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新婚番外編:ツガイ専用BAR<GO TO GUY>~新婚旅行編⑤~ ☆

「GO TO GUY」は「頼りになる人」ってスラング英語……らしいです。



******



「いらっしゃいませ」



 黒を基調としたシックなドアを開ければ、スッキリとした耳がピンと立ち、無駄のない優雅な所作でドーベルマンの支配人の方が出迎えてくれた。

 なぜわかるのか?ふふふ、名札に【犬族:ドーベルマン種】と書いてあるのだ!!ありがたい。



 夜の帳も降りた頃、私はルティに連れられてシュナウザではメジャーだという、(つがい)専用のBAR「GO TO GUY」に来ていた。ゴーツガイ?翻訳機能でロゴが英語に見える……


 店内にはジャズのような生演奏が流れ、魔国の若者向けBARのウェイウェイした感じとは真逆をいっていているが、正直こちらの方が好みだ。

 ルティが言うには『彼らは耳がいいので、室内ではあまり大きな音楽は聴かないのですよ』と教えてくれた。へぇ納得。逆に屋外では多少大きくても距離を空けられるからいいのか。



 カウンターでは、しなやかな動きでシェイカーを振る、黒ウサギ獣人さんは同じ黒髪で親近感。その隣で氷を器用に丸く削っているのは、初めて見た茶毛の狼獣人さん。まさに一匹狼といった雰囲気を醸している。


 ホールにも見えるだけで犬、猫、虎獣人の方がいて、皆きちんとお相手()持ちだそう。このお店では他の番にちょっかい出すなんてことにはならないようにスタッフ採用時もそういった面が重視されているそうだ。確かに、ただのケンカでは済まないもんね。

 

 緊急時と女性の方がなんらかで声を掛けない限り、基本的には男性従業員は男性客のみに、女性はその逆と、獣人族以外には馴染みがないマナーは歩きながら支配人さんが丁寧に教えてくれた。かなりの徹底振りのようだ。

 

 それにしても、皆さんそれぞれに特徴は違うけど、カッコいい。制服?やっぱり働く男性の制服っていいよね。ダウンライトがまた物憂げ感を演出していると言いますか。

 それに男の人の頭に黒いウサ耳って、ギャップもあって非常に良い……


 ハッ!!一般論!いいいい一般論ですからね?


 恐る恐る隣のルティを見上げてみる……。ま、まずい、何かを察知しているのか、少し不機嫌なオーラがゆらりと出始めてるーー!!!!



 うん、このままでは更にやらかしそうな予感しかしない。ここは一つ『全てはお相手の方にお任せしておりますので』スタンスで行こう。つまり、ルティに投げておこう。



「ルティ、私ここではルティにお任せしてもいい?」

「ええ、アオイは安心して私に身も心も委ね、甘えていると良いですよ」



『ん?それってどゆこと?』と尋ねる前に、頼んでもいないのにお姫様抱っこをされ、キョトンな私に微笑みながらスタスタ案内に従い進んでいく。

 

 私達は【愛し合っている夫婦】の()()()()()と思う。なのになぜ今私は冷汗を掻いているのか……


 夫は笑っている。笑っているが、、、笑っていないやつだ……『よそ見は許しませんと言いましたよね?』ってやつ!!

 念話ができないはずの私も、このブリザードモードの時だけは読めちゃうって言うね!むしろわからないままでいたかった能力だ。


 でも、普段はこんなに他のお客さんがいる中で、こういった行為は殆どしない(ゼロでもないが)でも多分店内の甘い雰囲気のせいでもあると思うのよ。

 

 だって番同士しかいないわけでしょ?そうなると、カウンター、テーブル席、個室と、通り過ぎる時にあっちでは猫獣人さんがお互いの尻尾を絡め合っていたり、こっちでは珍しく夜に鳥獣人さんと思いきや、夜行性のフクロウさんが給餌をしていたり。とにかく皆さんお熱い!


 それに鳥獣人さんは器用にも口付けの(していると思う)タイミングで半獣化させて、羽で隠すという手法までこなしていた。

 着物の袖で隠してるみたいでちょっとカッコいいし、あの羽毛に埋もれ……たいなんてこれっっっぽっちも思ってもいませんよ!!



 奥にいる犬獣人さんは……声を落としているのかな?エルヴ〇ス=プレスリーのような低音セクシーボイスで彼女の為だけの歌をアカペラで捧げていた。


 歌う犬獣人と言ったらポチさんだったなぁ、なんて思いながら更に奥にあるという夜景の見える個室へと向かうが、少し気になり、横切る際に興味本位でチラッと美声の持ち主はどんな方なのだろうかと見てみた。



(へぇ、真っ白い髪に、半折れの耳かぁ。ポチさんと犬種が一緒なのかな?)


「いや、ポチさん!?」

「は?」



 私が少し大きい声を出したことで、耳の良い他のお客さんが一斉にこちらを見る。これは間違いなくやらかしてしまったらしい。

 当然ポチさん本人も、番の方とのランデヴーに水を差され不快な表情を浮かべ、こちらの方を見た。


 どうしよう……どうやって邪魔する気はないですよアピールをしたらいいのか……完全に動揺しまくりの私をよそに、ルティとポチさんが話し出した。



「……おや?やぁ!誰かと思えばルーティエさんと……」

「お久しぶりですね。ええ、最近ようやく結婚しまして、()()()



 えっと……これはきっとルティの指示があるまでは話掛けちゃいけないんだよね?ポチさんもわかっていそうなのに私の名前を呼ばなかったもんね。そしてルティも紹介を「妻」としか言わなかったし。


 ポチさんの隣に座る番さんは袖をクイっと引っ張り、どういう関係なのかを気にしている様子を見せていた。ポチさんは番さんの腰に手をまわしたまま更に引き寄せ、頭にチュッとキスを落として目線を合わせた。


(あ、あああ、あまーーーーい!!以前のポチさんと全然違う!!)



「ごめん、びっくりさせたね。このお二人は以前魔国の文化祭でオレの野外ライブの時に前座を受けて下さった方とその番の方なんだよ」

「まぁ、そうだったのね!エルフ族の方が前座を務めるだなんて、獣人国でも話題になったのよね」


「ポチ殿のお陰で中々貴重な経験ができましたし、妻も喜んでくれた良い思い出です。ね?」

「はい、ありがとうございました」


「それは良かった。オレにとっても良い経験、思い出ですよ。それに、元を辿ればあれがきっかけとなって私も番の彼女と出会えたので、ね?」

「ええ、そうね」



 その「きっかけ」とやらが一番知りたいところなんだけど、言わない辺り二人だけの思い出なのか、これ以上話を長引かせないようにとの配慮なのか……。とにかく私は『ね?』と促されない限り、ルティに抱っこされたまま貝のようにひたすら口を閉じていた。


 ルティは一応外面良く体面は整えているものの、さっさと個室に入りたいと思っているし、ポチさんも隣のモデルの様に手足の長い番さんを気にしているので、その後当たり障りなく二、三言葉を交わし別れた。



「ハァ、アオイ。あれほど注意しましたのに」

「返す言葉もございません。それからフォローありがとう」



 当然のことながら、『あなたにお任せしたい』と言った口が、大声で『ポチさん』と叫んだわけですもんね。怒るのもごもっともです。

 それに、私がポチさんに助けてもらった話をしなかったのは番さんに配慮してのことだったようだ。お礼を言わなくて良かった……。



「もういいですよ。愛し合う夫婦の新婚旅行でこれ以上は野暮です。ほら、個室に着きましたよ。アオイ、座って乾杯しましょう?」

「うう……ルティ好きぃ」



 キン!とグラスを合わせ飲んだカクテルは、ジュースのように甘かった。甘いからって飲み過ぎると危険なのがカクテルなんだよね。気を付けないと!



「このカクテル、ジュースみたいで飲みやすいね。美味しい!」

「そうですね、アオイのものはまさにジュースですから」



「みたい」ではなくて本当にジュースだったとは……脳内含めて恥ずかしいったらない。味もわからないバカみたいじゃない!!



「ジュースか……お酒はルティが一緒の時はOKって言ってなかった?」

「ええ。ですが、ここには他にもお客がおりますし、アオイが何をしでかすのか読むことができない以上は許可できませんね」


「そんな人を危険人物みたいに……せっかくのBARが勿体ないなぁ」

「ここから見える景色も中々綺麗ですよ?一番人気の個室だそうです」



 確かにこの個室は通称【星見の部屋】と呼ばれているそうで、海側に面していて街灯もほとんどなく、景色を遮るような高い建物もない。


 目の前の大きな窓からは天の川のように広がる星空が広がっていた。魔国とは違いカラッとした風土と、ここが山手側にある珍しいBARのせいか、普段よりも鮮明に見える。



「す、ごい……。これは圧巻だね」

「私とアオイはこうして色んなところで夜空を眺めてきましたね」



 私は元々夜空を見るのは好きだったけれど、今ほど日課のように見ていたわけじゃない。ただ、なんとなく似ている夜空を見ていたら、「別の世界でも宇宙では繋がっているのかな?」と望郷の念に駆られて見上げるようになってから、いつしか趣味・習慣のようになっていった。



「うん、確かに。ルティはずっとそれに付き合ってくれているね」

「星も見ておりますが、一番見ているのは眺めているあなたの横顔ですよ。……もう、今は寂しくはないのですか?」


「………気付いて、いたの?」

「はい、ずっと見ておりましたから。学園に通い出してからでしょうか?表情が変わっていきましたよね」



 そうなの!?私もいつ頃だったのかなんて明確にはわからないというのに……ほんとルティには敵わない。正直、私よりも私を知っているんじゃないかなと思う時がある。

 

 うまく隠していたつもりだったのに、バレていたという恥ずかしさもあるけど、気付きながらも見守っていてくれたという心配りが何よりも嬉しかった。

 

 ちょっと泣きそうで、隣に座るルティの肩におでこを押し付けたけど、彼は無理矢理覗き込んでくるようなこともせず、そっと抱き締め頭に口付けをひとつ落とし、撫でてくれている。



「ルティ……好き」

「ふふ。私はもっと好きですよ」


「じゃあ、大好き」

「私の方がもっと大好きです」



 どうしてここで対抗してくるのだろうか?負けず嫌いのルティは、誰であろうとも負けず嫌いなようである。彼がこう主張する以上は言い続けても無駄なのは目に見えている。



「……勝てる気がしない」

「負ける気もしませんからね」



 せっかく自分的には良い雰囲気だったと思ったのだけど、個室とはいえここはお店で、いつ店員さんが来るともわからないスリリングをあえて味わいたくはないので良しとする。

 

 もう一度仕切り直しの乾杯をしようとグラスをあげた。何に乾杯しようかな……



「ルティの愛の深さに!」

「愛し合う夫婦の新婚旅行、最後の夜に」



 キン!とグラスを合わせ、ノンアルコールカクテルと言う名のオレンジジュースを飲む。果汁100%かなこれ。


 ルティはご機嫌に目を細めて『私の愛の深さ・重さはこんなものではないで、これからの長い人生で少しずつ知っていって下さいね』と、多分キュンとくるセリフを言ったのだと思う。

 でも、なぜか『知っていって下さいね』が『思い知らせてあげますね』と言われたように感じるのはアルコール……は飲んでいないので、ビタミンCのせいということにしておこう。




 なにはともあれ、色々やらかしてしまったけれど楽しかった新婚旅行に、乾杯!!





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