塩顔おじさんだけど砂糖より甘いかもしれない
ネタメモに毛が生えた程度の習作なので読み応えはあっさりです。
読み専だけどせっかく登録したんだし投稿周りの機能を体験してみたいな~という動機で書きました。
(2025/12/20 改稿。話の筋はそのままです。)
──元カレAはこう言った。
「お前さ、見た目は小動物みたく可愛いのに、性格は可愛げないよな。落差すごくて残念。」
私だって、なりたくて童顔の子供体型になったわけではない。顔と中身の落差がひどいのはお前もだろ、と思ったが、面倒なので口には出さなかった。
──元カレBはこう言った。
「君は僕がいなくても大丈夫だけど、彼女には僕が必要なんだ…わかってほしい。」
私に必要かどうかは私自身が判断すべきことだろう。何故お前が勝手に決めるのか。いまこの瞬間不要になったから、別に構わないけれども。
──元カレCはこう言った。
「構ってもらえるのは嬉しいけど、恋人じゃなくて母親といるみたいで…ときめきがないんだよね…。」
付き合い始めは「君に愛されてる証拠」だのなんだの言って私の小言を喜んでいたのだが、反抗期が来たらしい。子供と同じぐらい手のかかる成人男性である、という自覚はないようだ。
──元カレDはこう言った。
「え、おれの何がダメだったの?…なにもしないところ?いやだって、君の稼ぎならおれ働かなくてもどうにかなるでしょ?」
魔女、つまりは国家資格持ちなのだから食うに困らない、養う側になるのは当然、と考えているらしい。魔女とはあくまで肩書きみたいなもので職とは言えない。あてにされても困る。
男運が悪いのか、はたまた人を見る目の問題か。好き勝手なことを言う男に当たってばかりだ。ひとつひとつは鼻で笑って済ませられる出来事だが、積もりに積もってさすがに腹が立ってきた。
そこまで言うのなら、可愛げのない世話焼き女らしく、男を飼ってやろうではないか。
ただし、彼氏を作るのはもうこりごりだ。
ヒモになること前提のお付き合いだなんて、まともな男であれば了承しない。問題のある人物が寄ってくるのは目に見えている。
かといって金銭や交換条件などで契約を結ぶのは「飼う」というより「雇う」だろう。それでは意味がないのだ。
合法的に、ヒモとして飼える、まともな男──苛立ちを拗らせた頭で出した結論はひとつだった。
奴隷だ。
奴隷を、飼おう。
「……というわけであなたをお迎えしたってわけ。」
「なんというか……馬鹿げた…いや、失礼。思い切ったことをされますな…………。」
目の前に座る中年の男──奴隷は眉間に皺を寄せた。呆れと困惑と哀れみが入り交じったような、なんとも複雑な表情をしている。
ちゃんと「まともな男」を選んだのだ、さぞドン引きしていることだろう。当然の反応である。正直私も自分で自分にドン引きしている。
とはいえ、ここまで来れば後には退けないし、退く気も無い。開き直り一択だ。
「何か文句ある?」
「まさか。感謝こそすれ、文句などあるはずもありません。ご覧の通り、多少腕に覚えがあるだけの、くたびれたつまらん中年です。闘技奴隷として死ぬまで見世物にされる可能性が一番高いだろうと覚悟していましたが……。」
ふ、と口の端がかすかに上がり、彼の表情が緩んだ。
一見すると、口数少なく地味な顔立ちの無愛想な強面、しかも大柄でガタイがいい、という近寄りがたい風貌なのだが、話している様子を見る限り意外と人当たりは良いのかもしれない。
最低限の意志疎通さえできれば良し、と思っていたが、話し相手になってくれそうなのは嬉しい誤算である。
「こんな可愛らしい魔女殿に拾われることになろうとは、人生捨てたものではない。もしかすると奴隷になる前より良いかもしれません。幸運が過ぎて世の男どもに恨まれそうだ……それとも明日死ぬ定めか。」
「大袈裟な……。そんな簡単に死なれたら困るわよ。私が面倒見るんだから、むしろ長生きするんじゃない?」
「それは頼もしい。」
なんとも馬鹿らしい購入理由を聞いて力が抜けたのか、気安く会話してくれるのも有難かった。ガチガチの主従関係を望んでいるわけでもなし、親しみやすいに越したことはない。
「ところで、ひとつお訊きしたいのだが。」
「なに?」
「男を飼うなら過去に適当な者がいたのでは?」
なるほど、こちらからすれば元カレDのような寄生野郎と奴隷とでは大違いなのだが、端から見れば男を飼うことに変わりはない。よりを戻せばよいところを、何故わざわざ奴隷を買ったのか疑問のようだ。
「最初から飼うつもりで付き合ってたわけじゃないもの。付き合って楽しい相手と、飼って楽しい相手は別ってこと。だから別れたんだし。奴隷なら主人である私が面倒見て当然だからって割り切れる。アテが外れたのはお互い様なのに、あっちばっかり被害者面するんだからほんと嫌になるわ。」
私にも好みがある。まともな男を甘やかすから楽しいのであって、ダメな男を甘やかす趣味はない。
「ふむ……すると俺は飼って楽しい相手ということで?まぁ、元は騎士なので、飼われ慣れているといえばそうかもしれませんが……。」
なんと。驚きの事実がぽろっと出てきた。
そういえば商館から貰った経歴書をまだ見ていなかった。
「騎士!体つきで戦闘職だろうとは思ってたけど、騎士だったの?」
「ええ、一応。」
「奴隷になるぐらいだし、てっきり傭兵かなにかだと……なかなかの落ちぶれっぷりね。」
傭兵や冒険者が借金苦の末に奴隷落ち、は時々聞く話だが、騎士が奴隷落ちというのは私が知る限りほとんどない。平民でもなれるとはいえ基本的に貴族がなる職業だ。騎士団によって金額に差はあれどお給料が出るし、酒だの女だの賭博だのに溺れない限りは平民出身でも安定した生活を送れるはず。彼は身を持ち崩すような人物には見えない。……経歴書を見ればそのあたりも書いてあるだろうか。
「色々ありまして……まあ、魔女殿に拾われるための対価だったと思えば安いものです。」
「さっきからやたらとヨイショしてくれるじゃない。そんなに持ち上げられるとむず痒いんだけど……。思い切ったことするぐらいには馬鹿げた女よ?」
ちょっとした仕返しのつもりで、最初に彼から言われた言葉を持ち出してみる。
それを聞いた彼は苦笑をこぼした。
「失言でした、申し訳ない。……ただ、それを言うなら俺も、騎士を目指したきっかけは馬鹿げたものでした。」
彼がおもむろに席を立つ。机を挟んで向かい合っていた私の側まで来ると、恭しく跪いた。まるで主人を前にした騎士のように。
大柄な彼と小柄な私とでは背丈の差が絶望的で、視線を合わせるのも一苦労なのだが、座る私と跪く彼となら高さがバッチリ合うようだ。地味顔の強面が正面からよく見える。
「……なに?急にどうしたの?」
彼の意図が全く読めず、突然の行動に身構える。
しかし彼はそんな私を気にすることなく、真剣な眼差しでこちらを見つめて言葉を発した。
「……愛しい人よ。私は貴女のためならば、惜しむものも、恐ろしいものも、悔いることもないのです。我が愛、我が忠誠、我が身命、全て貴女に捧げましょう。ですからどうか、いまだけは……いまだけは御身に触れること、どうぞお許しください。」
彼は流れるように私の右手をそっと持ち上げ、その甲に口づけをした。一瞬の出来事なのに、なんだかやけにゆっくり感じる。
彼の唇が離れるのをぼんやり見ていたが、次第に頭の中が混線してきて、目の前で起こったことを処理しきれなくなった。いまのなに……?
「……ふ、すごい顔をしておられる。」
「いや、そりゃそうでしょ…突然すぎてわけわかんないもの……。」
出会ったその日に何の脈絡もなく全てを捧げられるとか熱烈すぎて理解不能だ。驚かないわけがない。
さらにいうと、彼の見た目との激しいギャップで倍の衝撃があった。地味顔の強面なせいか、堅物な印象を受けるのだ。
会話をしている間に、想像していたほど堅物ではなさそうだと思っていたけども、それでも。
「魔女殿は『花の姫と夜の騎士』をご存知で?」
「花の姫……?ああ、両想いの二人が身分違いの恋に思い悩むけど、なんやかんやあって無事に結ばれるやつよね。」
「それです。子供の頃、その物語がお気に入りの幼馴染がおりまして。いつもごっこ遊びに付き合わされました。しかし俺は毎回悪役で、当時はそれが面白くなく……本当に騎士になって、一泡吹かせてやろうと思ったんです。……馬鹿げているでしょう?」
「は、」
確かに、私とどっこいどっこいなぐらい馬鹿げた理由だ。
毎回悪役にされる彼が容易に想像できて笑える。
「ついでに言うと、せっかく騎士になったというのに職務が忙しく、そんなことはいまのいままですっかり忘れておりました。思い出せたのは魔女殿のおかげですな。初心にかえった勢いで思わず始めてしまったが、台詞も案外覚えているものだ。」
思い出せて良かったねと言うべきかどうか。馬鹿げてるうえに本末転倒という、隙のない二段構えでこれまた笑える。
しかし、まあ、それにしても。
「はぁ……勘弁してよ……びっくりした…………。」
さすが元騎士なだけあって、所作が素晴らしく様になっていた。そのおかげか、地味顔の強面も残念要素にはならず、不思議と精悍に見えてくる。そこに熱のこもった演技が合わさり、それはもう、先述したギャップの威力も相まって、破壊力がすごかったのだ。しかも不意打ちだし。
私だって乙女心の一つや二つ持っているし、物語みたいな展開が嫌いなわけじゃない。大人でいるために切り離して考えるのが上手くなっただけだ。
「魔女殿」
私の右手を掴んだままだった大きな手がそっと離れる。
「……貴女のおかげで、騎士としての俺に良い弔いができました。」
離れたはずの大きな手が、今度は私の右足首を掬うように軽く持ち上げた。
このまま握れば小枝のように足首を折ることもできるだろう、力強く大きな手。
「これからの俺は、奴隷として全てを貴女に捧げましょう。……愛しき我が主よ。」
足の甲に、口づけが落ちる。
「…………っ!?」
言葉にならない叫びが飛び出た。
おそらくいまの私は目も口もかっ開いてさぞ間抜けな顔になっているだろう。もしかしたら耳まで赤くなってるかもしれない。
なんなんだこれは、一体何が起こっている?
顔を上げた彼は悪戯が成功した子供のような笑みを口の端にのせていた。なんとまぁ憎たらしい。
というか、なんだか甘やかされている気がする。なんなら激甘だ。おかしい、こちらが甘やかす側のはずだったのに。これが年の功というやつか……?
しかし、私にも飼い主としての面子があるのだ。負けられない。
「……一生甘やかしてやるから、長生きしてよね。」
「ふ、身に余る光栄、恐悦至極にございます。」
余裕綽々な彼の様子に怯みそうになる。くそう。
もしかしたら私はとんでもない買い物をしてしまったのかもしれない。
俺たちの関係はこれからだエンドです。
お読みくださりありがとうございました。
活動報告にキャラクターのイメージ画像を置いてるので気になる方はそちらもどうぞ。
設定メモ
・魔法使いは国家資格。その中でも特に優秀な者に(男女関係なく)魔女の称号が与えられる。昔いた伝説のすごい魔法使いが女性だったから魔女。
・おじさんはとある小国の元騎士団長。一応爵位あるけど実質平民な貧乏貴族の生まれ。家柄がめっちゃ良いやつから出世を妬まれ、罠に嵌められて失脚からの奴隷落ち。真面目だけど堅物ではない。
・おじさんは魔女ちゃんのこと気に入ってるけど、現時点では「生活の心配しなくていいうえに可愛い女の子が飼い主」=「世間の一般男性諸君的に勝ち確と言って過言ではない状況」=「俺めっちゃラッキー」な感じが強く、彼の主観的な幸福感自体はまだ薄め。




