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第4話 セスとの再会

「フィー、かくれんぼしようよ!」

「いいわよ。じゃあ、私が鬼ね」


 目を閉じて数を数えだすと、セスが楽しげな笑い声を上げながら、遠ざかっていく。

 ルイーズに先に挨拶をと思っていたが、とりあえずしばらくはセスの相手をすることにした。


「もういいかーい?」

「まーだだよー!」


 声を掛けると、遠くからセスの声が返ってくる。セスのクスクスと笑う声も聞こえて、フィエルティアは目を閉じたまま笑みを深くする。

 鬱々とした気持ちが消えていくのが分かる。来て良かったと感じると、フィエルティアはもう一度声を上げた。


「もういいかーい?」

「もういいよー!」


 楽しそうな返事に目をパチリと開けたフィエルティアは歩き出す。声のした方は正面だ。それほど広くもない庭の中、あっという間に見つけてしまってはかわいそうだと、わざといないだろうという方へ進む。

 低木の陰を覗き込みながら、わざと「あれ? いないなぁ」と声を出すと、小さくくふくふと押し殺した笑いが聞こえてくる。

 セスの楽しそうな声にこちらも楽しく思いながらまた足を進めると、さきほど男性が座っていたように見えたベンチのそばに来た。おかしなところはないわよねと覗き込んだベンチの下に、本が落ちていることに気付いた。

 拾い上げて見た本は、大人が読むような難しい政治のものだ。まさかセスが読む訳もないと不思議に思っていると、「フィー、まだぁ!?」というセスの声にハッと顔を上げた。慌てて本をベンチに置くと、今度こそ声が聞こえた方へと歩きだす。

 すぐに大きな木に隠れるように座り込んでいるセスの背中が見えた。本人は隠れているつもりだろうが、背中はまるきり見えていて、フィエルティアは笑いを堪えながら近付く。


「あ! セス、見ーつけた!」


 声を掛けながらポンと背中を叩くと、セスは「キャー!」と高い叫び声を上げた後、笑い転げた。

 なにがそんなに楽しいのか、けたけたと笑い続けるセスを観察するように見つめる。ふわふわの淡い茶色の髪が笑う度に揺れる。誰かに似ているような気もするが、誰だろうかと考える。

 公にできない理由とはなんだろうか。こんな城の奥に隠すように育てられているなんて、どんな秘密があるのだろうか。


「フィー、どうしたの?」

「え?」


 いつの間に笑いが止まったのか、セスがきょとんとした顔でこちらを見上げてきている。


「あ、えーと、またかくれんぼする?」

「ううん。お部屋で絵本読みたい」

「分かったわ」


 フィエルティアが立ち上がると、セスが手を握る。そのまま手を引かれて歩く先に城の中へ戻る扉があった。たぶんセスが開け放ったまま外に出たのだろう、中途半端に開けられた扉の中は、おもちゃの散らかった子供部屋だった。


「ここがセスの部屋?」

「そうだよ! おもちゃも絵本もたくさんあるんだよ!」


 フィエルティアに見せたいのか本棚の前に連れて行かれる。壁に寄せられた本棚に目をやると、たくさんの本があるが、その内容にフィエルティアは首を傾げた。

 セスの手が届く高さには絵本が並んでいる。けれどそれより上にはなぜか教書の類や大人が読むような物語、政治などが詳しく書かれた本が、絵本の数よりも倍以上揃えられていた。


(もしかして、もう一人暮らしているのかしら……)


 さきほど見た男性は見間違いではなかったのかもしれない。そう思い部屋を見渡してみるが、ベッドは一つしかない。明らかに家具はセス一人のためにあるような配置で、二人が暮らしているようには見えない。


「ねぇねぇ、フィー、これ読んで?」

「ん?」


 セスが本から取り出し差し出した本は、フィエルティアも良く知る絵本だった。懐かしい気持ちになりながら長椅子に座ると、セスが「お膝に乗せて」と言ってくる。

 フィエルティアは笑ってセスを膝に引き上げてやると、絵本を開いた。


「昔々このイグロス王国には、魔法でできたお菓子のお城がありました」


 それはこの国の大半の子供が読む絵本で、フィエルティアも小さな頃読んだものだ。イグロス王国に伝わるお伽話で、魔法使いやお菓子のお城、可愛い妖精などが出てくる素敵なお話だ。

 フィエルティアは懐かしい気持ちで読む間、セスはきらきらとした眼差しでページに描かれた挿絵を眺めた。


「ねぇ、フィー。魔法ってホントにあるの?」

「うーん、そうねぇ、あったらいいわね」


 セスの質問にフィエルティアは笑いながら答える。昔、自分も乳母にそんな質問をした覚えがある。


「僕ねぇ、魔法でいーっぱいお菓子を出したいなぁ」

「それでお城を作るの?」

「そうだよ。まずはケーキで形を作るでしょ、そしたら周りにクリームを塗るの。あとね、キャンディーで飾ってぇ、あとマシュマロをいっぱいくっつけて」

「私はクッキーがいいわね」

「じゃあじゃあ、フィーのためにクッキーでお部屋作ってあげる!」


 無邪気なセスの言葉にフィエルティアは笑って頷く。そうしてせがまれるままもう一度最初から読んでいると、庭に続く扉の反対側の扉が開いてルイーズが入ってきた。


「フィエルティア様」

「ルイーズ」


 ルイーズは挨拶をすると、手にしていた銀のトレイをテーブルに置きそばに歩み寄る。


「この度は、お越し頂き誠にありがとうございます」

「いいえ、私もセスに会いたかったの。だから招待してくれて嬉しいわ」

「そうでしたか。さぁ、お茶とお菓子をご用意致しましたのでどうぞ」

「お菓子食べる!」


 フィエルティアの膝からぴょんと飛び降りたセスはテーブルに駆け寄る。フィエルティアもゆっくりと立ち上がると、テーブルの方の椅子に腰かけ直した。


「フィエルティア様がいらっしゃると聞いて、セス様はとても興奮されて、その日は中々寝て下さらなかったのですよ」

「あら、そうなの?」


 口いっぱいにクッキーを頬張っているセスに訊ねると、少し照れたようにセスは笑う。フィエルティアとルイーズは微笑み合い、それから少しの間、穏やかなお茶の時間が続いた。

 紅茶を飲み終わり、今度は部屋の中のおもちゃでセスと遊んでいると、部屋にノックの音がした。ルイーズが慌てて走り、扉を開ける。


「王妃様!」

「母上!」


 扉から入ってきた女性の顔を見て、フィエルティアは驚きの声を上げた。その声に重なるようにセスが嬉しげな声を上げ、二度驚く。


「母上? セスの?」

「うん! そうだよ!」

「セス、良かったわね。フィエルティアが来てくれて」

「うん!」


 優しい笑みを浮かべながらアンヌ王妃が近付いてくる。フィエルティアは呆然としたまま立ち上がり、膝を折る。


「ま、まさか、セスの、セス様のお母様が王妃様だとは思わず……」

「顔をお上げなさい。知らないのは当たり前よ。セスの我がままを聞いてくれてありがとう。感謝しているわ」

「いいえ、そのようなこと……」


 顔を上げ、王妃の顔を見たフィエルティアは確かにセスとの血の繋がりを感じた。髪の色は金髪なのでセスとは違うが、同じ青い瞳とその形はまったく同じように見える。

 ということはセスはこの国の王子ということになるが、フィエルティアはまったくその存在を知らなかった。この国の王子は今年23歳になるグラード王太子ただ一人だと思っていた。


「セス、少しフィエルティアと話がしたいの。あちらで遊んでいてくれる?」

「うん、分かった」


 王妃の言葉に素直に頷くセスをルイーズが抱き上げる。そこから視線を戻すと、王妃は椅子に腰かけた。

 フィエルティアもぎこちなくだが正面の椅子に座る。


「ルイーズから話を聞いて、手紙を出すように言ったのはわたくしなの」

「王妃様が?」

「ええ。セスはここでずっと暮らしていて、いつも一人だからか、人見知りが酷くてね……。初対面で心を開いたのはあなただけなの」

「そうなのですか……」

「子供の遊び相手なんて退屈だろうけど、親バカを許してね」

「そんな、滅相もありません」


 今まで王妃とは舞踏会で挨拶程度しか言葉を交わしたことがなかった。優しそうな面立ちではあるが、やはり王妃という立場から威厳のようなものを感じていた。けれどこうして直接話してみると、どこにでもいる母親という雰囲気で、とても親しみが持てる。

 フィエルティアの母親は自分を産んでから2歳頃には亡くなってしまっているのであまり記憶にないが、王妃を見ているとこんな人が母親だったらいいなと思う優しさが感じられた。


「あなたの事情も考えずに呼び出してしまってごめんなさいね」


 王妃のその言葉にフィエルティアは固まった。ケヴィンとのあの騒動の時、舞踏会には王妃もいたのだ。こちらの事情を知っていて当然だ。


「大変だったわね」

「……お恥ずかしい限りです」

「気を落とさないことよ。結婚には色々あるわ」

「はい……」


 優しい王妃の言葉に小さく返事をするのが精いっぱいだった。俯いて膝の上の両手を握り締める。手袋を嵌めた手をじっと見つめていると、今まで心に溜め込んでいた気持ちが溢れてしまった。


「私がこんな姿だから結婚できないのでしょうか……」

「皆、呪いが怖いのよ」


『違う』と咄嗟に言おうとして、フィエルティアは唇を噛んだ。自分は呪われていないと否定したかった。けれど優しそうな王妃でさえもそう考えているのだと思うと、悔しさよりも諦めの気持ちが勝って声に出すことはできなかった。


「あなたもずっとこのままではつらいでしょう。いつかは結婚してお父様を安心させてあげないと」

「そう、ですね……」


 王妃の言葉は義姉のシンシアがいつも言っている言葉とまったく同じだった。兄に嫁いで屋敷に住むようになってから、何かある度フィエルティアに言い聞かせた。

 自分だって十分分かっている。それを言葉にしてぶつけられると、たまらなく苦しかった。


「そこであなたに提案なのだけど」

「はい……」

「フィエルティア、あなた、セスと結婚しない?」

「……はい?」


 俯いたまま返事をしていたフィエルティアは、思わず間抜けな声を出して顔を上げた。


(え……、今、結婚って言った?)


 言葉の意味が分からず、ぶしつけに王妃の顔を見つめ続ける。王妃はにっこりと笑みを浮かべて、フィエルティアをじっと見つめ返した。

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