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臆病なハリネズミの離婚

作者: みつば

夫の浮気が発覚した。

結婚3年目の秋のことだった。


夫の浮気を知ったとき、然もありなん、やっぱりなぁとしか思えなかった。

私はきっと薄情者なんだろう。


まあ、夫はいわゆるイケメンで、しかも一流商社勤務のエリートだし、独身時代はそれはそれは派手な女関係に夜遊びにと、お盛んだったものだから、結婚して愛妻家と呼ばれるようになってからもお誘いは絶え間なく続くほどにモテる。


間違いなく勝ち組の夫。

その欠点は、妻がパッとしない平凡な女だってことだろう。



たしかに私は地味だけど、上司の信頼は厚く。

そのおかげで時代錯誤な世話焼き上司に見合いの場を用意されてしまった。

そこで夫と出会った。

お互い、断りきれずに参加した見合いの席だった。

それなのに会うなり一目惚れしたとか言って、散々口説いてくるから私はあまりの胡散臭さに全力でお断りした。

それでもしつこく口説いてくるわ、私とのお見合いのあとすぐに女関係を清算してみせたり、夜遊びはしなくなったりして、夫はケチのつけようがない優良物件になった。

女友達や母に、こんなに愛されて幸せ者ね、なんて言われる始末。

結局、まわりの後押しと本人のしつこさに絆されて、ついに結婚してしまった。

結婚してからも、毎日鬱陶しいくらいに愛情表現されてきたけれど。


どうしても私は、夫を信じきれなかったのだ。

だから、私は生理痛のために飲んでいたピルを結婚してからも止められなかった。

子供は夫婦の鎹っていうし、もしもの時を思うと怖かったのだ。




「君を愛してる」


土下座してんだか、蹲ってんだか分からない状態で泣く旦那の旋毛を見下ろして、私はため息を吐く。


「俺が愛してるのは、君だけなんだ」

「あなたの愛って、浮気できる程度のものじゃない。そんな大袈裟に言われてもね」

「そう言われても仕方ないってわかってる。

でも、俺が本気で惚れてるのは、大事なのは君しかいない」

「へえ、そう」


浮気がバレて必死に頭を下げる男の姿は、なんて格好悪いんだろうな。

普段がスマートな人だけに、なんだか白けた気分になる。


浮気を許せるかどうか?

浮気されてみないと、分からないと思っていたけど。


「浮気するなら、絶対にバレないように隠して欲しかったな」

「すまない」

「うん、もう謝んないで。

正直、許す許さないの話じゃないから。

今回が初めての浮気だとか、どうして浮気に至ったかとかそういう釈明はもう充分ききました」

「本当に、すまない」

「はいはい、謝罪はもう充分です」


夫は床に頭を埋め込む勢いで土下座をしているから、その顔は見えないけれど、きっと死刑執行人にギロチン台に首を押さえつけられたようなひどい顔色だろう。


だって、本人が懇々と訴えているように、彼は心から私を愛していて、大切に想い、決して離婚なんてしたくないのだ。


ただ、まあ、どんなに情熱的に愛を語られても、事実、彼は浮気しちゃったのだ。

しかも、それを隠しとおすことに失敗した。


私に愛を捧げておきながら、ちゃっかり他所でお楽しみだったわけだ。


結婚3年、いつから浮気してたのかなんてどうでもいい。

もうすこし、知らないままでいられたら。

私はやっと彼を心から信じられるようになったかもしれないのに。



「まあ、とにかくですね」

「ああ」


蚊の鳴くような夫の声に、またため息が溢れる。


「私はこれから、あなたの帰りが遅かったり、出張があるたびに、浮気じゃないかなーと疑うでしょうね。

仕事だって言われても、信じられるか自信がありません。

これはもう、最悪、一生、死ぬまで、続くかと思います。

私のこういう性格はあなたがよくご存知でしょう」


もはや土下座というより、亀みたいになった夫はなにも言わず震えているが、私は無情にも最終判決を言い渡す。


「私は、そんな結婚生活は、まっぴらごめんです」



硬い甲羅に閉じ篭って聞こえないふりかしら。

私だって、そうしたかった。

私だって。



無情にも、私の唇が断罪の刃に変わる。




「ごめんなさいね、別れましょう」






最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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