新婚番外編:モフっ子達の尊さに語彙力を失う~新婚旅行編②~
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私の腕から抜け出したモフっ子にしか見えない方は、ゼーハーと肩で息をしつつ、ゆっくりと息を整えて獣化を解いた。無意識に相当締めていたらしい……
っていうか、獣化を解いても小さなお耳と尻尾はあるわけで……より一層可愛い
「ハァ、助かった……いや、こちらこそ、ご夫人の胸に抱き締めてもらえたのでむしろ役得ですけど、最終的には窒息死かエルフさんによって死ぬかのどちらかかなと思いましたよ。あ、番はまだいないので大丈夫です」
「は?私ですらそんな窒息死しそうなほどの経験がないというのに……やはり死んで償わせるしかないのでは?」
マズイよ!この所だいぶ甘々生活だった弊害なのか、ルティのキレ加減が半端ない!今日は本気モードで消しかねないオーラを醸している。指ポキポキし出したんですけど!?
「ルティ、待って!!それだけはヤメテ!!ね?むしろ襲ったのは私側なんだから、謝るのは私の方でしょ?本当にごめんなさい!」
「いやいや、それはもう気にしなくてもいいので、ご主人のフォローをしてくれる方が助かるかな。僕もまだ死にたくはないし。それから、僕のように小型種だと成人していても小さいから気を付けて」
「新婚早々、私の心はズタズタですよ。ようやく手に入れた最愛の女性が、他所の男性に抱き着いて興奮してる様を見せつけられるとは思いもよりませんでした。ショックで身体がすぐには動きませんでしたよ」
「興奮て……そうかもしれないけど、その言い方はやめてよ!本当にごめんってば!!」
気さくなモフっ子の彼はチャトラさんと言って、ブラウン毛色の10歳(人族換算では20歳)のポメラニアンで、どこからどう見ても成人男性の判別はつかないけれど、なんらかで見分けているルティ、そして本人が成人というのなら成人なのだろう。
『たまに訪れる人族にはしょっちゅう間違えられているから慣れてますよ』と言いつつも眉毛がハの字に下がっている姿には、今すぐ『ごめんねぇぇぇ!!』と撫でくり回したいほどの可愛さしか見当たらない。
とはいえ、実際それをやってしまったらどうなるのかってこと位はわかっている。理性を総動員させて、自分で自分の手を必死に抑えている。そろそろ爪でも立てないと危うい、ぐぬぬ……
「ははは、もしかしてご夫人は犬族がお好きなタイプですか?もしでしたら僕のボランティア先の施設で、バザーや小さい子供たちとの触れ合い、獣人ではない子犬との触れ合いイベントがありますけど、如何ですか?」
「行きますっ!!」
「え、アオイ!?観光は宜しいのですか?」
「もう無理!私には耐えられない!!モフモフパラダイスがそこにあるというのなら、行く以外に選択肢はないでしょ!少し前に魔国のお屋敷に紛れ込んだルーをモフり倒して以降、ずっと眠っていたモフ愛に目覚めちゃって……ね、お願い!!」
「あー…あのルー、ですか……。あれが引き金となってしまったとは……ハァ、わかりました」
可愛いモフっ子たちに会えて、獣人じゃないお犬様に遠慮なく触れてもいいというのなら、多少財布の紐を緩めたって構わない!それがその子達に還元されるのなら喜んで差し出そうじゃないか!!
観光はいつでもできるけど、こういったイベントは期間が決まっているものだ。そんなナイスなタイミングでチャトラさんにぶつかってしまったのも何かの縁に違いない!
私は現地で取り乱さないように、脳内で可愛いモフっ子像を想像しながら、可愛いのは間違いないであろうモフっ子達とのご対面に備えた
この15分後に、脳内シュミレーションは全く役に立たなかったと知るわけだけど
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「わぁ……教会みたいな建物」
「みたい、ではなく教会ですね。ここでのバザーや触れ合いというのは寄付金集めや、地域の者との関りを持たせる目的だったと思います」
「その通りです!さすがエルフ族は博識ですね。施設を閉鎖的なイメージにはしたくないですし、やはり外との関りもバザーを通して学ばないと、子供たちは独り立ちできないですからね」
なるほどなぁ、ここでのバザーはただの寄付金集めばかりじゃないのか。接客や陳列なんかを子供たちに任せているのも、社会勉強の一環なんだね
「いらっしゃいませ!」
「い、いらっしゃい、ませ……」
「いらっちゃいまちぇ!」
(ほわぁぁぁぁぁぁ!!!)
こ、これは危険だ……ピシャーン!と雷に打たれるとはこの事か!事前に私の動きがヤバそうだったら押さえて欲しいとお願いしておいて良かった!
押えるとはいいつつ、ただのバックハグにしか見えないけど、この際どうでもいい、なにこの可愛さ!!転げる!転げる可愛さ!一眼レフが欲しい!!!
「こ、こんにちはぁ~……か、可愛い♡あなた達は姉妹なのかな?」
「あ、こんにちは!私たちはスピッツ種で私は長女のワンコ、ちょっと人見知りなのが次女のニコ、そして三女の一番小さい子がミコです」
「こんにちゎ……」
「ちわ~!!」
お姉ちゃんはイチコではないのか。しかし、そんなこともどうでもいい。薄茶のワンコちゃんはその、その小さくてふわふわしたお耳とフリフリでふわんふわんな尻尾ちゃんが、可愛え。。。ちょっと緊張気味の茶白のニコちゃんも可愛え、白毛のミコちゃん元気にお手々挙げて、ハイ100点です!
「えっと…ワンコちゃん達はご案内係りなのかな?私達初めてだから、会場の案内をしてくれると助かるのだけど」
「ワンコ、この方達はお客様だから、しっかりご案内して差し上げるんだよ」
「はい、チャトラさん。任せて下さい!お客様、ここからは私達がご案内しますね」
「こ、こちらどうぞ…」
「どじょー!」
「ルティ!!」
「なんでしょう?」
「今考えていること言って!」
「え、ここで宜しいのですか?」
嬉々としてバックハグをしている今なら、引きそうな愛の囁きの一つや二つ思いついているに違いない。
「では。可愛さで言ったらアオイの方が比べるべくもなく可愛いと思いますけど、そんなにアオイが小さい子供が大好きだというのなら、私達の共同作業の強化を図るべく、やはりもう半年くらい引き籠るというのも吝かでは……」
「よし、ありがとう!頭が冷えたよ、さすがルティだね!!」
期待を裏切らないドン引く愛の囁きに感謝する!!一気にスンってなったわ。引き籠りはもうご勘弁願いたい。
「ふむ。頭を冷やす為に言ったわけではないので、私としては少々複雑ですが、お役に立てたのでしたら良かったです」
「その前向きな切り替えができるルティが好きだよ」
レベルアップした新妻アオイは、ナチュラルに「好き」だの「愛」だのは伝えられるようになった。実際この普通の会話のように伝える方が『あれ?コイツ今ちょっとデレてなかった?気のせいか…』と気付かれにくいということを知ったのだ!
早口言葉に「愛」混ぜ込むみたいな?『生麦 好きだよ 生卵』『バス ラブ 爆発』うん、ナチュラルだ。
「はわわ!お姉さん達は新婚さんですか?ラブラブなんですね」
「らぶらぶぅ~?」
ゴフゥ!獣人は耳が良いんだったわ。ガッツリ聞かれてんじゃん!
「子供は見た通り素直に伝えるので良いですよね。その通りですよ、私達は真実、愛し合っている夫婦ですから。新婚ですし、ラブラブは基本中の基本なのです。ふふ、先ほどは妻がその基本から外れましたけど……」
「だからごめんね!!」
やはりちょっと「好き」と言ったくらいで機嫌が戻るわけはないのか……あぁ、後が怖いわ
取り敢えずこのまま子供達の前で醜態を晒し続けるわけにはいかないので、そこはルティにもご理解頂き、私達はバザーなどを案内してもらいつつ、見て回った。
試食でもらったクッキーは素朴な味わいでとても美味しかったし、ルティもなんやかんや言いつつも、ナッツ入りのクッキーを購入していた。
私よりも遥かに上手な刺繍のハンカチコーナーでは、獣人の国ならではだろう、黒猫の刺繍や銀狼の刺繍のものもあって、私に銀狼、ルティに黒猫のハンカチをそれぞれ購入した。
なんだろう、やっぱり身近にモデルがいるせいか、もの凄くリアルな刺繍。可愛いキャラというよりも、本物そっくりの刺繍といったところ。プラス料金で名前まで刺してもらいました
イチ押しだという、フルーツミックスジュースはとても美味しく、可愛い案内役の三人には大好きだというミルクを購入し、一緒に飲食ブースで飲んだ。小さな子供に優しいルティがカップを冷やしてくれて、「わぁ、ひんやりして美味しい~!!」とクリクリなお目々を輝かせ、まだ短い尻尾をフリフリさせながら飲む姿は、尊くて拝むしかない
ほっこりタイムを経て、いよいよやってきたのが私の中でのメインイベント!入り口に【子犬たちの食事代募金箱】なるものがあり、思わず全財産を投入しかけたけれど、ルティに止められたので1万ギルに留めておいた。
子犬の触れ合いレベルだというのに、あまりに見合わない金額を投入した私に、三姉妹も施設のスタッフさんもビックリしていた。多分、私も冷静ではないのだと思う
少しだけVIP扱いされた私は、特別に30分貸し切り&【子犬まっしぐら】と呼ばれるおやつを渡されたのだけど、これって所謂猫ちゃんたちが大好きなチャ○チュールの犬版といったところなのでは!?
若干、鼻息が荒くなりそうな気持ちを深呼吸で落ち着く……ことはなくても無理矢理落ち着いたと思い込み、子犬触れ合いコーナーへと潜入したのだった
「新連載コラボ小話:子犬になった恋人」で、子犬のルーは出てきています。