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第33話 呪いの真相

「まさか……、そんな……」

「な、なんだあれは……」


 グラードが怯えた声で呟き、よろりとよろめく。ベルツ侯爵や兵士たちは少女を見上げ驚きと恐怖に固まっている。

 フィエルティアは目映い光を纏った少女をじっと見つめた。ゆらゆらと空間に揺らめく長い髪は金色と銀色の混ざった不思議な色をしている。幼い顔はどう多く見積もっても15歳程度にしか見えない。特に印象的なのは片目ずつ金と銀に分かれた両目だった。見張るような大きな目はじっとセスを見つめている。

 恐怖は感じない。どちらかといえば惹きつけられるような美しさを感じ、目を離せない。


「お前が……、魔女か?」


 セスの声に全員がハッとした。セスは強張った表情で少女を見上げている。


「久しいな、イグロスの王子よ」


 少女は笑いながら高い声で答える。


「俺に呪いを掛けたのはお前だろう? 呪いを解いてくれないか?」

「確かに我は呪いを掛けた。だがお前はなぜ呪いを受けたのか知っているのか?」

「なぜ? それは……」


 少女――魔女の問い掛けにセスは口を噤む。理由など知る由もない。ここに魔女が眠っている理由すら知らないのだから。


「お前は何も知らないのだな。セス・イグロス。この国の第一王子はそんなものなのか」

「俺は、……俺からその機会を奪ったのはお前だろう!?」

「我が? 我ではないだろう。なぁ、グラードよ」


 名前を呼ばれたグラードは顔を歪めたまま魔女を見つめる。その目は怒っているようにも脅えているようにも見えた。


「お前の呪いは、弟のせいだと言ったらどうする?」

「グラードの?」


 魔女の言葉にセスがグラードを見ると、グラードはばつが悪そうに目を逸らした。


「幼い王子たちがここを訪れた時のことは、昨日のことのように覚えている。かくれんぼの最中、隠れる場所を探してここに来たのはグラードだった。止めるセスの言葉も聞かず我の墓に触れたのはグラードだった」


 フィエルティアは夢で見た光景を思い出す。確かにそうだった。グラードが墓に触れた。それなのになぜセスが呪いを受けたのだろうか。


「我を目覚めさせたのはグラードだ。だがあの時、お前は懇願した。弟を助けてくれと。だから我はお前だけを呪ったのだよ」

「そんな……、じゃあセスは、自分から呪いを受けたっていうの!?」


 グラードを恨むつもりはない。幼い子のやったことだ。仕方なかったのだろう。それでも言葉を止めることはできなかった。責めるような言葉にグラードは弱く首を振る。


「そうだ……、そうだった……」

「思い出したか? 助けてやった弟にこんなことをされて、お前は悔しくはないのか? 本当なら王座はお前のものだろう。それを横取りされ、あまつさえ殺されそうになるなど、憤懣やるかたないであろう」


 セスは俯いたまま返事をしない。フィエルティアは心配になってセスの背にそっと触れると、少ししてこちらを向いた。その顔は穏やかで何の怒りも悲しみも感じないものだった。


「そんなことはどうでもいい。そんなことよりこの呪いを解いてくれ。俺が不安定だからグラードが安心できない。俺は大人に戻っても王座など求めない」

「嘘を言え!! お前は王座を狙っている!! 現にこうして城に戻ってきたではないか!! アシュリー伯と共に陛下を亡き者にしようとしたのだろう!?」


 ベルツ侯爵の怒鳴り声に、セスは目を吊り上げた。


「そんなこと望んでいないって言っているだろうが!!」


 ベルツ侯爵よりも更に大きな声量で怒鳴ったセスに、グラードがよろよろと前に出てきた。


「兄上……、本当に?」

「ああ、グラード、本当だ。俺はお前のことを恨んでなんていない。あれは子どもの時のことだ。仕方なかったんだ」

「誰がそんな言葉を信じるものか!」


 グラードの前に立ちはだかったベルツ侯爵がまた声を上げる。二人が歩み寄ろうとしているのに、その邪魔をしようとしているベルツ侯爵の姿に、フィエルティアは怒りを抑えられなかった。


「信じられるわ! 兄弟だもの!! セスはグラード様をこれっぽっちも恨んでないわ!! 私もそう信じてるし、グラード様も信じるべきよ!!」


 こんな辛い呪いを受けてもセスは一言もグラードのことを悪く言うことはなかった。それを一番そばで見てきたフィエルティアは叫ばずにはいられなかった。

 ベルツ侯爵の言葉になど惑わされないでほしい。その一心でグラードを見つめる。


「あのような呪われた娘の言うことなど聞く必要はありません、陛下!」

「私は呪われてなんていないわ!!」

「口を慎め!! 忌まわしい!! お前のような者がなぜ王家に入り込めたのだ!? なんだその姿は!! なんて汚らわしい!!」


 吐き捨てたように言ったベルツ侯爵の目は、本当に汚らわしい物を見るような目つきだった。長いこと晒され続けた視線に、フィエルティアは強気だった心が怯んだ。

 酷い言葉から逃げ続けてきた自分。戦う勇気は持てなくて、ただその場から逃げるしかできなかった。でも、今はそうしたくない。セスのために、自分のために。


「私は……、私は呪われていない。この姿は母が私にくれた大切なものよ!!」


 勇気を奮い起して叫んだ。


「確かにそうだ。お前は呪われてなどいない。火の魔女よ」


 賛同の言葉を続けた魔女は、不敵に笑いフィエルティアに初めて目を向けた。

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