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それから何の検問に引っかかることもなく、すんなりと王都に着き、王城へと連れてこられた。


着いたのは日が暮れた頃。


この時間に手形も無しに王都に入り込むなど、無法者か王族くらいだ。


そしてこれを手引きしたのがその後者であるという極めつけが、出迎えた第一王子ルークである。ジゼルとカリーナだけが馬車を降ろされた。


暗いせいかルークの表情はあまり分からない。


けれども「初めまして、ジゼル姉上」と言った時、少しだけ笑ったのが分かった。


まだ十三歳なのに、妙に大人びた雰囲気の佇まいだ。


本当にこの(カリーナ)と同じ血を引いているのか不思議なくらいだ。


ジゼルは一切の笑み無く、ルークを見据えた。


「何か勘違いをされています。私は王子の姉ではありません」


「苦しい嘘はやめて下さい。その金髪と髪質は父上そっくりだ。そしてその顔は、亡き第一王妃によく似ている」


「私の母を見たことがあるような口ぶりですね」


ルークはジゼルの五つ下なのだ。見たことあるはずがない。


「いや、見たことありません。第二王妃の姿絵と、当時の人間から話を聞きました。なにせ十八年前の火事で亡くなったことになっていて、その頃僕は生まれてもないから」


ここでジゼルは、あの用意していたウィッグをあらかじめ被っていなかったことを悔やんだ。


しかし髪色や目の色なぞで人間判断出来るものではない。


すでにデレクの素性や当時の人間関係を洗いざらい調べてから、ルークはジゼルにあの使いを寄越したのだろう。


元から狙いはジゼルだったのだ。


「どうして、そんな前のことなどお調べになられたのですか」


「きっかけはただの思いつきでした。カリーナ姉上とあまりに性格が合わないものだから、もし他に兄弟姉妹がいたらな、と思っただけです」


すると今まで黙って聞いていたカリーナが口を出した。


「なんてこと言うの、私だってあなたの姉よ!よくもまあ、そんな口がきけたわね!」


ルークはちらりとカリーナを見やって、ため息をついた。


呆れ果てたような口ぶりで、「僕はカリーナ姉上の、そのキーキーうるさいところが苦手なんだ」と言うと、またあの背の高い男に合図してカリーナを気絶させた。


(カリーナに対してなんて容赦ない)


いっそ清々しいとすら思ってしまった。


「さあ、腹を割って話し合いましょう、ジゼル姉上」


存外、どうやらこの少年は見くびってはならない存在らしい。


ジゼルは少し笑ってしまった。


(カリーナ王女よりよっぽど、王族らしい)


「・・・・・・たとえ十八年前の赤ん坊が生きていたからと言って、何になるのです。王位後継者には王子がいらっしゃる。城を彩る姫もいらっしゃる。私が城に戻る意味はありません」


「それは合理的解釈に見えて、実はあなたが城に戻る必要が無くなる理由を述べているだけだ。そこまでして地位を回復させたくない何かがあるのですか?」


「私は今まで一度も、そんなことを考えたことはありません」


ジゼルはハッキリと答えた。


「何故ですか」


「理由なんてありません。私は今の私を、受け入れているのです。どうかこの事が誰にも知られる前に、元居た場所に帰して下さい」


無駄な犠牲が出る前に、と心の中で付け足した。


「いいえ、もう遅い」


すると馬車からデレクが降ろされた。


拘束の為に手錠をされている。


そしてデレクとジゼルの前に現れた人物を見て、デレクは目を見開いた。


その人物が来てから灯りが増えてその顔がよく見える。


白髪でありながらも清潔な身なり、整えられた髭、後ろに控える多くの使用人。


そして王位を象徴する王冠。


「ご覧下さい、『父上』。あなたのもう一人の娘ですよ」


彼こそがジゼルの父親にしてこの国の王だった。


「本当に、あの時の王女が生きていたのか!」


王の目には微かに涙が浮かんでいた。


ふと王の後ろに控えていた大臣が、声を潜めて諌めた。


「お待ち下さい陛下。本当に彼女が王女か、確証がありません」


「見て分からんか、亡き王妃の面影を残すこの顔、そしてこの髪。まさしく私の子だ」


王は優しい手つきで、ジゼルの手を握った。


「生きててくれてありがとう」


ジゼルは柄にもなく、心が揺れて仕方なかった。


一度も会ったことがなかった父親。


なのにその声と言葉だけで、本当に自分達が父娘なのだと思わされるほどの、王の愛情を感じた。


不意に王の視線がデレクに向いた。


そして驚いたような声で、嬉しそうに微笑んだ。


「そこいるのは、メアリ王妃の護衛の騎士だったデレクか!」


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