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8:パンチ・サト コーラス隊!

今週は日曜日も投稿します(^^)

この番外編は、文化祭の番外編です。4話ほど入ります



******



「ええぇぇぇぇ!?あの、あの有名なポチさんの護衛とコーラスの依頼ですか!?」

「アレックス兄、おおおおおお、落ち着けよ!コーラっすね、コーラっす、うんうん」

「あはは!アレックス兄もバース兄も、コーラスと護衛をやるって話だよ~」


「「わかってるわ!!」」



 ダーン国から久しぶりに故郷である獣人の国シュナウザへ帰郷し、鳥獣人なもので文字通り羽根を伸ばしていた。

 せっかく帰って来たなら、一つくらい社会貢献してまた大陸移動するかとギルドへふらり立ち寄ると、ちょうどパンチ・サト宛てに、指名が入っていると告げられた。



「確かに俺たちは小型種だから高音も出せるけど、相手はあのポチさんだぜ?」

「でもよ、護衛も兼ねてるんだろ?結構な重要任務だよな」

「行き先は……魔国かぁ~。目の保養には、、かなりなるよね」


「「それな」」



 魔国で番と出会うとは到底思えないけど、番が現状いない俺達からすれば、<目の保養>は、それはそれとして、とても貴重だ。うん



「ちなみにポチさんは今はガレット帝国にいて、そこから騎竜で向かうらしいぞ」

「あ、じゃあ現地集合?」

「だったら俺たちはここから獣化して飛んでいく?安く済むし」


「そうだなぁ…結構仲間との飲み代で飛んだしな」

「疲れるけど、行けない事もないし、そうするか!」


「俺、魔国行ったらドンタッキーってやつ食べてみたいなぁ」

「あ、俺も~」


「魔獣ターキーを小型種の鳥獣人が食うってのが、なんか勝った気がするよな!」

「そうそう、だけど周りからは『え、同族食べんの?』みたいな目で見られるよな。全く違うのにさ」



 元々雑食の(カラス)族なんてそれこそ揚げ鳥が一番好物だっていうのに。あいつらは「眩しいのは苦手だ」とか言って、一番薄暗い席で食べるから、より一層不気味に見えるんだよな。多分わざとなんだろうけど



「猫獣人でも鳥獣人を恋人にしているとか、犬獣人でもベジタリアンとか。それぞれだよな」

「あの、あれだよな、自由人トロい?」

「あはは、バース兄違うよ。住人トイレだよ」

「全く違うわ!獣人十色(じゅうじんといろ)な。獣人の数だけ色んな奴がいんだよ、なんでも決めつけはいかんってことだわ」


「「さすがアレックス兄!ちょっと賢い」」


「へへ、だろ?脳ミソ小さいなりに、多少は考えて生きてんだ」

「いつか、ビッグになろうぜ!」

「クレバー、俺達はもうこれ以上はデカくなれねーよ……」



 毎度の如く、ピーチクパーチク話しながらも、俺達は依頼を受けることにした。俺達とはたった一個差だというのに、デビューしてすぐにトップスター街道を歩み始めたポチさんは、とりあえずビッグになりたい俺達にとっては憧れの存在だ。あわよくばお知り合いになりたいし、なんならサインも欲しい……


 そんなことを考えながら、俺達三人は魔国へと飛び立った



***



「ハァ、ハァ、いやぁ……思ったより距離あったな」

「ゼー、ゼー…、誰だよ、魔国なんて獣人の国のすぐ左隣だから近いって言ったの」

「ピィィ……水、水飲みたい」



 地図上で見たら近いと思っていた隣国も、飛んでみると結構遠かった……こういう時、小型種って辛い。ポチさんとは『国立グローリア学園』で待ち合わせていたから、とりあえず息を無理矢理整えて向かった



「お~い!パンチ・サトって君達かい?」


「ポ、ポチさん!!」



 依頼者だから知っていて当たり前ではあるのだけど、憧れのポチさんから名前…いや、パーティ名で呼んで頂けるなんて感動の極みだ



「おお!ホントに髪型が三人共パンチパーマなんだね。揃うと結構カッコいいよ」

「「「ありがとうございます!!」」」



 獣人界で今をときめくスターだと言うのに、一人で校門前に立ち、迎えてくれたポチさん。よくファンに囲まれないものだと不思議に思う



「ポチさん、あの、お一人で行動されているんですか?顔を全く隠していないし……危ないっすよ」

「いやぁ、オレは魔国では知名度低いからね。この通り全くだよ」



 肩を透かせながらおどけるポチさんだが、獣人国との温度差にちょっと気落ちしているように見えた。



「大丈夫っすよ!明日の文化祭のステージイベントは絶対成功間違いなしっす!!」

「そうです!彼らもポチさんの美声の虜になりますよ!!」

「俺達も喉のケアばっちり仕上げておきますんで!!」


「それは心強い!明日は宜しくな。オレはこの後、ステージ場所の確認と挨拶してくるだけだから、今日は早く休んじゃってよ」

「ええ!いいんですか?一応護衛としても依頼頂いてるのに……」


「大丈夫さ。この学園には強力な結界が張られているみたいだからね。むしろ帰りの道中はしっかり頼むよ」

「わかりました……では明日、泊っている宿にお迎えに上がりますから!」


「了~解!」



 ポチさんは素晴らしい人格者でもあるようだ。冒険者を物扱いする依頼者もいるというのに。明日は絶対に盛り上げようぜ!と三人で決意を新たにした。まさかこの後、ポチさんが穴に落ちていたことなど知らずに



*****



「うえぇぇぇ!!ポチさん穴に落ちちゃったんですか!?ケガは大丈夫ですか?」



 素晴らしい人格者のポチさんは、穴に落ちてしまった人族の女生徒を助ける為に助けに追い掛けたところ、自分も一緒に落ちて、閉じ込められてしまったという。

 落ちた女生徒を励ましつつも、冷静に状況判断し、魔獣モグリーノの習性を利用して脱出したとか。きっとその女生徒はポチさんに惚れたことだろう……

 

 それにしても魔国学園に人族の生徒とは……かなり珍しいケースだ。余程の事情でもない限り、魔国でも人族学校なるものは小さいけど存在しているはず。ハーフかなにかだろうか??



「この通り、特に大きなケガもしていなかったんだけど、治癒ができる生徒が綺麗に擦り傷を治してくれたしね。こちらが恐縮するくらいお礼を言われたよ」

「治癒が使えるなんて優秀な生徒がいるんですね」


「ああ、助けた子の兄だとかで……とは言え、兄はエルフ系統の特徴なのに、妹の女の子は黒髪、黒目だったけど。もしかしたら連れ子同士の再婚なのかもしれないね。とても心配していたよ」

「へぇ、確かに獣人族と違って子供が少ないっすもんね」



 それにしても黒髪、黒目かぁ…やたらと縁がある色だな。まぁ、あのおb…いやお方は今ガレット帝国にいるらしいし、まさか魔国の、それも学園に通っているわけがないよな?


 そして機材の運び込みや設置、リハーサルを行っていると、少し離れた方からポチさんを呼ぶ女の子の声が聞こえてきた。猫耳風の頭巾をかぶった、可愛らしい女の子だ



「ポチさ~ん!!」

「おお~!!アオイちゃん……っと、その銀狼の耳をつけてる彼が昨日も会った、君の番のエルフかな?」



 ん?アオイちゃん……昨日会った?あの子が穴に落ちた人族の女の子で、番がエルフ族!?すごく珍しい組み合わせだ。

 人族×エルフ族という組み合わせにあまり良い思い出はないが、一体どういうカップルだろうかと気になった俺達は、準備をしつつ様子を伺っていた


 どうやら二人は仮装というものをしているようで、エルフ族の男性は軍服に銀狼という、本物顔負けに着こなしているが、男の首と女の子の左手首には赤い鎖が繋がれていた。これはどういうコンセプトなのだろうか?個人的にそこが非常に気になる。



≪なぁ、アレックス兄…≫

≪シィッ!今会話を聞くのに集中してんだ、念話してくるなよ≫


≪でもさ、あのエルフ族って……≫

≪は?あのエルフ族がどうしたって?≫



 番を紹介しようとした彼女を止めた男は、かぶっていた耳付軍帽を取り払って頭を下げた



「昨日は碌に礼もできずに申し訳ありません。ほとんど彼女に巻き込まれる形となったようで……私はルーティエライト、どうぞルーティエと呼んで下さい」



 そう言って顔をあげた、ルーティエライトと名乗った男は、同性同名などではなく、【紅い雷光】の二つ名を持つ、ルーティエさんその人だった。



「!!!?ピ……」

≪シィーーーーーーー!!!クレバー!耐えろぉぉぉ!!!≫

≪俺達はスタッフ!そう、ただのスタッフだ。このままやり過ごそう≫

≪わ、わ、わかった!俺達は何も聞いてないし、見ていない!!≫



 俺達は音響の陰に素早く身を隠し、何のボタンかもわからない機材のチェックをしている風を装うことに決めた。【触らぬ雷に祟りなし】だ!これ以上を食らったらチリチリでは済まない、丸焼きの出来上がりだ。


 お礼をしたいというアオイという女の子に対し、ポチさんは不要だと言っているようだったので、このまま彼らが去ればなんの問題もない……はずだった



「なぁ……どうしてこうなった?」

「そんなの俺が聞きたい」

「ポチさんがお願いしたんだし仕方ないというか…」



 まさかの歌まで得意だという、ルーティエさんは軽く音階調整としてサラっとリハーサルをしたけど、軽く流した程度でも相当な腕前とわかる。あのダーン国で対峙した人物と同一人物とは思えない。



≪それにしてもさ、ルーティエさんはあのおb…いや、()()()とは別れたのかな?≫

≪そりゃそうだろ?あの時は気まぐれに相手していただけだろ≫

≪そうだよな。あの女の子に向ける視線はヤベーもん。女の子も見惚れてるし≫



「おや、どこかで見掛けた顔ですねぇ?」

「「「ピィィィィィィィ!!!!?」」」



 やっぱり、全く気配を感じさせずに背後に現れてるぅぅぅぅ!!



「なんだ、君たちはルーティエさんとは顔見知りだったのかい?あぁ、同じ冒険者なんだし顔を合わせることくらいあるか」

「そそそそそそ、そっすね…ははははは!!」

「「ホント、ホント、偶然だなぁ、あははははは…」」



「……そうですね。ちょっとした()()()()()ではありますね。懲りずに余計なことばかり考えていらっしゃるようなので、いっそ脳に少し刺激を与えてみては如何でしょうか…とも思うのですが?」

「ひぃっ!!それだけは、それだけは!!」



 いよいよ終わった、焼き鳥にもなれないまま脳天直撃の刑とは……やはり小さい脳みそは小さいままだったなとか考えつつも、どうにか俺一人だけにしてもらって、「バースとクレバーは助けて下さい!」と土下座をする直前に救世主(メシア)が駆け寄ってきた



「ルティ~!あんまり離れると首が締まっちゃうよ!心配だから離れないで。あ、こんにちは。その人達はルティのお知り合いの方達?三人共パンチパーマでお揃いなんて、すごい!!」

「あぁアオイ、私を心配して下さったのですか?」



 救世主(メシア)のお陰で氷の微笑は鳴りを潜め、一気に春の陽だまりのような温かさに変わる。激変振りが半端ない。しかし、この流れに乗るしかない!!



「あ、あの、こんにちは。俺達パンチ・サトって言います。今日はコーラスを担当します」


「え!?パ、パンチ…サト?すごい!!すごく良い名前ですね!」

「……ふむ。アオイはこの名前がお気に入りなのですか?」


「お気に入りっていうか、ちょっと懐かしい名前だなって思い出しただけ。それに全員髪型もパンチで…ふふっふふふ!!」

「そうですか、その髪型も少しはアオイを楽しませることに役立ったのですね。良い仕事をしました」


「良い仕事って?」

「いえ、なんでもないですよ」


「じゃ、じゃあ俺達はこれで……」



 良かった、救世主(メシア)のお陰でなんとかフェードアウトできそうだ。そして魔王…いや、ルーティエさんへ背を向けたところ、またしても背筋に緊張が走る!



「お待ちなさい。私は一曲のみしか歌いませんし、ポチ殿へのお礼ではありますが、彼女へ捧げるつもりで歌います。あなた達もそのつもりで、失敗など決してないように……コーラス、期待しておりますよ?」


「「「イ、イエスサー!!」」」



***



 前座の段階だと言うのに、大型魔獣と対峙した時よりも緊張でガッチガチの中、俺達はなんとかコーラスをやり遂げた。おそらくルーティエさんの歌声が救世主(メシア)に捧げると言っていただけあって、愛の歌ではないのに愛の歌のようで、俺達もその雰囲気にうまく乗ってコーラスをすることができた。


 歌い終わり後の達成感ったらなかったが、それを皮切りに観客の方も大いに盛り上がり、本当にルーティエさんは前座をたった一曲だけで立派に勤め上げた。



 ほぅっと見惚れる彼女の元へ向かい、抱き上げて頬にキスをする様はものすごく自然で、カッコいい……なんて気を抜いていたら、ルーティエさんがこちらにチラッと視線をやり、目が合うと念話が流れ込んできた!



≪ご苦労様でした。彼女も満足してくれたようですので、今回は不問と致しましょう。今後の為にも教えてあげますが、私の最愛はダーン国の、あの時から変わらずアオイ一人です。わかりましたね?≫


≪ひゃ、ひゃい……≫



 正直、いまいちわからなかったけど、『はい』以外の選択肢はなかった。とりあえず、容姿はともかく黒髪、黒目のアオイさんという名の女性はルーティエさんの最愛とだけインプットした。これだけはアウトプットしないようにしたい。



「さぁ君達、余韻に浸るにはまだ早いぞ!」

「「「は、はい!!」」」



 ある意味、一番の山場を越えた俺達はその後は歓声に押されることなく、無事コーラスを勤め上げることができた。ポチさんからも『ここまでの実力とは思わなかったよ!ぜひまた一緒にやれる機会があったらお願いしたいね』と嬉しい賛辞まで頂き、無事コーラスの依頼は達成できたのだった




***



 全ての片づけを終え、ポチさんも一緒にドンタッキーを食べたいということで学園近くの支店へ立ち寄ることにした。



「うまい!!このピリ辛味のやつは辛いけどホントうまいなぁ~。ユーロピアで新メニューってことで食べてハマったんだが、ここでも食べれるとは!」

「それは良かったっすね!」

「俺達は甘党だから、専らノーマルタイプしか食べないな」

「アレックス兄、もう一本食べてもいい?」



「そういえば、あの見惚れているアオイちゃんを見て、どこかで見た事あったようなって思っていたんだけど、ドンタッキーのポスターだったのかぁ。恋する女の子の顔だよねぇ、よく彼は許可したよね」

「え?ポスターっすか?」

「どこどこ?」

「俺、メニューしか見てなかったなぁ」



『ほら、あれだよ』と指さす方を見ると、そこには先ほどの女の子の少し艶っぽい横顔と、それを甘く見つめているルーテェさんが写るポスターがあり、思わず三人ド派手に飲み物を吹き出した。



「コココココ…コケ―!?じゃねぇ!!こんなところまで浸食されているとは…」

「もう俺、ターキーの味がわからなくなってきた…ポチさんどうぞ」

「背後にポスターあると、見られている気がして落ち着かないよな」


「え、いいの?じゃあ頂こうかな!」



 一気に食欲が失せた俺達は、手をつけていない分はポチさんに譲り、追加で注文したみじん切りサラダをちまちまと食べるのみで食事を終えた。それでも胃もたれした




 俺達はその晩、魔国も人族の国も危険だなと判断。ポチさんの護衛で獣人国へ戻ったら、当面は獣人国を拠点にして引き籠っておこうと決めたのだった。



 帰ってから三人お揃いの10ギル サイズのハゲを見つけ、泣いた




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