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塩顔おじさんだけど砂糖より甘いかもしれない

作者: 岡八

ネタメモに毛が生えた程度の習作なので読み応えはあっさりです。

読み専だけどせっかく登録したんだし投稿周りの機能を体験してみたいな~という動機で書きました。

「お前さ、見た目は小動物みたく可愛いのに、サバサバした性格なのが落差すごくて残念だよな。」

……私だってなりたくて童顔の子供体型になったわけじゃありませんけど?顔と中身の落差ひどいのはあんたもでしょ?


「君は僕がいなくても大丈夫だけど、彼女には僕が必要なんだ。」

……私が必要としているかしていないかを、なんであんたが決めてるの?いまこの瞬間不要になったから別にいいけどさ?


「構ってもらえるのは嬉しいけど、恋人じゃなくて母親といるみたいでときめきがないんだよ。」

……弟7人もいるし自然と世話焼きになっちゃっただけなんですけど?というか付き合い始めはめちゃくちゃ愛されてる証拠とかなんとか言って喜んでましたよね?


「え、おれの何がダメだったの?なにもしないところ?だって君の稼ぎならおれ働かなくてもどうにかなるでしょ?」

……魔女は国家資格持ちで食うに困らないから?養う側で当然?魔法使いだの魔女だのもあくまで肩書きみたいなもので職とは言い難いんですけどわかってる?わかってないね??


まっっったく、どいつも、こいつも、アテが外れたからって勝手なことばかり言ってくる。

いいわよ、やってやるわよ!そんなに言うなら!!世話焼きサバサバ女らしく!!男を飼ってやろうじゃないのさ!!!!!





「……というわけであなたをお迎えしたってわけ。わかった?」


私の目の前にいる男は眉間に皺を寄せた。呆れと困惑と哀れみが入り交じったような、複雑な表情をしている。


「思いのほか、馬鹿げた理由ですな…………。」


ですよね!私も自分でドン引きしてる!!

自棄になって奴隷買っちゃうなんてね!!!!!


しかしもう後には引けないし引く気もない。

自棄になったと言っても、品定めするだけの冷静さはあった。数いる奴隷の中からちゃんと考えたうえで彼を選んだのだ。……どうせ養うなら苦みばしった歳上男性をでろでろに甘やかす方がちょっと倒錯的で楽しそうかも、と。ちゃんと考えたのだ。ちゃんと。本当に。ほんと。


心中の気まずさを誤魔化すために軽く咳払いをする。

私は自棄に自棄を塗り重ねるように開き直ってみせた。


「……馬鹿げた理由ですみませんね。何か文句でも?」


「まさか。感謝こそすれ、文句などあるはずもない。……腕に覚えはありますが、逆に言えば俺にはそれしかありません。ご覧の通りくたびれた、つまらん中年です。闘技奴隷として死ぬまで見世物にされる可能性が一番高いだろうと覚悟していましたが……。」


ふ、と口の端がかすかに上がり、彼の表情が緩んだ。


「こんな可愛らしい魔女殿に飼われることになろうとは……人生捨てたものではない。もしかすると奴隷になる前より良いかもしれません。幸運が過ぎて世の男どもに恨まれそうだ。それか明日死ぬのやも。」


「ちょっと、私が面倒みるんだからそんな簡単に死なせないわよ。覚悟してよね。」


「それは頼もしい。」


一見すると「口数少なく地味な顔立ちの強面」という近寄りがたい風貌の彼だが、話している様子を見る限りそんなことはなさそうだ。強面には違いないけど。

主に力仕事系の雑用を頼むつもりでお迎えしたのだが話し相手にもなってくれそうなのは嬉しい誤算である。

私のアレな購入理由を聞いて力が抜けたのか、気安い感じで話してくれているのも有難い。ガチガチの主従関係を望んでいるわけでもなし、これぐらい砕けてる方が親しみやすくて丁度良いや。


「ところで、ひとつお訊きしたいのだが……。」


「なに?」


「男を飼うなら過去に適当なのがいただろうに、何故わざわざ奴隷を迎える必要が?」


なるほど、こちらからすれば寄生野郎と奴隷とでは大違いなのだが、端から見れば男を飼ってることに変わりはない。どう違うのかピンとこないのだろう。


「最初から飼うつもりで付き合ってたわけじゃないもの。付き合って楽しい相手と、飼って楽しい相手は別ってこと。奴隷なら主人である私が面倒見て当然だからって割り切れるし、なんで私ばっかりとか思わずに済む。アテが外れたのはお互い様なのに、あっちばっかり被害者面するんだから、ほんとやんなるわ。」


「ふむ……すると俺は飼って楽しい相手ということで?まぁ、元は騎士なので、飼われ慣れているといえばそうかもしれませんが……。」


なんと。驚きの事実がぽろっと出てきた。

そういえば商館から貰った経歴書をまだ見ていない。


「騎士!?体つきで戦闘職だろうとは思ってたけど、騎士だったの?」


「ええ。意外ですか?」


「奴隷になるぐらいだし、てっきり傭兵かなにかだと……なかなかの落ちぶれっぷりね。」


傭兵や冒険者が借金苦の末に奴隷落ち、はたまに聞く話だが、騎士が奴隷落ちは私が知る限りほとんどない。平民でもなれるけれど基本的には家柄重視の職業だからだ。


「そうでもありません。魔女殿に拾われるための対価だったと思えばむしろ安すぎるくらいだ。」


「さっきからやたらとヨイショしてくれるじゃない。そんなに持ち上げられるとむず痒いんだけど……。だって私怨まみれの?馬鹿げた理由なのに?」


ちょっとした仕返しのつもりで、最初に彼から言われた言葉を持ち出してみる。

それを聞いた彼は優しい苦笑をこぼした。


「失言でした、すみません。……ただ、それを言うなら俺も、騎士を目指したきっかけは馬鹿げたものでしたよ。」


彼がおもむろに席を立つ。机を挟んで向かい合っていた私の横まで来ると……恭しく跪いた。まるで主人を前にした騎士のように。

大柄な彼と小柄な私とでは背丈の差が絶望的で視線を合わせるのも一苦労なのだが、いまのように、座る私と跪く彼となら高さがバッチリ合うようだ。地味顔の強面が正面からよく見える。


「なに?急にどうしたの?」


彼の意図が全く読めず、突然の行動に身構える。

しかし彼はそんな私を気にすることなく、真剣な眼差しでこちらを見上げると言葉を発した。

……地味なだけで顔のつくり自体は悪くないなこの人。


「……愛しい人よ。私は貴女のためならば、惜しむものも、恐ろしいものも、悔いることもないのです。我が愛、我が忠誠、我が身命、全て貴女に捧げましょう。ですからどうか、いまだけは……いまだけは御身に触れること、どうぞお許しください。」


彼は流れるように私の右手をそっと持ち上げ、その甲に口づけをした。一瞬の出来事なのに、なんだかやけにゆっくり感じる。

…………って、え!?なにごと!?!?!?!?


「……ふ、すごい顔をしておられる。」


「そ、そりゃそうでしょ!?突然すぎてわけわかんないもの!!」


出会ったその日に全てを捧げられるとか理解不能すぎる。驚かないわけがない。


「魔女殿は『花の姫と夜の騎士』をご存知で?」


「花の姫……?ああ、あの子供向けのおとぎ話?両想いの二人が身分違いの恋に思い悩むけど、なんやかんやあって無事に結ばれるやつよね。」


「それです。子供の頃、その物語がお気に入りの幼馴染がおりまして。いつもごっこ遊びに付き合わされました。しかし俺は毎回悪役で、当時はそれが面白くなくて……本当に騎士になって一泡吹かせてやろうと思ったんですよ。馬鹿げているでしょう?」


「は、」


確かに、私とどっこいどっこいなぐらい馬鹿げた理由だ。

毎回悪役にされる彼が容易に想像できて笑える。


「ついでに言うと、せっかく騎士になったというのに職務が忙しく、そんなことはいまのいままですっかり忘れておりました。思い出せたのは魔女殿のおかげですな。初心にかえった勢いで思わず始めてしまったが、台詞も案外覚えているものだ。」


思い出せて良かったねと言うべきかどうか。馬鹿げてるうえに本末転倒とか隙のない二段構えすぎてこれまた笑える。

それにしても、それにしてもだよ。


「は~~~~~~っ……勘弁してよ……びっくりしたぁ…………。」


さすが元騎士だけあって、所作が素晴らしく様になっていた。そのおかげか、地味顔の強面も残念要素にはならず、不思議と精悍に見えてくる。そこに熱のこもった演技が合わさり、それはもう、破壊力がすごかったのだ。しかも不意打ち。

……サバサバ女だって乙女心の一つや二つ持っているし、物語みたいな展開が嫌いなわけじゃない。大人でいるために切り離して考えるのが上手くなっただけだ。


「魔女殿、」


私の手を掴んだままだった大きな手がそっと離れる。

力強いぬくもりが消えたことになんだか一抹の寂しさを覚えた。


「……貴女のおかげで騎士としての俺に良い弔いができました。」


離れたはずの大きな手が、今度は私の右足を掴んで、


「そして、これからの俺は貴女の奴隷。俺の全ては貴女のものです。一生よろしくお願いします……ご主人様。」


足の甲に、口づけを落とした。


「~~~~~~ッ!?!?!?!?!?」


殺す気か!?!?!?!?!?!?!?!?

心臓が!!!!死ぬ!!!!!!

ここまで来ると!!潤いを通り越して!!!むしろ!!!毒!!!!!!!!


顔を上げた彼は悪戯が成功した子供のような笑みを口の端にのせていた。なんとまぁ憎たらしい。

というかこれ甘やかす前に甘やかされてない?甘々すぎない??おかしい、こんなはずではなかったのに。これが年の功というやつ?おそろしいね?

しかし私にもご主人様としての面子があるのだ。負けられない。


「……意地でも一生甘やかしてやるんだから…………!」


「ふ、身に余る光栄、恐悦至極にございます。」


余裕綽々な彼の様子に怯みそうになる。くそう。

もしかしたら私はとんでもない買い物をしてしまったのかもしれない。

俺たちの関係はこれからだエンドです。

お読みくださりありがとうございました。

活動報告にキャラクターのイメージ画像を置いてるので気になる方はそちらもどうぞ。


設定メモ

・魔法使いは国家資格。その中でも特に優秀な者に(男女関係なく)魔女の称号が与えられる。昔いた伝説のすごい魔法使いが女性だったから魔女。

・おじさんはとある小国の元騎士団長。一応爵位あるけど実質平民な貧乏貴族の生まれ。家柄がめっちゃ良いやつから出世を妬まれ、罠に嵌められて失脚からの奴隷落ち。真面目だけど堅物ではない。

・おじさんは魔女ちゃんのこと気に入ってるけど、現時点では「生活の心配しなくていいうえに可愛い女の子が飼い主」=「世間の一般男性諸君的に勝ち確と言って過言ではない状況」=「俺めっちゃラッキー」な感じが強く、彼の主観的な幸福感自体はまだ薄め。

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