その二人、圧倒的規格外
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…………?
まさにこれから舌を噛み切ろうとしたその瞬間。
私は得体のしれない"なにか"を上空から微かに感じ取り、思わず動作を止める。
……
…………
……………………ッッ!?!?!?!?
しばらく待っていると、いきなり途轍もない魔力を感じて空を見上げた。
肌がぞわりと感じて、全身を奮いあがらせた。
生物的本能が、今すぐ何もかもかなぐり捨ててでも逃げろと、私に警鐘を鳴らすのも感じた。
死を覚悟した私がいうのも変な話だけど……
それでも……、それでも今すぐにでも逃げ出したいと思う程だった。
しかし同時に、その"なにか"がそれを許すはずがないとも感じた。
あぁーー、どの道終わっていたんだーー
"あれ"にはどうやったって勝てたはずがないーー
私は空を見上げながら自嘲するように笑い捨てた。
そう思うと少し気持ちが楽になったように感じた。
しかし……
やがて私たちの上空にとんでもなく桁違いの、恐ろしい程の魔力を有した"なにか"が現れるーー
そう想像しただけであまりの恐怖に身体が動かず……
唯一私ができたのは……、ただただ立ち竦み……
その場で目を見開くことのみだった。
そうして想像通り大きな黒い渦が現れ、やがて黒い靄が二人分の人型へと変貌した。
こんな奴らを有しているのならばエッセンフェルトどころか、ハーヴェンブルク征服を目論んでもおかしくないと素直に首肯する。
これが奴らを率いる勇者一行かと推測したがーー
現れたのは二十代半ば程で長身の青年と、くりりとした瞳にきりりとした眉を携える美しい目鼻立ちの金髪の幼女だった。
どう見ても勇者一行とは思えない二人だった。
青年の方は黒衣を身に纏っており、尻餅をついて痛みをこらえながらも煙草を燻らせていた。
金髪の幼女は煽情的な衣装に身を包み、堕天使のような美しい黒翼を背中から生やして悠然と笑っていた。
一見するとこの状況、ただただ殺されに来たようなものだがーー
膨大な魔力を感じ取ることができた私にはそうはならないと確信が持てた。
「おい、このロリババア! いきなり何の説明もせずに転移魔法なんぞ使いやがって、危ねぇだろうが!」
黒衣の男が幼女に怒鳴り散らした。
「五月蠅いわ糞餓鬼め! それが主君である余に対する言葉か馬鹿者! 火の手が見えているのに呑気に軍を引き連れておる奴がどこにいる!」
幼女はそう言い返すと、いまだ尻餅をついた状態の男の頭をごつんと殴った。
「痛ぇだろ馬鹿! 俺でなきゃ死んでるぞおい!」
「まったく……、ぴーちくぱーちく五月蠅い糞餓鬼じゃな。喚く暇があったらさっさと捕虜を助けんかいバカタレッ!」
親子……なのかしら?
私は二人の喧嘩の様子をぽかんと口を開けて見ていることしかできなかった。
そして二人が口喧嘩をしている間に……
あっけにとられて静観していた軍団長らしき男がようやく動き、両手の生首を投げ捨てて言葉を発する。
「こんな生き残りがまだいやがったのか……、なぜ空から湧いて出たのかはわからねぇが……、男の方は殺すとして、そっちのメスガキは結構な値段がつきそうだなぁ……、ヒヒヒ、ツイてるぜ」
どうやらやはり奴らの仲間ではないようだ。
軍団長らしき人物は二人を見て、醜悪で下品な笑みを浮かべながら髭を弄る。
「……ルータス」
そんな恐ろしい脅しに対しても……
金髪の幼女は軍団長らしき人物の言葉にまったく怯えることもなく、黒衣の男に目配せする。
「はいよ。あんたにゃ負けた方が何でも言うこと聴くって約束しちまったからな……」
「はっ……、そいつぁてめえの娘か何かか!? わざわざ奴隷として献上しに来てくれるたぁ見上げた根性じゃねぇか! 泣ける話だよなぁ!?」
そこら中から聖騎兵達の笑い声があがるが、黒衣の男はまったく意に介さない。
「…………」
黒衣の男は黙って身に着けていた外套をばっと脱ぎ捨てて、私たちの両親の生首へとかけた。
「あんたらは俺たち魔族の誇りだ……、本当によく戦ってくれた。今は……、安らかに眠っててくれ」
男は年齢に不相応な……
優しくも哀しい顔を覗かせながら生首に向けて言った。
そして捕虜達の方に振り向き、右手を伸ばした。
その瞬間だった。
捕虜達の周囲にまばゆい光が浮かび上がり……
捕虜周辺の聖騎兵達は一瞬にして跡形もなく消え去ってしまったのだ。
ーーは???
誰しもがそう思った束の間……、今度は黒衣の男が目を瞑りばっと両手を開き空へと向けた。
するとあたり一面が暗闇に包まれ……、信じられないことに……
幻の神獣ベヒーモス、雷神鳥サンダーバード、不死鳥フェニックス、風の大精霊シルフィードがーー
遥か四方の上空より聖騎兵数十万を取り囲むように現れた。
「我が忠実なる神獣よ、我らが敵を極滅せよ!」
黒衣の男は目を見開き悠然たる態度で、それでいて堂々と大声で命令した。
その瞬間、四方に位置したそれぞれの神獣達が大地に響き渡る程の雄叫びを上げながら聖騎兵達に襲い掛かった。
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ーーそれからはあまりにも圧倒的、かつ一方的な大虐殺が始まった。
大家と言われていた私達の両親が召喚した高位精霊獣を遥かに上回る、各属性の頂点を極める幻の神獣達をあろうことか無詠唱で四体同時に操る相手など、いくら祝福済みの聖騎兵数十万とはいえまったく太刀打ちができていなかった。
もちろん聖騎兵達の中にも精霊獣の召喚ができる者もいた。
当然対抗して精霊獣の詠唱を施していたが……
ーーギィ、ギィヤアアアアアア!!!
黒衣の男が召喚した精霊獣の前にはゴミ同然に次々と蹴散らされて悲鳴をあげてゆく。
単純に……、単純に力が違いすぎるのだ。
ーー神が……、神が私に微笑んだとでもいうの?
そう私が勘違いする程ーー、神の所業かと見紛うかの如き圧倒的破壊力。
私がいまだ唖然としている中、四方から男の創り出した精霊獣達が……
まるで無人の野を翔けるが如く数十万の聖騎兵達を無残に蹴散らしてゆく。
東の神獣ベヒーモスは手当たり次第聖騎兵達を喰らい尽くした。
西の雷神鳥サンダーバードは上空から天罰と見紛う程の大雷を宿しながら雷鳴を轟かせ敵を殲滅した。
南の不死鳥フェニックスは大きく翼をはためかせて辺り一帯を火の海地獄へと変えた。
北の風の大精霊シルフィードは無数の竜巻を発生させて取り込んだ敵兵をズタズタの細切れにした。
何処を向いてもあまりに凄惨な光景が広がり……
先程まで下品に笑っていた聖騎兵達にとっては……、一転して阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
周囲からあがる惨たらしい悲鳴に動揺しながら軍団長らしき人物は言い放つ。
「むっ……、無詠唱で召喚魔法ッ!? しかも神獣クラスを複数体召喚……!?!? 精霊獣は召喚士を主人と認めねぇ場合、召喚した途端喰い殺されるはず……、ましてや幻の神獣がただ召喚されるだけじゃなくいうことをきくなんて絶対ありえねぇ!! 幻の神獣を……、それも複数従える程の魔力を有しているやつなんているはずがねぇ!!! そ、そこのお前ら! いますぐ先程進軍された勇者殿達を呼び戻してこい!!」
軍団長らしき人物は指をさして聖騎兵に指示するが……
「先程進軍した……? まさかとは思うがこやつらのことか?」
「ゆっ……、勇者……、殿……?」
軍団長らしき人物は、金髪の幼女が創り出した空間から現れた生首を見て絶句してしまった。
そこにはごろごろと若くて勇敢そうな四人分の生首が転がってゆく。
「なんじゃこいつらは。こんなのが貴様らの言う勇者達だったのか、お粗末過ぎて斥候かと思ったではないか。俺たちは勇者パーティーなんだぞと叫んでおったがまったく信じておらんかったのに……、念の為首をとっておいて正解じゃったな。本物の勇者達はここにいるのかと思っておったが……、完全に肩透かしじゃの」
「そんな馬鹿なことがあるかッッ!? 彼らは一人一人が特上のSランクに分類される冒険者なんだぞッッッ!?!?」
「そうすると余らは……、どうなるんじゃろうなぁ……?」
「さぁ? そいつらもあんたが瞬殺しちまっただけで実はそこそこ強かったんじゃないか?」
--そうかのうと、金髪の幼女は顎に手を当てて、少し上を向き考える素振りを見せたが……
すぐにどうでもよさそうに考えるのをやめた。
「まぁ、いずれにせよヴェルビルイスの阿呆共に送りつける首は揃ったから……、貴様は用無しじゃな」
そう言い捨てて彼女は一歩、二歩と軍団長らしき人物に詰め寄り始めた。
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「くっ……、来るなぁッ!!! なんなんだお前らはぁッッッ!?!?!?」
先程とは打って変わり、これ以上ない程慌てふためきながら男が言う。
その顔にはこの世の終わりとばかりの、悲壮感が漂う表情を浮かべながら。
「なんじゃ、余を知らんで攻め入ったのか。余が貴様らの討伐目標である魔王レヴィアじゃ。こっちのは下僕のルータスな」
「誰が下僕だロリb「約束は守らんとなぁ、ルータスよ」ッ…………! マ、マオウサマ……」
そうして……
魔王を名乗る金髪の幼女が右手を差し向けただけで、軍団長らしき人物の身体が空に浮き上がる。
泣き喚きながら彼は命乞いしたが、彼女が右手で抉るような動作を見せた途端ーー
軍団長らしき人物は内部から肉塊の一片たりとも残らずに爆発四散してしまった。
その醜悪な面、地獄でも二度と見せてくれるなよーー
彼女はそう吐き捨てて、年に不相応な真剣な表情を見せた。
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