IF未来編:宝石よりも輝く宝物 ☆
<注意>
IF話は、こんな未来があるかもしれないし、ないのかもしれない、おまけの物語なので、「この組み合わせはなしだな」と思う方はあくまで「IFの話ね、ふぅん」程度に思って頂ければ。
アリだと思う方は、このIF話のまま「ほぅ、こうなったか」と受け止めて頂ければ宜しいかなと思います。
前半はラトナラジュ視点、◇◇◇◇以降はゴーシェ視点です
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「んん~~……」
ああ、この朝目覚め立てのちょっとぼんやりした時間が俺は結構好きだ。ただ、その時間を一緒に分かち合う嫁が今日は隣にいないので寂しいが
『自分たちはまだ全然元気だから』とか言って、俺に嫁探しをして来いといっていた割に、なんやかんや周りのお節介もあって可愛い嫁を迎えてからは、ちょこちょこと族長代理としてまとまった日数仕事を押し付けられる日が増えてきたように思う。おかしい、俺の方が新婚ではないのか?
まぁ、父上は何百年と里からほぼ出てなかったからなぁ……
可愛い弟夫婦が、リイルーンに正式に腰を据えることになったけど、しょっちゅう『買い物に行ってきます』とか言ってデートに出ている姿を、母上が羨ましがっていることに気付いて、悩みに悩んだ挙句、ようやく行動に出たんだろうな。
表面上はスンとしているのに、父上の愛情の重さも結構なものだし……うん。弟は父上に似たんだな
自分の親のイチャコラなんて目の前で見たいものじゃないし。そういうのは他所でやってくれる方が助かるわな。とは言え、帰宅後の父上の隠しきれないデレた雰囲気はかなり気持ちが悪い
今日は夕方まで引き籠ると決めているから、もう少しベッドで本でも読みながらゴロゴロしようかなと思ったところで…あ、予定変更。俺の優雅な朝はなくなったな……。
俺の家だろうと遠慮の欠片もないドタドタと大きな足音を立てて近づいてきた。
「ラァ~トォ~!お~きてっ!」
「ぐえぇぇ!!こら、アーチ!毎回人の腹の上にダイブしてくるのはやめなさい!!」
ドアを開けるなり、必ずと言っていいほど俺の上にドスンっとダイブしてくる13歳の姪っ子アーチこと【アーチライト】。ルーティエが目に娘の手が入っても全く動じないくらい溺愛している、一人娘だ。
アオイちゃんはイマイチわかっていないようだったけど、結婚して約50年で子供を授かるってエルフ族からしたらもの凄く早い。ルーティエの執念すら感じるな
まぁ、弟が溺愛するのもわからなくはない。美しい造形が多いエルフ族ではあるけれど、アーチは【可愛い造形】だからな。髪こそルーティエ譲りの美しい銀髪だけど、瞳はアオイちゃん似の黒で、顔の造形もアオイちゃんの【あーちゃ時代】にそっくりだった。
更に加えて愛想が非常に良いので、里内でもの凄く可愛がられている。ただし、父親が父親だからな、少しでも近しい年の男の子と関わらせようものなら目くじら立てて怒るってわけで、アーチに男の子の友達はできていない。
と、いうわけで俺と、あとはたまに遊びに来るゴーシェが身近な男の子のお友達ってわけだね。
「なぁ、アーチ。いい加減、俺を呼び捨てで呼ぶのはどうかなって思うぞ?もっとこうさ、あるだろ?」
「え~ラトを?ん~……あ、ラトおじさんだったね!!ママがそういえば、呼び捨てしないで「おじさん」をつけなさいって言ってたの忘れてた、えへ」
「……ごめん、やっぱりラトのままでいいや「おじさん」はヤダ。せめて俺に子供ができるまではおじさん呼びはしないで!」
「ラトってワガママ~!そうやって子供っぽいから、お嫁さんに家出されちゃうんだよ」
「え!?なんで嫁の家出騒動をアーチが……くっ、ルーティエのやつ!」
「ううん。アイちゃんが教えてくれたの。子供っぽい男は選んじゃダメよって」
母上、孫に一体何を吹き込んでくれてるんだよ……伯父の立場も考えてくれないかな。それに今回は俺が我が儘を言ったからじゃないぞ!ちょっと夜勤明けで眠くて、仮眠をとったつもりが起きたら夕方で。。。出掛ける約束をすっぽかしてしまっただけだ!はい、ごめんなさいっ!!
「ま、まぁ、アーチにはまだまだ早い話だよ。大人には色んな事情があるんだ。うん」
「そうやって何でもはぐらかす男は碌なもんじゃないからダメだよって、シルちゃんも言ってた。ブクマーさんは隠し事もしない良い男なんだって」
なんでやたらと結論が俺に直結しているようなアドバイスばかりみんなするわけ?なにか恨みでもあんの?ねぇ。
「ふ~ん、アーチも言うようになったね。はぁ、こうやっていつかは恋を覚えちゃったりするのかねぇ~女の子はマセてるからなぁ」
「えへへ……うん。私ね、実はずっと好きな人がいるの」
「おお~そっかそっかぁ、好きな人ね…好きな……はぁあ!?え、え?いるの!?好きな人!」
「パパには絶対言っちゃダメだよ?……あのね、ゴーちゃんなんだけど」
ガハッ!!ゴーシェ?ゴーシェだと!?いや、まぁ確かにあいつが一番アーチに近しい男ではあるちゃあるか……約70歳差くらいだったか?うわっ、めちゃくちゃ年近いな。
いとこ姪だもんなぁ……問題もねーのか。こんなトップシークレットを抱えて、俺は今後弟とどう接したらいいのか……うっ、胃が痛い。
「へ、へぇ~でも、どうしてゴーシェ?単に他の男の子と関りがないから、勘違いしているだけじゃないの?」
「ううん。これもパパには内緒だけど、他の男の子とも多くはないけどこっそり関わっていたよ。でも、ドキドキするのはゴーちゃんにだけだったもん。ラトにも一度もドキドキしたことないし」
うん?なんだろう。別に俺に惚れて欲しいとかは全くないけど、この敗北感。『実は私の初恋はラトだったんだよ』とか姪っ子の結婚式にちょっと言われてみたいな程度は期待してたって言うのか?うん、してたな。
でもそう思うだろ?一番多く関わって来た身近な男性が父親と祖父と俺なんだし。父親を除けば俺しかいないじゃん?それがまさかの、たまに行き来しているゴーシェに初恋の座を奪われるとは!正直言って悔しい!!
っていうか他の男子と交流があった秘密まで暴露しないで欲しかった。隠し事が増えるのって、精神的に良くないと思うな、うん。胃に穴あいちゃうぞ!
「ゴーちゃんはアーチにもすっごく優しいし、知的だし、カッコいいし。それに先生をしている時のメガネ姿とかも最高なの。あとは3年後に魔国学園の高等部へ入学できるようにパパを説得しなきゃいけないんだけど」
「思ってた以上に計画を立てていたんだね……う~ん、まぁまだ二人がどうこうってわけじゃないなら、なんとかなるか…?いや、一家でゴーシェの屋敷へ引っ越すとか言い出しそうだよなぁ」
「そうなの。パパのことはもちろん大好きだし尊敬もしているけど、私はエルフと人族のハーフでも、魔力はパパに似て多いし、魔法の訓練も、護身術もしっかり習ってきたんだよ?7歳くらいで、すでにママを守れるくらいだったけど、今だって自主鍛錬とパパの指導は受けてるんだから」
「でもなぁ、そうは言っても、子供はいつまで経っても子供なんだって言うぞ?それにアーチは一人っ子だからな。心配する気持ちもわかる、俺だって心配だ」
どんなにお転婆だ、口が達者だと言っても、可愛い姪っ子に変わりはないわけで。ずっと小さい頃から見守ってきたアーチが魔国へ行ってしまうとなると、伯父としてもかなり寂しいものがある。
「それでね、ママには悪いなって思ったんだけど、パパに『弟か妹が欲しい』って言ってあるの。もちろんそれは嘘じゃないよ?私がお嫁に行っても、できればパパに似た強い弟がママのそばにいてくれたら安心なんだけどなって思ってたから」
「あー……あはは、なるほど。それでここ最近は買い物にも一緒に行かなくなったし、こっちに遊びに来たり、母上のところに泊まったりしてたんだな?」
うん、アオイちゃんは人身御供にされたんだな。まぁ、とはいえ仲が良い夫婦だから大丈夫だろう。アーチはアオイちゃん似の性格かと思っていたけど、案外ルーティエのように策士的なところがあるんだな
「で?今日はどう見てもいつもの格好とは違うみたいだけど?」
「えへへ。やっぱりわかる?今日はゴーちゃんと一緒にお出掛けするんだ。ママ達はワノ国に食材を買いに行くんだって、だから私はゴーちゃんとユーロピアでデートするの!」
「やぁ~、デートだなんてラトさんビックリ!!おませだなぁアーチ」
「一応、名目上はブクマーさんへママの手紙を届けるのを付き添ってもらうのと、ゴーちゃんもお店で本を購入する目的があるんだけどね。その後は二人で街を歩くんだ~んふふ」
なるほどなぁ~。これはゴーシェも逃げられないんじゃないか?大体、アイツ自身も焦って嫁探ししていることもないっていうし、ようするに今はフリーなわけだ。
それに、ゴーシェが自然体で関われる女性って、母親のモルガさん、アオイちゃんとアーチくらいか。
母上とシルバーさんも、まぁまぁかな。既婚者以外でってなるとアーチくらいしかいないわけで……あれ?もしかすると案外、脈あるかもしれないな
そんな思考に耽っていると、玄関の方からゴーシェの声が聞こえて来た
「ラトナラジュ兄さーん、アーチはこちらに来ていませんか?家の方にはいなくて…」
「おっと、王子様が迎えに来たぞ?くくっ、楽しんで来いよ。俺は可愛いお嫁ちゃんのご機嫌取りと謝罪に行く準備をするからさ」
「ふふ。もし、うまくいかなかったらアーチが取り持ってあげるよ!じゃあね」
「おう、気を付けてな」
今度は少しだけおしとやかに階段を下りて行くアーチ
「ゴーちゃん、お待たせ~」
うんうん、声が確かに恋する女の子そのものだねぇ~。甘酸っぱいってやつだな。よし、俺もさっさと謝りに行って、お嫁ちゃんには帰って来てもらおう!
◇◇◇◇
「やあ、アーチ。そのワンピース、この間買ったやつだよね?よく似合ってる。こんなに可愛いアーチと一緒に出掛けられるなんて光栄だな」
僕の可愛い姪っ子、アーチのお遣いに付き合って欲しいと義妹のアオちゃんにお願いされて以来、何だかんだで最近は最低でも月一回は一緒に出掛けている。
アーチが小さい頃は、かつて見た『あーちゃ』にそっくりだったけど、10歳を超えてからは顔つきも変わり、より女の子らしくなったように思える。
「え、本当?ゴーちゃん、私って可愛いの?それって、お嫁さんにしたいくらい?」
「ふふ、そうだね。アーチの花嫁姿はきっと世界一可愛いだろうねぇ」
「もう!ゴーちゃんのお嫁さんって意味ってわかってるでしょ!本気の本気なのに…ヒドイ!」
一緒に出掛けるようになってから、やたらと結婚はどうとか、花嫁さんはどうとか、どういう女の子が好みだとか聞かれるようになった。
そういう事に憧れる時期なんだなと思って、いつものように受け流してしまい傷つけたようだ。難しいお年頃になったのかな?
「あぁ、えっと、ア、アーチ、ごめんね!そっか、私のお嫁さんってことだったんだね。でも、アーチには私よりもっと良い人が見つかると思うから、今から焦る必要なんてないんだよ?それにアーチのパパも寂しがるよ」
「私の結婚にパパは関係ないもん……」
「えぇ……それはパパには言わないであげてね。泣いちゃうだろうから……」
「じゃあ、もし、もしもさ、私が20歳になった時もゴーちゃんを好きだったら結婚してくれるって話はまだ有効?」
「え!?あ、あー…10歳の時に約束したやつかな?うう~ん…まぁ、その頃なら多分アーチも色々とわかるだろうしね。いいけど、でもすぐに結婚じゃなくて、お互いを知るところからスタートかな」
「すぐに結婚は無理かぁ……」
「え、なに?」
「ううん、何も。ゴーちゃん、それでも『いいよ』って言ったよね?それって、少なくとも私を女性として意識したお付き合いはスタートしてくれるってことよね?」
「う、、、うん?そうなるの、かな…?」
あれ?なんか自分で打開策を提案したものの、墓穴掘った感じかな?いや、でもさすがにこれから7年後……10歳からだと10年間も想い続けるなんてことないと思うんだけどなぁ。
でも、ルーティエ兄さんの子でもあるわけだから……案外ありえるのだろうか?いや、さすがに……
「ラァ~トォ~!」
「アーチ!?」
突然、アーチがラトナラジュ兄さんの名前を大声で呼んだのでびっくりした。どうしてこのタイミングで呼ぶんだろう??兄さんもびっくりして、部屋の小窓から顔を覗かせていた。
「お、おう!どうした、どうした?まだそこにいたのか?」
「ねぇ、話聞いたよね?ちゃっかり聞いてたでしょ?」
「あ、はい。聞こえちゃいましたね」
そうだった!ここはまだラトナラジュ兄さんの家の前なんだから丸聞こえだよね。こんなやりとりを聞かれるなんて恥ずかしいな。さすがアオちゃんの娘、ペースを乱されちゃうなぁ
「それならラトが証人になれるよね?証人になりますってこの魔法誓約書に書いて!」
「ええ!?どっからそんなものを!ちょっと落ち着けって!ちゃんと再度確認をしてからだ、な?」
「ええ~何事も先手必勝だってパパが言ってたのに……」
「先手って…あー…ゴホン、ゴーシェはもしこのままアーチの気持ちが続いたとして、その場合はきちんと責任取れる覚悟で言ったのか?」
「……いえ正直、「覚悟があるのか」と現状聞かれましても、アーチを今そういった対象で見ているわけではないので、必ず結婚するなんてことは軽々しく言いたくありません」
「どうしてもダメなの……?」
「でも未来は誰にもわかりませんし、そんな日が本当に来ることがあれば、そこで初めて一人の女性として彼女を見る努力はします。それでうまくいくか、いかないのかはお互い次第なところもありますけど」
「真面目!非常に真面目!!」
「ゴーちゃん…やっぱり好き♡ママがよく言っている「誠実が一番」ってやつだよね!じゃあ、とりあえず二人共今の気持ちを忘れない為にも、この魔法誓約書に一筆書いて!」
「アーチのそういう所はパパそっくりだな!」
「ハハ……アオちゃんが逃げ回っていたのも、ちょっと理解できるかなぁ」
***
あれから更に12年の月日が経った。
最低でも5年間は恋人期間とするように言われたので、5年の交際期間を経て私とアーチは結婚することとなった。
アーチは予定通り16歳から魔国学園へ入学してきて、アオちゃんと同じように実家の屋敷から通学することになった。両親は当然アーチのことは大好きだったから、アーチが私に好意を寄せていると知られてからは、両親をも味方につけていた。
さらにはカーモスまで面白がって協力していたものだから、もう意識をしない方が無理な状態にまで外堀が埋められていた。気付けばみんなアーチの味方になっていたし。
実際20歳を過ぎて、再度告白された頃にはすっかりアーチは女性らしくなっていた。学園でも中々のモテっぷりだったのに、全てを秒で断っていたとか。
ここまでずっと一人の人に想われ続けもらえるなんて、とても光栄なことだと思う。
私とアオちゃんは義理の兄妹だというのに、相手から押しに押されて絆されて、好きになって、愛しちゃって……本当、似た者兄妹だよね。
まぁ、お嫁さんのお母さんがアオちゃんって思うと、ちょっと複雑だけど。アオちゃんはアオちゃん、アーチはアーチだしね。二人が私の大切な人である事に、これからも変わりはない
そうそう、ルーティエ兄さんは当然、ゴネにゴネた。そして愛娘アーチに無視をされ、愛妻に『アーチ達はきちんと約束を守ったのに、ルティが守らないなんて最低!』と怒られ、文字通り泣く泣く承諾してくれました。
こちらとしては色々対策を考えてはいたのだけど、アーチとアオちゃんの援護射撃が凄すぎたので、多く語ることはしなかった。だって、愛する二人に責められている兄さんがあまりに可哀想で……
ただ、反対理由の歳の差も、私とアーチは約70歳だけど、兄さんとアオちゃんは350歳、交際期間も私達5年、兄さんたちは3年半くらい、仕事もちゃんとしているし、お金の面も心配はない。
嫁姑問題は起きる気配すらないし、せいぜい最後に言った『魔国に行ってしまうのは寂しいから嫌です』に対してだけかな。
だからそれが解決すればあとは良いと言うのであれば、私とアーチもリイルーンに居を構えて、週の半分は転移で職場へ行くから構わないと言って終了した。
ちなみに、初めてルーティエ兄さんに勝てたのかもしれないと思ったのは内緒だ
でも、人を愛するってなんて素晴らしいことなんだろう。押しに押されていた私だけど、今ではこちらも全く負けてはいない。アーチが可愛くて、愛しくて……この感情を知らずに今までどうやって生きてきたのだろうかと思うくらい、どっぷりと彼女に溺れている毎日だ。
長年教師をやってきたけれど、「愛」はアーチから教えてもらった
一日の始まりも、そして終わりも、瞳に映すのは君が良い
「アーチ、愛してるよ」
「ふふ、私はもっと愛してる!」
君は世界中のどの宝石よりも輝いている、僕の宝物