2:はじめまして。エルフとの邂逅、感動は10秒
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「うっ……気持ち悪い」
バンジーで落ちる時って、あんな感じなのかな……死んでもやらん!と思ってたけど、死んでからやる人って私くらいじゃない?
あれ?そもそも、なぜ座席に座ってシートベルトしてんの?!座席も一緒に転生するってあるの?なにもない雑木林にポツンと座席に座ってる私……超クール。いや、超シュールだ。
もうホント「考える人」ポーズなんだが?だって座席しかないしね!
おっ、ベルト外して立ち上がったら座席ごと消えた……さよなら文明、そして神様すごい。
消えたと同時に、その場所になにかメッセージのようなものが現れた。
―――使える荷物とお金(両替済)は空間魔法の中に移動させてあるわよ♪―――
ピコン♪ピコン♪ピコン♪……
【神いいねb】100コンボ!!
神様、何だかんだで慈悲深い……ボタン連打が止まりませんよ。。。
死んだことは……実感ないけど、それでもショックではある。でも、事故部分の記憶を消してくれた事はかなりありがたいかも。あったらトラウマになってたよね、きっと。寝てて良かった
「そういえば、転生って言ったけど、赤ちゃんからのスタートではないの?!何歳からのスタートなのかな?思考は引き継がれているパターンか……転生あるあるやな…」
なんと!気付けば服装がこっちの服っぽい格好になってる!
ベージュ系でVネックの七分袖シャツとロングスカート……素晴らしい、可もなく不可もない。
きっと一般のモブ服はこんなだろうって服装だね。めちゃくちゃイラストにしやすい服装。モブ オブ モブな私にはピッタリだ。シンプルイズベストとはこのことよ。
あとは…なんだろ?腰に小さな巾着?……あっ、こっちの世界のお金!?少しだけ入ってるから…これは財布の中身分かな?ほぼカードで済ませようと思っていたから、そんなには入れてなかったはず……盗難が一番怖いからね。とはいえ、普段よりは多いから気を付けなきゃ!
それにしても、手とか目線的には大人の時と変わりないように思える……
いや、待て。手に薄っすらあったシワ、シミ加減が、さっきまで見ていた私の手と同じじゃない!?
「えぇ~~転生って言うから、若返ってるって期待したのに……。もしかして年齢も特典内でお願いしなきゃいけなかったの?!あぁぁぁ~バカだよ、わたしぃぃ~~」
完全に積んだ。
でも、それならそれで、初めに言って欲しかった……グスッ
じゃあ寿命が……80~90歳として、その内元気に動けるのってあと何年くらい??20年あれば良い方かな。ジムには通っていたから、多少は筋肉貯金あるかな?週一回30分しかしていなかったけど、無理?そうだね無理よね、わかってる。
継続は力こぶには…ならないよね
「この世界に介護制度なんて……さすがにない、よねぇ。
そもそも、この世界で納税してないしね、すっごく税金高くて圧政だったらどうする?戦争はなくても、その線はあるかもしれないよね!?はぁぁぁ……」
現状、運に恵まれている気配をミリも感じないんだけど……泣いていい?
焦りすぎ?即効性ないタイプでしょうか?すぐに効果が出ないと疑っちゃう質でして
「そうなると住む場所もよくよく吟味して…老後一番過ごしやすくて、街全体で助け合ってるみたいな場所を探す必要があるよね。そして税金安いのがベスト!なんなら納税、NO税の方向で!!
これはホントに異世界旅行というか、私の終の棲家探しをしなくちゃじゃない?!」
安寧の地はいずこ…。まさか50歳のまま転生とは思ってなかったから、ちょっと……いや、だいぶショックだなぁ……来て早々に終活なのか。
「でも、まずは今日中にギルドへ行って登録と指導依頼をしなくちゃ!騒いでいたのを誰にも気づかれなくて良かったぁ。完全に不審者だもんね」
幸い、ここは小さな雑木林ではあるけれど、少し先に人通りが見える距離だ。ここがダーン国のミトパイってところになるのかな?わざわざ神様がご丁寧に教えてくれたのだ、そこは信用できるだろう
「今どんな姿になってるんだろう?鏡……あー空間魔法ってやつはどうやればいいのか……まさに今使いたいのに」
あっお店の窓ガラス発見!あれでも、そこそこ見えるだろう。どれどれ……
「おお!これはっ!!」
うん。顔は……私の、ままだ。まさに、馴染みの見慣れた女だわ
うっかり『やだっ!美魔女になってるっ!!』ってならないかなと、ちょ~っとだけ期待したんだけど、現実はこんなもんだよね。
おかしい……神様はラノベ読んでたって言ってなかったかい?だいたい『エンジョイしなさい!』ってちょっと昭和感漂うと言うか。ハァ、やっぱり若返り願うべきだったなぁ……。
「身寄りもない、特技もない、凡人のおばちゃんが異世界で一人、一体どうしろと?」
転生って言ったよね?普通、若返るのがセオリーなんじゃないの?私が読んでいた夢のあるラノベだけがそうだったのか?
もしくは神様は少数のマニアック派だったというのか……ありのままで生きてゆけと?
これが有名なレット イット ゴーか。少~しも笑えないわ……チーン
「これは転移ってやつじゃない?神様と人では解釈も違うのかな……夢って必要だと思うんだけど……『夢は寝る時だけ見るものよ♪』とか正論かまされるのかな」
とりあえず、人が多そうな所に出てみると、如何にも冒険者然とした人達が街中に向かって歩いていたので、私も距離は開けつつ、異世界での大いなる一歩を……踏み外した
ズシャァー!と見事に大コケした私。でも大丈夫、受け身とったから!土のついた手を華麗にパンパンと叩き、スカートの汚れもスマートにサッサっと払った。
なにかありましたか?的な顔してますよ。ええ。
「あっ、巾着が外れて転がってるじゃない……」
脇を通っていった通行人Aみたいな人が、親切にも拾ってくれた……わけじゃなくて、拾ってダッシュしていった。いきなり窃盗かよ!!
「泥棒!!誰か、その走ってるモブっぽい男は泥棒です!!捕まえてー!!」
マズイ!まだ一歩も踏み出せていなかったというのに、踏み外して受け身取ってから追い掛けるなんて……50代の体力なめんなよ!!もう走れないっつーの!!グルコサミンが不足してんのよ!
常に「前向きに」諦め慣れている私は走ることを諦めた……いや、もうハァハァしてましてね。苦しっ!!
誰も助けてくれないとは世知辛いものだなと、地面を見つめていたら少し離れたところで「ぎゃあっ」というモブの呻き声が聞こえたような?
とりあえず、声の方へそろり用心しながら向かうと、先ほどのモブ泥棒が地面に転がり、彼の手に私の巾着はなく、代わりに別の人物が手に持って立っていた。
「あのぉ~その巾着私の物なんですけど……そこの人に盗られてしまって。返して頂く事ってできますか?あ、お礼は1割でも宜しいでしょうか?」
一瞬こちらへ視線を寄越したその人は、瞳がラズベリー色をしていた。ワオ!これぞ異世界!!
「………チッ」
はっ?今、舌打ちされた?なんで?世界の常識では1割はケチ臭いとか?フードを目深に被った、舌打ち野郎はそれ以上なにも応えず、黙って巾着をポイっと返してくれた。
そんなに悪い奴でもないのかな?タイミング悪く、歯に物が詰まってただけとか?まぁ、それは辛いよね
モブ窃盗は、ツルみたいなものに巻かれていて、ズルズルと引きずられてどこかに連れて行かれるようだ。事情聴取とか必要だよね?このままついて行って、警察みたいなところだったらそこでギルドの場所を尋ねればいいかな
***
【冒険者ギルド ミトパイ支部】
「なんとっ!まさかのギルドに着いた!」
ホント良かったぁ!ついてきて正解だったよ。道中、『なんでついて来るんだ?』的な視線はあったけど。ギルドはこういう泥棒なんかも<WANTED!!>みたいに出ているのかな?
あ、これもちょっとした幸運なのかな?親切な舌打ち野郎、ありがとう!心の中で合掌しておく。
ストーカーとは思われたくないので、舌打ちさんが入って少ししてから中へ入る。
――…カロン、カロン!
ドアベルが小気味よく鳴り響いた。なんか純喫茶っぽい!
今は午前8時半って言ってたっけ?予想していたよりは人も疎らかな?
あんまりキョロキョロするのも不審がられるかと思って、まずは<新規受付>とご丁寧に書かれたところに並ぶことにした。
「こんにちは“ミトパイの街”へようこそ!冒険者の新規登録でしょうか?」
茶髪のポニーテールで、素晴らしい営業スマイルが光る女の子はメリさん。
まだ10代後半か20歳そこそこかな?可愛らしい
ふむふむ、ここはミトパイという街でやっぱり合っているんだね
ミートパイみたいで美味しそうな名前
「あの、冒険者のボの字も何も全くわからないのですが……薬草採取?とか比較的安全な範囲で細々やれたらなと…」
あれ?メリさんのスマイルが、何ていうか一切崩れない……不審者っぽかった?こういう冒険者はいない系だったら詰んだよね。無双系だったら無理よ?農家に駆け込むよ?
「……なるほど、なるほど。皆さん色々とご事情がおありですよね。
かしこまりました。ではまず冒険者証を発行致しますので、この白い板に手を乗せて下さい。
乗せた後 光りますが、光が消えるまで手は離さないで下さいね。どうぞ」
うん。なんかよくわからないけど『あんた、事情抱えているんだね』的な感じで受け止めてもらえたのかな?
どれどれ……このただの白い板に手を乗せるだけか。簡単そう
ほいっと
―――!!!!!
うわっ!眩しい!また眩しいシリーズ!?
この眩しさたるや、寝ているのに瞼をこじ開けられて、ライトあてられたレベル。あれはキツイ
「はい。目を開けて大丈夫ですよ。これで登録完了です。
このまま、まずは一番低いFランクからの依頼を受けるも良しですが……もしご依頼などがございましたら隣のカウンターでご相談も受け付けますよ」
「あ、そうなんですね!丁度依頼したいことがあったので隣で相談してみます」
どうやら、うまくいったようだ。第一関門突破!次は依頼を受理してもらわなきゃ!
そそくさと隣に移動して、早速、神様にも言われていた魔力循環・操作指導や世界の常識を教えてもらう依頼を出すことに。
今度の受付はゴリマッチョ系だけど、スキンヘッドに顎鬚をこさえた、人の良さそうな30代中頃くらいの男性、ダーツさん。
ネームバッチに【ギルドマスター】と書いてあるんだけど、受付に立つこともあるんだなぁ。っていうか受付側ではなく、冒険者側にいた方がいいのではなかろうか??
「おおぅ!中々珍しい依頼内容だなぁこりゃ……決して難しい依頼ではないんだが、なんつーか冒険者は脳筋の奴らが多いからな。変な奴に当たると「ボーンでドカーンだ」とかって意味のわからない説明になるかもしれないなっガハハ!」
えぇ!?「そこビューン行ったらドンとなるやろ?そこをガーっと曲がってすぐやで!」みたいな感覚的説明と似たやつじゃない?
それは困るなぁと考えていたら、ダーツさんが「おっ!タイミングいいな!良い指導者になりそうな奴が丁度さっき戻って来たんだ」と言って、一人のフードを目深にかぶった冒険者に声を掛けに行った。
ダーツさんとその冒険者は知り合い関係なのか、「やってくれ」、「断る」の押し問答が繰り広げられていたけど……あれ?あの人はさっきの舌打ちさんじゃない!?似た人?
どうやらダーツさんに軍配が上がったようだ。
「おおい!良かったなぁA級冒険者のコイツが受けてくれるってよ!」と、ニカっと笑った。
なんとA級冒険者!?私もダーツさんがおススメしてくれた方なら、と急いで駆け寄り挨拶をする。
「はじめまして、アオイ=タチバナと申します。姓がタチバナ、名がアオイです。この度は依頼を受けて下さってありがとうございます」
冒険者の方は被っていたフードを下げこちらを見やると、至極不機嫌そうな顔をしていた
おおぅ、髪は月のような銀髪に、ラズベリー色の宝石のような綺麗な瞳はやっぱりさっきの……耳も尖ってるし、エルフ族だったのか!
「おい、ダーツ。もしかしなくてもコレが依頼者なのか?」
「依頼者に向かってコレって言うな!」
『いくら空いているとは言え、私がなぜこのような矮小な人族如きに、子供にするような指導をしなければならないのだ……クソッ!助けてやるんじゃなかったな』
「おいおい、お前今エルフ族の言葉使ったな?何か悪口みたいなこと言ってねぇだろうなぁ?」
「ふん。お前もわからないんだろう?」
背も目測では190cm近くはありそうだし、めっちゃくちゃモデル並みにカッコいいなとか、一瞬思考を別なところへやってみたけど。。。『矮小な人族』だの、コレ呼ばわりでちょっとムカつくんですけど?舌打ち野郎は、人族キライ系のエルフなのかな?
エルフ語?残念ながらわかるんだよー!私一応笑っているけど、口角ひくひくしてるわきっと!
感動したのは10秒程度。なんて性格悪いイケメンだ!でもイケメンなんだけど。
「まぁそう言うな。悪いが言質とった時点で依頼は受理したからな。ガハハ諦めろ!!それにお前、教育は得意じゃないか。期間は一ヶ月程度で報酬金は高くはないが、大変な依頼でもないだろう?どうせお前は金には困っていないんだし」
「ふん。前の依頼が早く片付いた分、予定も少し空いたからな。まぁ以前お前には借りを作っているし、今回はその借りを返す意味でいいのなら、受けてやってもいい」
ふむふむ、なるほど?つまりこのエルフさんの気持ちはどうであれ、依頼は受けたんだよね?そして、その依頼者は私で、私が報酬も払うのよね?
これって依頼者に対しての態度が酷過ぎない?人に優しくをモットーにしてきた私でも、許せないものには許せないって言えるんですからねっ!
『割り込んでごめんなさい、舌う…ごほっエルフの方?
今の話聞いてたらさ、結局あなたはこの依頼を受けたわけでしょ?ギルドの依頼者ってのは依頼した側がやたらと平身低頭な態度でいなきゃならないの?
ましてや命張るような依頼を出したなら理解もするけど、エルフ様の言葉を借りれば「子供にするような」簡単な指導と言うレベルのものなんでしょ?
依頼を受けると決めたんだったらさ、きちんと仕事くらいは全うすべきではない?エルフ様は長生きのせいで協調性とか愛想とか、どこかに忘れてきたのかしら?』
「お、おい……エルフ語?」
ダーツさんはビックリしてるね。これって不味い状況ですか?思ってること全部ぶちまけちゃったけど逃げる準備した方がいいかな?
「…………」
舌打ちエルフさん…眉間のシワ増えてる。そして、めちゃくちゃ睨まれてるーーーー!
あれ?私やっちゃったかな……
<異世界で初日でケンカ始めちゃった件>なんちゃって!