13:トドランは高速自動車道で走らせましょう ☆
読み続けて下さる、皆様に感謝を……
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お、おはよう……ごじゃります。
寝起きの下りは何度目だよ。
二日も寝不足は身体に良くないのでおススメしません。アオイです
「アオイ、顔色が優れませんが大丈夫ですか?夜中もうなされていたようですし」
「ご、ごめん……夢で大量の仮想ブタタンに追われる夢を見ちゃって……」
「夢に飛んで行ければ、私が全て殲滅致しましたのに。他者の夢にどうにか干渉する方法を探してみましょうか……」
「気持ちだけでいいかな……」
いや、それはやっちゃいかんやつだし。
あと殲滅されたらスプラッタみたいになって余計にホラーでトラウマものだよね?
想像しただけで怖いからっ!
宿で出された朝食の胃に優しそうな野菜スープを飲んで、いよいよトドランとのご対面だ!
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これがトドランか……。初見での感想は、見た目八割がベージュ色の短い毛の生えたトド。
そして足がなんと八本もある!!可愛いネ〇バスなんかじゃない。やはり魔獣!
これ、どうやって乗るの?もしかしなくても普通に上に跨る……?あーーなるほど。これは降りる頃にはお尻と腰を痛めてるんだろうなぁ。
居眠りしようものなら死ぬかもしれない。ただでさえ寝不足なのにマズイ
「アオイ、ずっと無言ですけど乗れそうですか?」
「あああ、あ、あ、うん。いやぁ乗り心地はどうなのかなって。お尻とか痛くならないのかなぁ?」
「そうですね、慣れない方は筋肉痛になるかもしれませんね。
砂地を走らせたら世界一速い魔獣なので、敵にすると少々面倒なのですが、ここ100年程はほとんど野生種は見掛けておりませんので……」
「ちょっと待って!世界一速いと言った?砂地でだけど、一体どのくらい早いの?」
「トドランですか?この大きさは中型ですので……時速100km位でしょうか?
ファミリータイプの大型になりますと80km、一人乗りの小型で150km位出ますね。
騎獣もできるように訓練されておりますので、緊急の際はもう少しスピードは出せるかと思いますが。
こういった移動のみであれば、そこまでスピードは必要としませんからね」
ひ、ひゃく……吹き飛ぶ自分しか想像できない、高速道路でしか乗れない乗り物じゃん。
いや、小型はもはや暴走車だよね、顔だけは一番子供っぽくて可愛かったのに……
大型なんてマフィアのドンにしか見えない風貌というか、『死線を潜り抜けてきたぜ』みたいな達観した雰囲気がある。
常にナニかをもぐもぐしているみたいだけど、食べているの……何?
精神安定の為なの?ガム?ガムだよね?
「ルー、今までありがとう。私乗ったら多分吹き飛ばされて死ぬと思う。もう絶対落ちる未来しか見えない……グスッ」
もうガクブルが止まらない。半泣きだし、何なら鼻水も垂れそうですけど。トドランが大きすぎて、掴みきれないし、毛足も短いしで……どこにしがみつけばいいんだよぉ~!
「ふふ。私が一緒なので大丈夫ですよ。絶対にアオイを離したりしませんから。それに安全の為の結界も張ってありますので、風や砂除けにもなりますよ」
そうかっ!魔法があった!結界が張ってあるなら、とりあえず落下することはなさそうかな?
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「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーー!!!!怖い、早い、死ぬぅぅぅぅぅ!!」
『安い、早い、うまい』みたいだけど『怖い、早い、死ぬ』だから!
動き出して初めはゆっくりだったから『これなら大丈夫そう!』なんて気を抜いた瞬間に爆走!
もう降りたい。けど、砂漠のど真ん中で降りても、良い事はひとつもない。
ルーの腰にしがみ付くので精一杯!藁をも掴むと言うが、ルーはビクともしないからね。
こんなに安全な藁は他にはないと思う。照れる?恥ずかしい?なにそれ、おいしいの?死ぬよりマシ
離したら終わり……離したら終わりだ……
何で女性は横座りなの?絶対普通に跨った方が安定感あると思うんだけど。
パッカポッコみたいな優雅な雰囲気なんて皆無よこれ!?
「ふふ。今日は、積極的なのですね。まさか初めてのハグがあなたの方からして頂けるなんて思ってもみませんでした。トドランも中々悪くないですね。最悪私が抱えて走るプランも考えていたのですが……って聞こえていないようですね」
会話も景色を見るのも全く余裕のない私には、ルーが私に抱き着かれている状態を少しでも長く堪能する為に、スピード調整をしていたなんて知る由もなく。
夕方に降獣場所へ着いた頃には、一気に緊張から解放されたせいか、足がガクガクして立てなかった。
地面がまだ揺れてる……
ルーはそんな私を嬉々として抱き上げ、村の宿屋までお姫様抱っこで運ばれるという……もう恥ずか死にたい。周囲の目を気にしてよ!
しかも『アオイは今自分では動けませんし、私が近くにいてお世話した方がいいですよね』とか言って、いつの間にかまた二人部屋をとってるし。ねぇ、ここまで計算したわけじゃないよね?
もういいや……疲れたし、寝不足もあって、ホッとしたら眠気に襲われる。
まだ移動は終わってないし、今日は早く寝ちゃおう。
***
翌朝、全身筋肉痛で目覚めた。
すぐに筋肉痛がきたから若いと喜ぶべきか、痛いと泣くべきか……それが問題だ
しかしあれ?私の身体どうなってる?動かないんですけど!
「ルー、ごめんルーさぁん!動けないよー助けてぇ」
これは筋肉痛レベルなのか?金縛りレベルじゃない?首もガッチガチ!
「アオイおはようございます。昨日はぐっすりと眠れたようですね」
「うん、そうなんだけどさ、問題は身体が全く動かせないのよ。これって筋肉痛なのかな?どうしたらいい?」
「昨日はずいぶん緊張した状態で乗っていましたからね、筋肉痛だと思いますよ。どうしましょうか、私が一日抱き上げたまま移動もお世話も喜んで致しますが、治癒魔法を掛けても……」
「治癒魔法一択でお願いします!」
あんな恥ずかしいの絶対、絶対、嫌!
「治癒魔法掛けてくれたら、今日はいよいよBBQを決行したいと思ってます!」
「おおっ!パイッシュで話していたやつですね!」
「そう、密かにソースも何種か用意してあるし、ホタテも……くふふ」
今日は外でお肉を食べるのだ!
「では、回復!」
パァァァっと全身が柔らかい光に包まれる
「わっすごい!痛みゼロ!ルー先生ありがとうございました。お礼にお酒もつけますよ」
「いつの間に……?あぁ、買い占めた時におまけでと頂いたエールですね?」
筋肉痛もなくなり、鼻歌交じりで洗面所へ。顔を洗うと、寝不足も解消されたせいか何か肌も調子良いかも~なんて鏡を見る……あれ?
再度見る
み、見る!!
「えぇぇぇぇぇぇーーーーー!!ルー!ルールルルルー!!」
あっキツネじゃないや
―――バターーン!!
ぎゃーー!!ルー、ドアの蝶番が一個飛んで行ったよー-!弁償ものだよ!!
「アオイ、どうしましたっ!?」
「どうしたもこうしたも、何か別人とは言わないけど、私の肌がこの間より綺麗になってる!髪もパサついていたのが改善されてるんだけど、さっきの回復のせい?」
「あぁ……それですか、ふふ。アオイがこのところ、お手入れもできないままに寝ていたので、僭越ながら私がケアをさせて頂きました。どれもエルフの里限定の美容液とヘアオイルなんです」
「えぇ?いつの間に……っていうか勝手に!起きない私も私だけど。ねぇ変な事、してない、よね?」
「……心外ですね。お手入れは、アオイは毎日していると聞いていたので、しないままでは気にするのでは?と気を遣っただけなのですが」
ルーが珍しくジト目で口を尖らせて、耳は下降気味になっていた。人と同じく横についているのに、動物と同じように感情がわかりやすい耳だ。
「ごめん!!私に何かするなんて、ホントに思ってもいないんだけど。逆にありがとう気を遣ってもらって。それにしてもすごいねぇ、エルフの美へのこだわりがわかる気がするよ!仄かにバラの香りがするんだね。買えるお値段なら買いたいな」
「気に入ったのでしたら差し上げますよ。ピンクの美しいバラから抽出したエキスが入っております。ピンクのバラには<可愛い人>という花言葉もありますので、アオイにぴったりかと……」
「は!?か、かわぁっ!!!?ああ、あり、ありがとう……?そういうのホント慣れないから、やめてー恥ずかしいってば!」
「照れるアオイは可愛らしいです。花言葉を知っている者同士であれば、敢えて口には出しませんが、アオイは花言葉をほとんどご存じないようですので、口にしなければ伝わらないのではないか、と。
私の想いは正しくあなたに知っていて欲しいので」
「そ、そうかもしれないけどさぁ……」
人前で言わない辺りは考えてくれているんだと思うけど、二人きりだとそれはそれで心臓に悪いというか。
割と真面目に正論で返されてしまうから、いつも何も言えなくなってしまうよ。
大抵こうなると私が黙ってしまうので、ルーが何事もなかったかのように別の話題を振ってくれて、それに私が乗っかる形で何とかやり過ごしている。気遣いまでできる男、ルーティエさん。すごい
現在宿泊している村から次の村までは一日半かかる予定
一応ルーは私の歩調を加味した上で算出したみたいなんだけど、途中で多分疲れて遅くなるだろうから二日もあり得るかもしれない。
気合入れて頑張ろうっ!……って思っていたんだけど、移動は馬でした。助かった……
もちろん私が一人で乗れるわけもないので、またルーと二人乗りのガッチリホールド状態。
いや、離してとは言えないけどさ、軽くとはいえ走っているし。
あぁ、すでにお尻と腰が痛い
今更だけど、私よく一人で旅立とうと思ったなぁ。平和ボケか、普通にボケているのか。愚の骨頂だわ。今では全く、、、1ミリも一人で移動する気にはなれない。初日で路頭に迷うだろうなぁ
ただ、今は一旦頭の隅に追いやってるけど、ルーの事もどうにかしなきゃならないよね。
ずっとこのままじゃいられないし。彼が私に好意を寄せている以上、気持ちを返せないのに一緒にいるのは誠実ではないし。
ハァ。この歳になって、まさか恋愛で悩む事があるとは夢にも思わなかった。
自分が若かったらなぁ……それなら今の状況だって素直にドキドキも受け入れられたのに。
彼と離れたいわけじゃない、それなのにこのままではいられない。辛いなぁ
いっそ彼が同じ50代位のイケオジの渋メンだったら良かったのに。
確かに年上ではあるんだろうけど、この若い見た目と顔面偏差値の高さの前では、どうしても恋愛対象にし難い。ポジション的にはアイドルのような立ち位置なんだよね。
考える事が多すぎて、ルーには申し訳なかったけど、会話も空返事しかできず……
『ちょっと疲れてるみたいだから、大人しくしとくね』と誤魔化した
彼も何かを察したのか、『……わかりました。眠ってしまっても大丈夫ですからね』と言い、一度だけ腰を支えている腕に力をぎゅっと入れ、そのまま会話なく馬を走らせた
ありがとうございました!