エッセンフェルトの悪夢①
私はルータス様に父のように抱きしめられーー、父のように接されるたびに思い出す。
私達の村に起きた十年前の悪夢をーー
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私はエッセンフェルトという農村生まれだ。
エッセンフェルトはハーヴェンブルクのなかでもヴェルビルイス帝国との国境付近に位置していた。
特別裕福な村ーーというわけではなかったが、自然は豊かで農作物もたくさん採れた。
私も毎日を楽しく暮らしていたし、魔族たちにとって心の豊かさや幸せでいっぱいの村だった。
だがーー、十年前のある日に突然村は壊滅してしまった。
本当に突然のことだった。
今回のように神よりの天啓を受けた勇者ではないが、人類に選ばれた勇者を筆頭に、魔王討伐軍という名目で数十万規模の大群の聖騎兵により国境の防衛を突破され、ハーヴェンブルク領内に攻め入られたのだ。
破竹の勢いで怒涛の進軍を続けた数十万の大軍にエッセンフェルトはなす術もなく呑まれていった。
迫り来る馬蹄が轟音を響かせながら、エッセンフェルトは蹂躙された。
聖騎兵達に次々と放火され、私達の村は森林、畑、住処まで余すことなく焼け爛れてゆく。
下衆な笑い声とともに悲鳴があちこちで蔓延る中、魔族の村民はただただ逃げ惑うしかなかった。
一突き、また一突きと狂槍が繰り出される。
血を吐き地に伏す者。
逃げた末に殺される者。
妻子を庇い、彼女らの目の前で死に至る者。
当時5歳だった私にはあまりに凄惨すぎる光景だった。
ただただ力のない農民が次々と、殺戮や略奪の限りを尽くされていった。
男や老人などは問答無用で皆殺しにされた。
唯一生かされたのは、私を含め娼婦や奴隷として利用できそうな女子供。
彼女らには鎖でつながれた手枷や首輪が装着されていった。
反抗的な者は見せしめにその場で敵兵に犯し尽くされ切り刻まれて絶命していった。
森の中で遊んでいたために早々に捕まってしまった私やミンスリーナ達の4人はひたすら目を背け、泣きじゃくりながら地獄の終わりを願い続けた。
その中で……、唯一戦闘員として村を護るために戦っていたのが私の両親、ミンスリーナ、ラフィーネ、スカーレットの両親だった。
私だけでなく、彼女らの両親もエッセンフェルトの出身だった。
それぞれ氷・雷・炎・風魔法の大家であり、私だけでなく村中からの憧れの的だった。
ひとりひとりが有する実力は、千の聖騎兵にも決して劣らないと謳われていた。
実際に数十万の聖騎兵達に取り囲まれながらも桁違いの戦闘力で敵を圧倒していた。
しかし、それでも多勢に無勢。
両親達は数にして数万の聖騎兵達をやっつけてくれたが……
満身創痍でもう魔力も尽きかけて、限界が来ていたのは子供の私でも容易に理解できた。
そんな必死の形相で頑張ってくれている両親の危機的状況を目の当たりにしてーー
私は叫んでしまった。
がんばれ、おとうさん、おかあさんとーー。
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その瞬間だった。
ニタニタと下品な笑みを浮かべた軍団長らしき人物が歩み寄り、嬉々として私の首根っこを掴んだ。
私は抵抗するも無理やり連れていかれ、両親達の前へ引きずり出された。
男は腰に帯びた剣を抜き、私の首元に当てて大声を上げる。
お前らこれを見ろ、お前らのところのガキの命が惜しくないのかーーと。
それを見て私の両親は動きを止めてしまった。
戸惑いと驚愕に満ちた表情で私に視線を向けた次の瞬間ーー
ついには聖騎兵達の狂槍により四方八方から串刺しにされて血を吐きながら大地に倒れた。
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