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病弱な王子



「しばらくぶりのコルセットでございますね」


 メイド達が楽しそうにドレスやアクセサリーの準備をしている。

 ドレスにしろコルセットにしろ、着用する方は大変だが、着せ替え作業する側はとても楽しいという気持ちはわかる。

 「私」はいつもループ直後にコルセットなど着けてる場合ではない状況にあったから、改めてドレスアップするのは殆ど初めてと言ってもいいだろう。…めっちゃ早起きした。されるがままだけど、貴族の身嗜み、とても大変。



 3時間以上かけて、全身のケアと着替えが完了した。

ゆるゆるウェーブだった髪も、くっきりしたカールを付けた上でまとめられている。

 …改めて見ると、薄っすらメイクだとは思えない目鼻立ちの整い方である。テレンス兄様のような柔らかい美人顔ではないが、クラウディアは間違いなく凛々しい系の美女であった。

(両親の遺伝子を考えれば、美人でないはずがないよね…)

 ループしてる間には全く酷い有り様だったが。


 昼間のお茶会ドレスだから胸元は結構詰まっているが、スタイルも16歳らしからぬラインなのがよくわかる。


(アンリエーレ殿下にお会いするのに、あまり美女オーラ出したくないんだけどなぁ)


 虚弱体質な継承権第2位のアンリエーレは、クラウディアに憧れを抱いている…とかそういう設定だった気がする。

 あまり印象にないのは、アンリエーレ関連のエンディングに、大抵アンリエーレ自体が登場してこないからだ。

 クラウディアがリリィに盛った毒を代わりに受けて昏睡状態とか、クラウディアに幽閉されてるのをリリィが助けに来るとか、そういうものが多い。

 リリィが救う側で、アンリエーレは救われる側。愛らしくも心優しい、ヒロイン王子様なのである。













 王宮に着くと、昨日ハインリヒに約束した通り、案内の兵士に続いてアンリエーレの部屋に向かう。

 手土産としてアンリエーレが好きだった…気がするダリアの花束を用意した。



 部屋の前で私の対応は兵士から側仕えへバトンタッチされ、側仕えは「お待ちかねでございました」と和かに挨拶してくると、すぐに部屋の扉をノックした。



 アンリエーレの部屋は、清浄の一言に尽きる。

 白くて、物が少なくて、まるで病室のようだ。

 かなり広い部屋なのに、とにかく天蓋付きベッドの大きさと存在感が凄い。


 ベッドの真ん中には、金髪碧眼の美少女のようなアンリエーレが、クッションを背凭れにしてちんまりと座していた。


 私を見て、真っ白な肌にポッと朱がさす。

「クラウディア!」

「お久しぶりです、アンリエーレ殿下」

「アンリと呼んで、クラウディア!もっと近くに!」


 細い両手を広げられ、私は苦笑しながらダリアの花束を側仕えに預けた。

 ベッドが大きいので、ベッドに乗り上げないと近付くことができない。私はスカートを摘み、アンリエーレのベッドに腰掛けた。


「顔色が良いようですね、アンリ」

 手の甲でサラリと頬を撫でると、アンリエーレは嬉しそうに目を細める。

「クラウディアに会いたくて、たまらなかったんだ」

「ハインリヒ殿下に聞きましたわ。私もお会いできて嬉しいです」


(本当は、全く会わずに3ヶ月過ごしたかったんだけどな…)


 本心はしっかり隠しておく。いくら攻略対象に好意を持たれたくないように、と言っても、病人につれなくするなんて流石に罪悪感が凄い。


 アンリエーレは私の手を両手で握り込み、キラキラした上目遣いで「あのね」と口を開いた。

「クラウディアは僕のこと、嫌い?」

「…そんな筈ないでしょう。なぜそんな事を?」

「熱が出た時にね、クラウディアと、とっても仲が悪くなる夢を見たの…」

「熱が高いと悪夢を見るものですわ」


(悪夢…夢。……最近もそんな相談受けたな…?)


「とても怖くて…クラウディア、大好きだよ」


 どうにも年齢より幼く感じるのだが、弱い体のせいで生粋の箱入り王子なのだから仕方ないのか?

 胸元に抱きつかれ、私は内心戸惑いつつ、優しく背中を摩る。


「早く元気になってね、アンリ」

「うん。早く登校したいな…。ねぇ、何か変わった事はあった?」


 アンリエーレに請われるまま、学院の授業に詩の朗読が追加された事や、ハインリヒが校内美化活動にリーダーシップを発揮していた事など、学院の細々とした出来事を話して聞かせる。

 どうでもいいような話題ばかりだが、アンリエーレは瞳を輝かせて楽しそうだ。





 そうこうしているうちに、お茶会の時間になったと側仕えが声をかけてきた。


「じゃあ、私は行くわね」

「うん!今度は学院で会おうね!」

「ええ。今日は疲れたでしょう、ゆっくり休んで」


 頬を撫でてベッドから降りる。

 側仕えが部屋の扉を開ける。外で待っていた兵士に連れられ、私は王妃様のお茶会が催される中庭へ向かった。




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