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25:ほんの束の間の休息 ☆


 

 第一回結婚式inリイルーンを、最後はなんとか巻き気味で強制終了。魔国へ転移(テレポート)し束の間の休息の為、ルティと二人で新郎新婦用の控室のソファに凭れていた。

 少ししたら、今度は第二回結婚式in魔国が始まるので、本当に小休止程度だけど……



******



 一度も結婚式を経験したことがない私でも、友人や親戚の挙式には参加したことはあるわけで。

一日で二回も挙式と披露宴をするってないと思うんだけど、私はずっとこの世界での人族以外の結婚式はそういうものなんだと思い込んでいた。ほら、郷に入っては郷に従えって言うでしょ?


 みんな特に何も言わないし、本当に「当たり前に」準備しているからさ、そうなんだなって思っちゃうじゃない。だから挙式の時、幕が開く前に緊張を少しでもほぐそうとしていた雑談の中で私はへーリオスさんにさらっと言ったのよ



『エルフ族の結婚式って一日で二回もするなんて大変なんですねぇ』と。



 そうしたらまさかの『ハハハ。こちらでも普通は一回だよ』とあっさりへーリオスさんに返されたときの衝撃と言ったら……緊張解けすぎて「スーン」って思わず真顔になりましたよ。


 でも、この特殊な式は別種族同士で結婚したへーリオスさん夫妻が模範だそうで……

※以下、へーリオスさん、モルガさんが二回結婚式を一日で挙げた理由です


モ)『私達の結婚式、どちらであげればいいのかしら。やっぱりリイルーンで挙げるべきよね?でも、こちらの招待客をリイルーンでは全て招くことができないから寂しいわ……』

へ)『じゃあ、いっそ両方でやっちゃえばいいんじゃないかな?』

モ)『とても良い案だけど…でも、結婚式が終わったなら当面邪魔はされたくないわ』

へ)『それは私だってそうさ。じゃあ一日でやっちゃえばいいんじゃないか?』

モ)『一日で二回?そうね、それがいいわ!』


 そう、実にあっさり。3分かかったのか?そんな話をルティがへーリオスさんから聞いたものだから、こんな形になってしまったらしいのだけど。

 

 もう一回目の結婚式で十分感動もしたし、「私お嫁さんになったんだ……」って気持ちにもなれた。それに誓いのキスまで済ませたわけじゃない?

 そう、満腹で満足しちゃってるのよ。せっかく余韻に浸っていたのに、二回目も同じような感動ってできるのかな?



「人族の体力の無さを舐めないでもらいたい。私だけだいぶヘロヘロなんですけど……」

「それは、大変申し訳ないのですが、リイルーンでは里を覆う結界の関係で身内以外をむやみやたらと入れるわけにもいかないのです。しかし、アオイがどうせなら友人も呼びたかったと言うので魔国でも式を、となったのではないですか」


「それは、そうなんだけど……なにも一日でしなくても…」



 ここは新郎新婦用の休憩室。彼の前でくらい愚痴ってもいいかと、疲れた顔を全く隠しもせず口を尖らせている私。

 そんな疲労困憊中の私を見て、ルティが近くのテーブルに置いてあった飲み物をとる為だろう、ソファから立ち上がった。

 

 てっきり私用に持ってきてくれたものだと思って手を伸ばしたのに、私の前で立ち止まった彼は、そのまま一口あおり、自分の喉を潤す。

 なぁんだ、私のじゃなかったのかと口をさらに尖らせつつも、飲みたいのなら自分で取りに行くべきかと思い直す。

 


 ドレスを引っ掛けないように確認しながら慎重に立ち上がると、スッと頭上に影が差した。ルティ?と見上げると、彼はもう一口飲み物を口に含んでグラスを置き、私の腰を引き寄せおもむろに口づけて来た――


「ル――っ!!」


 ゆっくり、ゆっくりと水を流し込まれる。喉が渇いていた私はそれを一滴残らず受け取った。やがてチュッと鳴るリップ音と共に、あっさりと唇は離れてしまう。

 あまりにもあっさりと離れたように感じて、なんだか少し寂しく思った私は、無意識に離れて行った彼の唇の行方を目線で追っていた。

 

 そんな私の視線に気付いたであろう彼は、軽く口角を上げ、もう一度私の唇を捕らえた。今度は先ほどとは違う、貪るような激しい口付け、漏れ出る声さえも飲み込んでしまうような欲情的なもの



 長い口付けの後、ようやく離れた彼の唇には私の口紅がうつっていた。(……あ、ついちゃったな)なんて考えていると、彼はついた口紅を親指できゅっと拭い、そのまま私の化粧直しまでしてくれた。


 指で口紅をただ拭っただけだというのに、ドキドキするほどの濃厚な色気を纏っているのはなぜだろうか。目の前にいる人は実は夫ではなく、芸能人かなにかではないかと思うほどに眩しい。




 ただ……なぜ彼のタキシードのポケットに口紅が入っていたのかは、これまた愚問でしかないので聞かないでおく。ミステリーハンターのみぞ知る、だ。


 そして、やはりこういう所を見ると私の夫で間違いないと実感できるという変な安心感。




 水分を受け取ってから5分もしない内に、なんだか頭もクリアになったような、身体も軽い?不思議な感覚に包まれた。でも、この感覚に覚えがあるような?



「あ、これって回復水……?なんか疲れが取れた気がする……」

「はい、疲れることは予想済でしたから。それに誓いの口付けは、口紅が落ちないように考慮した軽いものしかできなかったでしょう?ふふ。アオイもやはり物足りなかったのですね。まさか求められるとは」


「物足りなくなんて…!!す、少し…思ったけど。さっきも一回目はいつもよりもあっさりだなって思って…」

「一応は自重していたのです。化粧落ちも気にするでしょうし、ここで乱すわけにもいかないでしょう?まぁ、まんまとあなたに煽られて私は乱れてしまったわけですが」


「~~っ!!?煽ったつもりなんてないよ!!」

「全く、無自覚なのは困りものですね。それに不満と言えば、本来ならドレスの着付けから私が行うつもりが、一切見るのも触れるのも駄目だなんて。拷問としか思えませんでしたよ」



 間違いなく、全てをルティにしてもらう方が拷問に近くなると思う……とは思っても、人生で一度きり…あ、今から二回目か、この良き日に野暮なことは言わない。こういうときは返答をせず、曖昧に微笑んでおくに限る。曖昧って便利だ



「それにしても、あの『ザッシ』に写っていたドレスに、なぜあんなにも白が多いのかと思いましたが、理由を聞いてなんと素晴らしいことかと感銘を受けました」

「あ~【あなた色に染まります】ってやつ?確かに素敵な意味ではあるよね」



 ただし、【清楚・純粋・純潔】といったイメージの枠組みからは、私は逸れに逸れまくっている自覚はあるんだけどね。まぁ、いいんだ。こういうのは雰囲気、そう、雰囲気だから。



「ゴーシェまで同じく白を纏うのはちょっとどうかとは思いましたが、計画内容を聞いてからは嫉妬する気も失せて、むしろ同情しか湧かなかったですね。あの瞬間、彼の心は死んだんじゃないですか?」

「なっ!?失礼な!ちゃんと祝辞も述べてくれたし、兄として私をくれぐれも宜しくって言ってたじゃない」



【これ以上暴走しないように、しっかり手綱を握っとけよ】の意味での夜露死苦(4649)なのはちょっと気付いてたけどね。いいじゃん、結婚式だから!で全て済ます私。これ以外でお願いできる機会なんてないんだもん!



「魔国でのナイトウエディングでも、その私色に染まっていくアオイのドレス姿がまた見られるわけですね。非常に楽しみです」

「いや、ホントすごいね……まさか本当に少しずつ色が染まっていったようなドレスになるとは予想してなかったよ」



 しかも、下から浸食され…いやいや美しく染め上げてあって、ウエディングドレスの後に、白:シルバーが4:6のものと、シルバーのドレスを2回のお色直しで着た。

 そして魔国では白:ラズベリー色のグラデーションのドレスを2着、リイルーン同様に着なければならない。そう…着なければ、ならない。


 かつて彼がさらっと語った<目覚めのドレス、式場へ移動する用のドレス、式用のドレス、披露宴で4回、小さいガーデンパーティで2回、そしてナイトドレス>合計10着(これで最低数)。

 

 これをリイルーンと魔国の両方でやられては敵わないので、説得に説得を重ねて、目覚めのドレスは『見た瞬間に部屋から出せなくなるかもしれませんしね』という不穏なセリフを逆手にとり、カット。


 代わりに移動用ドレスとウエディングドレスが2着(リイルーン、魔国用)、披露宴ドレスが2着ずつ、私が1万ギルしか出資していないナイトドレスで9着。ちなみにナイトドレスはまだ見せてもらっていない。知りたいような、知りたくないような……

 

 それでも『ヤッター!1着減らせた~!』と思ったら……立ち消えたはずの【目覚めのドレス】が再登場。急に彼が思案顔で『考えてみたら、式の日に(こだわ)る必要はないのですよね』などと(のたま)い、式の翌朝に着たらいいと……つまり初夜の翌朝に、目覚めたら着ている状態らしい。もう、好きにして……


 ただ、移動用ドレスは思ったよりも嫌ではなかった。リイルーンではもの凄くシンプルでスッキリとしたものだったし、今着ているのはミニ丈で歩きやすく、パンプスの踵についたビジューもキラキラと光っていて、ドレスデザインと併せて一つの作品のようになっている。


 ある程度選定されていた色を身体にあてられたり、どの肌触りが好きかとか、どのレースの柄が好みかとか、そんな程度を呼ばれた時だけして、頑張ったのは引き締めダイエットとプリンタルトをちまちまと休みの度に作ったくらい?それだって作っちゃ空間魔法にしまっちゃうから、無理なく作れた。



 ダイエットは教官が鬼でしかないから確実に、的確な場所のみ痩せるのでそっちの不安はないけれど、とにかく隣で余裕綽々と兄がトレーニングをこなしてしまうことによる、精神的ダメージの方が辛かったかもしれない。

 

 まぁ、そんな程度では私の天使への信仰心はかすりも陰りはしませんがね




「さぁ、お手をどうぞ、私の愛する奥さん。そろそろ魔国へ移動しますよ?」

「はい。私の愛する旦那様」



 転移魔法で一瞬だけど、次は魔国でナイトウエディング!


 もの凄く張り切っていたゴーちゃんが何やら作っていた様子だったし、それに友達も来てくれているから、みんなに会うのも楽しみです!






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