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王妃のお茶会



 華やかな中庭に、真っ白いテーブルクロスの掛けられたデッキテーブルが置かれている。テーブルの中央には、細小ぶりな花を大量に使って作られた、丸いシルエットが可愛らしいフラワーポット。

 並べられた椅子は、本来屋内用と思われる布張りの柔らかそうなチェアだ。深く座れる形のそれに、フリルたっぷりのクッションが添えられている。



「リレディ公爵令嬢クラウディア様、どうぞこちらへ」

 案内されて自分の席が判明したところで、庭から日傘を差した王妃様がやってきた。ハインリヒとアンリエーレと同じ、金髪碧眼がゴージャスな妙齢の美女だ。


「クラウディア、久しいわね」

 私はスカートを広げ、最敬礼のカーテシーをする。

「ペネローペ王妃殿下、ご機嫌麗しく存じます。本日はお招きいただき、心より御礼申し上げます」

「堅苦しい挨拶などいいわよ。さぁ座って。今日はいい茶葉があるのよ」


 王妃様はクスクスと笑い、側仕えに引かれた自分の席についた。私の背後に立った側仕えも椅子を引いてきたので、私も顔を上げてそっと腰を下ろす。

 給仕がテーブルの周りをスマートに動き回り、あっという間にティーセットとお菓子が並べられる。

 王妃様は優雅にティーカップを傾けた後、私に笑顔を向けた。


「今日クラウディアちゃんに来てもらったのはね、アンリエーレと私が会いたかったというのもそうなんだけど…シドニアから面白いお話を伺ったからなの」

 シドニアは私の父だ。

「陛下ったら、シドニアの話を聞くや否や大騒ぎするんですもの。思わず黙らっしゃいと手が出てしまったわ」

 うふふ、と笑う笑顔が怖い。…陛下が恐妻家なのは有名な話だ。


「それで…未来視をしたというのは、本当なの?」

「恐れながら、私は魔女の言い伝えというのも存じませんでしたので、父や王妃殿下の仰る『未来視』がどういうものなのか分かりかねております」


 私の知識は、あくまでも『逆転シンデレラ』に基づいている。そこで描かれていない事情は、全て初耳なのだ。

 …だが、未来視とかいう、この世界観にもともと存在しているらしい概念を絡めていけば、私は「気が狂った」扱いされずに現状打破できるのかもしれない。

 父の話を聞いてから、私はその方向でエンディング回避する手段を考えている。


(運良く、私は未来視に説得力が出るらしい黒髪だしね!)


 しかし、その設定に飛びつくのは慎重に行かねばならないだろう。


「父に申し上げたのは、このままハインリヒ殿下と婚約を進めると、不幸が起こる気がする、とだけ」

「不幸」

「少なくとも3ヶ月、私はこの国にいない方がいいと、そう思うのです」

「3ヶ月。ずいぶん具体的なのね」

「そういう気がするというだけで、根拠は示しようがないのですが」

「ふぅん」

 王妃様は真剣な目付きで私を見る。

「魔女が行う未来視はね、今の神殿が行なっているものと全く違って、魔女が体験するものだと言われているの」

「体験ですか」


 王妃様は「これは貴女のお祖母様が残された言葉よ」と前置きし、続けた。


「魔女は、その場にいて実際にそれを行なったかのような…現実に引き戻されるまで、その未来視の世界に生きているような感覚を味わうのだと」

「……」

「そして、ひとりの魔女が未来視の世界に陥ると、それに引き寄せられて、関係の深い者達にも魔女の見た未来と同じ未来を見させられるのだと」


(私のエンディングループ現象が、この世界観でいう「魔女の未来視」に当たる場合、関係者も強制的に同じエンディングを見させられている、という事?)


「貴女の言う、嫌な予感というのは、予感ではなく『そういう未来』なのかもしれないわね。貴女のお祖母様は魔女として偉大な功績を残されているもの。その血を引く、黒髪の乙女の言葉はなかなかに重みがあるものよ?」

「そう…ですか」


 どうやらループ回避の言い訳にするという以前に、ループ自体が『未来視』だった説が出て来た。


 このループが本当に『未来視』によるものならば、私は自分の死に様ばかり見て来たことになる。それもそれで、何というか…。

 未来視の内容の関係者が同じものをみるのであれば、毎回必ず関わってくる主人公リリィこそが未来視してる魔女という考え方もあるのではないだろうか。私が、巻き込まれ関係者になってる可能性。


「貴女の嫌な予感が本当に未来視なら、おそらくハインリヒも同じものを見ているのではないかしら。聞いてみましょうか」


 え、と思う間も無く、王妃様は側仕えに「ハインリヒを呼んできて」と指示した。




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