1-1 目覚め
「くぁあ…」
少しの寒さを覚え、情けない空気の混じった声を出しながら起床する。
ここはテントの中、篭もった空気から抜け出すべく寝袋から脱出しテントを開け外に出る。
「やっぱ知らんとこだな」
やはり見覚えの無い景色に違和感を感じつつ気付けの為に煙草に火を付けた。
昨日の晩、見知らぬ場所にいた私は迷い空を見上げた所あるはずのない2つ目の月を確認しここが地球ではないという事を少しずつ受け入れつつあった。
「どうしよ」
もし、ここが本当に地球と違う場所、異世界なのだとしたら色々な問題が生じる。先ず1つとして、仕事関係の連絡である。
不幸中の幸いとしてフリーランスの身であるからして私が居なくなって直ぐに困るという人達はいない筈である。キャンプに来たのも大きな仕事を終えひと段落つこうとしていたからでもある。
私の事を心配してくる家族も居ない。19の時に親と死別し親戚も元々少なかった為、天涯孤独の身であったからそれらの心配もしなくて良い。
連絡を取っている友人も何人かいたが直ぐには心配してこないだろう。
そうすると、この問題はさして大きな問題では知れない
第2にここで生き残る為にはどうするかという事である。ある程度の思考を巡らせたがしばらくここから帰れないという事なのだろう。むしろ帰れるという選択肢はほぼほぼ無いだろう。ドッキリや夢の中という事も選択肢として存在しているだろうが、月まで用意する広大なセットを自分の為に作る物好きは居ないし、この森に広がる透明な空気や肌を撫でる風は夢の中ではなくここが現実であると実感させてくる。
極めつけはあの手紙だ。バックの中に入っていた封筒それに内封されていた手紙だ。
【すまない、神より】
俄に信じ難いがこれが本当に神より送られた言葉なのだとするならば、人智を超える世界に居たとしてもおかしくはない。
少々脱線したが、確実にここはインフラから離れた場所であるからして。毎日キャンプ生活を強いられるという事だ。
毎日キャンプ生活とすると少し楽しげに聞こえるが、実際の所、野営だ。自給自足、ガスも水道も食料もない為、ガチのサバイバルだ。
「まあ、どうにかなるか」
自分は楽観的な所がある。友人から良く言われていたが、今の状況ほどその性格を頼もしいと思った事はない。
そうこう考えているとこの問題もどうにかなるような気がしてきた。そして、私は決意した。
『この世界を楽しもう、』と。