18:修学旅行は、ワノ国です!!~ワノ国修学旅行編①~
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時が過ぎるのは早いもので、無事二学年に進級し、過酷なMBA祭も文化祭も乗り越えて、二年次の一大イベントのアレがやって参りました
「イエーーーーーーーーーーイ!!!やってきましたワノ国!!なんか、なんか、故郷っぽい匂いまで心なしかするかもしれない……」
「ふふふ。良かったですねぇ、たまたま修学旅行がワノ国で。アオイは運が良いですね」
運か……先週急に『突然ですが来週ワノ国へ修学旅行がありますので、各自準備をしておくように』とルティチャーより話があり、一瞬の静寂の後、教室中が騒然となった。
そんな大事な話を、「プリントを配り忘れてました~」みたいなノリで話す時点で『たまたま』というよりも、『話し合い』の方の部類ではないのか?とほぼ黒と見てはいるが、この際そんなことはどうでもいい。今、ワノ国にいること、それが全てだ!!やっほーい!!
ほとんどの子達がワノ国には一度や二度は来た事があるらしく、転移魔法が使える者は転移で現地集合、現地解散だけど、それ以外の者は騎竜なり、船なりで集合場所までは自力で調べてくるらしい。そこからはグループ別になって各グループにつき先生を一人つけながら自由行動するというものだ。
かなり自由度が高く楽しそう!とはいえ、私はほぼいつものメンバーなんだけどね
私は転移できるけど、来たことないからね。船は時間かかるし船酔いが心配だから、またも最速ルートの騎竜で移動だったよ……でも今回は竜化したキラ君がゴーちゃん、そしてハガネ君を、こちらには私とルティ、まさかのアーチェリーちゃんを乗せての並走、いや並飛空をして一緒に向かった。
今回、なぜアーチェリーちゃんが一人でこのグループに来たかというと、アミーちゃんがダンチョ君に文字通りゴリ押しで押しまくり、めでたくお付き合いが始まったとか。ロックオンからの早業がスゴイ……
キラ君押しだったはずのキャンディちゃんは、あっさりとメガネを取ったボーン君に心を奪われ、ボーン親衛隊のグループに行ってしまったと。男子がボーン君しかいない、一見するとハーレム状態っぽいけど、親衛隊=全員ライバルなわけで……地獄絵図になることしか想像できない。
ちなみに親衛隊にはカーモスさんと仲良くしていたはずのイーロちゃん、ホヘットちゃんまでいる。あれ?チームカーモスは解散ですか?
ここにもカーモスさん推しだったアーチェリーちゃんがいるけど、珍しく他人の恋路に興味の欠片もないルティが『アレだけは考え直しなさい』と言っていた。
なんとなくカーモスさん側が本気で恋をする姿が想像できないし、もの凄く「やめておけ」というセリフが本気だったのを感じ取れて、アーチェリーちゃんも動揺していた。いや、そうなるよね!?
そしてハガネ氏をスカウトしたのはこの私。だって彼はワノ国フリークだからね!詳しくて無駄なく回れる人がいると安心だ!SHINOBI体験、実は私もやってみたい
そういえば『いやぁ、キラ君って本当に竜人だったんだねぇ』と言ったら『ようやくトカゲじゃねぇってわかったか』と、多分ドヤ顔しているっぽい竜にちょっとイラっときたけど、叩いたらこっちがケガすると思って耐えた。本格的に尻尾の先っちょを切ってみる計画を立てるか?
「ハァ、二回目とは言え、やっぱり騎竜は慣れないなぁ。ルティ支えてくれてありがとう」
「いえ。私はアオイとの騎竜ならいつでも喜んでお受けしますよ。あ、ちなみにアオイは3回目ですね。あーちゃの状態では、それはそれは大喜びで……ふふふ、可愛らしかったですよ」
「そういえば、そんなこと言ってたね。でも確かに小さい頃はわんぱくだったような気がする。なにが起きても幼いが故に気にしてなかったというか。まさか多恵先生の話をしているとは思わなかったけど。懐かしい~」
「……アオイ、そのタエ先生はちょっと教育方針がおかしいと思いますので、私達の子供には吹き込まないで下さいね」
「えぇっ!?多恵先生はすごく美人のカッコいい先生だった記憶なんだけどなぁ。私の長いものには巻かれろ精神は多恵先生から学んだようなものだよ」
「そうなのですね。ぜひ、それはアオイの中の美しい記憶の中だけに留めおいて下さいね」
もの凄く慈愛に満ちた笑顔で言ってるけどさ……ようするに、もう多恵先生とのことは記憶の中に監禁しとけってことね?楽しい先生だったのになぁ
キラ君まで『アオは自分の子供に碌なことを教えなさそうだ』と超絶失礼なことを言いながら、ジューススタンドの飲み物をがぶ飲みしていた。口の中がパッサパサなのかな?
「アオちゃんそんなことより、せっかくのワノ国でしょ。どこから行く?トウトとセイトは絶対行きたいんだったよね?」
「そう!私、そこでしか食べられないっていう【シースー】ってやつをどうしても食べてみたいの!!」
だって明らかにお寿司じゃない?前世は「ギロッポン」とか言ってたり、肩からセーター引っ掛けちゃうような人がシースーを広めたのかなとか考えてしまう。
期待していたものとは違っていた場合のショック感は大きいだろうけど、でも見て、食べてみないことには始まらないからね!多分、地名も漢字にしたら東都、西都ってニュアンスじゃないかな?
今まで貯まる一方だったタンス貯金ならぬ空間貯金達も、今回はゆるゆる開放で使っちゃうぞ!!
「そう言えば、素直な気持ちを聞けちゃうおまじない付きの【恋する焼き菓子】ってお菓子が、アジェアで密かに流行っているんだってね!トウトにも確か支店があったから、話の種に買ってみようかな~」
「ゴフゥッ!!ゴホッ!ゴホ、ゴホ……」
「わぁっ!キラ君、大丈夫?慌てて飲むからだよ」
「アオちゃん、キラは飲み物にむせただけだよ。それよりその焼き菓子屋さんだけど、残念ながら最近店を畳んだみたい」
「えぇ!!観光案内にも【話題沸騰中!】みたいに書いてあったのに?あれかな、そもそもお菓子が美味しくなかったとか」
「おそらくそんなところでしょう。客商売はそんなに甘くはないということですよ。良からぬことを考えれば消され…いえ、消えていくものです」
え?消され…?この店そんなにヤバイお店だったの!?横領とか詐欺まがいなことでもしたのだろうか?まぁ、今はないならないで仕方ないし、そんなところから買わずに済んで良かったと思おう。
それにしても新鮮~!のっぺりとした顔に黒髪、黒目が多い。仲間だ!仲間がいる!!もう、来る日も来る日も美形ばっかり見てたからね、やはりモブあっての美形だと思うんだよ。モブまで美形だと、やはりそれはモブになり得ないわけで。むしろ美形はモブを崇めるべきだと思う。
「久しぶりに見た和だぁ~!こっちの人の服装はなんかオシャレにカスタマイズされた着物みたいな服だけど、私の知る着物よりも動きやすそう!!」
「アオイ、このワノ国のキモノは貸衣装があるそうですよ。せっかくですから着てみませんか?」
「え、いいの!?じゃあ、どうせならみんなも着てみない?」
「オレは絶対SHINOBIの格好にするでござる!」
「あ、僕もそれ着てみようかな、動きやすそうだし、目立たないってのがいいよね」
「じゃ、俺もシノビってやつでいいや」
ハガネ氏はなぜかワノ国についてからは「ござる」言葉に変わってしまった。ワノ国の空気が彼をそうさせているのか……忍びに対するリスペクトがすごい。でも「拙者」とは言わないのね
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そういえば、洋風な顔立ちの人の和装ってどうなんだろうか?アーチェリーちゃんはミニ丈の可愛い和装をチョイスしていたけど、個性的な和服と個性的なリボンヘアがとても良く似合っていた。
オシャレ番長は個性と個性をぶつけてもうまくまとめ上げるが、私が個性をぶつけようものなら崩壊する未来しか見えないし、たぶん庭仕事の次は『トイレ掃除には良さそうな格好ですね』とか言われるに違いない
でも、ご安心を。もちろん着付けなどは、ワノ国のスタッフさんが全て行ってくれますので!
「もうみんな待ってるかな~」とアーチェリーちゃんと話しながら集合場所へ足を運ぶと、何やら人だかり……の中心には美しい銀髪のエルフ、ルティがすでに待っていた。チラッと見えた部分だけでもわかる。なんていうか、ファンタジーな着物のせいか、それはもう見事に彼は着こなしており、膝から崩れ落ちそうな程、似合い過ぎている。
王子が街にお忍びに来たけど、やんごとない雰囲気は隠しきれていないといったところか……カッコよすぎて鼻血を拭きそうだし、見惚れるし、そもそもあの人だかりの中へ『どーも、私が彼女です!』と入っていく勇気が出ない。
「ねぇアオイちゃん、ルーティエ先生のところに行かなくていいの?すごい人だかりだけど」
「あのスーパースターの凱旋で、空港の出待ちファンに囲まれているような中に、私が入れると思うの?」
「クウコウ???えっと…ほとんど意味がわからないけど、入っていけないってことね」
「うん。ところで、残りのメンズは一体どこに雲隠れしてるのかな?通常なら全員が取り囲まれていて良さそうなものじゃない?」
私達は建物の陰で息を潜ませながら、辺りをキョロキョロ見回してみたけど、他の三人が全くいる気配がない。
「アオイ殿、ルーティエ先生のところ行かないでござるか?」
「う~ん、でもあの人だかり……ぎゃーーーー!!!ハガネ君!?」
「俺達もいるぞー。これって結構動きやすくていいな」
「アオちゃんビックリさせてごめんね。いつ気付くかな~ってずっと後ろにいたんだけど」
こんなところから忍びになり切らんでもいいでしょうよ!心臓が口から飛び出たわ!!
「アオイ!!」
「げっ!ルティ、こっちに来ちゃダメ!」
「そこにいたのでしたら呼んで下されば、、、ああああ!!アオイ…なぜその恰好なのです?危険ですよ!ダメです、似合い過ぎます!!そうだ、私のキモノを被って身を隠せば……」
「ルティこそ往来のある場所で脱がないでよ!!隠しきれない色気が、さらに前面に押し出ちゃうから!」
ほら、周りの女の人達が……ああ!間に合わなかった!!倒れだしてるし。はい、みんな揃ったし、もう行こう!移動しちゃいましょー!!
「心配ではありますが、これで街歩きデートもいいですね。私達は愛し合う恋人同士なのですから、ピッタリと離れず歩けばいいだけですし」
「ふぁい……でも、ルティの色気にクラクラするから、近づかないで。遠目に見ているだけで満足だから」
「それでは意味がないではないですか!しかし、アオイは服装が変わると目に見えて反応してくれるようですね。こちらの服装も何着か購入しておきましょうか……」
「だって、二次元をリアルで見ている感覚なんだもん!しかも毎回着こなしてるし。貧血で倒れない己を褒め称えたいくらいだね!」
「アオは興奮し出すと、より一層なに言ってるかわかんねぇな」
「わかる部分だけ聞くのがコツだってルーティエ兄さんが言ってたよ。わからない部分は解読しても結局理解できないことの方が多いからって」
え?私の扱いってそんなんだったのか!?コラー!!人を変人扱いすんなー!!ちょっと腐ってるだけだ!!
一方、ハガネ君はアーチェリーちゃんに『オレがアーチェリー姫をお守り致す!』とか言って密かに盛り上がってた。主従関係も萌えるよね!
そして、変身ごっこにハマった幼稚園児のように、キラ君は動きやすさ、ゴーちゃんは目立たなくていいねぇと言って忍装束を甚く気に入り、ハガネ君の見よう見まねで忍びっぽい動作を二人でしていた。
そっちだって十分楽しんでるじゃん……観光に浮かれる外国人と一緒じゃんと密かに思った。
ルティも、引率ということをはなから放棄しているのか『あとで二人で抜け出しましょうね』とか提案してくるし。いや、グループデートじゃねぇよ!
楽しい。実に楽しいと私も思ってはいるから、はしゃぐみんなの気持ちもよくわかる。それでも一言言っておきたい……
これって一応修学旅行だから!!少しは学ぼうよ!