<感謝>SP小話:不思議の国のアオイ/side ルーティエ
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新婚なりたてホヤホヤのある日の晩。
私は愛する妻に膝枕をしてもらい、彼女の細い指で髪を梳き撫でてもらっていた。
一日の始まりも終わりも彼女と過ごせる幸せは、結婚前と後では全く違う。まず、結婚の魔法誓約書がを交わしている安心感が大きい。
ただ、魔法誓約書の話をすると彼女はなぜか怖がるので、基本的にはしないが。至って私的には当たり前のことしか記載していないのに謎である。
少し脱線したが、彼女はご存じの通り、私の知らない世界から転生して来た。それ故に、やはり私の知らない物語なども多く知っているわけで。
暇なエルフの特性としては、知識を得る=暇つぶしになるので、何かを学び、得ることが好きな種族である。
そういった事情もあって、今日はアオイの世界の物語をいくつか教えて欲しいとお願いしてみたのだが……どうにも腑に落ちないところが多く、かえって謎が残ってしまった。
どのような物語だったのか、私の解釈も交えて紹介したいと思う。
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「ルティの好きそうな物語……う~ん、あっ!魔獣好きなルティには妖怪なんてどうかな?」
「ヨウカイ……なんです?それ」
まず、初手からよくわからないものを紹介する辺りがアオイですよね。聞けば【ヨウカイ】とは魔獣同様に恐れられている、架空の魔物のようなものらしいです。ふむ、それであれば想像しやすいですね。
ただ、ここでアオイに一つ訂正ですが、私は魔獣好きではないです。
「結構好きだったのは、妖怪のアニメなんだけどね、その主人公の男の子のお父さんは、なんと彼の左目でできてて……」
「は?ちょっとお待ちください。目玉の父上様は、ご子息の目玉ということなのですか?しかし、親というものは子が誕生する前から存在するというのに、なぜご子息の左の目玉が父として存在できるのです?」
これはものすごく興味を惹かれますよね?ねずみ獣人らしい男や猫獣人らしき娘もヨウカイ仲間と言っておりましたが、【目玉の父上】の存在が群を抜いてます。それはもう食い気味にアオイに聞いたのですが……
「ぷぷ。「親父」が「父上」!言い方変わると一気に可愛くなるね!う~ん。なぜ目玉が父上なのか、かぁ……。ごめん、覚えてないや!言われてみたら気になるねぇ」
「まさかの、そこの記憶なし!?」
なんということだ!これでは目玉の父上の謎が謎のままではないですか!どうしてそこを疑問に思わなかったのですかアオイ!!普通気になって夜も眠れなくなりませんか?
「あ、妖怪 枕返しって面白いのもいた気がするなぁ~」
「なんですか?その変なヨウカイは。枕を返して…で、なにをするのです?」
「いや、枕をひっくり返したり、頭と足の向きを変えたり。それだけ」
「は?それは一体何がしたくてヨウカイをやっているのです?攻撃とかそういった類もなく、人が寝ている間にやっているのでは、全く気付かれないではないですか」
「う~ん、それが楽しかったのかね?バレないようにやるスリル感、とか?」
「またもハッキリとした答えがないのですか!?酷過ぎる!!」
答えがわからない。考えてもそれは予想の範囲内でしかない状態で生きて行かねばならない苦しさをアオイはわかっておりませんね。『もう、ヨウカイ話は一生しなくて良いので、物語にして下さい』と話題を変えることに致しました。
「物語、物語……あ、意外にも超有名どころを話していなかったかも!シンデレラにしようか」
「【しんでれら】どんなお話でしょうか?楽しみです」
そうして、灰かぶりのシンデレラが王子のハートを見事に射止め、めでたしめでたし……まで聞きましたが、疑問がやはり浮上しました。
「アオイ、なぜ国中の娘たちにガラスの靴を履かせてみて、サイズが合う者をシンデレラとしたのです?王子は彼女の容姿を見ていたわけですよね?彼の好意は顔も思い出せない程度だったということでしょうか?
それに、ガラスの靴が彼女にしか履けないというのも些か無理があるかと。彼女はどれほど特殊な足の形をしていたのでしょう?常に靴は特注ということですよね。ガラスの靴自体、実用的ではないですけど」
「えぇ!?そこ?そこに着目しちゃったの!?そうか魔法使いのおばあさんには『すごいなぁ』なんて思わないか。魔法使えるんだもんね。いやぁトコロ変われば、視点も違うよね」
「いえいえ、アオイ話を逸らさないで下さい。というよりも、まさか、そこにも疑問を抱かなかったのですか?となると、この疑問もまた解かれないまま……ハァ」
「子供の頃だったから、そういうものなんだって思ってたもので……へへ」
素直なのは彼女の良い所ではあるが、そういった部分くらいもう少し深堀して欲しかった……。落ち込む私をよそに『今度は戦闘ものにしようか!』と言って、【モモタロウ】という物語を話し出しました。
しかし、やはりおかしな点が気になったので、無謀にもまたアオイに質問してみました。
「アオイ、まずモモから人族が誕生するという矛盾点が気になります。
それにおばあさんが赤子とは言え、人族が入ったモモを、流れゆく川から拾えるという身体能力にも驚きですよね。刃物で切る際も、間違いなく力を込めたはずなのに、モモの部分しか割れない不思議さとモモタロウの身体に傷一つつかないのは、彼は結界を張っていたのでしょうか?」
「ああ、確かに。友達も『頭からパッカーンと割れちゃうよね!』とか言ってたかも」
やはり!あちらの世界の人族も私のように気になる者はいるのですよ!
「で、どうだったのです?」
「あ~、先生が『きっと上の部分に切り込み入れた瞬間に割れたのよ』って言ったから『なんだぁ、そうなんだぁ』で終わったけど」
「そんなバカな……」
なぜ誰も異議を唱えないのでしょう……文明が発達すると、思考は退化するのだろうか
「そもそも、サナギから蝶へと変態することと似ておりますが、彼は主成分がモモの状態からどのように人へと変態したというのでしょう。鬼退治はギルドへ依頼して、彼の方は誕生のメカニズムの研究が必要かと思いますね」
「ルティにかかると、空想が科学されてしまうのか……。もうちょっと柔軟にさ、こうふわっとファンタジーなテイストに解釈しようよ」
巻かれることに慣れているアオイは、日々このようにふわっと受け止めているのでしょうか?魔法のない世界から来たのですから、きっと今の私のように謎も多かったはずです。
そう考えると、私の様に理詰めに考えすぎるのも良くないのかもしれませんね。
「わかりました。モモタロウは超人としておきます。しかしですよ、お供の鳥、犬、猿獣人らはモモタロウが所持していたキビダンゴ一つで、鬼と言う悪に命を賭けて戦うのですよね?回復効果があるとしても、初めに与えるのはおかしいですし、これはもしかするとモモタロウ的策略なのではないですか?」
「桃太郎の策略?え、いきなり桃太郎が悪代官みたいな扱いなんだけど。例えば?」
「狂戦士状態になるといった特殊なダンゴ、騎火弾固だったのではないかと……」
「いや、ホントすごいな想像力……いちいち中二っぽいよ。穏やかじゃない物語と化してるし」
私は現実的に鳥、犬、猿獣人と超人モモタロウのみで、魔獣オニらが住み着いているというオニ島の大規模討伐をしなければならないのならと考えてのことなのですが。やはり討伐をしないアオイには難しい話でしたでしょうか。
「じゃあ、次は【不思議の国のアリス】にする?」
「いえ、もう結構です。その不思議の部分はどうせ紐解かれることはないのでしょう?これ以上謎を増やしたくはありませんので」
「そう?残念。じゃあまた今度ね」
「さて、それでは物語も交代しましょうか。今度は私が<エルフ少年の150年漂流記>の続きをお話しましょうね」
「あ、あれ、ですか……」
もうかれこれ三年以上かけて少しずつ読み聞かせておりますが、まだ半分にも到達していないのですよね。早く盛り上がるところを読みたいのですが。
「では、今日は1338Pでしたね……おや、ついにタンザナイトが、親友のサフィに『島へ冒険へ行かないか?』と誘う場面ですよ」
「おお!ついに冒険の大海原へ出る時が来たってこと!?長かったぁ……」
「あぁ、いえ慎重派のサフィは『少し…一年ほど考えさせてくれ』と言って、この話は一旦流れるのですよ」
「また、そのパターンか……前回も他の親友に『まずは鍛えてからだ!』とか言われて断られてたじゃない。もう早く冒険行ってよ、漂流して、助かって、友情深めようよ」
まぁまぁ、と宥めてページをめくり物語を読む。読む度に、子供の頃ドキドキ、わくわくしながらページを捲った記憶が蘇りますね。
「……そして、タンザナイトは親友との約束通り、身体を鍛え待ち……おや、アオイ?全く、、、この本を読むとすぐに寝てしまいますね。私の声が落ち着くからだと言っていましたが……」
アオイから見たらここはファンタジーな異世界とのことですが、私から見ればアオイの世界こそまさに不思議の国だ。魔法はない代わりにカガクというものが進んでいて、ボタン一つでできることも多いという。
「一度、あなたの世界を見てみたいものです。そこであなたはどう生活していたのでしょうか」
ねぇ?不思議の国のアオイ
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