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未来の可能性



 私はハインリヒの言葉に小首を傾げる。王妃様も同じで、二人で首を傾げる構図になった。


「お待ちなさいな。貴方とアンリエーレが見た未来は違うというけれど、具体的にはどういうモノを見たというの?」


(うん、ハインリヒへの聞き出しは完全に王妃様にお任せして、私はこの時間を作戦練り直しタイムにさせてもらった方が良さそうな雰囲気)

 内容によって、私が今後ループ脱却へ何をするべきかのヒントになるかもしれない。


 そんな事を考えて無言を貫いている私を、ハインリヒが見つめている。


「クラウディア、我々が其方を不幸にする可能性だ。」

「不幸というのを具体的におっしゃい」

「私の与えた不幸は、例えば反逆罪をでっち上げてのリレディ公爵家の断絶」

「何ですって?!」

 王妃様の声が裏返った。


 …私は冷静だ。「あ、それ前回のループで見たトゥルーエンドですね」と合いの手を入れたいくらい、身に覚えがある未来だから。


「アンリエーレは何を見たと言っていたの!」

 さすがにリレディ家が関わるとなると国家としてシャレにならないのだろう。王妃様もつい詰問口調になっている。

「何通りかあったそうですが、私が聞いたものだと、クラウディアがアンリエーレを毒殺しようとした嫌疑で投獄される可能性だとか」

「毒ですって?!」


(それはアンリエーレのトゥルーエンド)

 となると、攻略対象それぞれのエンディングのストーリーを、彼ら自身も知ったという事だろうか。もしかしたら、ゲームと異なりいまだにシスコンを続けるテレンス兄様や、何故か私に跪いたエルネストや、会ってないけどファリオも。


(エルネストが相談して来た、「自分の正義だと思った行いで守るべき者を傷付けた」という内容も、エルネストトゥルーエンドの「リリィに対するイジメの罪を償わせるべく、責めて責めて責めていたら、クラウディアの心が折れて自殺」の当事者感覚だったりする?)


 私が延々と繰り返して来た25通りのエンディングループを、彼らも見たのだろうか。それで、罪悪感なのか何なのか…そういった感情により、本来は私を蔑ろにし始める筈のこの時期、意図的に私との縁を繋いでいると?


(だから、私の知っている『逆転シンデレラ』と、みんなの動きが違うんだ)


 私はやっと納得できた。「クラウディアを殺す装置」として、彼らはただのゲームキャラだと、ずっと決めつけてきた。所詮は、シナリオ通りに動く非現実の存在だと。

 だけど、彼らはあのエンディングを見て「おかしい」と思ってくれている。この世界で物に触れたり、食事をとれたりするのと同じく、彼らは空想上のキャラクターではなく、私の目の前に存在する人間だった。



「…クラウディア。その顔を見るに、其方は我らの見た可能性の内容を知っていたな?」

「……はい」


 ここは肯定していいはずだ。エルネストもトゥルーエンドを知っているなら、「頭がおかしい」扱いされるゲームの強制力は発現しないはず。


「なら、其方もわかっているだろう。全ての可能性に、あの娘の動向が関わっている事を」

「……」

「あの娘とは、どの娘です」

 王妃様が眉を顰めながらテーブルに扇子を置く。

 ハインリヒは私から王妃様へ視線を移した。


「リリィ・トロイゼル男爵令嬢です。最近平民から貴族に養子に迎えられたばかりです。正式に社交界デビューはしておりませんので、母上はご存知ないのでは」

「トロイゼルが養子を?」

「リリィは先月より学院に転入してきました。…積極的に、私やクラウディアの兄などへ接触しようと動き回っています」

「まぁ…」

 貴族の常識を身に付けるための学院で、本来なら貴族になったばかりで一番熱心に学ばねばならない娘が、学業そっちのけで男性と接触しようとしている…王妃様からしたら、信じられない下品な行いだろう。


「あの娘の動向は、現在マーロウが監視しています」

 私は驚いた。

「マーロウ…アンリの見聞係のマーロウさん?」

「そうだ。アンリエーレが命じ、彼女の転校翌日からついている」


 見聞係とは、王家直轄の超法規的な諜報員である。アンリエーレ付きのマーロウ氏といえば、アンリエーレルートでたびたび登場するモブで、ネットでもファンが多い正体不明の隠密忍者だ。

 アンリエーレルートで私が死ぬ原因にも、多分…いや100%関わっていたと断言できる、冷酷で超優秀なアンリエーレ絶対主義者である。

(学院にまで忍び込むんだ…。働くなぁマーロウさん)


「彼女の存在が其方に影響しないよう、何か不穏な動きがあればマーロウが裏から手を打つ。それに…どうやら其方の兄も独自に動いているようだぞ」

 ハインリヒは表情を緩め、再びティーカップを手に取った。

「我らは其方を不幸に陥れる可能性を全て潰すつもりだ。安心するがいい」


「それは……何というか、心強い、ですわ」

 どうにかこうにか言葉にする。王妃様は「必ず上手におやりなさいね」と息子を激励した。



 正直、急な状況の変化についていけてない。



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