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デタラメなのに

 馬車を走らせて、南の街道にやってきた。アイナと隊長のほかに、兵士ふたりも一緒だ。どうしてこう、いつも僕の周りはオトコだらけなのだろうか?


 以前、魔物が目撃されたのは、大きな道から少し離れたところ。木がまばらに生えていて、薄暗い。お城の周りの森ほどではないけれど、魔物がいそうな雰囲気はする。


 葉っぱを取りに来たという人が魔物を見て逃げ帰った。すぐに討伐隊にも知らされたけど、ちょうど本部に魔物が出た日だ。それどころじゃないので確認は後回しにされて、今日にいたる。なので、いない、可能性も高いのだけど……そろそろまた、狩りをしたい気分。おっと、フキンシンだったかな?


「どうだ、アイナ」


 魔物の居場所がわかる、便利な……もとい、優秀なアイナ。あたりをうかがいながら、先に立って歩き始めた。隊長はあわてて手を引っ張る。おい。


「待て」

「え?」

「お前たちが先に行け」


 アイナを留めて、兵士ふたりを行かせる。大変な過保護ぶりは、相変わらず。


「大丈夫です、もう戦えると思います」


 不服げなアイナだったけど、隊長はウンと言わなかった。あと、手はすぐ離すこと!


「隊長! います!」


 兵士の声だ。隊長はアイナを自分の背中側に引っ張ってから、声のほうに進む。


 おっ、魔物だ! ワラワラ湧いてきた連中を、兵士たちが剣で切る。僕も! 影からぴょんと飛び出した。隊長も剣を抜いた。でも……。


「ちがう」


 アイナの小さい声が聞こえて、それから僕の全身の毛がゾワッと逆立った。


 イヤな気配が上から。黒い塊が、木の上から落ちてくる。なんてこった、アイナの目の前にだよ!


 僕が取って返すより先に、隊長が動いた。アイナと魔物の間に体をすべり込ませて、剣でなぎ払う。塊だと思ったのは魔物の群れで、隊長の剣で散り散りになった。


 隊長が戦うのを見るのは初めてだ。アイナのよりもだいぶ長い剣を、小さな動きでたくさん振ると、魔物が次々と消えていく。まったく本気を出していないふうで、さすが、兵士の一番偉い人をやっているだけはある。


 僕も負けじと爪を立てる。上に下に、右へ左にと移動する魔物を追いかけるのは、僕の性分に合っているもんで、気持ちがどんどん高ぶる。


 でも、かなりの数をやっつけたはずなのに、なかなかいなくならない。これは……もしかすると。また、親玉がいるのかな?


 隊長も同じことを考えたようで、目の前の魔物を切りながら、あたりを見回している。でもそれらしいヤツはいないみたいだ。


「ちょっと、すみません!」


 ずっと隊長の背にかばわれるように位置していたアイナが動く。隊長を押しのける形になったので、ちゃんと謝っていたよ。


 魔物の群れの何匹かを切って、さらにもう一匹。


「これです!」


 アイナがやっつけた一匹が消えると、あたりが静かになった。やっぱり親玉がいたみたいだ。ほかの子分たちと見分けがつかないのは、なかなかにやりづらい。


「そっちはどうだ!」

「討伐完了です!」

「こちらもです!」


 離れてしまったふたりの兵士たちの様子を隊長が確認する。


「よし……アイナ、ちょっと剣を見せてみろ」

「なんでしょうか……?」


 おずおずと、アイナは剣を差し出す。隊長は刃先を間近で見ている。


「やはりな。あんなにでたらめに振り回して、刃こぼれひとつしていない」


 最初の頃のへっぴり腰から、だいぶマシになったと思うんだけどね。隊長から見れば、アイナの動きはまだデタラメ、の部類みたいだ。


 アイナに剣を戻して、隊長は言う。


「剣じゃなくて、魔力で切っているんだな」

「魔力……ですか」

「ウン……召喚の影響で腕力が底上げされているにしても、妙だとは思っていた。どうやっているのか、自分でもわからないだろうが……」


 訓練用の刃がない剣だろうが、切れ味がいい剣だろうが、アイナには関係ないってことか。人形の首や胴体をふっ飛ばしていた理由もわかる。


「しかし厄介なこともわかってしまったな。これまでと違う種の魔物が、ここにもいたということになる」


 アイナじゃないと、親玉がわからないのは不便だよね。全部やっつけてしまえばいいのだけど、それにはもっと人手がいるってことか。


 南の街道での任務は無事に終了したけれど、ややこしい問題のおみやげができてしまった。


「アイナさん、すごかったなあ。女性が戦ってるの、初めて見ました!」


 本部に戻る馬車で、兵士くんが興奮ぎみに話しかけてきた。行きは緊張感で黙っていたけれど、任務が終わって気がゆるんでるみたいだ。なれなれしく話しかけないでもらえるかい?


「女性の兵士はいないんですね」

「そうですよ、新しく隊に入るのが女性だって聞いて驚いたんですが、実際に見てもっと驚いたなあ!」

「私のいた国は、男性も女性も同じ仕事をしていましたよ」

「へえ! どんな仕事があるんですか?」

「ええっと……」

「そうだな、俺たちもアイナと以上に働かないとな?」


 兵士くんが身を乗り出してアイナに近づいたので、隊長の声がさえぎった。「ですね……」と、兵士くんはちぢこまる。


 隊長の顔が怖いのはそのせいだけじゃなくて、今日わかった出来事を偉い人に報告しなきゃいけないから……かもしれない。


 上から命令されて、下に命令して、たいへんなことだ。アイナがいつだったか、僕だけに話していた言葉を借りると、「中間管理職みたい」だ。

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