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僕は戦士

 僕の名前は浅川ルル。黒い虎柄のシマ模様が自慢の毛皮をもった、生粋の日本男子です。猫なんだけど。


 ルルって名前は、飼い主である僕のママ、浅川愛菜がつけてくれた名前だ。女の子みたいだって? ママの家の子になるにあたって、大事なものを取られちゃったからね。名前くらい大した問題じゃないと思う。


 大した問題なのはこれからだ。日本っていう国でへとへとになって、ママはこう思ったんだ。


「もう、死んでしまいたい。転生するくらいしか希望がもてない」


 ってね。でも、僕を残して死ぬことはできなかったんだ。そんなときに、異世界からのお知らせが届いたのさ。魔法っていうやつで。


「猫も一緒でかまわない、この世界に来て、我が国ロマニナの危機を救ってくれまいか?」


 僕も一緒でオーケー! くたびれてたママは、ルルも一緒なら……ってあまり考えずに承諾しちゃったんだ。


 ちょっとねえ……危機って何? くらいの確認はしたほうがいいと思うよ。


 とはいえ、ロマニナとやらに一瞬で移動してしまったからなあ。ママ……ここではアイナって呼ばれてる……が困らないように、僕がしっかりしないとね。


 僕らを「召喚」した司祭殿は、国の危機についてアイナに説明した。おりこうな僕がわかりやすく説明するとだ……。


 いわく、国のあちこちに魔物が出没している。各地の自衛団が討伐にあたっているけれど、出現の頻度がだんだん増えて、凶悪さも増している。


 大司祭殿のいる王都では討伐隊として、特別な部隊が編成されているらしい。精鋭を集めているけれど、まだ兵士たちの数も少なく、地方からの増援依頼に追いついていない状況のようだ。


 そこで、事態を一気に打破すべく、異世界からの戦士を召喚することにしたのだという。今回に限らず、これまでロマニナ国では、困りごとの解決を召喚者に解決してもらうことが何度かあったらしい。


 迷惑な話だな。自分たちでどうにかしろよ……と思うんだけど、もう日本ヤダ! って思ったアイナにはいい話なのかな?


 でも待てよ、戦士だって? アイナが戦いに向いているなんて、これっぽっちも思えないんだけど……。日々、アイナが振ってくれるおもちゃとの激しい戦いを繰り広げている僕のほうが、よっぽど戦士の適性があるよね。


 その辺はアイナも気がかりなようで、司祭殿に尋ねていた。


「魔物の討伐ですか……私に務まるのでしょうか?」

「無論、すぐにとは申しません。まずは討伐隊の本部で訓練を積んでいただきます。素質があるからこそ、私の声が貴女に届いたのです。貴女はこの国の希望なのです」

「素質……」


 アイナの声は自信なさげだ。いきなりなんでも上手にやろうとするから、疲れちゃうんだよな。ちょいちょいサボりながらやればいいのさ。イチ家猫の意見だ。


 司祭殿はリリーに明日の予定等々を伝えて、部屋を出ていった。ようやく僕も影のなかから出られるぞ!


 ウーン、と伸びをして、アイナのひざに飛び乗った。いつものように、鼻でキスをしてやる。心配しなくても、僕が守るから大丈夫だよ。


「ありがとね、ルル」


 アイナには「アーンアーン」としか聞こえていないだろうけど、どうやら伝わったようだ。ふだんの服と違ってゴワゴワする布はちょっと居心地が悪いけれど、アイナがおでこをかいてくれるのでいい気分だ。


 フワーッと大きなあくびをひとつ。


「お前はこんなときもマイペースだね。さすが猫様」


 アイナが笑ってくれた。アイナはよく、僕のことを天使だって言うけれど、僕に言わせればアイナこそが天使だよ。


「アイナ様、お疲れでしょう。お夕食をご用意いたします」


 リリーの言葉に、僕も腹ペコなのを思い出した。ここのごはんはおいしいのかね?


「ルル様にもご用意しますね」

「ありがとう。ルルにも食べられるものがあるのかな?」

「ええ、干したお肉とかお魚とか……猫に害のないものがございますよ」


 どうやら期待できそうだ。ごはんのあとは、やたらと大きいベッドでくつろごう。アイナの仕事が終わって、ごはんを食べて、ベッドでくっつく。僕にとっては、いつもと変わらない一日だったよ。


 ここは異世界なんだけどね。

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