1-3 食事
「よし、始めるか」
水面を見つめ水中を観察する。
「いた、あそこだ。いけ」
水中を泳ぐ魚を発見し仕掛けを近くに落とす。
針には、川の近くを掘って得たミミズのような生物を付けてある。
仕掛けには小さな石を括りつけ重しに関してもぬかりはない。
ただ、浮きをつけていない為、自分の手に来る感覚と糸を見つめる他アタリをつける方法がない。
どちらにしても集中だ。
「ッ!?」
水と糸との間の接地面に今までになかった波紋が広がる。
魚が仕掛けに反応している。
今すぐにアワセをしたい衝動に駆られるが、ここは待ちだ。
釣り針の形状上魚の口の中に入っていないとアワセられない。
ツンツンと竿先が優しくしなり、水面に波紋が広がる。
まだだ、ここで合わせたら魚が食いつかないどころか警戒されてしまう。
ビクンッと竿先が今までよりしなる。
食いついた!!今だ。
手元をくいっとスナップを効かせ合わせる。
よし、重い。
魚はうまく食いつき、フッキングもうまくいった。
ここまでくれば針が外れないように、手繰りよせるだけだ。
ググっとゆっくり竿を立てる。同時に魚は逃走を図ろうと水中で暴れる。
しかし、魚の抵抗虚しく、もうすぐ岸だ。
バシャッ
「よっしゃあ!!!!」
釣り上げた。自分で作った竿で釣り上げた。
しかも、大きいこの魚
持ち上げてみると命一杯ひろげた私の手のひらを優に超す大きさだ。20cm弱といった所だろうか。
1匹だけでも充分に満腹感を得られるだろう。
今日の所はこれだけにしておこう。
まだ他にも魚はいるだろうが、竿作成を含めかなり集中した為か疲労感がすごい。
また明日来よう。
テントへと帰ってきた。
早速食べようではないか。焚火台の上に薪を並べzippoで火をつける。
火つけには慣れた物で数分の内に火は安定した。
魚を解体しよう。
この魚よくよく観察してみるとマスに酷似している。釣り堀などで良く対象魚とされているあのマスだ。
地球のマスと比べるとやや鮮やかで口元に髭のようなモノが生えているがそれ以外は本当にマスにそっくりだ。
肛門にナイフを入れはらわたを抜いていく。
良かった。構造は普通の魚と一緒だ。血を水で洗い流し、串に通す。
マスの丸焼きだ。
10分ほど放置しておくとジュウジュウと脂が溶け、火に落ちる音が聞こえ始めあたりに焼き魚の匂が漂い始める。
そろそろ食いどころだろう。
少々塩をふりかけ、串を手に取る。毒がない事を祈って。
「いただきます」
ガブっとむしゃぶりついた。
「旨い、、」
この魚非常に旨い。
何度も地球のマスは食べてきたがこんなに味が濃厚なマスは食べた事が無い。
身が舌の上に触れた瞬間に旨味が脳に直接伝わってくる。
「…」
無言で食べ勧めた。
気が付いたら魚は骨だけになっていた。
「ごちそうさまでした…」
この世界に来て始めての食事だった。地球から持ってこれた食品はあったのだが、なにか行動しなければという強迫観念と無くなってしまったらという不安感により口にすることが出来なかったのだ。
食は人の心を豊かにし明日への糧になる。
安心はできた。そして心も落ち着かせる事が出来た。
しかし、食事をするという行為、味覚を実感したことにより
やはりここは現実なのだなとまた実感してしまった。
気が付くともう日が落ち始め、辺りは暗くなっていた。
今日はもう寝よう。そして、明日食事をしよう。






