カイジン都市 第2話 ~騎士団、隊長~
「こちらが、騎士団ゼルノート支部であります」
騎士、もといアウネスト君は、しっかりと私たちを騎士団ゼルノート支部まで案内してくれた。
流石騎士団の支部と言うべきか、壁に多少の損傷は見受けられるけれど、大きくは損傷していないわ。
まあ、今はそんなこと気にしている場合ではないわね。
さっさと隊長に会って、彼が私の上官として相応しいかどうかを確かめましょう。
でもその前に、支部長に挨拶をしないとね。
「ええ、ではまず最初に支部長殿に合わせてもらえないか」
私がそう言うと、アウネスト君は慌てて私たちを支部長の下にまで案内してくれた。
軽く見た感じ、支部の中はとても慌ただしい状態ね。
まあ都市がこんな状況だし、戦闘面に優れている騎士は町の治安維持に出払っているのでしょう。
残ったのは事務系の騎士なんでしょうけど・・・人手が圧倒的に不足しているようね。
はぁ、国政が安定していたら、騎士団と魔法師の連合軍を派兵してこんな問題すぐに解決
できるのだろうけれど。
いや、今はこんなことを考えている時ではないわね。
さて、色々と考えている間に、支部長の執務室に着いたわ。
「では、私はこれで」
アウネスト君は騎士団特有の敬礼をした後、急いで次の仕事に向かってしまった。
謝礼を言う暇もなかったわね。
まあいいわ、ゼルノートに滞在する限りは、この騎士団支部が根拠地となる。
また会った時に謝礼を言えばいいわね。
さて、今はゼルノートの支部長に会わいとね。
全員で入るのは失礼だろうし、私とゾルドさんだけ入室するとしましょう。
私は深く深呼吸した後に、扉を二回叩いて支部長の返事を待った。
暫くすると「どうぞ」と言う返事が聞こえ、私は「失礼します」と言いながら、執務室に入る。
「おお、光の魔剣師メイ・伯爵・フォン・ベルラーシ様に
『帝国の盾』と称えられているゾルド・男爵・フォン・ハイリッヒ様
ようこそ、騎士団ゼルノート支部へ。私、エドウィルと申します」
エドウィル、その名を私は知っている。
支部長、エドウィル・侯爵・フォン・カスメール。
魔法も使えず、魔道具も第3級魔道具『向上の指輪』を身に着けているだけ。
(向上の指輪の効果:少量だが全体的に能力値、魔力量や身体能力を向上させる)
つまりエドウィル様は、己が剣術の腕だけでこの立場まで昇進なされた。
ゾルドさんと同様、私の尊敬する騎士の一人だ。
でもまさか、カイジン都市の騎士団支部長だったとは・・・。
ゾルドさんやエドウィル様のような方こそが、騎士団を纏める立場にあるべきなのに。
いや、今はそんなことを考える時ではありませんね。
「いえ、私こそ、エドウィル様のような騎士に会えて光栄です」
私は騎士団特有の敬礼をしながら、エドウィル様に挨拶をします。
はぁ、ゾルドさんやエドウィル様のような方が隊長ならば、まだ納得出来るのに・・。
でも、優秀な騎士を一か所に集中させることはほとんどない。
ゾルドさんとエドウィル様が同じ騎士団の支部にいると言うのは、異例の事態よね。
さっきから気になっていたんだけど、部屋の端に置いてあるソファーでくつろいでいる彼は、
一体誰なのだろう。
そんな私の疑問の視線に気が付かれたのか、エドウィル様が説明してくださった。
「彼が・・・特務魔法師隊の隊長です」
エドウィル様が気まずそうに紹介されるのにも納得だ。
ゾルドさんやエドウィル様が立ちながら挨拶をしている中、自らはソファーに座って紅茶を嗜む。
こんな無礼で礼儀知らずなのが私達の隊長なんて、最悪だわ。
ほんと、想定していた中でも、かなり最悪な方だわ。
でも、エルゼ陛下が直々にお選びになった方、少なくと実力は期待できる、と思いたい。
「アルフレッド殿、騎士団内の案内と隊員への挨拶をされないとけないのでは」
エドウィル様のお言葉に、なんと彼は溜息をつきながら頷いた。
許せない。
あまりにも態度が悪すぎる。
こんな人が私達の隊長なんて、本当に恥だわ。
「ついてこい、案内してやる」
彼はそう言うと、部屋を出て行ってしまった。
私もエドウィル様に敬礼した後に、急いで彼の後を追っていく。
彼・・・もとい、アルフレッド隊長は、無能ではなさそう。
支部の案内は、私達の部署となる部屋から始まって、重要な部屋を分かりやすく、要点を押さえて
短時間で案内された。
悔しいけど、分かりやすい説明だったのは確か。
それに、思っていた半分の時間で周りことが出来た。
「ん、次はお前らの泊まる場所についての説明をする」
確かに、この隊長は優秀かもしれない。
でも、この態度は人としてどうかと思うわ。
まあ、最悪私の邪魔さえしなければそれでいいと思いましょう。
えっと、じゃあ隊長から聞いた寝泊りする場所のルール、的なモノの話をしましょう。
まず、私達の寝泊りする場所は騎士団の隣にある宿屋。
エドウィル様のご友人が経営していたそうなのだけど、怪人の出現と治安の悪化で、仕方なく
このゼルノートから離れることにした、そうよ。
「その時、タダで使っていいから、管理をして欲しい」
とエドウィル様に頼まれた結果、騎士団の人間がこの宿を使うことになった。
週に何度かの掃除を行うことと、物を破損させたり、汚したりしない限りは、
自由に使っていいそうよ。
ふう、全ての案内も終わったことだし、とりあえず私達の本部となる部屋の整理でも
しましょうか。