2ヶ月目
私の周りが平和になって、2ヶ月が過ぎた。
ループ中は死が間近過ぎて神経が尖ってたのだと、しみじみ実感する。今のところ、規定の死亡ルートに入りそうな予兆はない。
(正直みんなの話を聞いてて、「下手したら…みんなのリリィに対する好感度が底辺に均されて、また領民蜂起オチかしら」とか心配してたけど)
ゲームでは、5人の好感度が均一になると、私が領民蜂起によって死ぬハーレムエンドが発生するのだ。ゲームの世界ではないとわかってはいるけど、可能性は捨てきれない。
今その予兆がないということは多分、少なくとも、5人のうち誰かはリリィに対して特に悪感情を抱いていないという事なのだろう。
「良かった」
私は呟く。
「リリィがきっかけで、クラウディアの周囲の人間関係が狂う」というのは確かだけれども、別にリリィが悪意を持って、そのきっかけを作っているわけではない。今回は少し、意図的に動いているようではあるけれども。
本来、リリィはただ学院に編入してきただけだ。私を貶めようと行動するわけでも、私に害意を持ってるわけでもない。
だから、私もリリィ・トロイゼルという人物を警戒してはいるけど、嫌っているつもりはない。学院で彼女を避けなければならないのは…死亡フラグを立てない為に必要だからであって、嫌いだからではないのだ。
今の彼女の状況が心配だった。
やはり、マディ・カルフェとは交流している様子がない。他に仲良くしている友人がいるようにも思えない。
…そして、リリィがこの世界を乙女ゲームだと思って熱心に男子の元へ通っているのが気に食わず、ピリピリしている女子陣が何人もいる。
現状、リリィがアプローチしている対象メンバーとは昔から親しいと周囲に知れている公爵令嬢の私が動かないので、彼女たちも動けずにいるのだ。
ゲームのシナリオでは私がすぐに口を出していたので、リリィの方でも戸惑っているのが伝わってくる。…というか、「来い!今だ!」みたいな、妙な合図を出されているのをひしひしと感じる。
(行きませんから!…そもそも物理的に、マーロウさんの妨害も入るので無理です!)
私がハインリヒやエルネストと話していると、リリィは偶然を装って近付いて来ようとする。すると、絶妙なタイミングで教材を台車で運ぶ事務員が何人も間を横切ったり、どしゃ降りの雨が降ってきて「場所を変えよう」となったり、何かしらが起きて接近を免れるのだ。
全てがマーロウさんの仕業だとすれば、超能力の域だと思う。
結果、リリィはクラスで完全に浮いてしまっていた。
彼女が学院に馴染めないのは、この世界をゲームだと思い込んでいるからだ。多分、あと1ヶ月でクリアすればゲームが終わると思っているので、周囲に馴染む必要性を感じていないのだろう。
その原因を作ったのは、私だ。
私が『魔女の未来視』を発動してしまったから。あの永い『日本の光景』と『エンディングループ』を視て、私と同じように自分自身がゲームのキャラになってると思っているのだ。
ゲームじゃないよ、と教えてあげるべきだ。教えてあげるべきだけど、『逆転シンデレラ』の知識を持っているのが私しかいないのが難点なのだ。
私の死亡フラグを回避するには、リリィのハッピーエンド回避が必須条件になる。
(それって、リリィにとって、何の利点もないのよね…)
ゲームじゃないから終わらない。攻略対象者はキャラじゃなく人間だから思った通りの反応は返さない。申し訳ないけど貴女のハッピーエンドは私の死亡フラグだから全て潰させていただく…なんて話を、ライバルキャラだと思ってるクラウディアに告げられて、「そうですか、なら仕方ないですね」で終わるとは思えない。
(少なくとも、ゲーム上でのエンディングがくるあと1ヶ月は、動くのは止そう…)
つまらなそうな顔で貴族法の授業を受けているリリィの後ろ姿を見ながら、私はそっとため息をついた。




