23:最後のプロポーズ ☆
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「みんなぁ~元気でねぇ~わぁぁぁん!」
「さぁアオイ、もうそろそろ皆さんも困ってしまいますよ。別れを言ってからすでに一時間以上経過してますし」
私事で恐縮ですが、本日、魔国学園を卒業致しました。
慣れない文化に戸惑いながらも、ものすごく濃い三年間だったなと思う。皆は平和に過ごしているというのに最弱の私ばかり次々とトラブルを起こしたり、巻き込まれたりしながらも何とか生き伸びて来れたのは、一重に優しい友達と最強で最恐の恋人ルティ、そして戻って来た運のお陰だと思う。
クラスの子達はいつの間にか定期訓練と化していたルティの【戦力底上げ放課後補習】のお陰で、他のクラス、学年よりも頭2つ分は特出してるのだという。
なるほど……変化がないのはどうやら私だけのようですね。
そのお陰でクラスの1/3ほどは、進学はせず予定よりも早く冒険者稼業につく。キャンディちゃん、イーロちゃん、ホヘットちゃんは<美人過ぎる冒険者>として、正式なデビュー前から話題らしい。
女子’Sのハニーちゃんの抜けた穴をキャンディちゃんが埋めたというよりは、同じボーン君親衛隊として意気投合したというか、推し活の為のお金を稼ぎ、ボーン君をアイドル化させようと目論んでいるそうだ。どこの世界でも推し活と課金は切っても切り離せないですよね。
その他の子もキラ君宅…あ、お城の近衛騎士や国の防衛団の試験を受ける者もいて、進学組とは別々の道を歩んでいく。
ちなみに進学はするのだけど、在学中に恋仲になったアミーちゃんとダンチョ君、アーチェリーちゃんとハガネ君達はなんと揃ってさっくり入籍してしまい、今後は夫婦で大学院に進んでいくとか。そういう形も珍しくないのが魔国らしいけど、聞いた時はびっくりした。
そして一番意外だったのは、キラ君とハニーちゃんが順調に誠実なお付き合いをしているということ。あの文化祭で無理矢理作り上げたミスター&ミス魔国からのフィーリングカップルで、ズバリ自分に告白してくれたことが、彼のハートにトスっと何かが刺さったらしい。
求めて欲しい系の寂しがり屋タイプのキラ君に、しっかりとしたハニーちゃんはピッタリかもしれない。
元々の性格は至って真面目な彼は、徐々にハニーちゃん一筋になっていった。見せつけ度合ではお国柄もあって、ルティをも凌いでいたと思うけど、イチャコラをルティの前で見せつけると、仕返しに面倒なことが起こると何回目かで学んでからは、ルティのいないところでイチャイチャするようになった。
何事も安全第一ってやつだね。
あれほど「不倫は文化だ!」いや、違うな。生殖本能がうんちゃらかんちゃら言っていた割に、自分だけを見てくれて、自分も相手だけを見るという愛し方にどっぷりとハマり、上二人の兄にも力説しているらしい。
いやはや変貌ぶりが半端ないけど、誠実一番を訴えてきた甲斐があったってものだ。正直、私はなにもしてないけど
あとビックリなのが、まさかのキラ君がお兄ちゃんになるとかで……長年末っ子を決め込んでいたキラ君は、それはもう楽しみにしているらしい。一番授かりにくい種族と聞いていた竜人族で四人目を授かったのは歴代竜王を見ても初めてとのことで、今魔国はお祭りムードである。
また魔国史に子沢山竜王として、いつか載るんだろうな……。
ボーン君は進学するけれど、ドンタッキーのポスター契約を在学期間中だけ結んだとか。「骨食べ放題」と言われ、二つ返事だったらしい。
骨を持たせてうっとり(骨を)見つめる姿の色気は凄まじく、ポスターに最適なのだとか。まぁ彼が幸せならそれでいいのではないかと
そして敬愛するブラザーのゴーちゃんですが、大学院へ進学し、私の苦手な魔国史の教師を目指すらしいです。「変な歴史の中に埋もれた、まともな方の歴史を教えていきたい」とのことで、それはぜひとも頑張って頂きたい!
ただ、私がこのまま卒業して離れてしまうことに、長いまつげを濡らしながら悲しんでいたけれど、今生の別れではないという証に、ついに本当に養子縁組を結ぶ運びとなりました~!
意外にも提案はルティの方からだった。こちらの世界に私の帰る実家がないので可能なら作ってやりたい、私さえ良ければ話はつけてあるというのだ。と、いうことで私もゴーちゃんとは兄妹になりたかったし、ゴーちゃんも激しく同意してくれ、そして肝心のへーリオスさんやモルガさんも快くOKしてくれたので、めでたくドロン家入りしたのです!やぁ、人生とはわからんものですね
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卒業式が終わり、屋敷に戻ってからミニ卒業祝いをしてもらった。
バーべさん、フランベさんも…もう一度言うけど今生の別れじゃないのに、目に涙を浮かべながら料理を運んでくるものだから、思わずもらい泣きしてしまって、それに対してまたゴーちゃんも号泣し出して、泣き声の大合唱のままお開きになった。美味しい料理は涙が混ざって少ししょっぱかったけど、しっかりそれは食べました。
ちなみにルティとカーモスさんは当然泣いていない。カーモスさんにおいては欠伸を嚙み殺した涙だけ確認したけど。ルティは珍しく宥めることもなく、泣きたいだけ泣けばいいとばかりにそっとしておいてくれていた。
「アオイ、少しお時間を頂けませんか?」
「ん、どうしたの?いつになくご丁寧な物言いだね」
なんだろう?よく考えてみたら今日のルティは口数が少ない。私やゴーちゃんがわんわん泣いているせいだと思っていたけど、それとはまた違う気がする。ずっと何かを考えているような、ちょっと心ここに非ず的なところがある。
「すぐに済みますので、一旦アオイの自室でお待ち頂けますか?紅茶と小菓子を用意してますし、少し休憩していて下さい」
「あ、うん。いつの間に紅茶なんて…でもわかった」
言われた通り自室に戻る。何だかわからないけど、すぐに済むというし、わざわざ探りを入れるよりも大人しく紅茶を飲んでいた方が賢い選択だろう。今日は……この赤い色と香りはローズヒップティーだね、うん美味しい!
本当に一杯を飲み切った辺りで彼から声が掛かった。隣の部屋に移動するだけだと言うのに、ルティはパーティーのエスコートかい?と思うような所作で、私の手を取り自室へと招いた。
妙に王子然としたルティからはバラの香りがふんわり香り、香水変えたのかな?なんて思いつつも、さっきまではこんな香りではなかったような?なんて考えていた。
「では、どうぞお入り下さい……」
「う、うん。ルティ、なんか今日はいつもと雰囲気が違くない?」
扉を開け中に通されたものの、部屋の中の灯は消されていて、わかるのは窓から差し込む月明かりと、それからむせ返るほどのバラの香り。
薄暗い中をさらにエスコートで進み、なぜか月明かりが差し込むバルコニーへと続く、大きな窓の前に立つよう誘導される。
彼はここまで一言も発していない。エスコートの手が解かれたと思えば、今度は私の前に恭しく跪き、見たこともない程の大きなバラの花束を空間魔法から取り出した。
部屋にあるのは月から零れる光のみ、そしてそのわずかな月の光に反射して輝くルティの銀の髪が、より一層幻想的で神秘的な雰囲気を作り上げていた。そんな目の前の地上の月に、私もつい見惚れてしまう
「アオイ、もう何度目かもわかりませんし、今までも、もちろん本気ではありましたが……これが最後になる、そう思っても宜しいでしょうか?」
「最後……あ……」
何度それを受け、そして何度躱してきたかわからない。相手がルティじゃなければ、私はとっくに飽きられ捨てられていただろうなと思う。
以前、結婚について話し合ったあと、一人でじっくりと考えていた。常に歩み寄ってくれている彼の為に、今度は私から歩み寄ろう。その歩み寄りの最短はどこなのかを考え、私も密かに決めていた。
「この三年間で厳選を重ねたものだけを摘み取り、空間魔法にしまって保存し続けて参りました。宝石名ではないですが、このバラは「ラズベリーローズ」私の瞳の色、そして愛を表しております。
花束は108本……アオイは花言葉を勉強しておりましたよね、覚えておりますか?」
「――っ!………うん」
プロポーズを受けるのだと、そうわかってはいたのに、今まで受けて来た時にはなかった、心が震えるような感動がそこにはあった。それはきっと自分の気持ちや覚悟も決まっているからだ。
ようやく私も伝えられる
「そしてこの部屋のバラは全部で999本あります。その一本一本に私の想いが込めてあります」
「………」
「アオイ、何度生まれ変わっても私はきっとまたあなたを愛してしまうでしょう。……どうか、私と結婚して頂けませんか?」
プロポーズと共に部屋の灯がともされ、部屋中にバラが飾ってあるのが見て取れた。ベッドの上、さらには天蓋にまで装飾されている。
ラズベリーピンクのバラは「愛の誓い」、108本が「結婚して下さい」、999本が「何度生まれ変わってもあなたを愛する」だ。
こんな誓いを大好きな恋人にされて、心揺さぶられない人なんているはずがない。
私もこの三年で結構、花言葉を勉強していた。エルフ族はそういった伝統があるから、彼との未来を考えるのなら必要だと思ってのことだ。
特にバラは本数や色などで意味合いが変わるので、覚えるのは大変だったけど、努力が実って本当に良かった。今回は「わからない」なんて返したくなかったから。
返事をする為、涙を耐えながら視界を彷徨わせていると、ふと目に留まった黒いバラ。こんなにも部屋中がラズベリーローズに溢れているというのに、一本だけ黒いバラがあるというのはつまり……
私は真っ直ぐ、小さなテーブルの一輪挿しあった黒いバラを手に取った。ルティはただ、黙って私の様子を見ている。もう彼だって確信しているのだ。なんの疑いも持っていないのだろうし、私もここに来てふざけるつもりはない。
彼の正面に深呼吸をして立つ
結果も、その先もちゃんとわかっている、それでもこんなに緊張するんだね。なんとなく正面からも似たような緊張感が空気から伝わってくるような気がする……ルティも同じなの?あんなに挨拶のように言い続けていたのに
「ルティ、私のお返事分まで用意してくれてありがとう。私からも、一本しかないけれどありったけの愛を込めて送るね」
「……はい」
「プロポーズをお受けします……二人で一緒に幸せになろうね、永遠の愛をあなたに……」
これが、バラ一本の意味と黒バラの花言葉、だよね?もちろん私からの本心でもあるけれど、ルティもこう言って欲しかったってことなのかな。
「……恋人になってから三年半ほどでしょうか?エルフの感覚で言えば、たった三年半であるはずなのに結婚までの道のりと考えると、まるで悠久の時の中にいるようにも感じました。しかし、ようやく、ようやく私は……」
先ほどまでは緊張からだろう、少し硬くぎこちない笑顔だった。それが受け入れる返事をした瞬間から、春を待ちわびた花たちが一斉に花開いたような、甘く柔らかい笑顔に変わっていった。
先を越されてしまったものの、ようやくルティに結婚受け入れを伝えられた喜びがじわじわと込み上げてくる。彼のこんなにも心から幸せだという表情見て、そうさせたのが自分なのかと思うとなんだか面映ゆい。
「ルティ、待っていてくれてありがとう。お陰ですごく充実した三年間だったよ。たくさんの我慢をさせちゃったんだもん。もう魔法誓約書でもなんでも書くよ……あ、もちろん熟読させてもらいますけど」
熟読は必須ではあるので、何日かかろうとも読ませて頂きますとも。でも、これで私もプロポーズを受け入れたわけだから、次はいよいよ結婚式の準備をしなくちゃだよね?きっと、ルティはなるべく早くと思うはずだから速やかに動かないといけないね!
本当は余韻に浸りたいところなのだけど、そんな風にぽやっとしていると、気付いたら挙式当日を迎えるのではないかという思いが脳内をよぎり、一気に冷静な現実へと戻って参りました。
「ルティ、この世界でも両家の親へ結婚する報告をして、挙式っていう流れなのかな?もう今更婚約を行うなんてことはしないと思うし」
「そうですね。ずっと準備をしてきましたが、最後の最後で手は抜きたくありませんので、気候も良くなる来月に式を挙げましょうか?」
へぇ~さすがルティ。もう準備してあるのかぁ……ん?プロポーズは今受けたところなのに?
「はい?ら、来月っ!?」
「そうですけど、もっと早い方が良ければ週末でも宜しいですよ」
「いえ、来月でいいかなっ!」
いやいや、週末なんてもっての外だけど、来月!?はっや!!エステとか……は定期的に受けているか…ダイエット…も卒業に向けて最近ブートキャンプ的なものをしたばかりだし、あとはなんだ?プリンタルトだっけ?これはまぁ一ヶ月あれば無理なくできるのか??ふむふむ、問題ないのか……
「うん、考えてみたら問題なさそうだね。でも招待状とか…」
「あ、すでにお渡ししてありまして、その場で返事も頂いております」
「え?プロポーズ前に招待状を渡したの!?」
「ええ、アオイの気持ちはちゃんとわかっておりましたから」
「えぇ……おかしいなぁ、今回は誰にも言ってなかったはずなのに」
「ふふ、愛する妻のことですから、考えていることはお見通しです」
「さすが愛する夫は違いますねぇ」
「愛する夫……実感が沸いて良いですね」
「ふふふ、でも普段は「ルティ」のままでもいい?」
「ええ、もちろん。私も名前で呼んで欲しいです」
誓いのキスは挙式でも交わすけど、今はただ二人だけの空間、月の前で愛を誓い合う
少し行儀が悪いけど、靴も脱がずに抱き合いながらバラで一杯のベッドへ転がった。ふわっとバラたちも跳ね上がり、甘いバラの香りに再度包まれているような気分になる。
抱き締めていた腕を解き、彼の頬を両手で包む。この後の私の行動に隠しきれないほどの期待を宿した瞳を見つめ、私から口付けた……
それから予定通り一ヶ月後、私達は結婚式を挙げる
☆新連載始めました☆ 本日よりスタートです!
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※初回のみ日曜&2話連投、以降は1話ずつお馴染みの月~土のAM6時投稿です
<作品タイトル>
「新人魔術師は、聖剣勇者…ではなく、成犬ユーシャのお世話係を拝命しました~召喚されたのは、もふもふワンコ!?今更、魔法陣を書き間違えたとは言えないので、このまま浄化の散歩に出ます!~ 」
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今作もラブコメです!あらすじは作品側に記載のものを読んで頂けると幸いです(^^)