9:女豹キスミーと女の闘い
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文化祭も終盤、無自覚フェロモン駄々洩れボーン君のお陰で?無事廊下に並んでいた女子らを教室へ戻すなり、保健室へ搬送するなりが完了し、やれやれと教室へ戻って来た。
しかし、まさかの今度は女豹こと隣のクラスのキスミー先生が、全くさり気なくもなく、堂々と整理券配布場所に並んでいた。もちろん、もう配布は終了している
「あのぅ……キスミー先生、教室間違えていませんか?」
「あらぁん♡アオイさん。間違えてないわよぉ~?だぁってぇ~配布開始時間にアタシ並べなかったからぁ、いいでしょ?キャハ♡」
『キャハ♡』じゃねぇ!じゃあルールは何の為にあるっていうんだよ!!と言ってやりたいが、割と身近な恋人がルールを根本からぶっ壊し気味なので、そちら方面での反論は憚られる。それに私自身もなにかとトラブルメイカーのようなので、悔しいが強くは言えない。くそぅ!
「でも、先ほどまで並んでいた生徒達も、一応わからせられ…いえ、わかってくれて教室に戻りましたよ。先生もクラスで終会とかあるんじゃないんですか?」
「えぇ~そんな固いこと言わないでよぉ~。アオイさんばっかり、いっつも素敵な男性を侍らせてズルいと思わなぁい?そっちの方が不公平よぉ。ちょっとくらい分けて欲しいわぁ」
ああん?イチイチ全ての語尾を伸ばすな!!あとメロンをチラチラ見せつけながら揺らすなっつーの!!ゴーちゃんなんて、スンって真顔になってんだからね!絶対『こいつはモーだな』って今思ってる顔だよ、あれは。
「しかし先生、クラス委員として言わせて頂きますが…」
「ボーン君、嬉しいけど、それ廊下に貼ってあるポスターだよ」
「侍らせるって、先生あのなぁ…」
「いいの、キラ君待って!」
こいつは私がカタをつける。女同士の闘いなのだ……ルティを狙い続ける以上、私にとって女豹は敵認定。ルティが女豹に靡くとは到底思えないけど、どんな手を使ってくるかもわからない。
どちらかと言えば彼が、ではなく彼を襲いに行くんじゃないかとすら思っている。ハンターな女豹は狙った獲物は逃さない……
「先生、侍らすっていいますけど、これは……」
「やだぁ~アオイさん怖い顔してるぅ~!先生怖くて泣いちゃう。え~ん」
そもそも涙なんて一滴も出てねーだろ!『え~ん』とか言って腕で胸寄せんな!なんで女豹と胸で対決しなきゃなんないんだよ!毎回ルティに冷たい目で見られてんのにさ。女豹はドMなんじゃない?え、そっちか!?
「だから、ゴーちゃんが一緒にいるのはこの鎖の……あー…まぁオプション?いえ、仮装の一種で、今はゴーちゃんがルティ先生より預かっているだけです」
「はい。ルーティエ兄さ…先生から、くれぐれも離さないようにと言われてます」
「くれぐれも離すな」とは……私は<猛犬注意>か何かなのかな?
「ボーン君は……見ての通り、見えないのでキラ君にくっついているだけですし。あ、ボーン君、それキラ君じゃなくてモップだから!人への判断基準どうなってるの?」
「嘘!?アハハ、どうりで、今日のキラは骨々しいと思ったよ~」
骨々しい人ってなんだ?キラ君と黄色いモップ……形からして違うし、使用済だから臭くない?君達は親友同士じゃなかったのかい?
「あとは、キラ君ですか?彼は……まぁ別にクソどうでもいいので、めひょ…ゴホッ、、キスミー先生にはピッタリではないかと。ねぇ?キラ君」
「おお、そうだな……ってバカ!!そんなわけあるかっ!?俺にだって選ぶ権利くらいあるだろーが!!友達にクソどうでもいいとか言うなアホ!!」
あれ?来る者拒まず去る物追わずじゃなかったっけ?かと言って、ボーン君も骨女が好みだしなぁ~。女豹スタイルいいのに、骨細めだから明らかに女性として見てもいないよね
「え?だって、キラ君って言ったらメロンでしょ?【メロンキラー】って二つ名持ってなかったけ?」
「誰がメロンキラーだバカヤロー!!そもそも、キスミー先生は好みじゃねーわ!」
ほう……一応好みはあったんかい。むしろそこんとこの話が聞いてみたいものだな。ルティから聞いたけど、ハニーちゃんとはキス以上のことはしていないとの自己申告があったらしいしね。そんなことよく先生に報告したよね?真面目かっ!?
「キラ、もう面倒だからキスミー=モー先生でいいじゃない。もらっておきなよ……」
「あ、ゴーちゃん、さすがに女豹は豹ではあるけど、モーではないかなって思うよ?キスミー=ピューマーだから本名」
「だって、あんなの……あ、そっかモーに対して失礼ってことだよね。ごめんね」
「いや、あの、なんかゴーちゃん教育係を考え直した方がいいんじゃないかな?最近、カーモスさんとルティの偏った部分の影響受けすぎな気が……」
何やかんやと内輪でわちゃわちゃしていたら、女豹キスミーが本気でシクシク泣いていた。本日の軍配は私の方だが、一人で勝てたとは思えない悔しさだけが残る戦いだったな。
そんなことを考えていると、聞き覚えのあるコツ、コツ…といった、ちょっと怖い踵音が……
「キスミー先生、それにあなた達まで、一体廊下で何をしているのです?」
「ルティ、先生」
「ルーティエ先生!キスミー先生が整理券はもうないのに並ばれていたのを注意していたんですが、中々聞き入れてもらえなくて……」
「ボーン……見えないのでしたら、メガネを掛けなさい。それは私ではなく置物の彫刻でしょう?」
女豹は紙のポスター、キラ君は使用済モップだったのに、ルティは半裸の真っ白い彫刻なのか……同じ間違いでも格が違う。しかし、さすがルティ……メガネを掛けろとついにツッコミが入った。割と楽しかったのに……
まぁ軍服に教鞭持ってたら、叩かれなくてもイエスサー!しか出て来ないよね。やはり彼の為にあるような軍服……怖い
「あぁん!ルーティエせんせぇ~♡この子達がアタシの胸を勝手に見てきた挙句に、モー扱いだったりぃ、キラ君で我慢しろと言ってきたりぃ……好みじゃないとか言ったりぃ、酷いと思いませんかぁ?アオイさんってぇ、先生のいないところではこうやって陰湿ないじめをするんですぅ。こわぁ~い」
だからお前のその見え見えの演技の方がよっぽど怖いわ!!そんでもって悪いけど、ルティの前でも私は初めからこんなですよ!!初対面でケンカしたからね、残念だったなっ!!
「はぁ……モー扱い。それは、ゴーシェ辺りですか?」
「はい。僕が言いましたすみません」
「キラをあてがったのは……まぁアオイでしょうね」
「はい。それは言いました」
「好みじゃないと言ったのが、キラですね?」
「おお、言ったけどよ……」
珍しくルティがおでこに手をあてながら『はぁ、全く…』と呆れているような様子だった。もしかしてやりすぎだったのかな?女豹の言うことなんて信じてないよね?
「やぁん!ルーティエ先生がアタシの為に怒って下さるなんて感激ぃ~♡ようやく先生もアタシの良さをわかってくれたんですね♡」
「は?何を勘違いなさっているのです?まずモー扱いについては、キスミー先生よりもモーの方がよほど生産性がありますし、キラをあてがったのはとても良い案ですが、もう少し大人なゴラリ先生辺りでいいと思ったまでです」
「え、ゴラリ先生?え?え?」
「好みじゃないと言ったキラですが……まぁ、嫌いなものでも一口くらい食べておいたらどうですか?案外ゲテモノ好みかもしれないじゃないですか?」
「なっ!?ゲテモノってアタシ?うそ、先生……え?」
「そうですよね。やっぱりモーに対して失礼でしたよね、僕……」
「ゴラリ先生を??でも先生は私の恩人でもあるしなぁ~気が引けると言うか」
「おい、なんで俺はとりあえず食っとけみたいになってんだよ?だから嫌だって。ただデケェだけでいいなら周りにたくさんいるし!」
「……うわっサイテー!やっぱりメロンキラーじゃん」
「ほんとサイテーだよね、メロンキラーは」
「男の風上にも置けませんよね。メロンキラーは」
「まさかの矛先が俺に変わってる!?」
「ねぇ、アオイ君。いつの間にかキスミー先生が教室戻ったみたいだよ?先生も骨身に染みたんだねきっと」
あれ、ホントだ。ってかボーン君はホントに骨好きだな。骨身に染みるって……女豹はむしろその骨が胸に突き刺さっちゃった感じじゃない?
今日こそは私一人で退治したかったのに……こちらは多勢に無礼…いや無勢だしね、引き分けだな。
次こそは『私のルティにちょっかい出さないで!』って言ってやるんだから!!
メロン洗って待ってな!
21日(日)もAM6時予約投稿済です!