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新婚番外編:獣人の国でお仕事観光!~新婚旅行編④~

◇◇◇◇からパンチ・サトの長男アレックス視点



******



 初日の【公開浮気と夫ほったらかし事件】以降は特に問題を起こすこともなく、平和に、実に新婚らしくイチャラブしながら観光を楽しんでいた。

 

 それこそ、私がうっかりどこぞの種族の縄張りにでも迷い込んでは困るので、ルティにしっかりくっついていたとも言える。私は安心、ルティ喜ぶ、一石二鳥ですね


 楽しかった獣人の国シュナウザ観光も今日まで。明日は時間は特に決まってないけれど所用もあるとかで、久しぶりにダーン国へと行く予定にしている。ダーツさん、リンさんにも会えるかな?短い期間ではあったけれど、ほぼあのお二人が私の中では第一村人みたいなものなので、印象深く覚えている。



「アオイ、少し宜しいですか?」

「うん?いいけど、どうしたの?」



 私の夫は見るからに眉も耳も駄々下がりの状態で、とても言いにくそうに声を掛けて来た。



「シュナウザ滞在も今日までだと言うのに、実はギルドに顔を出さねばならず」

「ギルドってシュナウザの?別に構わないよ。お仕事なんでしょ?あ……それってもしかして私が原因だったりしない?」


「………うっ、はい」



 しまった!卒業から結婚とその他色々とあり過ぎて、すっかり仕事のことを忘れてた!ついでに自分が冒険しない冒険者だったということにも!!



「やっぱり!今月はなにも店長に情報提供できていないし……ごめんねルティ」

「いえ、そもそも薄々気付いてはいたのですが、あまりにも新婚生活が楽し過ぎて、現実から目を背けていたのは私ですので」



 気付いていたんかーい!!まぁ、それは確かに確信犯ではあるけど、自分のことだからね。ルティだけの責任じゃないよ。



「でも、シュナウザのギルドもどんな感じか見てみたいし、ちょっと面白そうな依頼もあるかもしれないじゃない?」

「そうですね。すぐにできそうな街中の依頼を選んで、余裕があれば観光もしましょう。夜は最後の夜ですのでBARへ行ってみませんか?場所はきちんと押さえてありますので」



 BAR!?それは楽しみ!お仕事も頑張らなくちゃね!



***



 重厚感のある扉を開けると、チリンとシンプルな音のドアベルが鳴る。ここのギルドは獣人族が大多数を占めるので、取っ手の周辺が鉄製でできている。爪が引っかからないようにっていう工夫みたい。確かに、木製のままだと猫獣人とかなら爪立てちゃうかもね


 中の様子はどんなかなぁ~なんて入ってみれば、なぜかギョっとした顔をして……なんなら瞳孔がくりっと丸くなってますけど?なんで!?

 急に壁際に寄った犬獣人、猫獣人さんは尻尾がぶわっ!っとなってるし。がっつり警戒されていませんか?



「ねぇルティ、やっぱり外した方が良かったんじゃない?猫耳つけて浮かれてるイタい観光客に私たち見られているんじゃないかな」


 遊園地から帰ってきたのに、近所の買い物にまで耳つけてる人みたいな……イタすぎる!!


「ああ、違いますよ。これは獣人族があまり好まない香りをアオイと私が纏っているからです」

「え?このレモンとミントのスッキリした感じのって好まれなかったの!?でも、それって臭い人認定されてるってことよね。ちょっと悲しい……」


 ようするにルティ的、虫よけらしい。ルティの番ということは獣人族ならみんなわかるけど、今朝のとんでもハプニング自体をそもそも起こさせない対策のようです。


 触れ合いワンコの後に、服に付着した毛も綺麗にしてもらい清浄(クリーン)を掛けた後、『気持ちが晴れやかになる香りですよ』と言って、プシュッと吹き掛けてくれたやつ。『晴れやか』になるのはルティの心の方だったんだね。私はしょぼーんですけど


 ふぅむ、なるほど……一気に全員が壁際まで行くし、職員さんも窓を開け出したよ?用が終わった人は呼吸を止めながらそそくさと行っちゃうし、いやこれかなり複雑じゃん!!


 これではさすがに話もできないので、結界に切り替えてもらい、早速依頼コーナーへ。



「ふんふん……ドクダミ草の草取り、、、はちょっとねぇ。ドッグランの石拾い、、、もねぇ」

「ふむ、どれも腰が痛くなりそうですね」



 そうだよね。どれも報酬はともかく、地味にキツイ仕事なんだよね。今はFランクから見ていたけど、Eランク側もちょっと見てみようかなぁ……ん?んん!?



「ルティ!これ見て、これ!!このワンコ達のブラッシング30匹ってやつ……」

「ええ、ブラッシングが……何か?とても時間のかかる作業ですよね。うっかり夫の存在なんかも忘れてしまいそうなくらい」



「えっ!?」



 私の夫、目を細めて慈愛の籠もった風に笑ってはおりますよ、ええ。それなのにこの肌寒さは何なんでしょうか?

 

『お前、わかってるだろ?』っていう、圧力的なやつだよね?ヤダヤダ怖い、益々笑みを深めるのマジ怖い!


 私の黒目があっち行ったりこっち行ったり、泳いで跳ねて大変な動きしてますよ。


 おほほ!嫌ですわねぇ~単に『こんな仕事まで依頼あるんだ、へぇ~』って言おうとしていただけですのよ。とりあえず、その冷気しまってくださらない?



「ソ、ソウデスネ。いやぁ、変わった依頼があってオモシローイ。あ、これでいいじゃん!街のゴミ拾いだって!!今日は小さなお祭りがあるみたいだよ。ちょうどいいからお祭りに参加しつつ、ゴミ拾いすれば一石二鳥じゃない?」


「ふむ。これなら特に制限されるものもないようですし、良いかもしれませんね」


 ふぅ。今度の笑顔はご納得いただけた時の笑顔ですね。笑顔のバリエーションってスゴいなぁ。


『すみません、これ受けます』と可愛い受付令嬢ならぬ、受付ニャン嬢へ依頼書を渡す。『えっ?』と、きょとんとした猫目の上目遣いは可愛すぎて直視し難い。


 意外なように驚かれたのは、すでに祭当日であることや、結構ゴミ拾いは臭いの関係で受けてくれる獣人冒険者は少ないとのことらしく、大変喜ばれた。鼻が良すぎるのも大変なんだね。



***



 ゴミ拾いは昼~夕方の部、夕方~夜の部と分かれていて、夜に予定がある私達は昼の部の依頼を受けていた。少ないというだけで、他にもゴミ拾いを受けた冒険者がいるとのことで、一度合流し、どこのエリアを受け持つか決めるそうだ。


 祭は昼過ぎからの開催だったので、とりあえず合流場所へ向かいつつ目ぼしい出店の場所、ゴミ捨て場の位置、飲食ブースなんかのチェックをしておく。まだ開場前に見ておく方が確認もしやすいよね。


 明るい内からスタートするのは、鳥獣人が夜は一部を除いて鳥目になるものが多いからという理由らしい。みんなが楽しめるのがお祭りだもんね!



「そういえば、他には何人くらい受けた人いるの?」

「そうですね、私達の他に三人依頼を受けたとか…あ、あの噴水前が合流場所ですよ」



 お祭りはこの中央の噴水広場に全て繋がる、十文字のような作りの通り沿いに開かれる。全部で五人ではあるけど、ルティは私と離れるわけがないので実質4人。で、あれば、二人組である私達が一番距離がある南門からこの中央噴水広場へと続く通りを受け持った方がきっといいよね。



「あ、あそこに立っている三人が……んん!?どこかで見たようなパンチパーマ……」

「ハァ、また彼らですか。つくづく望んでもいないのに、ご縁があるようですね」



『こんにちは~』と声を掛けると、振り向いた顔を見てやっぱり以前、文化祭で会ったパンチ・サトさん達とわかった。

 

 それにしても『あ!どうも、こんに……ち、は』と振り向いた瞬間にフリーズし出したパンチさん達。視線はルティに釘付けだったけど、あれかね?ルティのファンとか?



「かっ…!」

「か?」



『ルーティエパイセンかっけぇ!』みたいな感じの身震いなのかな?三人共、呼吸しているのか怪しい



「かはっ!!び、びっくりした……」

「がはっ!がほっ!!呼吸止まってた」

「ピィ、ピィ……アレックス兄、なんかお花畑が見えたよ」


「そんなに!?」

「相変わらずおかしな連中ですね」



 そこまでルティの大ファンだったのか……と思ったら、その後の態度を見ているとお仕置きを恐れている時の私と同じような態度を取っていたので、そっちの意味での緊張と震えだったのかと理解した。



「と、いうわけで私達はペアで動くので、その分南門側をまわろうかと思っているんですが……」


「ええ!?逆鱗様にそんな汚れ仕事はさせられないッスよ!」

「そっす!逆鱗様とルーティエ様は中央噴水広場でドーンと構えて頂けるだけで十分っす!」

「なんならオレ飲み物買って来ます!!」



「良い心掛けだが、それでは【私の妻】の依頼達成にならないだろ」

「うんうん。不正は良くないよね。っていうか逆鱗様ってナニ?」


「さすが救世主(メシア)ッス!」

「え、アレックス兄…今【私の妻】って聞こえなかったか?」

「言ってた!逆鱗様とルーティエ様はついに結婚したってことだよね!?」



 飛び出た【結婚】ワードに機嫌を良くしたルティは『私とアオイは愛し合う恋人から、更に愛を深め合う夫婦となった』と言って結婚指輪を見せていたので、なんとなく私も、えへっと笑って指輪を見せた。


 それで、逆鱗様も救世主(メシア)も私みたいだけど、なんで?


「うわぁ~スゲーかっけぇ指輪ッスね!」

「ルーティエさんの黒もカッコいいっす」

「逆鱗様のは銀?いや、プラチナかぁ。流石ですねぇ」


「あ、これオリハルコンだそうで……あと逆鱗様と救世主(メシア)ってナニ?」


「「「は?オリハルコン!?」」」


「私達の強固な関係を示すのならオリハルコン一択だろう」



「パネェ……マジでパネェよ」

「俺、オリハルコンを指輪にしている人初めて見た」

「絶対に壊れないって念がすごいよね……」



 やっぱり、この世界でもオリハルコンは貴重なんじゃない!ちょっと山で芝刈りしてたら見つけたみたいな体で言ってたのに!

 

 結局パンチさん達は逆鱗様にも救世主(メシア)にも全く答えることなく、『で、では、一刻も早くゴミを拾いたいので!!』と言って、そそくさと3ルートに分かれて行ってしまった。ゴミが出るのはこれからでは?



 とりあえず謎ワードは放っておき、私達の方も『まずは祭を楽しみ、その後に依頼を片付けてしまいましょうか』と言われて、先にデートを楽しむことにした。後半の方がゴミも溜まるもんね。


 獣人の国のお祭……とはいえ小規模のものではあるのだけど、日中は鳥獣人向けなのか冷やしナッツ、爪で型抜き、獲物掴みゲームと一部獣人に特化したゲームがあって、ゲームをしている姿はハンターのように目をくりくりさせて真剣そのもので……可愛い♡と思ってしまったけど、顔はスン…とさせといた。隣が怖いのでね。

 

 それにゲームセンターで見たようなミニモグリ―ナ叩き、肉球付きグローブをつけた猫パンチゲーム、小さい獣人用のボールの海、千本じゃらし引きなんていうのもあって、参加しなくても眺めているだけでもすごく楽しかった。


 十分祭を堪能した後で裏技のようなゴミ拾いをし依頼を終えた私達は、ルティが予約しているというBARへと移動したのだった。



◇◇◇◇



「おう、バース、クレバー。待たせたな、報酬受け取って来たぞー」

「ありがとう、アレックス兄。俺、ゴミ拾いにここまで集中したのは初めてかも、疲れたわー」

「オレもオレも!なんか見逃したら怒られる気がして、隅々まで綺麗にしたよ。まだ目がシパシパする」



 なぜこうも行く先々であの二人とかち合ってしまうのか、つくづく怖いご縁だと三人は思った。


 しかし、あの出会いがあったからこそパンチパーマがトレードマークになり、そこそこ名前を覚えられるようになって、ポチさんからもお声が掛かった経緯がある。

 

 ルーティエのコーラスに死ぬ気で挑んだ文化祭では、お陰でその後のライブも成功し、依頼者ポチさんの評価も高く頂いたことからコーラス依頼がたまに入るようにもなった。


 それに【歌える冒険者】という二つ名までついたのだ!



「なんだかんだで怖いけど恩恵にはあやかっているんだよなぁ。怖いけど」

「そう、怖いけどな。今回の報酬上乗せあったんでしょ?未だかつてない綺麗さだって」

「特にルーティエさんとこの南門通り……すごかったよね」


「「あれは、マジすげぇ」」



 そう、なぜか彼らは自分たちの持ち場で普通にデートを目一杯楽しんでいたのだ。残り時間一時間ほどになり、俺たちは粗方終わっていて、一体お二人はどうするのかと様子を見ていた。


 噴水広場まで全くゴミを拾わずに戻って来たお二人。まずルーティエさんが足首くらいまでの高さの結界を南門通り全体に張り、その結界内にだけ門入り口から噴水広場に向けて弱い風魔法を掛けた。

 そして広場の大きなゴミ捨て場側で、逆鱗様が軽く分別をしてポイポイ捨てるという連携を取っていたのだ!


 ナニその反則技~!とは思えど、口には出せない。至って普通にゴミ拾いはしてるし。


 むしろ猫獣人の親子が噴水広場に転がっていくゴミを、つい習性から「待つにゃ~ん!」とか言って追い掛けてきちゃったりして。結局流れてくるゴミを転がしながら一緒に拾って捨ててたから更に早く終わっていた。

 一般市民も巻き込むのかよ~とは思ったけど、手伝ってくれた分として逆鱗様は親子に報酬を渡してた。やりたがったのは獣人親子の方なのに偉いな。



「いやぁ、その辺はさすが救世主(メシア)だよな」

「うん、それもそうだけど……あの自分の嫁を見ている時のルーティエさんは春の陽だまりのような笑顔だったよな……」

「……からの、それ見てたオレ達に向けた絶対零度の氷笑の温度差がエグいよね」


「「「冷凍肉の気分になったよな」」」



 しかし、どこの国にいても遭遇してしまうなんて、先祖はエルフ族に粗相でもしたのだろうか?もはや恐ろしい呪いにでもかかってるんじゃないかとすら思う。

 こうなったら唯一逆鱗様が絶対来ないとされるダンジョンに潜れば会わないのではないか?と俺は考えた。



「よし、俺は決めたぞ!」

「何を?」


「もう、俺達が進む道はダンジョンしかねえっ!」

「ついに地下に逃げる時が来たか……」

「大空を羽ばたいてこそ鳥獣人なのに……」



 ルーティエさんも一応依頼はこなすけど、基本的にはすぐに戻れる地上に今はシフトしてることは知っている!おそらく今後もそうだろう。



「俺達の心の安寧の為だ。それに純粋にランク上げにもいいだろ?」

「それもそうだな。身体が動く若い内に行っとくか!」

「ランク上がればモテるかなぁ?」


「「モテる!きっとモテるぞ!」」



 こうして各地のダンジョンを少しずつ攻略していったパンチ・サトは、着実に実力を身に付け、小型の鳥獣人としてはトップレベルの冒険者となったとか。


 そして、ダンジョン内で出会った同じ小型の鳥獣人トリオの、カルー、セル、マキと電撃的な出会いを果たし、嫁に迎えた、とかなんとか……





彼らの言う『逆鱗様』は第一章 9:二つ名は~で

『救世主』は第四章 番外編:裏文化祭 8:パンチ・サト コーラス隊で触れています(^^)

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