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冬の社交の始まり



 秋に自領地の収穫や徴税を終え、手が空いた貴族が社交を開始するのは冬になる。




「クラウディア、美しいよ」

 父が満足気にドレスアップした私を眺めた。

「お母様の次に、でしょう?」

「それはもちろん」

「ありがとう、お父様」


 深紅のドレスは私の年齢を考えると派手だが、自分で言うのも何だが確かに似合っている。

 ドレスはハインリヒからの贈り物で、結い上げた髪を飾る宝石細工のダリアの花飾りはアンリエーレからの贈り物だ。

 エルネストからは金のヒールを贈られ、テレンス兄様からはジュエリーセットを贈られている。

 ファリオからはゴージャスな黒い毛皮のショール。

 …みんなからの贈り物で、今日の私は飾り立てられていた。


「…殿方からの贈り物、本当に全てお使いしてもよろしいのですか?」

 着付けの時点からそこを心配しているメイドが、まだ不安なのか頬に手をあてている。


 本来なら、婚約者のいる令嬢が纏うのは、婚約者から贈られたものだけなのがお約束だ。

 一応、内定者から婚約者に格上げされた私は、ハインリヒからの贈り物しか身に付けてはならない事になっている。

「良いのよ。どうせ彼等の方で打ち合わせ済みなのだから」


 そうでもなければ、こうして全員分合わせて見事にコーディネートされたフル装備になるはずがない。



 階下から、テレンス兄様が「クラウディア!」と駆け上がってきた。

「何て美しいんだ、私の天使!」

「ありがとう、兄様」

 テレンス兄様は、白銀の髪が映えるシックなベルベットの黒燕尾。チーフとタイがハインリヒに戴いたドレスと同色・同素材で、それに気付いたメイドがやっと納得したのが視野に入った。


「素敵な宝石をありがとうございます。大切にしますわ」

「どんな宝石もお前自身の輝きにちょこんと添えられる程度の光り物だ。気兼ねなく、好きにするといい」

 私の頬に手を添え、テレンス兄様は微笑んだ。

(こんな巨大なダイヤを、ピクルスみたいに言わないで欲しい…)


 私がハインリヒの正式な婚約者になってからと言うもの、テレンス兄様のシスコンは留まるところを知らず悪化の一途を辿っている。

(お父様、早いところ兄様に奧さん見つけないと、公爵家が断絶します…)


「では父上、我々は先に」

「あぁ。我が家の美しき至宝を次世代の貴族に見せつけて来なさい」


(親バカ!)


 テレンス兄様に手を取られたまま、階段を降りてホールを抜ける。

 執事が扉を開けると、外には白い雪が舞っていた。






 散々死ぬ自分をリピート再生してきた16歳を過ぎ、私はこの冬に17歳になった。

 あれ以来、『魔女の未来視』は起きてない。調べてみようとしたけど、手の届く範囲では「これこれこういう未来視がありましたよ」程度のものしか残っていなかった。

 王宮の資料や、母の血筋…祖母の実家であるノートレイル辺境伯の屋敷にはもっと具体的な記述があるのかもしれないけれど。


 とりあえずは、平穏無事である。





 王宮で開かれる今回の社交パーティーは、社交シーズンの始まりを意味している。今日は、ほぼ国中の貴族が集まっているのだ。


「リレディ公爵家より、テレンス様、クラウディア様、ご到着でございます!」

 会場に入ると、入り口で紹介される。

 人々の視線が一気に集まった。女性陣の目がハートになっているのは、次期公爵家を担う独身のテレンス兄様が今宵最高級の獲物だからだろう。文句なしの超絶美形だしね!



「クラウディア!」

 父親のロッシェン伯と並んでいたエルネストが満面の笑みで駆け寄ってきた。

(ロッシェン伯爵の「走るな、これ!」という苦笑いが飼い主っぽい)

「ご機嫌よう、エルネスト」

「綺麗だ!君、すんごい綺麗だ!」

「ありがとう。それに、靴もありがとう。とても気に入ったわ」

「良かった!」

 今日のエルネストは、真っ白な騎士服に金の儀礼飾りがついている。彼も17歳になり、学生ではあるものの、身分としては正式な騎士団所属となったのだ。赤い髪と金の儀礼飾りの組み合わせは豪華で目立つが、彼の瞳ももともと赤っぽい金色だし、体格も良いのでよく似合ってる。

「貴方も素敵よ。とても立派な騎士姿ね」

嬉しそうに目を細めたエルネストは、すっと腰を落として私の手の甲にキスした。

「ありがとう、我が女神」


 すかさずテレンス兄様がエルネストを威圧しにかかったので、その隙にエルネストの父であるロッシェン伯爵とも挨拶を交わす。王宮に護衛騎士を幾人も輩出している武の名家で、王家からの信頼も厚い。伯爵も昔から温厚で素敵なおじさま。


 それを皮切りに、色々な貴族が挨拶しに来る。私も兄もまだ若輩者だけど、一応家格が高いので、こういう場では挨拶される側なのだ。


「テレンスさん、クラウディア、こんばんは」

 ひらひらと指先を動かしながら、ファリオがやって来る。孔雀の羽根の様な、光沢ある不思議な素材の燕尾姿だ。

「ファリオ、ご機嫌よう」

「美人は何着ても似合うね。いや、今日のは飛び切りだ。やっぱりブラックフォックスにして良かった」

「ありがとう。素敵なショールだわ。…その燕尾服、新しい素材なの?不思議な輝きね」

「流石にお目が高い。これ、ラブロイ商会の新商品なんだよ。見て、リリィのドレス」

 立てた親指で示された先で、ファリオとお揃いの光沢あるドレスを身につけたリリィが照れ臭そうにもじもじしていた。ターコイズグリーンのワンショルダードレスが大人っぽい。

「こんばん…じゃなくて、ご機嫌よう、クラウディア様」

「ご機嫌よう、リリィさん。とても素敵なドレスだわ」

「パーティーとか、初めてで…へ、変じゃないですか?」

「そういえば社交デビューですのね。大丈夫、ファリオが用意するものは必ず今後の貴族界で流行になるの。自信を持ちなさい」

「クラウディア様にそう言っていただけると、凄いホッとします!」

「なんで俺の言葉じゃ安心できないんだよ」

「ファリオ様は、軽いもん」


 仲良くやってる2人を微笑ましく思っていると、王族の登場が知らされた。


 陛下と王妃様は壇上の席にお掛けになる。ハインリヒとアンリエーレの王子兄弟は濃紺に金刺繍の施された礼装を纏い、周囲の挨拶への返礼をしながら私の元へやって来る。


「クラウディア!僕、遠くからでもすぐにわかったよ!誰よりも綺麗だ!」

 アンリエーレが私の両手を握り、頬を赤らめて愛らしく微笑んだ。

 金髪碧眼で同じような色味だけど、美少女のようなアンリエーレと異なるキリッとした雰囲気のハインリヒが、私を見下ろして満足気に頷く。

「うむ。確かに、其方は誰よりも美しいな」

「んもう、お二人とも、ご挨拶くらいさせて下さいませ」

「我が麗しの婚約者殿、ファーストダンスのお相手をお願いしても?」

「勿論ですわ」

 私はハインリヒの手を取った。





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