第23話 敵襲
あれからセスは10歳から20歳ほどの年齢を行ったり来たりしていた。夜は大抵10歳ほどの姿なので、未だに同じベッドで眠っている。
そうしてこの日もセスと共に就寝し、ぐっすりと眠っていたのだが、深夜、突然肩を揺さぶられてフィエルティアは目を覚ました。
「どうしたの、セス……」
眠たい目をどうにか開けると、目の前に本来の年齢の姿のセスが現れた。
「フィー! 起きろ!!」
「セス!?」
小声で鋭く言われ、何事かと身体を起こすと、セスは口許に指を立てる。
「静かに! ルイーズを起こして、急いで着替えろ」
「なに!?」
「敵だ」
セスの言葉に目を見開く。けれど一瞬で冷静になるとベッドを滑り降りる。こんなこともあるかもと、いつも外に出られる格好で寝ていたフィエルティアは、髪だけ急いで纏め隣の部屋に飛び込む。
「ルイーズ! 起きて! 敵よ!」
「え!?」
同じような格好で寝ていたルイーズは、驚きながらも飛び起き枕元に置いていた袋を手にする。
「セス! すぐに行けるわ!」
寝室に戻ると、窓の外を窺っているセスの手にはアンディが置いて行った剣を持っている。
「剣なんて使えないでしょ?」
「ないよりマシだ」
フィエルティアはその言葉に、自分もアンディに渡されていた短剣を持ってくるとエプロンの下に隠した。
「用意はできたな。裏木戸から逃げるぞ」
「見つからない?」
「まだ敵の位置は遠い。だがぐずぐずしていると囲まれてしまう」
なぜセスが敵の位置が分かるのか不思議に思ったが、セスが言うのならそうなのだろうと信じフィエルティアは不安そうなルイーズの手を握り裏木戸に向かう。
セスがゆっくりと裏木戸を開け、隙間から外を窺う。真っ暗な森の中に人の気配はまだない。それを確認すると、セスはそろりと一歩外に出た。
「よし、行くぞ」
「はい!」
フィエルティアは気合いを入れて返事をすると、森に向かって走り出すセスを追い掛ける。
真っ暗な森の中は何も見えないに等しい。ただ空は晴れていて、細い三日月が少しの灯りを照らしてくれている。そのほのかな明るさを手掛かりに前に進む。
必至にセスの後を追っていると、背後で複数の男の声が聞こえた。
「誰もいないぞ!?」
「よく探しなさい!! どこかに隠れているのよ!!」
「はっ!!」
「女は先に殺しなさい! いいわね!!」
男性の声に混じって女性の声が聞こえる。甲高い女性の声は闇によく響いて、思わずフィエルティアは背後を振り返った。
「どうしました? フィエル様?」
足を止めたフィエルティアにルイーズが問い掛ける。その言葉にセスも足を止めて振り返った。
「フィー?」
「いえ、ごめんなさい。行きましょう」
三人の動きが止まってしまい慌ててフィエルティアが動こうとした時、闇の中に明かりが見えた。
「足跡だ! こっちに逃げたぞ!!」
男の野太い声が聞こえると、複数の足音がこちらに近付いてくる。
「くそ! 走るぞ!!」
セスの掛け声にフィエルティアは恐怖を押し殺して走り出した。雪が足を取り上手く走れない。それでも必死で走り続けたが、ふいにルイーズが手を放した。
「ルイーズ?」
「私を……置いて……お逃げ下さい……」
肩で息をしているルイーズは限界なのか、その場で膝に両手を付いて言ってくる。
「バカを言え!!」
セスは激しく否定すると、戻ってきてルイーズを背負った。
「フィーは大丈夫か?」
「私は平気! 行きましょう!」
「よし!」
ルイーズを背負いながら走るセスはとても力強く、フィエルティアは頼もしく思いながら後を追い掛けた。
けれど、数分もしない内に背後に迫る足音と男たちの声は近くなる。
「待て!!」
明かりを手にした男の顔が見えるほどに近付いて、振り返ったフィエルティアは恐ろしさに息を飲む。どうしようとセスを見ると、セスはゆっくりと足を止めてルイーズを下ろした。
「二人は下がっていろ」
「セス?」
セスが腰に携えている剣を引き抜く。覚悟を決めた表情を見て、フィエルティアは何も言えず、ルイーズと共に後ずさる。
無謀過ぎると止めるにはあまりにも時間がなさすぎた。
追い掛けてきた男は、セスの持つ剣を見ると、自身の腰に吊るされていた剣を勢いよく引き抜く。持っていた松明を投げ捨てると、セスに向かって突っ込んで来た。




