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服を脱いで?

 3人の女の人に囲まれて、僕は丸洗いされています。猫は、体が水に濡れるのをとても嫌う。もちろん僕も例にもれず。


 そんな僕の性質をわかっているアイナは、お風呂で丸洗いしようだなんて一度もしたことがない。うっかり体を汚してしまっても、濡らした布で拭いてくれるくらい。


 なのになんで今、僕が洗われているのかというと……。お城からのお呼びがあって、第5王子に会うことになったからなんだ。


 アズール王子という人は、第4王子のミディール王子と違って、王族に必要な魔力を持った、正当な王族。とてもとても偉い人なので、お会いする前に体をきれいにする必要があるってわけ。


 優しそうな女の人が抱き上げてくれたと思ったら、僕の体の大きさに合わせたお風呂に突っ込まれて、最初は僕も「ァオーン!」と猛抗議した。でも、ひとり、ふたりと女の人が増えて体を押さえこまれ、お湯をかけられ石けんで泡立てられ、ゴシゴシと洗われることになってしまった。


 これは無理だと途中で抵抗をやめた僕は、濡れてすっかりみすぼらしくなってしまった。


 すぐそばでは、大きな浴槽に入ったアイナが、同じく女の人に洗われている。恥ずかしそうに、申し訳なさそうにしながらも、身体の大きさが3分の1くらいになってしまった僕に気付くと、吹き出した。


 ええ、今の僕はとっても情けないですよ。


 しっかり洗われたあとは、大きなタオルでくるまれる。温かな風が流れてくるのは、どうやら女の人の使う魔法らしい。少しずつふわふわの毛並みが戻ってきた。アイナがもとの家で使っていた、ゴウゴウと音を立てる風の出る機械は怖かったなあ。改めて、魔法って便利だね。


 清潔で、上質そうな服に着替えたアイナはいつもよりお姫様みたいにきれいだ。ちなみに僕は、お姫様を見たことがないけどね。


 僕はアイナに抱っこされて、アズール王子が待っている部屋に移動することになった。


 部屋の前には、硬そうな装備に身を包んだ騎士様がふたり。悪い者はいっさい通しませんぞ、という鼻息を感じる。なんとなく。アイナにつきそった女の人は、お辞儀をして立ち去った。また、オトコだらけの場所にいる、僕。なんのインネンだろうね?


 通された部屋は、まだ昼間だというのに薄暗かった。全部の窓が布でおおわれているみたいだ。小さな明かりがいくつかついているだけ。


 王子様は、奥のほうでひとりがけの大きな椅子に腰掛けていた。足を組んで、そのひざの上に手を乗せている。


「こちらへ」


 声はミディに似ていた。アイナが近づいていくと、王子の顔が良く見えるようになった。


 やっぱり顔も、ミディにそっくりだった。違うのは、薄い色の髪を肩くらいまで伸ばしているのと、聞いていたとおり、濃い緑色の目をしているところだ。体つきも、ミディよりだいぶほっそりしている。


 すぐに脱げてしまいそうな薄い布の服しか着ていなくて……色っぽいって言えばいいの?


「アズール様、アイナと申します」


 アイナが名乗ると、アズール王子は薄く笑って、そばのソファに腰掛けるように手で示した。


「あなたには早く会いたいと思っていたんです。ようやくお呼びすることができました」


 話しかたも歌をうたっているようになめらかで、これがすごく偉い人の気品っていうやつなんだろうか、と感心した。


「ありがとうございます……あの、お時間をいただいてしまって」

「あなたのほうこそ、忙しくしているのでしょう? 討伐隊での働きは、聞いていますよ」


 アズール王子が組んでいた足をほどいて、アイナのほうに体を少し寄せた。アイナがちょっと緊張して、その隣にうつ伏せていた僕に伝わる。


「見事な戦いぶりだとか。あなたの魔力は、魔物に強い影響を与えているようですね」


 体を固くしているアイナと、柔らかく笑う王子。王子は、アイナの半分くらいの年しか生きていないのにね。あれ、こんなことを言ったら、アイナは「私なんて……」って気にしちゃいそうだな。


「あなたの魔力を、見せてもらってもいいでしょうか?」

「は、はい……」


 アイナがうなずくと、王子の指が伸びてきた。アイナの頬に、指をなぞらせる。そしてそのまま、指は唇に移動した。


「んっ!」

「動かないで。力を抜いて」


 王子の指がアイナの唇を開いて、なかに入っていく。


 ああこれ、いやだよね。僕も、「お口のなかのチェックですよー」ってアイナに口のなかを触られるの、気持ち悪いもん。


 アイナは目を閉じて、頑張って我慢してるようだ。


「もう、いいですよ」


 王子が離れて、アイナは目を開けた。心臓がドッドッと鳴っているのが、僕にも伝わってくる。


「うん……もっと流れをよくすれば、力を制御できるようになるでしょう」

「まだ、持っている力をうまく使えていない……ですよね」

「そうです。召喚の儀では、私たち王族や、国中の強い魔力を一か所に集めてあなたを喚び出しました。あなたの体には、まだ見えていないたくさんの魔力が眠っています」

「どうしたら使えるでしょうか?」

「今日はそのためにお呼びしたようなものです。私は、魔力の流れをより良くして、能力を高められる」


 アイナがもっと戦えるようになるのは、ありがたい。ぜひお願いしたいところだ。


「お願いして、よろしいのですか?」

「もちろん」


 王子はうなずいて、それからびっくりすることを言った。


「では、服を脱いでください」

「えっ?」


 えっ? って思ったのは僕も同じだ。


 王子が立ち上がる。


「それから、寝台に横になって」

「えっと……」


 アイナは胸元をぎゅっとおさえた。


「その……私のもといた国と……文化が……違うというか」

「そうでしょうね」


 動揺しているアイナをよそに、王子は穏やかな表情のままだ。


「思い違いをなさらないでください。魔力を流すのは、体と体を触れ合わせるのがもっとも効率がよいということだけです」


 いいえ王子様、それに対してアイナは抵抗をおぼえているようですよ?


「あの……それは少し……恥ずかしいのですが」

「ウン……」


 アイナが身をちぢめてためらっているので、王子様も少し困ってしまったようだ。


「私はご夫人がたの体の不調を魔力の流れで良くして差し上げています。騎士も、剣の力を高められると、よく来られる。何も、心配なさることはないのですよ」


 ええっ、オトコとも体をくっつけてるってこと? 王子様のお仕事はたいへんだな。ちょっと同情してしまった。


「みなさん、私が力をお貸しできる時間を待っていらっしゃるのですが……」

「は……はい」


 僕も、よく知らないオトコに体を触らせるのは全く好きじゃない。だけど、アイナが困るのはもっと好きじゃない。


 うつむくアイナのひざに乗った僕は、あごをクイッと上げた。さあ、僕を触るが良い。


 王子はそれを見て、笑いだしてしまった。えっ、とアイナが顔をあげると、王子が横に並んで腰をかけた。僕の頑張りはそこまでで、アイナの足元にぴゃっと隠れてしまったのだけれど。


「立派な騎士殿を連れているのですね」

「ルル……」

「これなら大丈夫ですか?」


 王子は、片手で自分を抱くように握りしめられていたアイナの手に触れた。そのまま引いて、しっかりと握る。


「時間はかかってしまいますが、これでも魔力を送れます」

「すみません……ありがとうございます」


 王子の手が、とっても温かい。僕は触れていないのだけど、そう感じた。


「何か、感じますか?」

「温かい……えっと、手だけじゃなくて……体全体が……」

「では、このまま」


 暗い部屋のなかで、王子様とアイナが手を握り合って、体を寄せている。その様子は、とてもきれいで、神秘的で、僕はじっと見つめていた。

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