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新婚番外編:新婚旅行は獣人の国へ!~新婚旅行編①~



******



 怒涛ではあったけど、とてもアットホーム&キラキラとした結婚式を終え、以前から宣言されていたエルフ族ではごくごく普通で、伝統だと言い張る【一ヶ月の蜜月】という、恐怖しか感じなかった強制イベントもこなした……気付いたらこなされていた?


 ついにお披露目という風ではなく、堂々用意されていた唯一私が買ったとされるナイトドレス……

 

 どうなんだろう。この素晴らしい刺繍技術に一万ギルは安いと讃えるべきなのか、それとも一万ギルの予算では布はこれしか使えなかったのかい?とツッコむべきか。


 湯から上がれば私の衣服は回収されていて、これしか着替えが置かれていないという所業。着るor裸という究極の二択になれば着るしかないわけで。

 

 それでもどうしても恥ずかしくて、ナイトドレスの上から先に湯浴みを済ませたルティの脱いだシャツを被って出たら、かえって喜ばせる結果になるって言うね。うっかり「彼シャツ」ってやつをやっちゃったせいで、ずっとルティの服を何かしら着せられていた気がする。


 Q:そもそも「ドレス」の定義とは?

 A:身体を覆う衣服

 だけどさ、透け感・露出多めだったら意味なくない?


 そして屍からの生還(初夜の翌日)を果たした私に、目覚めのドレスが着せられててさ、寝起きのまだぼんやりな頭で『服着せてくれたんだね、ありがとう。刺繍凝ってて素敵だね』って、ほぼ社交辞令的な。

 ただ裸じゃなくて良かったなと思っただけなんだけど、結局また愛でられてしまい、どんなデザインだったのか残念ながら、もう思い出せない。


 でも、脅され…ゴホッ、聞いていたほどではなかった、、、と思う。ちょっと記憶が曖昧になってるところあるから怪しいが……。

 

 思い出されるのは、ただただハチミツのお風呂に浸かっているかの如く、ひたすらに甘やかされ、ずーっと甘く甘い、文字通り蜜の月を過ごしたってこと。お陰でなんにもできない「駄目人間」が誕生しましたね、ええ。


 しばらく時差ボケのように機能しないボーっとした脳と、甘やかされすぎて低下した筋力を取り戻すべくリハビリをする羽目になったよ。



 そうして結婚後二ヶ月……ようやく新婚旅行に行くことになりました!!

 


 とはいえ、この世界には新婚旅行文化はないらしいので、ルティからすれば新妻に『旅行行きたい!』と強請られて『行きましょう!』みたいな感覚みたいなんだけどね。


 でも、新婚なので『新婚旅行』という響きはルティもお気に召している模様。【愛し合う夫婦の新婚旅行】という定型文が新たに完成した。


 本当はもっと早い段階で行きたいと思っていた獣人の国だけど、なんせ魔国とは地球儀のように丸く見れば隣国ではあるのだけど、距離は結構離れている為、躊躇(ちゅうちょ)していた。


 現在、私達は魔国のお屋敷ではなく、リイルーンのルティの家で過ごしている。まぁ、愛の巣ってやつですね。今後、また建て直すでも、他国に居を構えるでも私さえいればそれでいいという、妻にとことん激甘過ぎな、角砂糖で身体が構成されている疑いのある夫、ルティ。

 現状の家に不満もないし、どこを拠点にするかはゆっくり考えましょうと、とりあえず保留している。



「ふぅ……今回はあえての寝不足で、<騎竜したら即寝落ち大作戦>が功を奏したね!お陰で、目覚めたらそこは獣人の国シュナウザですよ!!ひゅう~」

「ふふ、私も寝ている新妻の寝顔を眺めていたので、あっという間に感じました」


「……そう、それは良かった」



 ほら、私すごい成長でしょ?もうね、諦めだよ。何事も諦めが肝心なんだよね。寝ている時は意識なんてしないしさ、毎晩警戒もできないじゃない。それなら好きに見といて下さいって思ったよ



「当たり前だけど、右も左も、なんなら上も獣人の人達だねぇ~。ほぇ~鳥獣人の人って背中に羽じゃなくて、手が羽になるんだぁ」

「ほら、上を向いたまま歩いてはいけませんよ。全く、私の妻は危なっかしい……これはずっと抱き締めていないといけないですね」


 

 なんでやっ!?抱き締めたら動けないじゃない。他人から見たら『アイツら往来で抱き締め合ってなにやってんだ』状態ですよ。


 リイルーンではベッタリ、ベッタラー、ベッテストな具合。うん?何かって?ようするにほとんど離れることがなかったせいか、未だに愛妻家の夫は距離感がバグったままってこと。私は亀にでもなった気分だよ。

 

 とりあえず、頭を撫でて手繋ぎにしてもらおうか。よぉ~し良い子!



「ルティはシュナウザには何回か来たことがあるんだっけ?」

「そうですね。ほとんどが討伐の応援依頼でしたので、終わればすぐに帰っておりましたが」


「えぇ!?勿体ない。少しくらい観光とかそういうのしなかったの?」

「当時は私も独身ですからね。獣人族の、特にオスの番に対する執着はかなり強いですから、万が一こちらが意図せずとも誤解を招くようなことがあれば、ずっと付け狙われる恐れもあるので」


「な、なるほど……ある意味、私達が結婚後に訪れたのは正解だったんだね」

「そうです、ですから私も反対しなかったのですよ。それに私も十分妻への執着は強いですからね、それに対する理解も深い国ですから都合も良いのです」



 おかしい、結婚もして、例の魔法誓約書もサインしたというのに、執着は強いままなの!?少しは落ち着くものと思っていたんですけど。



「じゃあ、さっきのルティの態度も、ここでは『ああ、アイツらは番同士か、ヒューヒュー熱いね!』程度ってこと?」

「どうでしょうか?むしろこちらでは、番をむやみやたらと人目に晒したりはしないのかもしれないですね。少なくとも子を産むまでは」



 なんと、ほぼ監禁!?それは結構キッツいなぁ~。それはフィクションで楽しむ分には『超溺愛ステキ~♡』って思うけど、自分がいざそうなったら絶対逃亡を謀るか、廃人になるかだろうな。

 一ヶ月耐久+一ヶ月リハビリですらキツかったのに……更に上の恐怖を知ると、ルティはマシだったのか?と思う不思議さよ。


 とりあえずこれだけは伝えておきたい


「……ルティ、お願いだから闇落ちだけはやめてね」

「闇落ち?アオイが私のそばにいて、私を見ていて下されば闇になど落ちませんよ」


 つまり、そうしなければ闇落ちもありってことなんでしょうか……?


 よっし!とりあえずシュナウザではずっと手を繋いでおこう!繋ぐ手に力を籠めれば、とてもご機嫌な私の夫。とても可愛い。

 

 なんやかんやと新婚ですので、私もデレつつ、まずは観光案内所でも行こうかと動き出す。獣人族は鼻も利くし、耳も良いので、情報誌は必要としないようだ。紙面というよりも吟遊詩人のような者が広めていく方が主流とか。

 

 一応観光客向けには案内所で、一般国民は大抵が広場などで鳥獣人達の仕入れた情報とかを聞いて『そんなの出来たんだぁ行ってみる?』みたいになるそうです。ふむふむ。鳥獣人が動く情報誌みたいなものなのか。


 確かに文化祭でポチさんのバックコーラスを務めていたパンチ・サトさん達はどこぞの国の少年合唱団もかくやと思うほどの美声だったことを思い出す


 観光案内所では、可愛らしいスズメの鳥獣人だという女の子から、新婚・カップルにおススメだというスポットを教えてもらった。

 

 先に食事もどこかに入ろうかとも思ったけど、しっかり食べて来た挙句、ただ寝ていただけの私はそこまでお腹は空いていなかった。しかし、観光案内所のすぐ脇では何軒かの屋台が並んでおり、まんまと香しい匂いに釣られた観光客とは私の事。



「ルティ、これってモー()の串焼きかな?でも香りがBBQソースっぽい匂いなんだよねぇ~。一本買ってきてもいい?」

「いいですよ。アオイには少し大きいようですので、半分私が食べましょうか」



 この国ではメジャーなサイズなのか、通常のイメージよりも二回りほど大きいモーの串焼き。しかし、タレの香りといい、見た感じの霜降り加減といい、間違いなく美味しいと見ている。

 とりあえず焼き立てだったので、毒見も兼ねてルティから食べ、私に回ってきた



「アオイの嗅覚も中々ですね。ここの串焼きはかなり柔らかく、タレの味も非常に美味しいです」


「え、やっぱり!?わぁ良かった。じゃあ、安心してかぶりつきまーす!あ~……ぐ、ふぐぅ!!?」

「わぁ!!」



 私の脇腹になにかモフっとしたものがぶつかり、私の口にあと1秒もすれば入ったであろうお肉が、光景的にはまるでスローモーションのように串ごとぶっ飛んでいった。

 どうやらタイミング悪く、脇道から走って来た小さなワンコ獣人の男の子とぶつかってしまったようだ。半獣化なのか?二足歩行で走る子犬といった印象

 

 ルティのくれたピアスやら指輪に耐物理攻撃や耐魔法攻撃の結界が仕込まれているとはいえ、こういった場合はただの故意ではない事故なので発動はしない。

 

 

 さすがに常時結界を張る行為は生き辛い事この上ないので、これ以上の防御は必要ないと思っているのだけど、期待を裏切らずこの悪意のないシリーズにひたすら引っ掛かりやすいのが、この私だ。ドヤァ!


 今回はルティが隣にいるので、私のことは支えてもらいなんともないが、お肉は助からなかった……


 まさにボトッと土の上に落ちたお肉に一瞬意識が行きかけたけど、まずはぶつかった男の子のケガの確認が大事だ!!



「ご、ごめんね!私がちゃんと見ていなかったから!!大丈夫?ケガはないの?ちょっと確認させてね……お母さんは?君一人?」



 こんな小さな子にケガを負わせていたらどうしようという焦りから、矢継ぎ早に質問をしてしまう。男の子は尻もちをついたのみでケガはないようだったけど、少しブルブルと震えていた。

 そうだよね、小学校低学年?か少し上かくらいの大きさの子だし、ビックリしちゃって震えているのかもしれない


 可哀想に、ごめんね!という気持ちを込めて、男の子を抱き寄せ、モフモフと…いやいや、ヨシヨシと頭を撫でた。この毛並みは極上だ……モフモ…ヨシヨシが止まらない!


 後ろに立っているルティは少し呆然とした後、なぜか『アオイ、何をしているのです!その手を離しなさい!』と言われているけど、ビックリさせたのはこっちだし、震えているモフっ子を放っておけないでしょ?お母さんがそばにいないから迷子かな?


「あ、あの、すみません!!落ち着いて下さいっ!!ちょっとマズイです、後ろの方の殺気が!メチャクチャ威圧をかけてきているんですけど!?うわぁっぷ!」

「ん?どうしたのかな?あのエルフさんは目つきが悪いだけだから大丈夫だよ。それよりお母さんは?はぐれちゃったのかな?」



 マズイ……うるうるお目々が可愛すぎるし、毛並みがほわっほわ過ぎて、顔を埋めたくなるけど、それをしたら一発で補導されそうなので、抱き締める程度で必死に堪えている。に、肉球くらいなら……いや、我慢だ私!!



「アオイ!!その男から早く離れなさい!!これは完全に浮気ですよ!!」

「はぁ?何が浮気だっていうのよ!新婚早々、そんなことするはずないでしょっ!」



 怒った拍子に抱き締める腕に力が入ってしまい、モフっ子がジタバタ暴れ出したので、慌てて緩める



「ぷはっ!あの…お嬢さん、ホントに、どうか離して頂けませんかっ!!ぼ、僕がそこのエルフに殺されてしまいます!!」

「え、お嬢さん!?あ、あれ?」


「アオイ、その男は立派に成人している小型犬獣人です!ですからアオイは夫の前で堂々と他の成人男性を抱き締めている様を見せつけているのですよ!!」

「ひぇぇぇぇ!!そ、そ、それは大変失礼なことを!!ルティもごめんなさいっ!!あ、あの、え~っとあなたの番さんはどちらに?謝罪が必要であれば、土下座でもなんでもしますので!!」



 即座にその場を離れ、土下座の体制を取る

 どうしよう、番さんがいたら吊るし上げられちゃうよ!!


 

「浮気は絶対に許しません!!」



 その前に新婚早々夫に吊るし上げられそうである




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