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15.5:閑話 書店員ブクマ―は見た

わずか30分ほどで帰ってきた、本屋のお話です


【書店 BCMR(ブクマ―)


******


 私はしがない書店員兼店長、名前は……

 ブルーゾイ(B)クロム(C)モルダバイト(M)ルチル(R)と申します。


 ちょっと長いので、頭文字をとった、ブクマーとお呼びください。ブックマークではございませんよ。

 もうお気づきかと思いますが、私は誇り高きエルフ族です。もちろん美形ですが、何か?


 ここには私しかおりませんので、私が自分で言うしかないですよね?

 視力は良いのですが、書店員っぽいのと私に似合うという理由で伊達モノクルを掛けております。形から入るのも大切ですよ。

 名前の由来通り、新しい発見や知性に特化しておりまして……

 まぁ端的に言えば本好きってことです。



 「由来なんて知らんがな」ですって?文明の利器をご活用願います。



 私も初めは里を出て、世界中で色んな事を実際に見聞きして知識を高めようと思ったんです。志は高くってやつですね。


 ですが、わずか3年で飽きてしまいまして。


 所謂、『3年坊主』ってやつですよね。

 エルフあるあるなんですけど。


 ですが、自分が飽き性だってことはよくわかったので、旅も無駄ではなかったですね。


 そして、ちょっと休憩しようかなと立ち寄った、人族のユーロピアの街で運命を感じました。

 エルフの里にはない創作本やら歴史書、他国の資料なんかも沢山あって……

 あれ?これ読めばわざわざ旅に出なくても良くね?みたいに思っちゃったわけですよ。

 怠けているのではないですよ?何事も効率が大切だって話です。


 それからかれこれ……う~ん200年位?この街で一応書店としてやっております。

 でも、こちらもお客様は選びたいといいますか。正直、読書の邪魔をされたくないので、基本的には「この書店にしかない本を求めている者」か「エルフ族」にしかこの店は見えないので、年中ほぼ無休ですが、お客はほとんどないんですよ。

 あ~最高!



 そんな怠惰……いえ、優雅な読書生活をしていたある日、突然店の前に大きな魔力の気配を感じました。

 おそらくエルフ族であろう予測を付け、久しぶりのお客様をお迎えするべく襟を正す。


―――…リン、リーン!


ドアベルの音が軽やかに鳴る

 お客様のご来店です。



「いらっしゃ……」

 私としたことが、挨拶を最後まで言うことができませんでした。



 なんと、故郷の族長のご子息であられる、ルーティエライト様が目の前に!

 お兄様のラトナラジュ様の方は元Sランク冒険者ですが、彼もAランクとはいえ、その実力はSランク級と聞き及んでおります!!!

 ()()()()Aランク……カッコいい。



 ラトナラジュ様の冒険譚をまとめた<美しき紅蓮の炎と蒼穹(そうきゅう)の刃 400年の挑戦 上下巻>これは素晴らしかった……人気挿絵師のS様を起用されておりましたが、この方もかなり力が入っておりましたね。初版の20冊限定で挿絵10ページ増量版を手に入れる為に、発売日が発表された二ヶ月前から並んだ甲斐がありましたよ。



 普段は穏やかで美しいあのお姿が、ひとたび敵と対峙すると、まるで悪魔的な美貌といいますか、地獄の炎と天から降る刃、それはもう、美しくも恐ろしく……

 あぁ痺れますっ!



 そして、眼前におりますのは、その弟君で<紅の雷光>こと、ルーティエライト様ですよ!

 ルーティエライト様も冒険者となりましたが、お兄様のようにON、OFFで表情が変わる方ではなく、ほぼ無表情か不機嫌か……戦闘では怖いか超絶怖いか、みたいな。

 とにかく淡々と依頼をこなしている方で、基本的にパーティも組まない、孤高の誇り高き冒険者だと認識しておりました。



 才能と戦闘センスはもちろんありますが、それに驕らず努力もされていて、『岩の上にも300年』をまさに体現なさっている方です。



 あっエルフ(ことわざ)なんですけど、わかりますよね?



 ですが……目の前の彼は、その表情は薄っすら笑みを携えており、何なら鼻歌まで歌っておりませんか?

噂とは案外アテにならないものなのですね。



「店主、少し宜しいか?」



 はっお客様を放置したままでした!!



「はい、何かお探しですか?」



 一体ルーティエライト様が何を読まれるのか個人的にも気になりますね。



「私の恋人が体調が悪く出歩けなくて退屈と言うもので……何かおススメはないだろうか?」

「こっ!?ゴホン、おススメ、そうですねぇ……」



 ええっ!ルーティエライト様の恋人?!他国……魔国辺りですかねぇ?まさかの人族……?それはないか。それに病弱な方、か。間違いなく可憐で儚い美人系の方であろう。

 今まで浮いた話は一度も聞いたことなかった方が、いつの間に!!


 これはある種のスクープですよね!!


 ふぅ……落ち着け、私。しかし、今は書店員。お客様のプライバシーを漏らすようなことは致しません。私の心の中に留めておきましょう。そう、私だけが知っている……ふふ。


「とりあえず長編物だが<エルフ少年の150年漂流記>なんかは結構メジャーで良いかと思っているんだが。あとは他国の者にもわかりやすい花言葉シリーズとか」


「お客様の選ばれた本も宜しいかと思われます。あとは……女性ですので一冊くらいは美容雑誌と、恋愛物語なんかも宜しいかと。

 シルバー様はエルフ美容界の重鎮と言われておりますからね、この方の特集時は即完売になる程の人気ですよ」



 エルフ族で美容を気にしない者は一人もおりませんからね。シルバー様のものならマストバイです。



「<1001年目のプロポーズ>は、両片思いの幼馴染同士が中々素直になれないまま過ごし、徐々に距離を近づけるのですが、100年目でようやく手を繋ぎ、200年目で指を絡め、300年目におでこに触れる……という何とも亀の歩みの如くペースはゆっくりなんですが、1000年間もお互いを意識し続けるドキドキ感と、寿命が近づいてようやく決心した彼の、最初で最後のプロポーズ!!」


「ほぉ……」


「寿命が例えあと1年しかなくても、僕は死にましぇん!あなたが好きだからっ!」の名シーンは、ハンカチーフなしでは読めません。グスッ」



「……確かに、何て素晴らしい純愛だ。エルフ族のような長命でなければ理解できない物語かもしれないが、一応それらも頂こう」



「あと少々変化球気味ではありますが、<世界の中心でエルフと叫ぶ>これも中々ですよ。

 中には各国の美しい景色の中で様々な種族が、壮大な景色に向かって愛を叫んでいるのですが……ここからが変化球なのですよ!

 なんと、エルフ族だけは全ての場所で、お相手への愛を、直接囁いているんですよ!

 『叫ぶ』が主旨なのに、エルフだけ『囁く』ですからねっ!!

 やはり想いは叫ぶのではなく、囁くものなのだと、初心にかえるにはピッタリな一冊です」



「確かに、それには同意しかない。言葉を捧げるのであれば、本人にのみ聞いてもらえればいいのだから、わざわざ他人に聞かせる道理はない。

 タイトルは野蛮だと思ったが、内容は非常にエルフの特性が際立っていて好感が持てる、これも頂こう」



「ありがとうございます!わたくし名前に『夫婦円満』、『幸せへの道標』の意味も持っておりますので、これらの本が、お客様とお相手様との円満、幸せへと導くことができましたら幸いでございます」



 最後にようやく、長い本名を名乗りました。頭の片隅で覚えていてくれないでしょうか?



「それは縁起の良い名だな、ぜひあやかりたいものだ。エルフ向けの本もとても充実していて良い、また来るとしよう」



「ありがとうございます。たくさんお買い上げ頂きましたので、一冊お客様向けにオススメ本をサービスで入れておきますね。わかるようにブックカバーを掛けておりますので」


「私向けの?ふむ、暇なときにでも読ませてもらおう」



 そしてお釣りは不要だと、定価の三倍の代金を置き、すぐに転移魔法で消えてしまいました。

 あまりに一瞬のような出来事で、しばらく放心状態でしたが……。



 ハァ、せめてサインだけでも貰えば良かっただろうか……またお会いすることがあれば、サインをぜひ頂きたい。何なら病弱可憐な恋人の方も一緒にご来店なんてことは、、、なさそうだな。



 そういえば、私もそろそろ500歳。ボチボチ嫁探しでもしないといけない頃合いでは?

 世話好きで、無類の本好き、こんな人募集中です。



 あっギルドに女性限定で書籍の整理の依頼でも出してみましょうか?ムキムキな女性は必要ないのでE・Fランク辺りなら良さそうですよね。依頼料もお安いですし。



「久々に売上もありましたので、ギルドへ依頼と、街の本屋で<冒険者の口説き方入門編>でも購入して来ましょう」



「『幸せの道標』は私にも効果あるといいのですけどねぇ」

 

 まだ見ぬ未来の嫁候補を想像しながら、私は何年かぶりに外へ出たのだった。






 彼の運命の糸が誰に繋がっているのか、それはまだ誰にもわからない。




ありがとうございました!

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