を意識してもらえないか……といった下心を含んでいる。
そして現在、さりげなくアオイの膝に頭を乗せ、髪を梳かれ慰めてもらっているので、ある意味200%大成功を収めている
「……う~ん、それは良かったけどさぁ、そこって占星術のお店なんだよねぇ?何か…というか、何もかも違うような気もするんだけど??麻雀、パチンコ、トランプ……ホント癖が強いね……あはは。。。」
「そうですね。里内にいるのでエルフではあるんでしょうけど、正体も謎に包まれていますからね。
今は亡き、私の祖父からも、子供の頃からすでにいたと聞き及んでおりますが、どこまで本当かはわかりません。
会うたびにお顔も違っていますからね。前回は『~っス』と語尾につく、変な特徴の若い男性的な方でしたよ。我々は纏う独特の魔力で、ファパイ先生だと判断しているに過ぎません」
「へぇ~性別、年齢まで変えられるなんて、まさにカメレオンダイヤだねぇ。占いより余程すごいんだけど。。。」
「はい。私も髪や瞳の色くらいでしたら変えられますが、さすがに見た目全てをできる者はいませんね。
門外不出みたいで、誰もその術の方法はわかっておりません」
「ふ~ん、本人と神のみぞ知る。だね」
「アオイとの結婚も、アオイと神のみぞ知る。なのでしょうか……?」
目元を潤ませ、チラッとアオイを見上げてみる
「あ、あはは~どうだろうねぇ。でも、確か私の望みが満たされた時なんでしょ?もう少し待って、ね?」
「……はい」
グスッやはり駄目ですか……
すぐに結婚できないのは非常に残念ですが、愛するアオイの希望を、とにかく急いで叶えることに尽力しようと、私は決意を新たにしました
自分の未来は自分の力でつかみ取る!!目指せ、一年以内の結婚!!