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第18話 夢

「兄上! かくれんぼしようよ!」

「ああ、いいぞ!」


 目の前の5歳くらいの子どもがきらきらとした笑顔を向けて言ってくる。セスによく似た男の子だ。


「じゃあ僕が鬼になる。30数えるからその間に隠れろよ」


 両手で目を隠すと、視界は真っ暗になる。軽い足音が遠ざかって行くのを聞きながら、ゆっくりと数を数えだす。

 30を数え終わり手を離した視界にはもう誰もいない。辺りをキョロキョロと見渡してみるが、もちろん近くにはいそうにない。

 立ち上がり、歩きだす。


「もういいかーい?」


 大きく呼び掛けてみても返事はない。だいぶ遠くに隠れたのだろうと、少し小走りで走りだした。

 見慣れた城の景色。扉を守る騎士たちの横を走り抜ける。時折声を上げるが、まだ返事はない。


「もういいかーい!」


 華やかな廊下を奥へと進んで行く。あまり来たことのない場所に入り込んで、少し不安な気持ちが湧いた。


「おーい!」


 柱の陰や、物陰を捜すが、少年は見つからない。

 城の中には子どもが入っちゃいけない場所がたくさんある。言いつけを守らないと怒られる。ましてやかくれんぼをしていたなんて知られたら、父に怒られてしまうかもしれない。

 それは避けなければと必死で声を上げる。


「もう降参だ! 出てきてよ!」

「兄上! 面白いところを見つけたよ! 来て!!」


 突然、廊下の角から姿を現した少年が走り寄ってくると、こちらの腕を引っ張りまた走り出す。


「あそこ!」


 少年が指を差した先には、地下へと続く階段があった。その見覚えのある階段に足を止める。


「ダメだ! あそこは入っちゃいけないって言われてる」

「僕は言われてないよ」

「それはお前がまだ小さいからだよ。あ! ダメだったら!!」


 怯む自分を置いて少年は笑いながら階段を降りて行ってしまう。

 どうしようかと思ったけれど、放っておく訳にはいかない。怒られるのを覚悟して仕方なく後を追った。


「見て! あれなんだと思う?」


 階段の最後の段で足を止めていた少年がまた指を差す。地下には広い空間があった。だが暗くて中はよく見えない。

 ひんやりとした空気がなんだか怖い。怖いけれど、何があるのか興味が湧いた。


「兄上、行ってみようよ」


 少年は自分が付いてきてくれることを確信しているのか、まったく怖くないのか、平気な顔をして暗闇に歩きだしてしまう。


「お、おい!!」


 ここで一人で待つのも怖くて少年の背中を追うと、部屋の中心に大きな石が置かれていることに気付いた。

 何か模様が彫られているが暗くてよく見えない。石を中心に床に妙な模様もある。


「兄上、これなんだろう? なんでここに置いてあるのかなぁ?」


 闇に溶けるようにうっすらと少年が見える。だいぶ石に近い。

 なんだかとても嫌な予感がする。


「グラード! 触っちゃだめだ!!」


 石に触れようとするのを止めようと声を上げるが遅かった。小さな手が石に触れた瞬間、闇が膨れ上がり襲い掛かってきた。

 そのあまりの恐怖にフィエルティアは飛び起きた。


「な、なに……」


 はぁはぁと荒い呼吸を繰り返す。額に手をやるとじんわりと汗をかいている。その手を見て赤い自分のいつもの手だと確認する。


「夢……?」


 あまりはっきりと覚えていないけれど、自分は小さな男の子のことを『グラード』と呼んだ気がする。その男の子が『兄上』と呼んでいたということは、自分はセスになっていたということだろうか。


「変な夢ね……」


 呟きながら横を向いたフィエルティアは、そこに見知らぬ男性が寝そべっていて硬直した。


「だ、誰!?」


 あまりの驚きに声を上げると、男性の目がゆっくりと開いた。

 青い瞳がこちらを見上げる。まだ眠そうな顔であくびをする様子をフィエルティアは食い入るような目で見つめる。


「自分の夫に向かって“誰”はないだろう」


 低い声でそう言った男性は苦笑しながら起き上がる。

 着崩れた寝巻きの襟ぐりから厚い胸板が見えて、フィエルティアは顔が真っ赤になってしまう。


「セ、セスなの……?」


 小さな声で訊ねると、25歳のセスが柔らかく笑って頷いた。

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