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魔物

 僕とアイナ、初陣の日がやってきた。


 行き先は、お城を取り囲む森の東側とのこと。一緒に行くのはロシュ・クラネス隊長殿とミディ先輩。あと……こともあろうに、僕が苦手な声のデカイ男だ。


「アンジェロでありますっ!」


 アイサツの声もやかましい。覚えてる? 初日に迎えにきたあの男だ。声がデカければ体もデカイ。なのに名前だけは妙にお上品だ。


「よろしくお願いします、アンジェロ」


 アイナの耳もキーンとしちゃってるんじゃないかな? でも、異国の人の名前も、聞き分けるのに慣れてきたみたいだね。アイナがお礼を言ったせいで、またデカイ声が響きわたる。


「光栄でありますっ! なんなりとお申し付けを!」

「この通り、アンジェロの声は大きいからな? いると何かと役立つぞ」


 隊長殿お墨付きの声のデカさ。確かに、危ないときに応援を呼ぶのに役立ちそうだ。あと、荷物持ちにはぴったりだね。


「そろそろ行きましょうよ」


 相変わらずめんどくさそうなミディ先輩に急かされるのはなにか解せないけど、僕らは出発することになった。いつもはアイナの影でのんびりしている僕も、今日は記念すべき日だからね。アンジェロが背負った荷物の上に乗って行くことにする。高い場所からいつもと違った景色が見られて、なかなかに面白い。


 討伐隊本部から歩いて数十分。お城を守る城塞代わりの森に到着した。周りは高い塀で囲われていて、物騒な重装備をした門番の許可を得ないと入れないそうだ。この国で一番偉い王様と、その他もろもろの偉い人たちに近い場所だからだよ。


 魔物退治でおなじみ、討伐隊員の皆さんは門番の兵士さんと顔見知り。僕の顔も覚えてよね?


「ロシュ隊長、本日もよろしく頼みます」

「今日は例の召喚者殿も同行する。何もないとは思うが……」


 門番が顔を向けたので、アンジェロの隣でかなり小さく見えるアイナが、ぺこりと頭をさげてさらにちっちゃくなった。僕はというと、歩いている間揺られていたせいかウトウトしておりました。


「この人強いんで心配いらないですよ」


 ミディの雑な説明に、門番は何も言わなかったけど、顔に「ほんとに?」って書いてあったよ。


 さて、いよいよ僕らは魔物が出没する森に入っていくことになった。足元は登り坂で、木の根っこや落ちた枝やらで歩きづらそうだ。アンジェロが先に立ってズカズカと進んでいくので、僕は上のほうからアイナを眺める。案の定、アイナは何度か足を取られてすっ転びかけ、隊長殿が手を貸していた。ベタベタされるのは困るんだけど、今日ばかりは仕方ない。


「いそうなのは……この辺かなぁ……」


 ミディはそう言うと、アンジェロの荷物から長い棒を抜き取った。先っちょに刃物が付いているから、槍っていうのかな? それで高い場所に生い茂った木の葉をガサガサと切り落とす。


「あっ、あそこ」


 声をあげたのはアイナだ。指をさした方向に、なにかがいる。虫とも鳥とも違う、羽が生えた黒っぽいヤツ。小さい羽を細かく動かしている。


「ほんとだ。こんな小さいの、よく見つけたなぁ」

「あれが魔物……なんですか?」

「そうだよ」


 魔物発見! なのに、ミディはのんびりしてる。早くやっつけようよ!


「隊長、どうします?」

「そりゃあ、殺るだろう」

「この大きさならほうっておいてもよさそうだけどなあ……下りてこないだろうし」


 そんな会話をしているうちに、黒い魔物はチリチリ飛んで、見えなくなりそうだ。早く、早くっ!


「フゥーッ!」

「ルルっ」


 アイナが僕の様子に気が付いて、止めようとしたけど……僕の我慢は限界だ!


 ブワッと全身の毛が逆立つのを感じる。アンジェロの頭を思い切り踏みつけて、大ジャンプ。前脚の爪をぐわっと出して木の幹に一度張り付くと、もう一回ジャンプする。魔物に向かって飛びかかった。


 手応えあり! 獲った、獲った!


 地面に着地して、捕まえた獲物を確かめる。あれ?


「やるなぁ」

「ルル、すごいすごい」

「へぇ……」

「お見事ですっ!」


 ニンゲンの皆さんは喜んでいる様子だけど、僕の足元には何もいない。あれ、あれ、とキョロキョロしている僕の背中を、アイナがなでた。


「もういないよ、ルルがやっつけてくれたんだよ」


 なーんだ、捕まえてギタギタにしたかったのに。魔物っていうやつは、致命傷を食らうと消えてしまうんだそうだ。


 ともあれ、魔物を倒すため異世界に呼ばれた僕。ちゃんとお務めを果たしたわけだ。


「いまのは小さいって言ってましたけど」

「ふつう、群れてでもいない限りあんなのは見つけられないね……もしかして」


 ミディの緑の目が、アイナを薄目で見る。


「魔物の場所がわかったりします?」


 アイナは、うーんと首をかしげた。


「どうでしょうか……」


 ミディの指摘は大当たりで、アイナが「あのあたり」と指したところを槍で突っつくと、魔物さんがお出ましになること、たびたび。ちっちゃくてチョコチョコ動くものを見ると、猛烈に捕まえたくなる僕が何度もやっつけた。


 そのうち、隊長殿にさがってろ、と命じられてしまった。犬じゃないんだからさ、猫に「マテ」は無理なんだけど。あんまり僕が活躍すると、アイナの実戦経験にならないからね。仕方ない。


 結局、僕はアンジェロの背中でのんびり見学。隊長殿も少し離れて見ている。アイナとミディのふたりで魔物をおびき出しては退治するという、なんとも平和な絵面ができあがった。


 アイナの短剣が十数匹めの魔物をやっつけたあたりで、隊長殿が「もういいだろう」と声をあげた。


 ふだんなら、3人ひと組で数匹倒せればいいほうなのだそうだ。僕とアイナだけで、数週間ぶんの成果をあげてしまったというわけ。


 輝かしい戦績をあげた僕ら。だけど、お散歩気分で魔物退治をしたのなんて、この日だけだったんだよね。

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