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「シニタイ」

 僕が毎日文句を言っているのに、夜遅くならないと帰ってこないママ。ちょっとごはんを食べて、四角い「すまほ」ってやつを怖い顔して見ている。それから、はあっとため息をついてすまほを放り投げると、ベッドにひっくり返って僕を呼ぶんだ。


「ルルー、来て」


 おりこうな僕は、ママに呼ばれたらすぐさま駆けつけるよ。ママの上に飛び乗ったら、「もぉーっ」となで回される。


「おっぱいを踏むのやめてー。痛いでしょ」


 ママにもまれているうちに、僕はすごーく気持ち良くなってしまうんだ。


「あはは、ゴロゴロ出ちゃったねえ!」


 笑っていたママだったけど、本当は悲しい気持ちなのを僕は知ってる。


「ルル……。ママ、つらいよ……」


 ママが悲しんでいても、僕は触りたいところを触らせてあげるくらいしかできない。おしっこが出るあたりとか、ちょっとカンベン、って場所もあるけど、おおむね気持ちがいいので問題ない。


「なんにもうまくいかない……もういやだ……死にたい……」


 ママの目から水が出てきて、僕の毛皮を少し濡らした。僕には「シニタイ」ってどういうことかわからないけれど、ママがいつも、ものすごく困っているのは悲しい。


 お仕事とか、ニンゲン関係とか、猫にはないからなあ。


 元気出してよ、ママ。僕が鼻をくっつけてやると、ママは少し喜んでくれた。


「ありがとね、ルル。ルルがいるから死ねないね。ルルがもっとお兄さんになって、おじいちゃんになるまで一緒にいなくちゃいけないもんね」


 そのとおりだよ、ママ。ママがいなくなったらイヤだ。いなくなってしまわないように、ママの体に僕の匂いをすりつける。そうして体をくっつけていたら、いい具合に眠くなってきた。


 それなのにだ。柔らかくてあったかい寝床が、いつの間にか冷たい床に変わってたってわけ。生きてると色んなことにびっくりさせられるけど、こんなことは初めてだ。


 あのじーさんは、なんなんだ?


 まあ僕は、ママがいればだいたいどこでもいい。ママに抱っこされて移動した部屋は、僕の家よりだいぶ広かった。床はふわふわだし、僕が大好きなベッドもソファもあるね。他に何があるんだろ? キラキラ光っているものがたくさんで、猫心をくすぐるよ。


「まずはしばしお休みください。身の回りのことは、そちらの者にお申し付けを」


 じーさんや、ぞろぞろいたニンゲンはいなくなるらしい。代わりに、女の人が入ってきた。ママより小さい体でやせてるけど、ニコニコしてる人。


「リリーと申します。アイナ様のお世話を申しつかっております」


 あいなさま、ってママのことか。ママはここでは偉い人なんだな?


「こちらはルル様ですね」


 リリーっていう女の人は、僕のことも偉い人の呼び方をした。悪くない。えへん、と胸を張ってみせたら、アゴのあたりをこちょこちょされた。偉い人ぶってみたんだけど、気持ちよくて目が閉じてしまう……いかんいかん。


「ルルはリリーさんが好きみたいですよ」


 ママ、そういうことはもう少し濁してくれないか? リリーに笑われてしまったよ。


「どうぞ、リリーとお呼びくださいませ。アイナ様はこの国の大事なお客人でいらっしゃいます」

「リリー……わかりました。あの、聞きたいのだけれど」


 ママ……は子供っぽいかな? 偉い人だから、アイナって言うほうが良さそうだ。アイナとリリーが何やら話をしているのを、僕は柔らかいソファに登って聞いていることにした。


 4年も生きていると、猫なりに世界のことがわかってくるものだ。ただ、前よりもっと、「わかる」ようになった気がするんだよね。


 それと、僕は隠れるのが上手だ。これまでも、僕はなんとなく居心地のいい場所で寝ていただけなのに、アイナが「ルルがいない!」って慌ててたことが何度もあったよ。ここに来て僕の特技は、もっとすごくなったみたいなんだ。


 あとで聞いたことなんだけど、どうやら「マホウ」っていうものらしいよ。

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