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11:名前に込められた意味 ☆



******



「アオイ、大丈夫ですか?」

「…………く、苦しいぃぃ」



 あれから更に追加した別種類のパイや甘いパイ……ルーも普通に食べていたから、調子づいて私も勢いで食べてしまい、もはや喉辺りにまでパイがいる気がする。

 

 やってしまった、食べ過ぎた



 ルーの胃袋は異次元に繋がっているのかな?

 お腹が膨らんでもいないっておかしくない?



 土下座の勢いで(実際するのは無理だけど)キシュタルトの街の散策は明日にしてもらい、ルーに肩を担いでもらいながら何とか宿屋へ。

 一人部屋×2が希望だったんだけど空きがなく、二人部屋なら空いているそうなので、そこを借りることに。ないものは仕方がない


 そして、私は現在ベットに倒れております



「ルー、ごめんね。ルーだけでも夜店とか酒場みたいなのもあるみたいだし、行ってくれていいんだよ?どうせ、ある程度胃が落ち着くまで私はこの状態だしさ。大人しくしているし」


「特別な理由もないのに、私がアオイのそばから離れるわけがないじゃないですか。私もついつい食べ過ぎてしまいましたし、移動はまだ続くのですから今日は早めに休みましょう」

「でも……それはそうと、手は握ってなくても大丈夫だよ」



『そうですか?苦しそうでしたので』って……苦しいのはお腹であって、私は重病人ではないんですけど?私達は旅仲間ですよー?



「こちらの宿は何度か利用したことがある宿なんですが、宿主がキレイ好きなので、とても衛生的で気に入っているのです。私ものんびり過ごしますよ」



 なるほど。それで他にも宿屋はたくさんあったのに迷わずここに来たのか。確かに衛生面は大事だよね。それに、部屋の中にお花まで飾ってあってほっこりする。



「ルーが毎日お花を飾ってくれていたからか、今日の花は何かなって、つい花に目がいっちゃうようになったよ。あれはハーブだったよね、名前は……う~ん、結構メジャーな花だったのにド忘れしちゃった、何だったかなぁ」

「あぁ、あれはハーブティーでもよく使われているカモミールですよ。今アオイが感じた通り、『癒しと逆境に耐える』と言った花言葉がありますね」



「確かに癒される……逆境、ではないけど、今はこのお腹の苦しみに耐えるよ。そういえばルーって花が好きなのはわかるけど、花言葉まで全て頭に入っているの?」



 400年の知識半端ないなと常々思ってはいたんだけど。覚えちゃ消えますよ、私は



「そうです……と言いたいところですが、すべての草花、樹木の花言葉はさすがに把握しきれておりませんよ。

 ただ、自然の中で生活している一族なので幼い頃から花の名と一緒に花言葉も教えられるのです。その中で自分が気に入った花や、好きな花言葉なんかを自然と記憶していく感じでしょうか。宝石、鉱石なんかも同じですね」


「へぇ……それは大変だねぇ。でも義務とかではなくて、好きなものを覚えるならいいのかな?石言葉ってのもあるとは知らなかったよ」



 せいぜい、誕生石とかくらいしか知らないなぁ



「エルフ族は全てではないですが、名前に宝石や鉱石の名前をとることが多いのですよ。私の名前のルーティエライトもフェルスパーもそうです。ルべリウスは母の姓、トパゾスは父の姓で、どれも宝石、鉱石からつけられていますね」


「下の二つはご両親の姓だったんだ。通りで長い名前だと思ったよ」



 無駄に長いと思っていたけど、ご両親の姓だったんだね。ごめん!

 これが本当の宝石(キラキラ)ネームか、輝きが違う。



「独身の内は両親の姓をつけることによって、誰の子供なのか把握しやすくする為ですね。子が独立し、伴侶を得たら下の二つは外れて、自分の姓名だけになりますよ」

「なるほど、それはそれでわかりやすいね。ちなみにルーの名前の由来というか石言葉?って何なの?」



 やっぱり美とかそういった類なのかな?



「大抵が瞳の色、もしくは髪の色に似たものを選びます。

 私の瞳が母と同じルべリウス色だったので、そちらの意味が込められていますが、ルーティエライトと言う鉱石と色味が似ていたので、ルーティエライトの響きを気に入った母が選んだようです。結構適当な所があるんですよね、母は。

 あとは、雲一つない満月の綺麗な夜に生まれて、髪が反射して綺麗だったから、月の石フェルスパーと名付けられたそうです」


「ルべリウスとルーティエライトって鉱石の名前は初めて聞いたなぁ。

 ルーの瞳はラズベリー色で綺麗だもんね。それに銀の髪と月……確かに月明かりに輝く髪色は神秘的だよ」



 別の鉱石に意味を移すとは、と思ったけど、日本でも当て字の名前とかあるしね。そう思えば別に不思議でもないのかな?



「ありがとうございます、照れますね……ルべリウスは別名<紅電気石>と言われていて、私の得意とする雷魔法ですが、色が赤い電気を帯びているのです。そのせいで<(あか)雷光(いなずま)>なんて恥ずかしい二つ名をつけられたのですが……」



 あぁ……なんかギルドで囁かれていた、中二病的な二つ名。

 確かに呼ばれるのは少し抵抗あるよね。けど、名前につけた影響が魔法にも及ぶんだ。案外、名付の重要度って高いのでは?



「ルべリウスには良縁を引き寄せやすくし、自分に必要とする理想の相手を引き寄せるとか、ネガティブから抜け出したい時に希望をもたらす効果等があるみたいですよ。フェルスパーは【健康、幸運、恋の予感】と言う石言葉があります」



 へぇ、花言葉もだけど、石言葉も中々奥が深いんだねぇ。ふむふむ

 ルーさんのポジティブなところとか、健康的な感じはちゃんと当てはまっているかも



「昔はただ、『そうなのか』程度にしか思っていませんでしたが、今は良い名をつけてもらったなと感謝しています」

「そう思えるなら、きっとご両親も喜ぶね。何か名前に感謝するようなきっかけでもあったの?」



「……ええ。あなたと出会えました。自分(わたし)に必要とする理想の人(アオイ)を引き寄せてくれ、希望をもたらしてくれましたからね。

 ずっと何かが足りなくて、その何かを探し求めて生きてきましたが、それがアオイだったのですよ」

「……そう、なんだ」



 さすがに笑って突っ込めるような雰囲気じゃないから、茶化したりはしないけど……

 逆にどう返せば良いのかがわからない。とんでもないことに、私を好いてくれているらしい、という事くらいは、もう嫌でも理解はしている。

 でも、やっぱりそこまで彼に好いてもらえる要素が一体どこにあるのか、という点ではどうしても理解し難い。



 黙って俯くことしか、今の私にはできない



「あぁ……すみません。アオイを困らせたくて話したのではないですよ。ちゃんとわかっておりますから。ただ、こう思っているという事実だけ知って頂けたら十分ですから、ね?

 それよりもアオイの方は何か由来はあるのですか?アオイの話も聞かせて下さい」



 こういう気遣いできる人なんだよね、ルーって

 でも、今回はそこに甘えさせてもらうね。



「あ、うん、由来……由来ね、私は6月生まれでね、実は葵の名前もタチアオイって花からなんだって。

 母国には梅雨っていう、春と夏の間に長雨が一ヶ月位続く時期があるの。

 その梅雨が明けると夏本番を迎えるんだけど、タチアオイは別名<梅雨葵>って呼ばれていて、下から順に開花して、一番上の花が咲く頃に梅雨が明けるって言われているんだよ」


「『ツユ』、そのような季節があるのですね」


「その時期にちょうど実家の庭にも赤いタチアオイが咲いていてね。

 花言葉が<気高く威厳に満ちた美>なんだけど、真っ直ぐ空に向かって咲いている、その凛とした姿に目を奪われたんだって。

 まぁ今は美の欠片もないから名前負けかもね。若い頃ならちょっとは可愛かったと思うんだけど。。。なんてね!」


「いいえ、アオイは名前負けなんてしていません。

 花言葉は<大望・豊かな実り>もありますよね。世界を旅したいという、望みを持って異世界へやってきたのでしょう?こんなに大きな望みが他にありますか?

 ふふ。それに私に美味しい食事の提供をしてくれているので、私にとっては豊かな実りですよね」


「あはっ!なるほど。そっちの意味で捉えるならピッタリかもね!ふふ。そっちの方が本当の由来だったのかもしれないね」



「……いいえ、どちらもでしょう。ご両親が目を奪われたアオイに、私は目だけではなく心まで奪われておりますからね」



「え?何て言ったの?」


 何かニコニコと呟いてたよね?


「何でもないですよ。少しはお腹も落ち着いてきましたか?少し歩けそうなら、散歩代わりに夜の街を歩いてみませんか?見るだけでもアオイなら楽しめると思いますよ」



 そういえば、話している間にお腹も少しだけ落ち着いたみたい。

 夜に引き立てられた色とりどりの灯で賑わっている屋台は、さながらイルミネーションのようでとても綺麗だ。



「そうだよね、明日の為の下見にもなるし行こうかな。食べ物以外とかもきっとあるよね!」




 実は可愛いものが好きだけど、ちょっと身に着ける系ではもう年齢的に厳しいので、せめて小物だけでもと可愛いものを集めていたりする。



***



「宿屋の二階からでも賑わっているのはわかっていたけど、降りてみたら更にすごい人だねぇ……」



 これはフラフラ見ていたら間違いなく揉みくちゃになるね!だからってわけじゃないけど、またオカンのルーが手をがっちり繋いでおります。


 抵抗はしたんだけど『こういう賑わいに紛れて人攫いがあったりするのですよね……』なんて不穏なこと言われたらさ……

 ビビりなら絶対手を繋ぐ方を選ぶよね?繋ぐというよりしがみつくが正しいけど。誘拐怖い!!

 

 でも、これじゃ益々彼に依存しちゃうし、自活の道はより遠くなった気がするよ。

 もはや地平線の彼方だ



「ミトパイ、フィシュパイとキシュタルトは近いだけあってパイ生地を使う名物が多いんだね。具や味付けでもちろん印象はがらりと変わるけど。キシュタルトはパイだけじゃなく、タルトも名物なんだぁ」



 屋台を眺めながら歩いていると、スイーツタルトのお店も多く見られた。

 スイーツタルトが色とりどりに並ぶのって宝石みたいにキラキラしていて綺麗だなって思うのは私だけだろうか?


 そうはいっても見るよりも食べる方が断然好きなんだけど。

 


「実は私はフルーツタルトの方は食べたことがないんですよね。果物はもぎたてが一番美味であると思っているので。鮮度が落ちたものがなぜ乗っているのか理解できなくて」


「あーーーーなるほど。言っている意味はわからなくもないかなぁ。果物をメインで考えるのならルーが言っている方が正しいのかもね。

 でもフルーツタルトは下のタルト生地と間のカスタードクリーム、そこに果物が合わさって初めて完成するからね。別物なんだと思って食べてみてよ」



 ちょっと違うけど、お皿に冷めたご飯は嫌なのに、おにぎりだとむしろ冷めていても美味しいというか。同じであるけど、別物なんだよね。



「別物という捉え方ですか、なるほど。では、明日ぜひ一緒に食べましょうね」

「予想だとまたルーは『こ、これは美味しいですっ!』って叫ぶ気がするけどねぇ。ふふっ」


「……それは私のモノマネですか?そんな言い方していますかね。アオイだって、興奮すると『ふぁぁぁぁ!』っと叫んですぐに走り出してしまうじゃないですか」



 私のルーの声マネに対して、今度はルーがヤレヤレといった仕草で私の声マネをする。そんなやり取りがおかしくってお互いに顔を見合わせて、ひとしきり笑った。




 明日も『ルー』『アオイ』と一緒なら楽しく過ごせそうだな―――



 お互いに同じことを思いながら、夜の街を見て回った





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