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6:学園祭で萌えんさい ☆



******



 口は悪いが(私も相当なものだけど)、案外根が真面目なキラ君たちは女王赤ずきんの命に従い、本当に全力疾走したらしい……私なら絶対に途中で休んでるか、初めとラストしか走らない。



「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……マジで、キツイ…本当にこれで意味はないとかぬかしたら怒るからな!」

「ハァハァ…ア、アオイ君、ハァハァ…あとで本当に骨、くれるんだろうね?」

「いや、骨の約束は絶対にしていないと思う。それよりお疲れ様~」



 これが仮に嘘だった場合でも怒るだけで済むキラ君は、かなり心の広い奴なのかもしれないと少しだけ見直した。そんな心友の為に腐女子アオイができることはイケメン度割り増しプロデュースや!!


 並ぶ(腐)女子たちよ、見るがいい!息を切らせて、頬は高揚し、額から首筋、鎖骨にまで流れゆく尊い汗……大丈夫、今上着を脱がせるからね。さ、この未使用タオルで汗をお拭き



「二人共、だいぶ汗を掻いて暑いでしょう?上着も一旦脱いでさ、このタオル使って」

「おおーそうだな。暑くて着てらんねーよ。ハァ…うっわ、すっげぇ汗だ…」

「ホントだね。僕もだいぶカルシウムが流れたかもしれないよ…あ、暑くてメガネまで曇っちゃった…」



 キター!!狙っていたタイミングが、キター!!キラ君は更に、下に着ていたシャツをめくって汗を拭き、お腹をチラ見せ。

 そして、個人的にも気になっていたボーン君のビン底メガネの下…もしも目が「3 3」だった場合は、タオルをそっと被せてあげようと決めている。



「ボーン君、メガネ持っててあげるから、流れるカルシウム拭いちゃいなよ」

「そうだね。ありがとう。じゃあ、お願い」



『あはは、冗談なのに~』と言わない辺り、彼の汗には本気でカルシウムが流れているのかもしれない



「えっ!?」



 メガネを外し、すぐに顔にタオルを被せたボーン君、拭き終わってタオルが離れた後に見てしまった彼の素顔……30代中頃のデキる大人っぽくて、左目の下に泣きボクロまでこさえていらっしゃる、学生には考えられないほどのセクシーイケメンだった!!


 視力も悪いけど、老け顔隠しの意味もあったとか。いやいや、晒して行こうよ!!


 ゴーちゃんが真っ白い天使なら、ボーン君は魂食われても仕方がないと思えるようなセクシーな悪魔風…いや、妖艶な死神でもアリだ(もちろんファンタジーな部類の)


 一瞬の出来事だったけど、みんなも気になっていたのか注目をしていたようで、ごくりと息を飲む音と、少しの静寂、そして……



「「「「キャーーーーーーーーーーーーーー♡♡♡!!!!!!」」」」



 この割れんばかりの悲鳴である。予想以上の逸材だ、萌え界の革命児が現れたと言っていい。これはレポートをまとめてぜひともブクマ―店長に作品にして頂かなければ!!

 ギャップオブザイヤーがあれば私は彼に投票する。



 この一年生の階全体に響き渡る悲鳴、いや、すでに奇声?が益々人を呼び、素顔を見た子達の口コミから教室付近は人でごった返してしまった。仕方なく途中から整理券を配ったものの、わずか3分でなくなるという盛況ぶり。

 

 整理券をゲットできず、廊下でオイオイ悲しむ声まで聞こえてきた。私も煽ってしまった側だが、同志(腐女子)の気持ちが痛いほど理解できる。

 


 なんやかんやで私が撒いてしまった種の為、予定よりも大幅に長く教室に留まることにはなったのだけど、たまたま午前に自由時間を得ていた人物画が得意な美術部のドワ女(ドワーフ女子)先輩のご来店があり、ついでに姿絵を描いてもらった。

 

 なんせVIP席にずっと(物理的に)ルティとくっついたまま離れられないもので……



 ドワーフの特性上、女子とは言え確かに筋肉がしっかりついていて、女子レスリング選手の様に、特に下半身ががっしりしているイメージといったところかな?

 それでも、描かれた姿絵は背景込みですんばらしくリアル!そして、ちゃっかりゴーちゃんの姿絵には羽も描いてもらった。垂涎(すいぜん)ものの逸品!!


 これで部屋に祭壇でも作ろうかと思うほどの出来栄え。ゴーちゃんはちょっと死んだ魚の目をしていて、ルティに肩を叩かれていたけど、うん。見間違いに違いない。



 ルティも私とのツーショットや単体の絵を見るや、真顔だけど珍しく褒め称えていて、ドワ女先輩は感涙していた。

 っていうか午前中ずっと一人で描かされ続けていたのに、むしろ後半は何かが取り憑いたように目を血走らせながら、もの凄い集中力で描き上げていた。先輩はこの道のプロを目指したらいいと思う


 少し時間は押してしまったけど、ルティに抱えられている分、歩くのは足の長いルティなのでサクサク無駄なく巡れた。

 描いてもらった絵を入れるのに丁度良さそうな写真立てのようなサイズの額や、部屋に飾っている木彫りの猫と犬用にも合いそうなドールハウスを買ってもらったり、お菓子クラブでは、焼き菓子セットを売っていて、もちろん全種類購入した。


 さりげなく『木彫りのペアは二人きりで住める家を手に入れたのですね。羨ましい……』と一度敷地内に二人だけの家を建てる件を断ったことを示唆(しさ)していた。ホントごめんって!!



 通りすがりに、全員が武術科の生徒で構成されている武術クラブで【腕自慢大会】なるものを発見した。

 本当になんの悪気もなく『こういうのってやっぱり武術系の人の方が強いんでしょ?』と呟いたせいで、『アオイ、私こう見えて結構力もあるのですよ?』とルティの対抗心に火をつけてしまい、生徒相手に大人げなくバッタバッタと倒していった。



 ルティの筋肉はムッキムキのゴリマッチョ系ではないのに、本当に赤子の手を捻るように勝ってしまう彼はすごいと思う。そう言えばカーモスさんも、ラトさんも元Sランクだと言っていたけど、ルティもそれ位あるっていうし……強い人に囲まれすぎて、標準ってものがイマイチわからなくなってきている今日この頃


 大会の商品がちょうどドンタッキーの無料券だったので、あとで迷惑を掛けてしまったキラ君にあげようと思う。あと、後日唐揚げにリボンでもつけて渡そうか……

 半壊した建物がこれ以上崩れないようにする応急処置を彼はしてくれたけど、結局ルティが夜中に出掛け、何事もなかったかのように元に戻していた、らしい。

 私は状態を見れていなかったんだけど、体育館ってすぐに直せるものなの!?



***



 いつものように、ちょいと小腹が空いた私は、飲食可能ブースの中庭で、購入した焼き菓子をルティと仲良く摘まんでいた。とはいえ、彼は主に餌付け担当だけど。

 

 しかし事あるごとに、咥えたクッキーを食べるよう言われ『二人きりの時に頑張るから、ここでは勘弁して下さい!』と懇願した結果、『そうですね、私もそんなアオイを他人に見せたくはないですし…でも、二人きりの時に。約束ですよ?』と、どんどん断れない約束を増やしていって下さってます。


 きっと彼は一言一句忘れもしないんでしょうけど、私はもはや何を約束していたのか覚えていないものも多い


 今は反論できないマンな私に大いにつけ込んいでる感はあれど、拒否権なしなのが切ない。結局尻ぬぐいは全てルティがしてくれたわけなので……うぅっ…

 

 とにかくあらゆるところを歩き回り、私達に投票するようにとのアピールに余念がない

 人の集まるところに私達有りという、選挙活動中の候補者みたいなことになっている。清き一票を宜しくお願い致しまーす!!



 まったりとした時間の中、『本当に姿絵上手だよね、カッコいい♡』『見るなら姿絵ではなく、実物を見て下さい』なんてくだらないバカップルトークをしていると、何となく聞き覚えのあるギターのチューニング音が聴こえてきた。

 

 音楽で急に思い出したけど、よくよく考えたらポチさんにまともなお礼をしていないことに気付き、慌ててルティにステージイベント会場へ向かってもらった。

 珍しく彼もすっかりポチさんのことを忘れていたらしい



「あ~あ~♪うん、マイク音も問題ないな」



 ステージイベントは文化祭を締めくくるメインイベント。獣人国ではそこそこ名の知れたポチだが、遠く離れた魔国までは、その知名度はほとんどあってないようなものだった。

 せいぜい、この文化祭で少しは顔と名前を若者に覚えてもらえるといいな、くらいに思っていた。そんなことを考えていると、聞き覚えのある女の子の自分を呼ぶ声が聞こえてくる



「ポチさ~ん!!ポ~チ~さ~ん!!」



 ほんの昨日ぶり程度ではあるけれど、一緒に穴に落ちた仲なので、再会の喜びもひとしおだ。ポチさんが落ちたのは私のせいなので意味合いが違いますが

 垂れ気味の耳が少しピクッ!と上がり、私の声に気付いてもらえたようだとわかった。本当に耳がいいなぁ



「おお~!!アオイちゃん……っと、その銀狼の耳をつけてる彼が昨日も会った、君の番のエルフかな?」

「はい!!あの…」



 言い掛けたところで、ルティは私の前にサッと手を出し、言葉を静止させた。自分から名乗るつもりのようだ



「昨日は碌に礼もできずに申し訳ありません。ほとんど彼女に巻き込まれる形となったようで……私はルーティエライト、どうぞルーティエと呼んで下さい」


「はぁ、それはご丁寧に……あ、オレはポルチッツェアーノ。略称のポチと呼び捨てで構わないですよ」


「ではポチ殿で。ポチ殿に助けられたことは、正直幸運でした。逆に私にとってはすぐに駆け付けられなかったという、悔しい思いが残りましたが……しかし、お陰で無事こうして彼女が大きなケガもなく私の元へ帰って来た、今はそれに尽きます。心から感謝します」


 そう言い終わると、ルティは謝罪のときと同様に深く頭を下げた。


「ええ!エルフが頭を下げるなんて……そんな、そこまで気を遣われなくても…」



 ん?ルティは滅多に頭を下げないの?……確かに下げないか。謝罪も……今までほとんどが煽り謝罪だったし。私ってばそんな人に頭めり込む程の土下座を何度もされてるんだけど、エルフの尊厳とか大丈夫かな。人前ではさせないようにしないと



「ポチ殿ならご理解頂けると思いますが、彼女は私の魂の番でもあるのです。その恩人に頭を下げて、礼を尽くすのは当たり前でしょう?」


「へぇ、彼女が魂の番……。それは…中々気苦労が耐えなさそうですね。だから、今日はリード()がついているんですか?」


「はい。奇想天外なことばかりするのもので、私でも中々制御しきれないほどなのです。それに今日は文化祭ですから、ウロウロされてまた迷子になられても困りますし、私の身が持ちません」



 リード?制御?……あれか?私のこと言ってるのかな?そんなにじゃじゃ馬じゃないやい!



「ポチさん、昨日はお礼を言うだけだったし、何か欲しいものとか、あ、手伝えることなんかもあれば、手伝いますよ!」

「いやいや、礼の言葉だけで十分さ。あ、でも、もしお願いできるなら、こんなのって出来そうかな?」

「こんなの?」



***



 ポチさんからのお願いは、一曲で良いから自分の前座をポチさんよりも知名度が高いルティに務めてもらえないかと言うものだった。

 

 そもそも、エルフ族が上位に立つことはあっても、盛り上げ役のようなことを普通はしないので、それだけでも話題になるのだとか。余程の信頼関係性があるか、それに値するだけの恩があるかという風に取るんだって。


 ポチさんも魔国での知名度を少しは上げたいので、有名人が自分の前座を務めてくれれば拍が付くのではないかという考えらしい。


 

 私の見てきたエルフ族の印象と全然違う……私は身内枠ってことなのかな?ルティも身内にはやっぱり甘いもんね。ラトさんには若干塩対応だけど、あの辺は血の繋がった兄弟ならではなんだろう



 今、ステージの上には銀狼耳付き軍服ルティとそばで座ってる私、そしてポチさんとパンチ・サトと名乗る、鳥獣人コーラス隊兼護衛である三人組の、計六人がいる。

 護衛とコーラスを兼任できるってすごいよね。歌える冒険者か、それを言ったら冒険しない冒険者な私も中々のものだと言えるのか…



 平時のルティなら間違いなく『は?なぜ私がそんなことを』と吐き捨てて終わりそうなものなのに、まさかの『俗歌(ぞっか)はあまり知らないのですが、これは弾けますか?』とあっさり了承したのだ。



「ねぇ、ルティ。そんな安請け合いしちゃって大丈夫なの?ステージで歌うんだよ?」

「大丈夫ですよ。私、こう見えて結構歌も得意なのです」



 こう見えるもなにも、あまり目立ちたくなさそうなのに。まぁどうしようと目立つんだけどさ…今日の彼は普段と違い、中々に社交的だ。

 もしや、これも一種の投票パフォーマンスに利用するのだろうか!?ありえるな



 ちなみに彼が歌うのは、エルフ族にはポピュラーな【エルフ讃頌(さんしょう)】というタイトル。

卒業シーズンによく聴きそうな【大地讃○】と似た感じだろうか?称えるのは大地ではなく、エルフだけど……


 そして、一度だけリハーサルをサラッと軽く流した後、本番を迎えた……



「――――♪」



 抽象的な表現が多い歌詞で、ざっくり言えば自然と共に生きるエルフの誇りみたいな内容なのだろう。

 アコースティックギターと大自然を思わせるような鳥獣人のコーラスがピッタリと合う、しっとりとした曲にルティの美声が合わさって、私はもちろん、見に来ていた観客である生徒や先生方も、全員が聴き惚れていた


 正直、惚れ直したし、萌えに萌えた。以前聴いた陽気な歌も上手だなとは思ったけど、この歌は曲調が聖歌っぽくてなんだか胸が詰まる



 恐らく目がハート状態の私を見て、歌い終わった彼は満足気に口角を軽く上げた。綺麗な所作で礼を取ったあと、そばで座って見ていた私を抱き上げ、頬にキスを一つ落とし、そのままステージを降りた



 それを合図にポチさんの恋歌のヒットメドレーソングが始まり、ステージは最高潮に盛り上がったとか



 もう、萌えに萌えていた私は、ステージ裏にも聴こえてくるポチさんのちょっとよくわからない恋歌ですらイイ感じのBGMに替えて、うっとりモードで、自分からルティにキスをした。多分ハイになっているのだと思う。


 歌の力ってスゴイ。音楽動画もCDも、もちろんカセットテープもこの世界にはないので、考えてみたら久しぶりに音楽に触れたのだ。そのせいか、特に恋歌でもなかったルティの歌ですら、まるで恋歌であったかのように便利に脳内変換されてしまっている。



「ふふ。こんなに熱く私を見つめて下さるなんて、たまには歌ってみるのもいいものですね。今度はあなたの為だけに歌ってあげますね」



 

 キュンです♡

 

 


ありがとうございました!

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