新婚番外編:癒しのアニマルセラピー~新婚旅行編③~ ☆
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「ルティ……私はここを住処にしようと思います」
私は触れ合いコーナー内にあるソファに手を組みながら静かに寝転がっている。モフたちの、「オヤツちょうだい!ちょうだい!」攻撃に押されに押されて近くのソファに倒れてしまったのだけど、その倒れた私の上や周りに、可愛い子犬たちが、右を見ても左を見ても、上も下にもいるこの状況を何と言う?
これはモフモフパラダイス!!もう、ずっと顔はだらしない状態のまま戻る兆しは見えない。モフは正義って誰が言い出したのかな?真実そう思う。
「くっ……まさかのライバルは美のエルフ族ではなく、モフっ子獣人と子犬だったとは。ルー一匹の時でもあの興奮だったのですから、予想しておくべきでした!!」
ほぁ?なんでルーに会ってないのに私がルーにモフモフスーハ―していたことを知っているのだろうか?……まぁルティだしね。うん、ルティだからしょうがない。
一匹マイペースなふわモコな子犬ちゃんは私の顔にデーンと乗っかり、見た感じはアイマスクみたいになっている。君、サイコーだよ!リアルアイマスクより疲れが取れそう……子犬特有の匂いも至福です♡
ワンマスクはとてもマイペースに「スピィ、ぷすぅ」と寝ている様子。どうやら私の顔面はこの子のベッドになったらしい。呼吸に合わせてスーハーしとこう。
お腹の上にも腕の間にもモフっ子たちが丸まっているようで、欲を言えば眺めたいところなんだけど、ワンマスクの眠りを妨げるわけにはいかないので我慢するしかない。
私の高めの体温が、ついに彼らの湯たんぽとしての機能を発揮し出したことに感動で打ち震えている。ただワンマスクのお腹を涙で濡らすわけにはいかないので、心で感動の涙を流していたところ、パタパタと走ってくる音が聞こえて来た。
まさか、もう時間が来てしまったというの!?
「あのぅ~そろそろお時間……ってうわぁ!お客様子犬まみれですけど大丈夫ですかっ!?あ、エルフのお兄さん…あれ?どうしてそんな壁際でうなだれているんですか?」
「ふぇ~?その声はワンコちゃんかな?ダイジョ~ブ、私は癒されてるだけだからぁ~」
「私が手に入れたと思っていた彼女の愛は、実は子犬以下の愛だったと知り、少々衝撃を受けているだけです……放っておいてください」
とりあえず夢の時間が終わりを迎えてしまったようなので、触れ合いコーナーの子犬ちゃんたちに今生の別れを告げ、全身毛だらけのまま緩みっぱなしの笑顔に若干引かれていたけど、ワンコちゃんたち三姉妹とチャトラさんにお礼を言って施設を後にした。
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「ルティ、やっぱりアニマルセラピーってホントなんだねぇ~すんごく心は晴れやかになるし、テンションはアゲアゲだよ!」
今なら本気で空も飛べるのではなかろうかと思うほど、気分は爽快である
「……残念ながら、私には全く効果はなかったようです。心はどんより大嵐ですし、テンションはここ最近では類を見ないほど落ちておりますよ」
おっと、これは……うん。考えるまでもなく私が悪いな。買ってもらったお肉を飛ばし、夫の前でよその男の人に抱き着いて、触れ合いでは完全放置のまま一人パラダイスに浸っていたし。。。ん?こう並べてみるともの凄く酷い妻じゃない!?
「ルティ~?お~い、ルティさ~ん?」
「………」
「あ、ルティ、あそこにお土産屋さんがあるよ!見てみない?」
「どうぞ、私のことはお気になさらず……」
うっ、これはマズイな。新婚旅行だっていうのに、しょっぱなからやらかしてしまうとは……成田離婚ならぬ騎竜離婚になったら困るな。ちょっとルティの御機嫌が上がりそうなお土産ないかなぁ……
「あ!猫耳カチューシャなんてあるよ!私だとやっぱり黒猫かなぁ?ふふ、某夢の国みたいだけど、観光に来ている感があっていいなぁ」
しかも、ケモミミコーナーには様々な耳シリーズがあって、もちろん銀狼なんかも置いてあった。人気なのかな?ポップらしきメモ書きには【リアルなケモ耳はあなたの魔力から感情を読み取り動きます!】と書いてある。す、すごい!!それにその隣には、同シリーズで尻尾まであるではないか!!これは買うっきゃない!
「ねぇ、ルティ見てみて~黒猫の耳と尻尾をつけてみたよ!機嫌直してにゃ~ん♪なんちゃって!」
「……な、なな、なんですかそれは!?耳も尻尾も動いているじゃないですかっ!この可愛らしい黒猫は、私が飼います!!」
「ぐふぅ!」
もの凄い勢いの突進ハグにちょっと色気の欠片もない声が出てしまったけど、とりあえず夫の関心が向き出したので少しホッとする。すごい、尻尾がゆらゆらしてる!私ってば喜んでるのか!!
「もう、十分優しい夫に飼い慣らされてるでしょ。それよりルティも銀狼の耳と尻尾つけてみて!文化祭の時のも最高だったけど、リアルに動くのを見てみたいな」
「いいですよ。しかし、絶対にアオイの方が似合うと思いますが」
鏡を見ながらヘアバンド部分をうまく髪に隠して耳を装着し、猫尻尾よりもモフモフな尻尾はベルトに括りつけ、少し上着で隠すことでよりリアルな尻尾に見える。
ただの試着だとしても、適当につけないところがやはり美のエルフなんだなとこんなところでも感じる
「はわぁぁぁぁ!!動く耳とブンブン振れる尻尾が最&高♡ルティすっごい似合う!超絶カッコいい!銀狼は私が飼います!頑張って養う!!」
「私は身も心も飼い主に忠誠を誓っているのですが、私の飼い主は忘れっぽいようですので、もっときちんと構って頂きたいですね。放っておかれると拗ねる犬種なので」
しゅーんと下がった耳と尻尾が哀愁をより際立たせている。いかん!私ってば結局のところ、この耳と尻尾とうるうるな目に弱いのでは!?
考えてみたら、よくしょんぼりした時のルティの長い耳の下がる時とか切ないし、ピコピコしている時は嬉しいもんね。そして今は猛烈に抱き着きたい!!
「今日はたくさんごめんねルティ……ここだってルティがせっかく連れて来てくれたのに、久々のアニマルセラピーに我を忘れてしまって。でも、私がずっとずっと一緒にいたいのはルティだから、それは信じてね?」
超絶カッコいい銀狼ルティに抱き着き、意外にも筋肉質な彼の胸元に顔を埋めながら、今度はこちらの猫耳がしょんぼりで尻尾はだらりんとしている。反省中です。
「うっ……。今、少しだけアオイの気持ちがわかりましたよ。これが<モフは正義>なのですね。とてつもなくアオイを撫でくり回したいですし、耳も触りたくなるほど愛らしいです」
「え、本当!?やっぱり、この耳と尻尾がポイントだと思うの!少しでもわかってもらえたなら嬉しい!」
更に猫のように胸に顔をスリスリ、耳はルティに触られピロ、ピロと動いている。長い尻尾は大喜びしちゃっているようで、ルティの足にくるりと絡みついていた。
それに気づいたルティも上機嫌で、掃除ができそうなほどブンブン尻尾を振っていた
お互いに相手の耳と尻尾が気に入ったので、装着したままお買い上げし、ルティはその他にもウサギやリスなど、なにやら色々とグッズを購入していた。余程ケモ耳シリーズがお気に召したらしい
気付けばすっかり夜の帳も降りてきていた。思った以上にあの施設に滞在していたらしい。昼に食べ損ねた串焼きを今更ながら思い出し、観光案内所でもおススメされていた屋台街へ行く事にした。色々名物を食べたい観光客には屋台街が一押しだとか
「すっごいねぇ……」
「ええ、中々活気がありますね」
夜とはいえ、魔灯で明るく照らされて、通路には屋台がびっしりと並んでいる。カウンターがある屋台、雑多にテーブルらしきものが通路にはみ出している屋台、持ち帰りのみと本当に様々だ。
これまた行ったことはないけれど、タイのストリートフードの雰囲気に少し似ている
「いらっしゃい!おや可愛いネコ耳をつけたお嬢さんは新婚さんかにゃ?今日の魚の塩焼きは絶品だよぉ~」
「あ、猫獣人の店員さん!久しぶりにシンプルな塩焼きも確かにいいよね!一本下さい!」
「銀狼の耳がよく似合うエルフのお兄さん!可愛い彼女にマタタビサラダなんてどうだい?これで彼女もお兄さんにメロメロに酔っちゃうこと間違いなしだよぉ!」
「それは、ホン……」
「間に合ってまーす!そんなものがなくてもすでにメロメロでーす!」
そもそも猫じゃないから効かないとは思うけど、変なものが入っていたらまた面倒なことになるしね。でもさ、ルティちょっと手を伸ばしかけてなかった?買おうかなとか思っていないよねぇ?
「そうです!!そんな紛い物の愛など私達の前では不要ですよ。アオイ、私はあちらの鳥獣人の店の木の実サラダを買いますね」
そうそう、そんなのなくたって十分あなたからの愛は感じてますので、不純物はいりませんよ
「それにしても観光客もチラホラいるにはいるけど、元々住民にも愛されている屋台街なのかな?獣人のお客さんも多いよね」
「そうですね、夜の屋台は特に独身の獣人は出会いの場にもなりますし。見掛けるのは独身者か若いカップルばかりですね、家庭を持った者は明るい時間までで、夜は家で食事をとると聞きますよ」
「へぇ~」
一通り食べたいものを購入した後に、有料だけどキチンと腰を落ち着けることができるテーブル席へと移動した。簡易ではあるけれど、有料ということもあって中々座り心地の良い椅子だ。
テーブル一杯に買ったものを広げて、二人で分けながら食べつつ、獣人の国についても少し教わった
この国は<獣人の国>と一言で言っても、犬、猫、鳥などの他にも様々な種族がいるらしい。「らしい」というのは、ほとんど街に降りてくることのない野生に近い種族もいて、縄張りの絡みもあることから未確認となっている種族もいるからだそう。必ずしも全種族が関わっているわけじゃないんだね。
ちなみに現在の王様は、百獣の王ライオンだそう。一応、分類的には猫獣人なんだって
そういうわけで、狼以外の広く分布している犬や自由気質の猫、広範囲に分布している鳥の種族を見かけることが多くなるというわけだ。狼さんはあまり街中には姿を見せない種族のようだ。今は隣に銀狼エルフがいますけど
うん、我が夫ながら、実に眼福の男前である。そんなことを思いながらうっとりと彼を見ていると、すぐに視線が合い、目を細めて優しく微笑み返される。ケモ耳の夫は最高デス
食事も終わったので、ルティは私の手を取って立ち上がり、ふと何かを思い出したかのようなそぶりで私の耳に内緒話をするように顔を寄せて来た。うん?口にソースついてるよ的なやつかな?
「アオイ、狼は縄張り意識が強いですからね。宿へ戻ったら、しっかりと子犬たちの匂いを落として、私の匂いで上書きしないといけませんね」
「ほぁ!!にゃんて!?」
すっかり元の上機嫌になっていたので気を抜いていたけれど、今日の出来事を彼はまだ水に流してはくれていないらしい……やはり誤魔化されはしなかったか!中々に傷は深い……
狼の縄張り意識の強さがどんなものなのか、身を持ってしっかりと覚え込まされた新婚旅行なのであった