カフェ【ファリオ目線】
「やぁ、リリィ。今日も来てくれたんだね」
「貴方に会いにきたんじゃないわ!ただ、このカフェのケーキが美味しいから…」
「はいはい。…これは俺のおごり。ゆっくりしてってね」
ぽんぽんと頭に手を置くと、わざとらしく頬を膨らませて「んもう!私の方が先輩なんだからね!」と文句を言う。
台本通りのやりとり。
俺は、積極的にリリィ・トロイゼルに接触している。
あの奇妙な幻覚で知り得たリリィの好みそうな台詞や行動を随所に散りばめると、彼女はわかりやすく有頂天になった。
それもこれも、俺に惹きつけるためだ。
クラウディアの安全を考えるなら、他の面々のように、原因を警戒して避けるのも手だろう。だけど、それによって全く別の、予想していない不幸がクラウディアに襲いかかったら?
俺はその可能性が怖い。
だから、俺はリリィの関心を一手に惹きつける事にした。
俺がリリィに夢中になるとあの胸糞悪い未来が起こり得るというなら、逆にリリィを俺にだけに夢中にさせてクラウディアと無関係な落とし所を探す。
俺が動くべきだと思ったのは、他にリリィがコナを掛けている面々が全く役に立たなそうだったからだ。
王家の人間は例え演技でも男爵家子女に寵愛を与えるなんて、大問題に発展するし。
テレンスさんはまだ起きてない未来の可能性だって時点にも関わらず、真顔で「あの女を秘密裏に処分するには」とか不穏な事を言い出すし。
エルネストさんに至っては「え、幻視に出てきた女の子って、リリィと同一人物だったの?」と抜かす程に記憶力がヤバい。
それにしても…『魔女の未来視』なんて、最高に面白い。さすがはクラウディア、昔から俺をワクワクさせてくれる。
面白い情報を持ってきてくれたテレンスさんは不機嫌だったけど、俺は今の状況をそこそこ楽しんでいる。
最悪な幻も見させられたけど、事前に知ってるからこそ避けられる未来もあるという事だ。『情報』は宝石より価値がある。
ひとりで身悶えながらスイーツを食べているリリィを遠くから盗み見る。
特徴的なのは珍しいストロベリーブロンドの髪色だけで、顔の作りもスタイルも言動も、そこらのお嬢さんといったところだ。
それでも、エルネストさんも言っていたが妙に人を惹きつけるところがある。
幻視の中の俺は、彼女の何に惹かれたのだろう…。
その時、パチリと視線が合った。
にこりと微笑んで手を振って見せると、顔を真っ赤にして視線を伏せる。
…別に、悪い子じゃないんだよなぁ。




