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第20話 アンディからの報告

 あれからセスが大人の姿になることはなく、静かな時間が過ぎた。そしてここに来て8日目の夜、アンディが戻ってきた。

 すでに3人とも眠っている時間だったが、セスだけベッドに寝かせたままフィエルティアとルイーズは慌てて起き出した。


「すみません、このような時間になってしまい」

「いいのよ。それより無事で何よりだわ。座って」


 アンディにイスを勧め、自分も正面に座る。アンディはフードを下ろし一息吐くと話し出した。


「表立って調べることができず、だいぶ手こずりましたが何とか情報は得られました」

「誰がセスを、私たちを狙ったか分かった?」

「はい。あの時襲ってきた奴らは城の兵士ではありませんでした」

「兵士ではない?」


 城で襲われた時、暗闇の中でよく見えなかったが、兵士のような格好をしていたから、てっきり兵士だと思い込んでいた。


「はい。何者かの私兵でしょう。なぜ城に入れたのかは分かりませんが、兵士たちに紛れていたのは確かです」

「誰の私兵なの?」

「そこまではまだ……。城では殿下がいなくなったことは、まったく噂にもなっておりません。しかし陛下の、グラード様の様子は明らかにおかしいようです。落ち着きがなく、心ここに在らずという様子で」

「そう……」

「今は助け手をどうするか思案中です。誰が敵か味方か判然としないので、難しい問題ですが」

「情けないな、アンディ」


 突然低い声が聞こえて全員が振り返ると、扉に寄り掛かって腕を組んだ大人のセスが立っていた。


「殿下!?」


 驚いて声を上げるアンディに、セスは微かに笑ってみせる。フィエルティアはまた唐突に大人になったとルイーズと目を合わせた。


「敵が俺たちを殺そうと考えているなら、ここが見つかるのも時間の問題なんじゃないか?」

「それはそうですが……」

「隠れていてもどうにもならんだろう」


 セスの言葉にアンディは口ごもる。確かにそれは正論だが、アンディにだってできないことはあるだろう。

 情報収集だけでも大変だろうに、敵をどうにかしろというのは酷すぎる。

 困ったように口を閉ざしたアンディを見て、フィエルティアはここ最近ずっと考えていたことを思い切って口にした。


「お父様に助けを求めましょう! 私のお父様ならきっと助けてくれるわ!」


 これしかもはや手はないと勢い込んで言うが、アンディもセスも表情を変えることはなかった。


「そなたと私が一緒に逃げたことは敵も知っている。アシュリー伯はすでに見張られていると思った方がいい」

「殿下の言う通りです。私も一度偵察に行きましたが、すでにアシュリー伯爵の屋敷の近くに、怪しげな者の姿を確認致しました」

「下手に接触したことがあちらに知られてしまえば、巻き添えになる可能性がある。だからアンディは何もせず戻ってきたのだろう?」

「はい」

「そんな……」


 フィエルティアは二人の言葉に落胆して肩を落とした。父ならきっと助けてくれると思っていたけれど、確かに巻き添えになれば命の危険が迫るだろう。そんな簡単なことも想像できなかった自分が恥ずかしい。


「俺の敵がグラードだとして、俺を脅威に感じているのならお門違いだ」

「どういうことです?」

「俺は王位など欲しくない。というか国王なんてできる訳がない。この年齢まで何も考えず子どものままで育ったんだぞ。そんな奴が国王になったら国が滅びる」


 肩を竦めて軽く言うセスに、アンディは何かを言おうとして口を開いたが、言葉はそれきり出ず、開いた口はゆっくりと閉じた。


「アンディ、お前もグラードだと思っているか?」

「殿下……、それは……」


 答えられないアンディにセスはふっと笑うと、組んでいた腕を解きくるりと背中を見せる。


「アンディ。ここが危なくなった時のために、新しい隠れ場所を探しておいてくれ。できれば城下町のどこかに」

「城下でございますか? 国外に出る手もあると思いますが」


 アンディの言葉にセスは肩を揺すって笑う。首だけを振り返りこちらに視線を寄越したセスは続ける。


「この4人で逃亡劇か? 笑える話だ」


 それだけを言うと、セスは寝室の扉を閉めてしまった。取り残されたような形になってしまった3人はそれぞれ視線を交わし、それからゆっくり肩から力を抜いた。


「まさか殿下が大人の姿に戻っているとは思いませんでした。あれから何度か?」

「いいえ。まだ今日を入れても2回だけよ」

「呪いが解けようとしているのでしょうか」

「それは分からないわ……」


 わずかだが希望が見えたとアンディが思うのも仕方ないことだ。自分だってそう思いたい。


「ルイーズ、ここでの生活は大丈夫そうか? 困っていることはないか?」

「大丈夫よ、アンディ。それより味方になってくれそうな方はいないの?」

「探してはいるんだが……」


 ルイーズに言われ難しい顔で唸るように答えたアンディは、ふとテーブルの上に置いてある数枚の紙に目を落とした。

 手に取って目を通すと、少し驚いた表情を見せる。


「これは、奥方様が?」

「ええ。私が纏めてみたの。誰が敵になり得るのか、ちゃんと考えたくて」


 そこには王家に関係する人の名前や関係性が書かれている。

 フィエルティアが知り得る限りのものなので、表向き発表されているようなことばかりだが、それでも少しくらいの噂や評判を加味して考えれば、もしかしたらと書き出してみたのだ。


「よく纏まっております。これは殿下もご覧に?」

「これを書いている時に、セスも覗き込んでいたけれど、理解はしていないと思うわ」

「そうですか……」


 そうして一通りの話が終わると、「今少しご辛抱下さいと」と言い置いてアンディはまた家を出て行った。

 森の闇に紛れてすぐに姿が見えなくなったアンディを見送ったフィエルティアは、なんの進展もなかったことに落胆しつつ、セスの様子を見ようと寝室の扉を開いてみると、ベッドの中には5歳の可愛い子どもがすやすやと眠っていた。

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