17:ララと呼ぶ者/side ラトナラジュ ★
ブクマ登録、☆評価、ありがとうございます!(感涙!)
******
ルーティエが100年ぶりに帰省したと思ったら、少し年を重ねたアオイちゃんという人族も一緒に連れて来て、かと思いきや寵命守を使って寿命分けていたり、そのまま様子見にかこつけて長期滞在させていた。
弟の行動力の早さに、お兄ちゃんはびっくりだ
魔国へも会いに行ったし、こちらにも遊びに(というよりアオイちゃんについてきているだけだが)ちょこちょこ来るようになった。中々に怒涛の約1年といったところか……
両親もそれはそれは喜んでいるし、俺も接触はあまりさせてもらえないが嬉しく思っている。
そこにきて、今回の<アオイちゃん小っちゃくなっちゃった騒動>。どちらかと言えば、小さくした相手に対しての騒動ではなく、<ミニチュア5歳児あーちゃへの可愛さ旋風>が騒動になっているといったところだが。
小さい子供に飢えているエルフ族には、目に毒なほどの可愛さと愛嬌を振りまいていた。
ようやく俺にもお鉢が回ってきて、アオイちゃん改め、あーちゃとご対面&自己紹介
「こんにちは、あーちゃ。お兄ちゃんはラトナラジュだよ」
「あ、ルーチェのおにいたんもイケメーン!あーちゃらよ。こんにちわぁ」
「うわ!すっごい笑顔で『おにいたん』呼び……ヤバイ泣きそう、可愛い……持ち帰りたい」
「そんなことしたら殺しますよ?」
「おなまえは…ラチョララチュ?あえ?ララララチュ……ん~と、ララたん!」
「ララ…たん?」
「なんです?そんなに嫌なのですか?おじさん呼びにさせますよ」
「おじたん?」
「いや、いいんだ。ちょっと懐かしくなってさ……あーちゃ、ありがとう。お兄ちゃんのことはララって呼んで」
その懐かしい呼び名に、ずっと忘れていた……いや、忘れようと封印してきた記憶が蘇った。俺はダメ元で30分だけでも、あーちゃと二人にしてくれないかとルーティエに願い出た。もちろん殴られて且つ、拒否されるだろうくらいに思ってはいた。
しかし勘のいい弟は、普段の俺と様子が違うことに気付いたからなのか、ルーティエの目の届くところでなら、と許可をくれた。やはり兄想いの弟は健在であったようで、兄は感涙に打ち震えている
俺はルーティエが用意した、【あーちゃ専用遊具園】のブランコにあーちゃを抱えて漕ぎながら、独り言のように、あーちゃへ昔話をすることにした。
******
「あーちゃ、俺ね昔、昔、すっごい昔に大好きだった女の子がいたんだ」
「ふぇ?ララおにいたんのすきなこ?あ、もっといっぱいこいれぇ」
俺にはかつて俺を『ララ』と呼ぶ、人族の『ソニア』という名の、好きな女の子がいた
まだ弟が生まれる前で100歳を過ぎた辺り、冒険者になって初期の頃に彼女とは出会った。依頼討伐対象の魔獣を追っている時に、追いかけられていた彼女を助けたことがきっかけだ
まだ、初期の頃は力任せな戦い方をしていたせいか、ケガもよくしていて、この時は口内を切ってしまい、少し腫れていた。その為、名前を教えてくれと言われたときに「ラ…いってぇララジュだ」と答えてしまった。
それ以来「ふふふ。ララジュね、じゃあ、ララでもいい?」そう呼ばれるようになった。
俺自身、エルフ族特有の、あーちゃ的に言えば『イケメーン!』だったし、人族にも当然モテまくっていた。まぁ当たり前のことなので、別に自慢したいわけではない。
容姿で言えば、俺は少しだけ垂れ目がちで甘いマスクタイプ、ルーティエの方が涼しげな目元(相手によっては氷漬けにするレベル)でシャープな顔立ちの……わかりやすく色系統で例えれば、俺は暖色、弟は寒色みたいにタイプが違う
俺はそもそもルーティエのように人嫌い気質ではないから、彼女ともすぐに仲良くなった。
ソニアはとにかく誰よりも笑顔がとても魅力的で、俺は彼女の笑顔を見る度に癒されていた。冒険者業をしながら、合間を縫って彼女に会いに行っていた。
そこまで惚れ込んでいながらも、俺は大きな間違いを犯していたことに気付いた。それも、気付いた時にはすでに遅い段階で。
「あーちゃ……エルフって長生きだろ?だからなんでもゆっくり構えてるところがあるんだ。その方が長く楽しめると思わないか?」
「ふぅん?あーちゃは、はやいブ~ランコのほうがすきらよ。もっとこいれ~」
「そうか、あーちゃは人族だからなのかなぁ……そうだよなぁ。俺ね、きっと彼女も当然、俺に惚れてるんだと思っていたし、告白されたら付き合おうかなとか……自分で言えないわけじゃないんだけど、その期間を楽しんでいたつもりだったんだ」
「ララおにいたん、ブ~ランコたのしくない?すべりらいがい~い?」
「いや、すっごく楽しいよ?でも、そろそろ滑り台ってのやろうか!それっジャーンプ!!」
「きゃーー!!すっごいねっ!ララたん、すっごいねぇ!!ぴゅーんってしたねぇ!!」
なるほど、これはかなり癒される……ここにきて義妹からこんなにも喜んでもらえるなんて、生きてて良かった。
そのあとの滑り台も、ケガがないように抱っこしたまま滑るをエンドレスに繰り返した。そろそろズボンの生地が薄くなっていそうだ……
「それでね、その女の子はさ、俺が好意を…あ、好きって意味ね。好きなことなんて全く気付いてもいなかったっていうか、俺の周りにはいつも女の子がいたから、その中の一人程度にしか思っていなかったみたいで、あっさり村の幼馴染と結婚しちゃってさ……なにも始まることなく終わったのよ、ララたんの恋は」
「ん~とね、ん~と、ルーチェにもおしえてあげたんらけろ。うんめいをまってるらけじゃ、しやわせはこにゃいって、たえセンセがいってたー」
タエ先生って誰よ?随分と難しい話を子供に教える先生が異世界にはいるんだな……
「そうなのか……そうだよなぁ、俺の慢心だよなぁ。それでも遠くから眺めて幸せを祈ってたんだよ?」
「ララたんって……ストーカーらの?」
「違うよ!すごい言葉知ってる5歳児だな。見守り隊みたいなもの!ほらあそこにも、あーちゃに何かあった瞬間に、俺をこの世から消し去ろうとする目つきで見守っている男がいるだろう?」
「ふぇ?ルーチェ?ニコニコちてみてるよー」
先程は兄を射殺さんばかりの目つきだった弟の変わり身の早さたるや……お兄ちゃんビックリ。
何あれ、視線が娘を見守る顔してね?今は父親モードなのか!?【こっち見て♡】ってプラカードみたいなやつ振ってるし、いつの間にか母上まで……あれはあーちゃを写生してるな。めちゃくちゃ集中してるわ
「でもね、見守ろうって思っていたのに……なのに彼女、子供を産んだ後に産後の肥立ちが悪かったみたいで死んでしまったんだ。やっぱりさ、結婚後でもなんでもちゃんと告白して振られれば良かった。カッコつけてさ、それでもう二度と声の届かないところに行っちゃって……それから俺は恋が怖くて、もう遊び人のままでいいかなぁって思っちゃったわけ」
「ん~……ちゅらいことはおさけでながすか、あらたちいコイちかないって……」
「もしかして、それもまたタエ先生か?」
「うん、おひるねのじかんにいってたー。でもおさけはのんれものまれたららめらよって」
「……すごい先生だな」
でも、そうだよなぁ。俺が受け身でいたから掴めたかもしれない幸せも逃げて行っちゃったんだ。
ルーティエのようにガンガン外堀埋めて行く方が良かったのかもしれない。
すでにアオイちゃんが今後どう気持ちが変わろうと、もはや逃げ出せない域まで来ているしな……どうかこのままルーティエを好きでいてくれ。
「あーちゃ、俺また新しい恋できると思う?あ、タエ先生はなんか良いこと言ってなかった?」
「たえセンセの?んん~……う~ん……あ、おもいらした!【かみのみじょしる】だった!」
そこはスッキリ「できるよ!!」みたいなメッセージじゃないのかよ先生!神頼みって……でもある意味では弟もアオイちゃんも神様のお導きみたいなもんだよな……強ち間違いでもないのか?
このなんら計算も嘘もない、天使あーちゃの言葉は、今の俺の心に真っ直ぐ刺さるものがあった。カッコ悪くて誰にも話してこなかった分、拗れに拗れて今まで来てしまったから、もう無理かなって諦めていた。
ルーティエは年下だし、弟だし?カッコいい兄でいたかったから、親にも心配掛けたくなかったからってのとダセーところをやっぱり見せたくなかったから言わないでいたのに。なんで、一番最年少に俺は話しているのだろうか?思わず笑いが零れた
「ふっふはっははは!!あー…ズズ…おかしくて涙まで出ちゃったじゃん。あーちゃ、聞いてくれてありがとね。お礼に砂場でなにか作ってあげるよ」
「ほんと?やったぁ!じゃね……チラチラトカゲ!!トカゲちゅくって~!」
「え?キラの竜化した姿?そんなに気に入ってたの?……ルーティエがショック受けてるけど…」
そろそろハンカチが千切れるんじゃないかってくらい、ギリギリ噛んでるけど。仕方ない、あーちゃの要望が優先だろ?俺は土魔法でリアルを追及したキラ竜化版を作り上げた
「ほぅら、すぐにかんせー……いぃぃぃっ!?」
「やぁ!くらえぇぇぇ!!じゅどーん!!」
完成とわかるや、あーちゃはどこからか拾ってきた枝を剣のように構えて、キラトカゲ(砂)を破壊し、もの凄くやり切った感で一杯のドヤ顔をしていた。ナゼ?
そして弟は……至極満足そうな笑みを浮かべ、拍手をしている。性格悪いな
何度と作り直しても破壊を繰り返し、最後には「ララたん、トカゲのちっぽはちってもまたはえてくりゅんらよね?」とちょっと意味深なことを言っていた。
キラ、帰りは尻尾に気を付けろよ……
そしてきっかり30分が経つと、保護者な弟が至近距離なのに転移で飛んできて、あっさりあーちゃを回収し、失礼にも清浄をかけていた。バイキン扱いかよ!!
とは言え、母にも弟にもこの独白は当然聞かれているわけで……特にルーティエは何か言うわけでもなく、軽く背中をトンと叩かれただけだった。気遣いのできる弟だ。
逆に母上には「スッキリした?だったら【寵命守】の一つや二つ持って、運命ってやつを見つけてきなさいよ。族長の仕事なんてもうほとんど覚えているんでしょ?まだまだ私達も元気でいるんだから、今の内よ?」と母上らしいアドバイスではあるんだけど、【寵命守】は里から持ち出せないからね?持ちだしたら俺、投獄されちゃうからね?
でも、家族ってありがたいよな。そろそろ俺も遅咲きだけど、動き出してもいいかもしれない。
臆病な過去から止まったままだった時間が、ようやく今、動き出したような気がした――…
――…と、本気で思ったけどさ、あくまで自分の嫁探しに動こうかと思っただけよ?
どういうわけか、『元気になったのなら、可愛いあーちゃの為に、アジェアへ行ってカーモスらと合流し、少しでも早く解決して来い』って……ルーティエお前、兄遣い荒くない?
「あーちゃ、ララたんはちょ~っとお掃除に行って来るから、またね!」
「うん。ララたん、バイバーイ!」
「綺麗さっぱりでお願いしますね」
「はいはい。綺麗さっぱりコースね、りょーかい!」
可愛い義妹と弟の為に頑張る兄ってのも、まぁ悪くない、よな?