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「知られてしまった」


デレクはポツリと呟いた。


手錠を外され、その手首をさすっていた。


カリーナは運ばれ、エヴァンは釈放された。


ジゼルとデレクも離れ離れにされそうになったが、どうしても話があると言って少しだけ時間が与えられた。


闇に紛れつつ、誰にも聞こえない声で話す。


「もう逃げることは出来ない」


「はい」


「オリヴィア王妃はすぐにお前と私を殺しにかかるだろう」


ジゼルの母親メアリは、側室の王妃だった。


側室が一番に産んだ王女を殺そうとした犯人は、カリーナの母親であり正妻のオリヴィアだった。


今までジゼルが殺されないように、デレクはジゼルの存在を隠していた。


しかしそれが露呈した今、オリヴィアは確実にジゼルと、犯行を知るデレクを殺しにかかると予想された。


「どうしたらいいと思います?」


「もう、最善などありはしない」


「それなら、私のしたいようにしていいですか」


「ああ」


「私が、時間を稼ぐ間に逃げて下さい。リーダーならちゃんと貯蓄はありますよね。しばらくは仕事はせず、隠居するみたいにして、趣味でも作って、普通っぽくして暮らして下さい」


デレクは瞠目した。


最近は本当に彼らしくない反応が多いとジゼルは思った。


本来デレクはこんなにも動揺を隠せない人間ではない。


ただジゼルを通して、この国と王族という存在が彼をそうさせたのだ。


人一人ではどうにもならないことがあることをデレクとジゼルは重々承知していた。


だからこそ『逃げる』ことを選ばせるのだ。


「普通って分かりますかね。案外私達は常識があるように見えて常識外れですからね。まあ、街人とかに紛れ込めば分かりませんよ。頑張って下さいね」


「ジゼル」


「その名前、私大好きでした。リーダーが付けてくれたんですよね。私名前を貰う前に死んだことになってるから、本当に感謝してます」


デレクは奥歯を噛んだ。


「感謝される筋合いは無い。私はお前を───殺そうとした。王家から隠して育てる重圧に耐え切れず」


ある時ジゼルにはまだ対応不可能な任務が任された。


それがどういう意味なのか、周りの人間は成長の為だと思った。


しかしジゼルは薄々勘づいてた。案の定絶体絶命の危機に追いやられた。


「でも、死ななかった。誰より厳しく、私に生きる術を教え込んだのはあなた自身だから」


皮肉にも、骨の髄まで染み込んだデレクの戦い方がジゼルを救ったのだ。


そして任務から帰ってきたジゼルを、デレクはもう殺そうとはしなかった。


とうとう一人前の部下だと、認めてしまったからだ。


「そして、どこに出ても恥ずかしくない品格を身に付けさせてくれた。今思えば王家に仕えていたから、礼儀作法をよく知っていたんですね」


平民だからと、デレクはジゼルを野放しになんてしなかった。


貴族にすら紛う程の教養を幼い頃から叩き込んだ。


それはジゼルという人格の大部分を占めている。


「お願いだからもう行って下さい。一秒でも早く、少しでも遠くに逃げて」


「そんなことが」


「出来ます!リーダーなら出来ますから!・・・・・・私は死なない。この命は無駄にしない。地べた這いつくばってでもこの城で必ず生きるから、だから、あなたもどこかで生きていて下さい」


ジゼルは精一杯笑った。


どんな過去があっても、結局はデレクのことがどうしようもなく好きだったのだ。


デレクはそっとジゼルの肩に手を置いた。


「ジゼル、今更こんなことを言うのもおかしいが───生きていてくれ」


次の瞬間、デレクの胸に三本の矢が突き刺さった。


鎧を外され、無防備な胸部から血液が溢れ出す。


ジゼルは目を見開き、そして「お父さん」と、そう呼びかけて口をつぐんでしまった。


デレクをそんなふうに呼ぶ資格があるのだろうかと自問してしまったからだ。


驚きと、悲しみと、怒りと、ショックで頭がグチャグチャだった。


なのに何故、デレクを父と呼ばないことに冷静に考えたのか不思議だった。


そしてそれはジゼルの母親メアリが関係していた。


メアリはデレクの、元恋人でありながらも、国王と結婚してデレクを裏切った、最低な女だからだ。


ジゼルはその最低な女の娘だった。


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