小話:(多分)結婚10周年記念に肖像画を描いて貰おう!
そろそろ晒し続けるのも恥ずかしいので、落書きは削除致しました(6月18日削除)
各々理想の姿を思い描くのが一番ですね(^^)
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結婚して10年くらい経っただろうか?
私達は毎週恒例の買い物の為に、今週はユーロピアの街へ来ていた。
一応「推し事」もついでにってことで、ブクマー店長へ手紙を届けに寄って、プリムローズのクレープ屋さんでクレープをつまみ食いしつつ一週間分の食材の買い込みをしていた。
「それにしても、今日はちょっと人が多いような気がしない?」
「そうですね、先ほど街中のポスターに『人気絵師の祭典』という案内が書いてありましたよ。方々から招待された絵師が集まっているようですね」
「え!?ホントに?わぁ、それ見てみたいなぁ~せっかくだしルティ描いてもらおうよ」
「嫌です。描くのならアオイも一緒でなければ」
ダメな時の却下の早さは相変わらずだけど、一緒なら描いても良いと言われたし、まぁいいか。考えてみたらツーショットの絵なんて文化祭の時と結婚式のものくらいしかないしね。
「わかった。じゃあ一緒に描いてもらおうよ!ちょうど結婚10周年……くらい?の記念にもなるし!でも誰がいいかなぁ?人気っぽい人はもう整理券すら残ってないみたいだしね。比較的空いていそうなところか、ある程度見本の人物画を見て選ぶ?」
「私的には女性画を描くのが得意な方がいいですね。私の顔はなんでもいいので」
「でも、それって男の人が『これ誰?』みたいな出来だと、私と知らない男性の絵みたいにならない?」
「確かに!?それは浮気の領域に入ってしまいますよね。即焼き捨ててしまうかもしれません」
ほら、やっぱりね。それで私の顔も『これ誰?』みたいな出来だと『自分が浮気しているようで我慢できません!』とか言って消し炭にするんだよきっと。描いてもらった意味がなくなるよね。
さすがに結婚して(多分)10年も経てば、このわけのわからない理論も少しは読めるようになってきた。
というわけで、一応まだ受付可能な絵師さんを見て回り、お互いに『ここならそこまでおかしなことにならないだろう』という絵師さんの列に並び、描いてもらうことになった。
「やっぱり並んでる人数が少なくても、絵だから時間かかったね」
「そうですね。ですが、並んでいる間アオイが『少し寒い』と言って、ピッタリくっついてくれたので全く退屈しませんでしたよ」
一応、初夏を迎えていて日の当たるところは暖かいのだけど、並んでいた場所が日陰だったせいもあり、ただ立っているだけだと半袖の私には肌寒く感じたのだ。ルティも半袖だけど、通常は防具の下に着ている冒険者用のウエアは、首元は少しハイネックになったタイプなので寒くないとか。
ギルドに寄る時は冒険者用の服装にする辺り、サラリーマンのスーツのようなものなのかもしれない。
「お次の方、大変お待たせいたしましたどうぞ~」
受付の方に呼ばれたので、早速ポーズを決めて下書きを、となったのだけど……
「ルティ、なんでこのポーズなの?」
「え?なにかおかしいところでもありますか?髪型は崩れておりませんが」
違う!どうしてバックハグされてんのかって話でしょ!!絵師さんに何を見せつけてんのよ!!
「ハハハ、お二人はまだ新婚さんですか?奥様、大丈夫ですよ。以前、口付けしている絵が欲しいと言われて描いたこともありますし、お姫様抱っこや情熱的に抱き合う二人のポーズなんかも……」
「なんと!アオイ、私達も口付けの…」
「ルティ!バックハグの絵にしよう!!後ろにルティの鼓動を感じながらっていうのも中々オツなものだよね、いやぁ素晴らしいわ!」
大抵はこれで引き下がるのに、他所の人が「口付けの絵を描いてもらった」ということが心底羨ましいらしいルティはちょっとまだ納得していない顔だ。
仕方がない、背に腹は代えられないのだ。役者になろう
「ルティ、私はルティに「口付けしている絵」なんて見ないで、ちゃんと私を見て欲しい」
「アオイ……!?すみません、私が浅はかでした。絵なんて所詮は絵でしかないと言うのに……本物に勝るものなどないですね。それよりアオイに嫉妬させてしまいました……帰ったらお詫びにたくさん口付けしましょうね」
『所詮、絵でしかない』とか絵師さんの前で言わないでよ……そして「嫉妬」って?私が、かな?まだ描いてもらってもいない「口付けの絵」にってこと?いや、してないから問題ないよ。お詫びも別にいいかな!「たくさん」って限度を知らない男だからねルティは。
フォローを入れてくれたはずの絵師さんは、若干悲しそうな顔をしつつも仕事は仕事としてしっかりと描いてくれた。
しかし、「絵を描く」のだから見るのは当たり前なのに、『妻を凝視し過ぎです』とか『三回も見ればあとは記憶でどうにかなるでしょう?』とか、絵師さんが男性だったこともあり、中々の嫌な客だった。もう二度とこの絵師さんに描いてもらうことはないだろう……ごめんなさい、あとで叱っておきますので…
『ありがとうございました~』に対して『申し訳ございませんでした!』と返して立ち去る私。それでも出来上がった絵を、通りの隅っこの方で見てみる。
私はあのやり取りに、げんなり引き攣り気味だったのに、最強クレーマーと化しそうなルティのことを思ってなのか、絵の中の私は素晴らしく笑っていた……本当にありがとうございます。
ただ、絵師さんも人間だ。思うところはあるのだろう……ルティ側は笑ってないままだった。ですよね。
「あー…うん、これはこれでいいか。笑ってないルティの絵っていうのも貴重と言えば貴重?」
「私の笑顔はアオイに直接見せるのでいいのですよ。さ、アオイに早くお詫びをしたいので、そろそろ帰りましょう」
まだ諦めてなかったのか!!
だから、お詫びはいりません!!