アンリエーレの見る悪夢【アンリエーレ目線】
僕はそれを、後から聞く。いつだってそうだ。
僕には彼女に愛された記憶しかない。
大切に、守られてきた。弟のようなものだと言えばそうなのだろう。だけど、僕にとってそれは「愛」だった。
しかし、ある時から状況は一変する。
きっかけはわからない。ある日を境に、急速に彼女との距離が遠くなっていった。入れ替わるように金髪の少女が王宮に現れるようになり、僕へ向けられる「愛」は少女から与えられるものに置き換わっていった。
そして、必ず事件は起きる…そう、起きた事件はひとつじゃない。幾通りもの事件が、万華鏡の中で展開するように“同時に“起こるのだ。
そのどれも、僕はベッドの上で結果だけを後から聞いた。
どの事件の経緯でも、久しぶりに聞く彼女の名前は罪人としてのものだった。狙われたのは僕で、少女が僕を守って彼女と対決し、勝利したのだと。
結果、彼女が命を落としたと。
それを聞くだけで、僕は全て把握したような気持ちになるのだ。そして、彼女についての事実に興味も持たず、目の前の少女に感謝する。
…愚かしい。
こんなもの、僕ではない。どの事件の結末でも、そこに参加している僕は頭がお花畑の愚者だった。
僕は、言葉だけの情報はただの情報であって、決して真実ではないのだと、ベッドの上で散々学んできた。
結果だけを聞いて、僕がそれを鵜呑みにするわけないのに。
僕が求める「愛」は、いつだって彼女のものだけだ。
僕の仮面を被る幾通りもの愚者たちは、誰にとって都合の良い道化を演じているのか。
狭いベッドの上で得た情報の、どこに嘘や詐称があり、誰が僕を騙し、誰がそれによって利益を得るのかを、僕は考えなければならない。
僕は弱いが、一国の王子だ。
だからこそ、決して利用されてはならないのだ。
…急速に、体が水中から引き上げられる感覚。
眠っていたような、微睡んでたような、ぼんやりしたまま、僕は白い天蓋を見上げる。
これはいつもの目覚めとは違う、と本能的に悟った。夢を見ていたわけではない。
全身が怠い。熱がまた上がっているのだろうか。
目の奥がズキズキと痛むので瞼を閉じると、実際には会ったこともない少女の面影が浮かぶ。
それとともに、先ほど見聞きした幻想の内容も。
目を閉じたまま、頭の中で整理する。
ベッドから動けない僕は、こうして頭の中だけで全てを組み立てなくてはならない。
そう、冷静に。自分の身に何が起きたのかを。優先順位は……。
僕は呻きながら上体を起こした。常に室内に控えている側仕えが気付き、慌てて手伝いに駆け寄って来た。その腕を、掴む。
「マーロウを…見聞係を、呼んでください」




